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死の森にて

再開です。ゆっくり書きます。

“何でボクがこんな目に遭わなければならない。”


暗い森の中を一人さ迷うことになるとは夢にも思わなかった。昼間だというのに薄暗く、人の手の入れられていない森は本当に歩き辛い。

見たことのない草木に戸惑いながらも、気にしないようにひたすら歩き続けた。道なき道を歩いて来たため、靴は泥だらけで、足には豆ができて潰れて歩く度に痛みが走る。服も植物の汁や何やらで汚れ、所々破れてしまった。シャツの上に羽織っていたため、この程度で済んでいるがそれでも、幾度なく転んでしまったので、身体中擦り傷や痣ができてしまった。

怪我をすれば当然、体力の低下が加速し、移動速度は低下する。

しかし、立ち止まることはできない。立ち止まることは許されないのだ。何か危険な動物に追われているわけではないが、在る筈のものがないため、正気じゃいられないのだ。


“みーちゃんがいない。”


その事実が心を、体を蝕んでいく。だから立ち止まる訳にはいかない。歩いた先にみーちゃんがいるかどうか何てわからない。

でもそんなことはどうでもいい、何でもいいからみーちゃんに逢いたかった。それ以外本当にどうでもよかった。

ただただ、不安で仕方がない。まるで薬が切れたかのように、切実にみーちゃんに会いたく逢いたくて仕方がないのだ。この苦しみや切なさを消すためだけに歩くしかない。歩くのを止めれば不安で狂ってしまいそうだった。


そもそも、何でこんなことになったのだろうか。思考が低下した頭で数時間前のことを思い返した。





目が覚めたのは日がまだ上りきっていない時刻だった。意識が曖昧で、完全に呆けてしまっていた。

それでも、目覚めた以上、状況を理解するために、辺りを見回した。

まず気が付いたのは日が薄青いことだった。太陽は直接見ることなど、目に悪いため滅多にないが、それでも太陽を見たことがない人などいない。白っぽくもしくは薄赤く見えると思う。薄青いという人はいないはずだ。なのに、何度見ても、日は薄青く見えるのでどうもおかしい。

それで、意識が覚醒し大切なことに気が付いた。


みーちゃんがいないのだ。


思い返せばボクらは雷に打たれて死んだはずだった。死ぬ間際に見た光は雷で間違いないだろう。死んだはずなのに、生きていること自体不思議だし、仮に、あの雷を受けて死んでいないのであれば、病院にいるはずだ。雷に打たれて無傷などありえないからだ。

それなのに、ボクは病院でもない、見たこともない場所で目を覚ました。更に不思議なのは服だ。服はその時に着ていた物だったが雨に打たれ、びしょびしょに濡れていたはずなのに完全に乾ききっていた。焦げた跡もなく、新品のような真新しさもない。

所持品は何も無かった。持っていたはずのスマホはポケットには入っていない。

辺りを見渡すが、建物など一切見当たらず、草と木だけである。スマホさえあれば、時間や方角ぐらいわかったかもしれないが、ないのでそれすらわからないのである。

つまり、何の文明の利器無しで、誰の手助けも無しで現状を把握し、打破したければならないのである。


“……終わった。”


草木の背丈は高く、遠くを見ることは叶わないが、恐らく広範囲に渡っていると推測できる。どれだけ歩けば、森を抜けられるかわからないし、どの方向に歩けばいいのかもわからないのである。


“どうせなら、あのまま死んでいればよかった。”


みーちゃんの温もりを感じながら死ぬのは悪くなかった。

こんなどこかわからない場所で、誰かに看取られることなく、一人寂しく孤独に死んで行くのはまっぴらごめんである。何が悲しくて今まで頑張って生きてきたのかわからない。

こんな結末など受け入れられるはずなどなかった。


「みーちゃんはどこだ?探さなきゃ……」


こうなった以上、もう些細なことはどうでもいい。みーちゃんと生きると決意した直後でもあったので、みーちゃんのいない人生に価値はなかった。

しかし、自分がここにいる以上、みーちゃんがここにいない道理もない。みーちゃんがこの森の中にいるかもしれないのだ。

可能性を捨てて諦めるのは簡単だが、万が一、億が一でも、みーちゃんがいるかもしれない以上、みーちゃんを残して死ぬことはできなかった。



だから、命有る限りみーちゃんを探そうと決意した。


「今行くよ……みーちゃん。必ずみつけてみせるから。」





「はぁ……はぁ……ぁあ、はぁ……」


そして、みーちゃんを見つけると、意気込んでいたが、この様である。探せど探せど、みーちゃんは見つからず、先ほどの決意は薄れ揺らいでいる。

しかし、みーちゃんがいないことが不安で、仕方なくないので、探す以外の選択肢はない。

疲れて思考が低下すると、目に写るものに意識が向かず、みーちゃんのことしか頭に浮かばなくなった。そのため、足元が疎かになり、何度も転んだ。


“大切なものは失うまで気付かない……か。”


実にふざけた話だが、みーちゃんが一緒にいた頃は他の女性のことばかり考えていたのに、みーちゃんがいないとみーちゃんのことしか考えられないのである。みーちゃんがいなくなって、みーちゃんを強く思うようになるなんて、なんて愚かなんだろう。


問題があるのは思考の低下だけではない。長時間歩いたため、喉は乾き、空腹になり、痛みも感じる。通常なら、歩くのを止め座り込んでしまっているはずだ。

しかし、今は飲食よりも休憩よりも、みーちゃんが欲しかった。

みーちゃんの温もりが欲しい。みーちゃんに抱きしめられて、キスがしたい。


「……あ、あれ?」


このまま歩き続けるつもりだったが、気がつけば、倒れていた。 倒れて体全体に衝撃を受けるまで倒れたことに気付かなかった。


体が限界に達し、立ち上がることもできなくなってしまったのだ。

そして、今まで意識してなかった感覚が体を襲う。


「痛い!痛い!?足が足がぁあ!」


歩いているときは、少し痛いと感じる程度だったが、感覚が麻痺していただけで、かなり酷い怪我をしていた。そのなかでも足は特に酷かった。靴は泥と血で染まっていた。破れたズボンから見える足は紫色に変色した痣や血が垂れるほどの切り傷がたくさんあった。

骨は折れていないようだが、それでもとても歩くことはおろか、立ち上がることすらできそうになかった。


「痛い、痛いよ。みーちゃん助けて……」


まるで子供のように泣きながら、痛みを訴え、何度も何度もみーちゃんに助けを乞った。その内にとうとう、疲労で意識が薄れてきた。眠くて眠くて仕方がなかった。


“これで終わり?みーちゃんごめん。”


このまま二度と目を醒ますことができないのではないかという恐怖に刈られながらも、抗うことはできず意識を手放してしまうのだった。





「みーちゃん!?」


日の光で目を覚まし、飛び起きて立ち上がった。立ち上がったのである。

立ち上がったから気が付いたが立ち上がれない筈なのに立ち上がることができた。

不思議に思い体を見ると服や靴は泥と血で汚れたままなのに、体から傷も汚れも疲労さえ何もかも綺麗に無くなっていた。


「いったい何が……まぁ、いいや。

それよりお腹すいた。」


自分でも驚くほど、頭の中はすっきりしていた。まるでみーちゃんが側にいる時のように落ち着いている。しかし、昨日のことは現実でみーちゃんはいない。

いないというのに、体も心も安らぎを感じている。一つの可能性が頭を過ったが、馬鹿げていると思い、考えを捨て去った。


クリアになった頭は現状をスムーズに把握し、打開策を導き出した。


「みーちゃんはこの森ではない、この世界のどこかにいる。なら、焦る必要はない。」


何故、そのような結論に至ったのかはわからないが、自分に言い聞かせるように独り言を続ける。


「ここは異世界か、宇宙の何処かわからないけど、今まで生きてきた場所とは違う。」


薄青い太陽に見たことのない草木、そして、自身に起こった科学では証明できない不思議な現象。

それが自分が生きてきた場所とは違う未知なる場所にいることを理解した。


「あわてても無意味。今できることを知り、この森から抜け出す。

それ以外は考えるな……よし!」


自分に今できることを把握することは未知なる環境で生き残るには必要なことである。

自身に起こった不思議な現象のことを考えると、他にも何か不思議な力が備わっている可能性は十分ある。

それをいち早く知ることが現状を打破することに繋がると考えた。


まずは、食料調達である。脱水症状と思われる体の異常はなくなったが、喉は乾きは無くならず、当然、空腹であることに変わりはない。

このままだと餓死してしまうのは目に見えて明らかである。


「さて、どうするかな……ん?」


ふと当たりを見渡すと、不思議な感覚に陥った。それを確かめるべく、木に触れると脳裏に不思議な文字が写り出した。日本語でも英語でもない、数字すら認識できない未知なる言語。

でも何故か読め、理解することはできた。理解できたが、意味がわからなかった。


「……摂取…可能、神経…毒、致死率、成分……なんだ?

毒なのに摂取可能?訳がわからない。」


文字を読み取っているのではなく感覚で理解しているので、言葉にするのは難しかった。だが、だいたい意味はわかり自分がこれからどうすればいいのかがわかった。

不思議な感覚だが、恐らく食べられるのだろう。なら、その感覚に従うことにしよう。これが生き返った恩恵というものなら、有り難く活用させて貰うことにしよう。

それが、みーちゃんとの未来を得るための糧となると信じることにし、不思議な色をした果実を口にした。


「…まず!くそ、ごっくん。成る程そういうことか。」


説明することはできない。だが、そういうものだということは理解できた。

一つ言えるのは、植物であれば何でも食べることが可能であるということである。つまり、食糧の心配はなくなったということである。


「食べ物の心配はなくなった。後は栄養バランスと収集か…。」


無作為に手当たり次第周辺の草木を食べ始めた。果実や花、葉っぱ、樹皮何でも気にせずに食べた。


「ん、これは不味い。これは上手い、もっと食べよ。」


一口食べて不味い物や噛みきれないものは、一気に飲み込んだ。甘くて美味しいものは気が済むまで貪った。

通常なら消化に時間がかかるはずだが、胃に入った瞬間、瞬時に溶かされ吸収してしまうようでほとんどお腹は膨れなかった。

そのため、日がくれても食べ続けていた。


植物から水分補給もできるので、途中で見つけた毒々しい川の水を飲む必要はなくて助かった。

もう飲んでも無害であることはわかっているが、気分が悪くなりそうなので飲むことはしなかった。


そして、気がつけば不思議な場所に辿り着いていた。無我夢中で食い漁っていたので、自分がどのように移動したのか覚えてはいないのだ。


これまでとは違う異質な場所だった。日が暮れ、明かりとなるものはは月と星しかない。昼間ですら薄暗いので、夜になると真っ暗だ。

あっ、訂正する。独自に発光する植物が結構あった。だから、転ばずに食べることに集中できたのかもしれない。

まぁ、そんなことはどうでもいい。月や星が地球と全く異なっていることもどうでもいい。

大事なのは目の前のことである。


草木が密集した森の中で、その場所は大きく開けた場所だった。まるで、その場所を避けるかのように草木はほとんど生えてなかった。

そして、その場所の中心部には夜の暗闇の中でも神秘に輝く白い大樹が存在した。

白い大樹を見た瞬間、吸い寄せられるように無意識に足を進めていた。


「っと、危ない!うわぁ、深いな。

落ちたら確実に死んでたね。」


近づくまで気が付かなかったが、白い大樹は地表から見える部分の高さは他の樹木とさほど変わらないが、白い大樹の周りは深い穴があり、白い大樹は穴の奥深くから生えているようである。

下が見えないので、白い大樹がどれ程大きいかわからないが、今まで見た中で一番巨大なことは確信できた。

白い大樹まで問題なく近づけたからよかったものの、白い大樹が地面に接していなかったら、泡や大惨事であった。現代人は前方不注意の者が多く、全く困った者である。


さて、意識を戻そう。今日1日数えきれないほど植物を食べたが毒を含まない植物はなかった。しかし、本来の毒性が中和されていることが食べてわかった。

その原因がこの白い大樹だと思われる。確信はないがそう思った。触れればわかるはずだが、触れなくてもそうだと思えるほど、白い大樹は神聖さがあった。

だから、この白い大樹が欲しくなってしまった。不思議な感じだ。昔からあまり物を欲しがることは、他の子どもに比べると少なかった。……尤も欲しがる前にみーちゃんに与えられていたので、実のところはわからないが。

しかし、そんなことはさておき、今はこの白い大樹が欲しくて仕方がなかった。

触れるのも恐れ多いのだが、欲には勝てず、手で届く枝に触れ、葉っぱを千切ろうとした。


「かなり硬いな。葉っぱも固くて手で千切れないか。

幹も硬いし取れないな。どうしよう……」


大樹の枝は細い部分でも硬くて折れることはなく、葉っぱも一枚一枚生き生きして弾力があり手で千切ることができなかった。淡く光る木の幹は硬くて樹皮は剥がれそうになかった。


どうしたものかと幹に手を当て考えていると白い大樹に当てていた右手に不思議な感覚がした。

どくんと脈打つ感覚がし、どうすればいいのかがわかった。


「そうか、別に口で食べる必要はないのか。

なら、こうすれば…」


目を閉じ、右手に意識を集中する。白い大樹と自分が一体になるイメージをして、自分の物になれと強く念じた。強く強く念じ、それ以外のことは頭から切り離した。


“お前はボクのモノだ。”


すると、白い大樹はみるみる内に手の中に吸い込まれて行った。地面に水が浸透するかのように、滞りなく滑らかに手に入っていき、僅か数十秒で完成に吸収でき、白い大樹はその場から跡形もなく消え去った。


「凄い。これは凄い!訳がわからないけど何だか凄い。

こんな物が手にはいるなんて、ボクはついている。」


例のごとく、白い大樹の情報が頭に入って来るが、あまりに膨大すぎて頭が理解できなかった。

しかし、満足感は十分である。特別な宝物を手にいれた気分だった。いや、正しく特別な宝物を手にいれたのである。

現状、宝の持ち腐れだが持っているだけで、満足できる物が手に入った。

ここに来て一番嬉しい出来事に間違いなかった。


しかし、浮かれていられたのはここまでだった。


「ん?下から何か…うぉあー!?」


白い大樹が消えて暗くなり見えなくなった足元に違和感を抱いた直後、黒い何かが生え出し、ボクの体を巻き込んで上に向かって延び始めた。

遠ざかる地面、徐々に締め付けを増す黒い何か。どうやら白い大樹があった崖の下から生え出したようである。

抵抗する間もなく、地上から数十メートルまで伸びた頃、黒い何かの正体が判明した。

それは、黒い樹木だった。上への伸びが穏やかになり始めると、枝を生やし葉っぱをつけ始めたのである。異常な成長速度に唖然としたが、考えている間はなかった。


「くそ、足が抜けない。ヤバい、潰される!

って、ひぃ!?」


樹木に呑まれてしまった足を解放しようとするが全くびくともせず、焦りだけが増していく。

段々締め付ける力は増し、足に食い込み始めた。痛みも感じ始め、何とかしなきゃという思いに刈られる。それだけで精一杯なのに更なる現象が起こった。

黒い樹木に無数の紅い目が現れたのだ。

ギョロリギョロリと忙しなく動かしており、非常に気味が悪かった。紅い目は憎悪に包まれていた。見ているだけでこちらにも感情が伝わってきそうなほど悪意を秘めていた。


「何なんだよ?これは。怖いし気持ち悪し、痛いし最悪だ。

早く何とかしないと…ん?」


ふと下を見ると、異常な光景があった。黒い大樹の周りの植物はみるみる内に枯れて消え、少し離れた草木は歪に成長し、紫色の靄を出し始めた。

あれが危険な物であることは火を見るよりも明らかである。

その証拠に、ここに来て初めて見た。植物以外の生き物、巨大な鳥は紫色の靄に触れた瞬間、断末魔を上げ、地に落ちてしまった。


「何でこんなことに、くそ!まだ何かあるの?

もう勘弁してよ!?」


黒い大樹の変化はまだ終わらず、更に青黒い炎を纏い始めた。直感で危険だとわかり、仕方なくこのおぞましい黒い大樹を取り込むことにした。こんな歪で呪われそうな物を体に取り込みたくなかったが、このままでは危険なので助かるためには取り込むしかなかった。


“お前はボクのモノ……入れ。”


強く念じ、左手で黒い大樹を吸収して行く。足の締め付けは緩まり、青黒い炎に包まれても体は燃えない。だが、いつまで経っても吸収は終わらない。


「こいつまだ成長し続けているのか。最悪だ。」


黒い大樹は吸収する速度と同じ速さで成長を続けているのである。そのため、自分が黒い大樹に呑み込まれないためには、吸収し続けないといけないのである。

そうしている間にも森は変化を続け、紫色の靄を大量に産み出して行く。

知ったことではないが、あれは、多くの命を奪い去るだろうと他人事にそう思った。

原因は恐らくボクが白い大樹をこの森から奪ったことだろう。白い大樹がこの黒い大樹を封印していて、他の植物の毒性を中和していたと考えられる。


これが本来の森の姿なのかも知れない。植物以外生きることのできない動物にとっての死の森。

目で確認できる限りでも、紫色の靄は凄い勢いで発生し大量に風に運ばれている。

暗闇の中遠方で微かに明かりが見えた。あんな所に村か町か知らないが人が住んでいる場所があるようだ。

ゾッとした。先程は人が死のうがどうでもいいと考えていたが、実際に自分が原因で人が死ぬと、自分が責められるのではないかと思い不安になったのだ。自己保身の強いボクにとって何としても避けたいことであった。


“お前があるとボクのせいになるだろうが!消えろ!”


「入れ入れ!もっとはやく、もっとぉ!」


声を荒らげ、強く念じながら左手に力を込め、吸収速度を速めるのように努めた。左手は脈打ち、その効果は目で見える形で現れた。

青黒い炎は消え、赤い目は一つまた一つと閉じて行く。だが、森に変化は見られない。

誰かが気がつく前この黒い大樹さえ、どうにかすればいいと思った。これが元凶なら元凶さえなければ自分は疑われない。実に浅ましい考えであった。


その後も必死に吸収を続け、何とか夜が明けるまでに跡形もなく吸収し終えた。


「やっと終わった。森は……もういいや。

ボクは知らない。何も知らない。寝よう。」


悲劇から目を背け、草木が生い茂っている場所まで移動し、深い眠りについた。

願わくは、今度こそ、今日のことが悪夢でありますようにと。



目覚めると日は落ち夜の帳が舞い降りていた。どうやら丸一日眠っていたようである。

残念ながら願いかなわず、森は相変わらず、紫色の靄を生成している。黒い大樹があった時と比べれば、遥かにましだが、今日1日生成された紫色の靄は確実に被害をもたらしたであろうと考えられる。


「あーあ、夢じゃなかったか……。

やーだなー、もぐもぐ。」


夢でなかったことを確かめつつも、呑気に悲劇の原因である植物から毒々しい実を食べ腹の足しにする。今更ながら、この行動はかなり異常なのだが、食べられて栄養を摂取できる以上、辞める理由などどこにもなかった。


「甘味が増して美味しいけど、そろそろ肉が食べたくなったね。

そー言えば、あの鳥どうなったのかな?」


思い返せば昨日、巨大な鳥が毒にやられて地に落たことを思い出した。流石に植物ばかりでは飽きてきたので肉が食べたくなったのだ。

落ちた方向もだいたい目星がついたので、ピクニック気分で鳥を探すことにした。


「…まぁ、こうなるか、当然。」


予想は的中し、鳥は思いの外早く見つかった。近くには毒々しい色の大きな川が流れていたのが見えたので、それが目印になったのである。

しかし、残念ながら見つけるまでしか、幸運は続かなかった。肉にありつけることに期待したが、鳥の身は腐り落ち、骨も大部分が溶けていてとても食べれそうになかった。


「三メートルはあったと思うけど、それでこれか…」


思い出したくないことを思い出してしまった。体が大きいほど毒の回りは遅くなるらしいのだが、三メートルを超える鳥でも即死して、1日足らずでこの有り様なのだから、人なら紫色の靄に触れただけでも、体が腐り落ちてしまうかもしれない。

川のほとりに座り込み、石を拾い水切りを始めた。一回も成功しなかった。


「ん?何か音が…」


結果的に自分がやらかしたことになるので、これからどうすれば誤魔化せるかを考え込んでいると、空から音が聞こえ、見上げると見たことのない不思議な船が何隻も飛んでいた。

船底は光り、翼のようなものの側面も青く光っていた。船にあるはずの帆は一つもなかった。幾つかプロペラが回り、音の正体はおそらくこれだと思われる。SFやアニメに出てきそうな空飛ぶ船だった。

初めて見る壮大な光景に暫く呆けて眺めていたが、はっとし、状況を分析し始めた。

どうやら思ったより早く移動しているらしい。

気付いた時には大きいだろうとは感じていたが、近づくと姿は更に大きくなり、鳴り響く重低音も大きくなってきた。船は間違いなく此方に向かい進行して来ている。


見つかったら犯人にされると思い、慌てて逃げようとした瞬間、特に大きい中央の船から光る物が落下し、一瞬にして森の一部を焦土とかした。

ゾッとした。他の船からも同様に光る物が落下し森を焼いて行く。歴史の授業で見た戦争兵器そのものであった。あれは大地を焼き生物を死滅させるおぞましいものである。

それが段々こっちに近づいているのだ。たまったものではない。


「ここには人がいるんだぞ、ふざけやがって。

って、うあー、どうしよう、どうしよう、このままじゃ焼き殺される。

でも見つかったらまずいぃ!」


助かるには逃げるしかないが、走って逃げても、逃げ切る前に焼き殺されるのがおちである。

必死に考え導きだした手段はあまり良いとは思えなかった。しかし、時間は残されておらず、リスクは大きいが、助かるには他に手立てはなかった。


「みーちゃん。ボクを守ってください。えい!」


神ではなく、みーちゃんに願いながら、毒々しい大きな川に飛び込んだ。

暗くて何も見えなかった。

怖くて怖くて仕方なかったが、そうこうしている内に意識が薄くなり、とうとう意識を手放してしまった。


“みーちゃん、お願い!”


次に目が覚めた時は安全な場所でありますように。

そう強く願うのだった。



お読み頂き有り難うございました。…読んだ人のために後書きは毎回書きます。…たぶん。

あれ?編集したら2000文字も増えてしまった。長いと読みづらい人もいるし、かといって短いと物足りないだろうし、難しいですね。

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