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序章:やっとわかったのに

“お前もボクを殺すのか”


あらゆる負の感情で満ち溢れた怨嗟の言葉が口からこぼれかけた。

だが、決して口にしてはいけないことはわかっていたので、それを必死の思いで呑み込み、代わりに怒りだけを込めた言葉を吐き出した。


「何でボクに黙って、そんな大事なことを決めたんだよ!?」


突然聞かされた予想だにしなかった話にボクは珍しく声を張上げた。

怒りを込めたが、他者から見れば悲鳴と捉えられても不思議ではない、どうか嘘であって欲しいと願う嘆きだったのかもしれない。


ボクが知らない間に、ボクの人生を大きく左右する結婚が親達の間で決められていたのである。結婚相手は、見ず知らずの女性ではなく、戦略結婚と言うわけでもない。

寧ろ、誰よりも馴染み深い、幼馴染みのお姉さんだった。


彼女は、昔から今も尚お世話になっている女性で、見た目も綺麗で、頭も良い。性格もある一点さえ除けば問題ないし、寧ろ、ボクが関わることで、彼女の価値を下落させていると言って過言ではない。


ボクは彼女のことが大好きだけど、その感情は家族の姉としてのものでしかない……そうでなくてはいけなかった。幼い頃から、そう思って生きて来たのだから、今更簡単に変えることなど出来ない。それに、彼女には、ボクなどではなく、他の男性と結婚して幸せになって欲しい…そう本当に思っているかわからないのだが。


「みーちゃんには、もっとふさわしい男性がいるでしょ?」


そう言葉にすれば、目の前の彼らが怒るのはわかっていた。だけど、苦し紛れの言葉はこれしか思い付かなかった


「…ふざけないでちょうだい。貴方、今の今まで、散々みーちゃんに迷惑をかけておいて、その態度は何!?」


父親が怒ると思い覚悟していたが、その予想は外れ、普段から物静かで、怒りなどの負の感情を表に出さない母が、怒りを露にした。


「…え、えっと…。」


全く、普段の母から想像出来ない形相にたじろぎ、言葉が上手く出てこない。普段怒らない人が怒ると、半端なく怖いと言うことが身をもってわからされた。


「みーちゃんが、これまでどれだけ貴方を大切にしてきたか、貴方はわからないっていうの!?

みーちゃんの未来の選択肢を奪ったのは誰?

どう考えても貴方のせいなのに、いざ責任をとれと言われたら、下らない言い訳で逃げ出そうとする。恥ずかしいとは思わないの!?」


母が言っていることは事実であり、頭が冷えて怒りは消え、戯れ言を口にすることすら出来なくなった。みーちゃんは、元々、身持ちの固い女性だが、それに拍車をかけるように、男性の影がないのは、ボクに構ってばかりいるからだ。それだけではなく、社交性がありながら友人が少ないのも、ボクが機会を奪ったからである。


大学生なのに、サークルにも所属せず、飲み会に参加しようともしない。しかし、原因は他にもある。大学に入学直後、友達に騙されて合コンに無理やり参加させられて仲違いしてからは、大学の友人の誘いに乗ることはなくなり、ボクに構う時間が更に増えた。


ボクだけのせいじゃない。なのにボクだけが悪いことにされる。

いつも、昔から、ずっと……みーちゃんの失態は全てボクが悪い、それが我が家の常識だ。


みーちゃんがボクに構うのは、弟分として見ているのもあるが、自惚れではなく異性として好かれていることが理由であることはわかっている。前に、彼氏をつくらないのと、冗談で言ったら悪夢を見たので間違いないだろう。


けれども、そう簡単にみーちゃんを受け入れる覚悟など持ち合わせていない。ボクはまだ、17歳のガキなのだから。

こんな未熟者に結婚の話をするなんて馬鹿げている……そう思わざるを得なかった。もう少し時間をかけてお互いを知り、ゆっくりゆっくり未来を歩んで行くべきだろう。それこそが正しいとボクは考えている。


……だがしかし、そんな上っ面なボクの考えは、直ぐに引き剥がされた。


「笠口美穂」


「っ!?」


ボクが必死に言い訳を考え黙り込んでいると、今までスマホを弄っていた妹の柚希がぼそりと、一人の女性の名前を口にした。反応してはいけないのに、身体はそれに反してびくっと震えた。


それを見た柚希は何やら確信したらしく、呆れたように、はぁと溜め息をついた。それは、父と母も同じだった。


「お兄ちゃんって、そう言うことだけは隠すの下手だよね。

好きなんでしょ?笠口美穂が…」


「ち、違う!ただの、クラスメイトで、孝一と一緒に話しているだけで…」


慌て否定するが、どう考えても通じないことはわかっていた。でも、認めたくなくて、必死に言い訳を考えていると、柚希が顔を耳元まで近づいてきた。

そして、ボクの耳に手をあて、両親に聞こえないような小さな声で囁いた。


「…あの事、お母さん達にばらしてもいいの?」


身体から血の気が引いていき、真っ青になって座りこんだ。

恐る恐る、顔を上げ柚希を見ると、妖しく微笑んでいた。だが、目は微塵も笑ってなどいなかった。それで、今まで勘違いしていたことがわかった。


柚希はあの時のことを許してなどいなかったのだ。

ふざけるなと思った。“あれ”は確かにボクにも罪はある。だが、けしかけてきたのは柚希だ。

柚希にだって罪はある。ならば、許すべきだろうが。なのにこいつはボクを許していない。ボクだけ罪を背負うべきだと考えている。

反論はしたい。でも、そんなことはできない、できる訳がない。


結局、この瞬間ボクに選択肢は無くなった。


「…ボクは、バカだとわかりながら、笠口美穂に恋しており、みーちゃんとの結婚に反抗しました。」


ボクに、正直に答える意外の選択肢などありはしなかった。そうしなければ、取り返しのつかないことになることは明白だったからである。


「えらいよ、お兄ちゃん。正直に、よく言えたね。

でも、前にあんなことがあったのに、まだ懲りてなかったんだね。」


柚希はボクの頭を撫でながら楽しそうに話す。そして、触れられたくないことを思い出させる。

だが、残念ながら全くをもってその通りである。あの事件から2年すら経っていないのに、同じ間違いを犯したのだ。柚希達に呆れられても仕方がないことでもあった。


勉強や運動はある程度、努力すれば何とかなるが、人の感情はそう簡単に制御することは出来ない。ボクの場合、負の感情はある程度制御出来ても、恋愛感情は制御出来ず、いけないとわかっていても間違えてしまう。


過去に、それで多くの人に、もちろんみーちゃんにも迷惑をかけているというのに、この様である。

恐らく、予想が正しければ、耳を塞いだ方が良いだろう。これから、言われることはわかっている。結果がわかっていても、辛いものは辛いのだから。


「お前を心配した柚希が、俺に教えてくれた。本当に柚希はよくできた子だ。だから、その娘を探偵に調査してもらった。

結果は自分の目で確かめなさい。」


そう言って、父は呆れ顔で、茶色い封筒を机の上に無造作に投げ捨てた。

いつもそうだ、ボクの言うことは否定して、柚希だけを肯定する。だが、逆らうことはできない。


封筒を手繰り寄せ、 震え始めた手で、封筒の紐をほどくと、封筒を逆さにし、中身をぶちまけた。

中身は、少し厚みのある調査書類と、大量の写真だった。写真はたまたま、全て裏返しになっていた。とりあえず、書類を先に読むことにした。


「っ!?うっ!?」


書類を読み終え、掛かれた事実に愕然としながら写真の一枚を手に取って見た瞬間、口元を手で抑え、トイレに向かって駆け出した。


「うえぇぇえー。…げほっ、げほっ!」


先程食べた昼食をすべて吐き出した。それなのに、まだ吐き気が止まる様子はない。

気持ち悪くて、苦しくて、辛い。何か違うものを体から吐き出したくてしかたなかった。


10分ほど、もがき苦しむとようやく、吐き気は止まり、身体も落ち着きを取り戻した。


「何、純情ぶってるの?気持ち悪いなぁ。そんなの別に珍しくも何ともないでしょ?

ほぉら忘れ物だよお兄ちゃん。」


柚希はボクが駆け出すと、後から着いてきて、後ろからボクが吐いているのを黙って見ていた。そして、ボクが落ち着いたのを見計らって、柚希が冷めた眼差しでボクを見下だしながら罵った。

そして、先程の写真をボクの目の前にばらまいた。

見たくもない現実を突きつけられ、再び吐き気が込み上げてくるが、目を反らすことは許されなかった。


「ほら、お兄ちゃん。よーく見なよ、これが現実だよ。

目を反らして過去のことにしても過去は消えないんだから、そろそろちゃんとしてよ。

……て言うか、さっさと見ろ!」


柚希に頭を鷲掴みにされ、写真を強制的に見せつけられた。

それはボクが見たくもない事実を鮮明に写し出していた。ボクは想い人がハゲ散らかしたおっさんと口づけを交わす瞬間を脳内に刻み込んだ。

気持ち悪くてしかたなかった。でも、もう吐き気はしない。ただただ、ショックで頭の中がぐちゃぐちゃだ。


……こんなもの見たくなかった。


知りたくなんてなかった!


ボクはただ、恋をしているだけで十分だった。している間は自由で幸せだった。叶わなくてもよかった。本当にそれだけでよかったのに、何でこんなことになるんだろう。


「うわぁ、真っ青だね。でもよくもまぁ、たかが好きってだけで、そこまで感情移入できるもんだね。

こっちがそんなお兄ちゃんを見て、真っ青になりたいぐらいだよ。」


「ぐっ…」


“お前に何がわかる!?”


そう言いたかったが、反論することなどできなかった。そんなことすれば、こいつはキレてろくでもないことを仕出かすのは明白だ。だから、黙りこむしかできなかった。


「にしても、こんなクソビッチを好きになるなんて、馬鹿だよね。

いつもみーちゃんを見ているのに、こんなブスよく好きになれるね?

ゆーには理解できないよ、馬鹿すぎてね。」


柚希はボクが反論せず黙りこんでいると、いかがわしい写真をつまらなそうに平然と眺めながら、ボクの想い人を馬鹿にして嘲笑った。


“お前に何がわかる!?”


怒りで一瞬体が熱くなったが、必死の我慢して立ち上がった。


「頭を冷やしてくる……」


「行ってらっしゃい。ちょうど土砂降りの雨だからよく冷えると思うよ。」


柚希とこれ以上話したくなかった。徐々に現実を受け止めて始めたが、まだ頭の中がぐちゃぐちゃなので、一度頭を冷やし冷静になる必要があった。

ふらふらと覚束無い足取りで、玄関に向かうと、そのまま傘も指さずに雨の中をさ迷い始めるのだった。



どこを目指すのでもなく、数十分ぐらい雨に打たれながらさ迷い歩き続けていると、ズボンのポケットが揺れ出した。

こんな時は、電話にでたくなどないのだが、柚希やみーちゃんだと後がややこしいので、相手も確認せずに電話に出た。


『もしもし!?みー大変だ!美穂が飛び降りた。

もー訳がわかんねーよ。朝電話したときは元気だったし、今夜だって遊ぼうって約束してたのに何でだよ……』


電話の相手は友人の多胡孝一だった。だが、かなり取り乱しており、早口で聞き取り辛く、理解するまで、数秒を要した。


「……えっ?嘘……なんで?」


『だからこっちが聞きてーっていってんだろ!!

……わりー。みーに当たってもしょーがねーよな。だけどよー、もうどうしたらいーかわかんねーよ……うぅ……』


いつも明るく、泣き言一つ言わない孝一が、怒鳴った後、泣き出してしまった。それで、ボクは冷静になり落ち着くことができた。


「孝一、落ち着いて、ボクも直ぐに行くから。

搬送された病院はどこ?

……うん、市営病院だね。玄関で待ってて、じゃあ」


孝一から病院の場所を聞くと、電話を切り駆け出した。

複雑な気持ちだが、友人であることに変わりないので、あの事は一先ず頭の片隅にしまい、病院に向かうことにした。

しかし、電話以外持って来てないことに気付き、タクシーでを拾うのを諦め、走って向かうしかなかった。

ただひたすら走り、何も考えないように専念していると、いつの間にか病院に辿り着いていた。


「あれ?」


病院の玄関に辿り着いたのだが、孝一の姿は見当たらず、電話にも出なかった。

不審に思い、受付で笠口美穂の居場所を聞き、急いで向かった。

だが、もう全てが終わっていた。

先程、すれ違った医者たちは彼女に死亡確認を行った人たちだったようだ。彼女にしがみつくように、彼女の母親と孝一が泣き崩れていた。

涙は出なかった。それどころかかける言葉すら見つからなかった。


人が死んだ。それも、自身がよく知る友達で想い人がだ。なのに、悲しむことができなかった。

雨に打たれ、頭は寒いほどに冷え、冷静さを取り戻していた。

笠口美穂がこれまでやっていたことを全て知った。全て人の為にやったことだった。

中でも驚いたのは、孝一が全てを知った上で彼女と付き合っていることだった。知らなかったのはボクだけだった。

思い返してみれば、孝一がアルバイトを始めたのは彼女と仲良くなってからだった。先に仲良くなったのは、ボクだったがいつの間にか彼女は孝一と一緒にいることが多くなっていた。


何だ、ボクは結局気付かぬふりをして目を反していただけだったのだ。

もちろん、彼女の全てを知った上で受け入れることなどできないのだから、結果は最初から決まっていたのだけど。

そう考えると、虚しくなり、彼女に対する思いは薄れていった。

自分がこんなに薄情な奴だなんて初めて知った。


でも、そんなことを悟られるのが嫌で、何とか体裁を保ちながら、言葉を紡いで彼女を悼み、孝一を慰めた。

ここまで、弱った孝一を見るのは初めてだった。独り言のように彼女への思いを語る孝一の話を長い間ずっと相づちをうちながら聞き続けていた。それくらいしかボクにできることはできなかった。


それから暫くして、警察の人たちが来て、彼女の死は自殺だと判断された。

母親がそんなはずはないと抗議したが、彼女の手書きで書かれた遺書を見ると崩れさり、認めた。


特別に孝一と二人で見せてもらうと、背筋が凍りついた。


【みんな知られた。もう耐えられない。お母さん、孝一ごめんなさい。本当にごめんなさい。さようなら。】


確信などない。けれども何だか、言い表せない不安が襲った。

固まっていると、孝一が立ち上がり壁を強く殴り付けた。拳は擦りきれ血が滲み出した。


「ふざけんな!どこのどいつだ、ぶっ殺してやる!」


止める間もなく孝一は走り出した。恐らく、援交相手の男性たちのもとに向かったのだろう。

恐らく彼らは犯人ではないだろう。彼らにも家庭があり、ばれたら、家庭崩壊の危機に瀕するのだから。

他は知り合いに見られたという可能性だが、これも低い。頭の良い彼女は常に細心の注意を払いながら、相手と場所を選んでいたのだから。素人が相手ばれるようなへまなどしないだろう。

なら、残る可能性は……考えないことにした。


ボクは足早にその場を後にした。



とぼとぼと歩いていると、また雨が降りだし、雷鳴が耳に響き渡った。

雷は少し怖いので、雨宿りをしようとしたが、近くには公園しかなかった。雨を凌ぐには物足りないが無いよりましなので、公園に向かった。


そして、公園に着くと、噴水の向こう側から黒い傘を指した女性がやって来るのが見えた。

直ぐに相手が誰だかわかったので、駆け寄った。


「みーちゃん、雨の中どうしたの?」


「みーくんを迎えに来たんだよ。さぁ、これ以上体を冷やさない内に帰ろっか。

……頭はもう十分冷えたと思うし。」


長くて艶のある黒髪を片手で抑えながら、傘を少し上に上げ、ボクを傘の中に入れてくれた。

いつもと変わらない、陰り一つない笑顔でボクの手を取り握りしめた。

ボクにいつも優しいみーちゃんは、怖いほどいつも通りだった。


「やっぱり、みーちゃんは全部知ってたんだね……」


「当然かな、私が知らないみーくんのことなんてほとんどないよ。

だからね、今回のことも許してあげる。」


やはり、間違いじゃなかった。さっき感じた寒気はこの事を予感していた。

柚希たちが今回のことをみーちゃんに話していない訳がないし、みーちゃんも独自に調べていたに違いないのだから。

笠口美穂に秘密をばらしたのは、みーちゃんだろう。もちろん、直接的ではなく、間接的に人を使って。

みーちゃんは、才能や環境に恵まれている上に努力家で、失敗したところなんてほとんど見たことがない。例え失敗しても、失敗をわからなくする程の隠蔽工作もお手の物だろう。ボクが関わる失態ならボクが全て悪いことで終わり、みーちゃんの失態ではなくなるから、結局、失敗することはない。


こうなることは、最初から決まっていたのだ。愚かなのは、ボク一人であり、誰にも罪はないのだ。

孝一たちには申し訳ないが、何もできないし何もするつもりもない。彼らよりずっとみーちゃんが大切だからだ。友人として最低かもしれないが、仕方がないのだ。

だから、みーちゃんに対する怒りは微塵も湧いて来なかった。

でも、一つだけみーちゃんに聞きたかった。


「みーちゃん、何でボクを責めないの?ボクが全部悪……っぅん」


言い切る前に、唇はみーちゃんの唇で塞がれた。

当たり前のように馴染むこの感触は、もう何度目なのかわからなかった。


「みーくん、世の中にはね、強い人と弱い人がいてね、生まれた瞬間から決まっているの。

強い人は弱い人を許してあげないといけないの。そうしないと世の中は回らない。

だって、弱い人は強い人を許すことなんてできないし、できたと思うのは錯覚で、諦めていることなのだから。諦めることを許したとは言わないね、だって許してないから、怒りや憎しみは消えないし、虎視眈々と復讐の機会を待っているのだから。

弱い人だって努力をすれば強い人になれると思う

でしょ?

でも、それは間違いなの、弱い人は強くなっても弱い人のまま、人を許すことなんてできないの。昔されたことをいつまでも根に持って、意識的か無意識的に同じことを他人に繰り返してしまうの。

強い人は許せる人で、許せない人は弱い人、もちろん、許せなくなったら強い人でも、弱い人になるから、強い人は常に強くなくてはならないの。羽をもがれた鳥が二度と空を飛べないように、堕ちた強い人は弱い人で、二度と強い人にはなれないの。

だからね、みーくんを私は許すの、私は強い人だから。」


みーちゃんの言う通りだ。ボクは弱い人だ。

笠口美穂の死を悲しめないのは、ボクが彼女を許せないからだ。自分勝手なことだが、彼女に期待し、勝手に失望した。

死んだからといって許せるものではないのだ。

それが、ボクが弱い人であることの証明に他ならない。ボクは一生、強い人にはなれないのだ。自分の不甲斐なさに失望し、気持ちが沈んでいく。


ボクが落ち込んだのを見て、みーちゃんは傘を放り投げ、濡れるのもい問わないでボクを優しく抱きしめてくれた。体にみーちゃんの柔らかさが伝わり、安心できた。


「みーくん、勘違いしちゃ駄目だよ。強い人が強いままでいられるのは、守りたい弱い人がいるからだよ。

私はみーくんがいるから強くいられるの。」


優しい言葉が心を癒し、暖かいみーちゃんの温もりが体を癒していき、不安や憂いが消えていく。

ようやくわかった気がする、自分に本当に必要な人が誰なのか。

その気持ちをみーちゃんに伝えたくて、みーちゃんの豊満な胸が潰れるほど、みーちゃんを強く抱きしめ返した。

みーちゃんはより一層笑みを深めた。


「ありがとう、やっとわかってくれたんだね。

もう絶対みーくんを離さないよ。

みーくんを離さないためなら……」


その先は聞こえなかった。

雷鳴が辺りに響き渡る頃には、雷がボクとみーちゃんを焼き尽くした。

痛みも感じなかった。ただ、死ぬという不可避な現実を身をもって感じながら、闇に落ちていった。


……普段見せないみーちゃんの妖艶な笑みと口の動きから読み取った言葉を深く心に刻みながら。



とりあえず、書いてみました。 読んでくださって、ありがとうございました。

あれ、思っていたよりシリアスになりました。異世界ものなので、異世界に行くまでの過程をどうするか考えていると、魔法陣で飛ばされるか車に跳ねられて死ぬかの定番よりも、雷に打たれて死ぬ方が話的にはいいかなぁと思いこうなりました。

次は異世界です。さてどうしましょうか……

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