ドヴォルザークの墜焉
交響曲第9番「新世界より」
「新たな世界に行けば、なにか変るのかな?」
水平線に煌めく夕日は、なにかを叫ぶように輝いている。
波はなく、風は凪ぎ、空は宵を待つばかり。
橙色の陽光を受けた海面は、ガラス片を散り散りに撒いたように眩しく
水も空も静かに、太陽が沈む音だけが聞こえてくる気がした。
舟はその場に浮かび、背後からは夜がそっと首筋を撫で
穏やかな暖かみは消えゆき、ひたすらに凍てつく宵闇に、呑まれていく。
「世界が変わるときは、あなたが変わるとき」
ドヴォルザークの交響曲が耳鳴りのように聞こえてくる。
どこにも行けない舟に乗った僕たちは
鼻歌の音色のようにたゆたい
ただ塩水に腐って沈んでいくのだろう。
ドヴォルザークの世界は音で色を彩り。
僕たちの世界は文字で色を彩る。
こうして虚構の空間で世界を創造し続ける僕たちは。
すこしずつ、新たな世界を冒険している