五話 お金集めは楽じゃない
悠馬は今、ブルパルボアと対峙していた。ギルドを飛び出した後、道案内を使い探す手間もなくやって来たのだ。
ブルパルボアは全長二メートルもあろうかという大きさのイノシシみたいな魔物でその牙は岩さえも貫通する。そして驚異的な突進もあり初心者に立ちふさがる壁一つとなることが多い。
悠馬は学者を発動する。
ブルパルボア 弱点は牙の付け根
牙は頭の骨とつながっているため叩くと行動出来なくなる。
でもそれを武器に使うかわいい奴。
牙は槍などに使われる。
悠馬は弱点を確認した後、ブルパルボア正面に立ち大声で叫ぶ。
「かかってこいや。バーカバーカ」
幼稚な罵声を浴びせられて怒ったのかそれともただ獲物を見つけて仕留めようとしたのかはわからない。ブルパルボアは悠馬に向かって軽く頭を振った後に猛烈な勢いで突進を開始する。
悠馬は突進が始まると同時に走り出し、その強大な槍のようになったブルパルボアに向かう。そしてぶつかる瞬間に飛び上がりブルパルボアを跳び箱を跳ぶように回避する。ドヤ顔である。
ブルパルボアは獲物を自慢の牙が貫いた感触がしないことに気がつき突進をやめ、直ぐに振り返ろうとし、そこで衝撃を感じて意識を失った。
悠馬はブルパルボアを飛び越えた後すぐに追いかけ振り返りの瞬間を狙い、その牙の付け根の弱点にドロップキックを決めたのだ。
その一撃でブルパルボアの意識は遠のいた。だが気絶をさせただけなのでまだ生きている。なので悠馬は止めを刺す。
「学者での弱点発見。器用での的確な弱点への攻撃。そして急所で弱点への威力アップ。あれ、最強じゃね?」
その言葉が終わると同時にブルパルボアの目に貫手を繰り出しブルパルボアの一生に終止符をうつこととなった。
「痛ったい。突き指だな。クソイノシシめ最後までこの俺を痛めつけるとは」
明らかに自分の責任だがそれをブルパルボアのせいにした悠馬はそれを理由にし牙をへし折る。
「こいつは貰って行くぜ。突き指の代償だ。悪く思うなよ」
そして牙を二つ手に入れた悠馬は両脇に牙を抱えブルパルボアごっこをしながらギルドへと戻っていった。
「みてみてブルパルボア。ブヒーン」
悠馬がギルドに入ってすぐの言葉である。
両脇に挟んだ牙を上下にゆすり、ブルパルボアのアピールをする。
それに反応したのは受付の一人。茶髪で元気そうな小柄の子だ。
「おおっ! 私の宴会芸に匹敵する芸の持ち主がいるとは。世界は広いってもんです」
悠馬はそれに反応しその受付の前に走っていく。
「ブルパルボアの突進!」
走り出したとたん他のハンターに注意されたため、素直に聞き入れ歩いて向かう。
「やあ。この牙買い取って。あと依頼も完了してきたの確認して」
「むむっ。これは五万Gですね。ほいっどうぞ。あとカードを渡してください」
悠馬は牙とカードを渡してゴールドを受け取る。カードを受け取った受付嬢は何かをつぶやきカードに手をかざす。
「ほいっこれで完了です」
「ありがと。じゃあ他になんか狩猟依頼ない?」
受付は冊子を取り出し調べて行く。そして何か見つけたのか顔を上げる。
「ロブルッカなんてどうですか?」
「どんなやつ」
「ふふふ。この学者を持ってるくせに私に聞くとはなかなか見所があるってもんです。ロブルッカはですね。硬い甲殻に覆われた細長い体に大きなはさみを持った魔物ですね。魚が大好きなそうです。私は魚が嫌いなので、馬が合わないってもんです」
「お前の好き嫌いなんかどうでもいいよ。じゃ行ってくるから依頼登録して」
「ほいっできました。がんばってください」
悠馬はその言葉を背に走り出す。
ロブルッカは水辺にいた。見た目はザリガニだ。
悠馬は走って近づき跳び膝蹴りを頭へ繰り出す。が、それははさみに阻まれた。そして着地と同時にロブルッカがはさみをハンマーのように使い、振り下ろして来たため前転しロブルッカの体の下へと入り込む。そして地面に背をつけ、足をロブルッカの腹へと当て一気に蹴り飛ばす。ロブルッカは空中に打ち上げられそのまま重力によって落ち、当然着地をする。その着地の瞬間、身動きの出来ないロブルッカの頭へ跳び膝蹴りを悠馬は打ち込み、今度ははさみに阻まれることなく攻撃を成功させた。
ロブルッカはその一撃により息絶えたらしい。ヘナチョコである。悠馬はもうちょっとレベルの高い相手と戦えばお金を多くもらえないかと思案する。そしてはさみを引きちぎり両手に装着する。そして少しひしゃげている頭をもぎ取り中をくりぬいて冠のようにして被りギルドへと帰っていった。
「みてみてロブルッカ。チョキーン」
「むむっ。そのはさみカッコイイです。頭の冠もニクイってもんです」
まわりの怪訝な視線に答えるため、蟹股で受付へと進む。
「いいだろ。周りの視線を独り占めだぜ」
「くっ、ここは私も芸を見せるときが来たようですね。ベアマナークの真似っ! ガオー」
受付嬢が手をクワッと開き上下に振る。きっと四本腕をアピールしているのだろう。そしてその様子を見ていたほかのハンターから生暖かい視線が送られる。
「ふっ、今度は私が視線を独占です。私にかかればみんなイチコロです」
「まってろ次は更なる高みへと登ってきてやる。さあ次の依頼をよこせ。もっと強いのを要望する」
受付嬢は勝ち誇った顔をしながら冊子をあさる。
「これはどうですか。アトサギカ。適正レベル70台の狩猟です」
「これカードね。そういえば銀行ってある? 金が邪魔くさい」
「ありますよ。あずけます? 貯金は大切ですよ。人生設計は大事ってものです」
「全部頼んだ。報酬も振込みにしといて。あとこのはさみも買い取っておいて」
「了解です。ほいっカードをお返しです」
「じゃ行ってくる」
アトサギカそれは鳥の様な魔物だ。大きさは成人男性ぐらいで、特徴は赤い大きな羽だ。
悠馬がアトサギカを見つけたとき、アトサギカは飛び立とうとしていた。悠馬は走って近づき浮かび上がったアトサギカの両足をつかむことに成功する。
びっくりしたアトサギカは一気に上空へ飛び上がりそのまま地面へと急降下を始める。そして地面にぶつかる瞬間に地面に平行に飛ぶことで悠馬を地面に叩きつけようとした。しかし悠馬はある魔法を発動していた。
「『紐』鳥に乗るのって夢だったんだ」
魔法で出来た紐がアトサギカの首に巻かさり悠馬はどうにかして背中に移ろうとしていた。
つまり首に糸が巻いてある状態で悠馬を叩きつけようとしたのだ。アトサギカは悠馬を叩きつけた瞬間生涯を終えることとなった。
悠馬は地面に叩きつけられさらにアトサギカの巨体に上から追突され、脳裏のゲージが一気に減っていくのを確認する。
「『最後の意地』『回復』」
ゲージがなくなる前にとっさに魔法を発動させたことによりぎりぎりでゲージが止まり、そこから半分くらいまで回復する。
「危ねえ。死ぬとこだった」
悠馬は何とかアトサギカの死体をどけて立ち上がる。そして首の骨が折れているアトサギカから翼を引き抜き、翼の付け根の骨を掴み羽ばたく真似をする。そして満足がいったのか、そのままギルドへと帰っていった。
「みてみてアトサギカ。バサバサ」
「オイコラ。ちょっとお前こっちこい」
帰ってくるたびに奇行を晒すのがダメだったのか怒ったのか、一人のハンターに呼ばれる悠馬。
そして説教が始まる。
「いいか、ここで物を振り回すな。こんなの小さい子供でもわかることだ。次に血だらけで入ってくるな。こっちの心臓に悪い」
「はいはいわかったわかった。次から物を使わないで物まねするよ。あと血は頑張って浴びないようにする」
説教を続けるハンターと少しずれた回答をする悠馬。それが終わったのは、日が落ちる頃だった。
「ふう。強敵だったぜ。魔物三体狩猟と同じくらい説教されるとはな」
「見ちゃいましたよー。でもあれは貴方が悪いんです。ちゃんと話は聞いとくってもんです」
「もんです、もんですってうるせえな。今度からもんですって呼ぶから」
「むむっそれはダメです。私にはエマってかわいらしい名前があるんです」
腰に手をあて胸を張って答えるエマ。だが悠馬は軽く受け流す。
「まあ良いや。この羽売るね。あと夜にもうけられる依頼ってある?」
「むう。かわいい女の子の名前をスルーですか。まあ良いです。それより少し休んだらどうですか」
「宿に泊まるのに金使いたくない」
「じゃあ乞食のように道端で寝てください」
「まあいいや。じゃあそうする」
悠馬はその言葉と同時にギルドを飛び出していく。冗談ですと言おうとしたエマはぽつんと取り残される羽目なりむむむとうなり声をあげることとなった。
次の日、ギルドにやってきた悠馬はエマに昨日はどうしたのか、と聞かれる。
「昨日はちょうど良い寝場所を見つけたわ。鍛冶屋の天井って暖かい」
「ほんとに宿に泊まらないとは。感心ってものです」
「俺のこと、もしかして探した?」
「いいえ。昨日はぐっすりでしたよ」
「良い性格してんな」
「当たり前ってものです」
エマの意見を採用した悠馬も悪いのだが一切罪悪感を感じていないエマは昨日の会話を聞いていたハンターに恐怖を与える事となる。
「じゃあ金になる依頼をくれ」
「うーむ。これですね。ウィナノクケの狩猟です。適正レベル90台ですが大丈夫ってもんです」
「らじゃ。いってくる。今日はお遊びなしで金稼ぐから」
ウィナノクケは死んだハンターの装備に憑く魔物、ウィナが集まって出来た人型の魔物である。
鎧などの防具に本体の核を隠し武器を浮かべそれを使うことで戦う。ただ使えるのは二つだけが精一杯らしく、大量に使うときは一つの攻撃しか出来なくなる。
その情報を見た悠馬は目の前には全身鉄の鎧で盾とランスをかまえ、背後に大量の武器を浮かばせる騎士のようなウィナノクケがいた。悠馬は走って近づき正面から蹴りをかます。
ウィノナクケはそれを盾で防ぎ、盾とランスを手放したかと思うと自分を中心に大量の武器を竜巻のように高速で回転させた。
「一つの攻撃しか出来ないっていってもこれは反則じゃね?」
間一髪バックステップが間に合った悠馬の呟きへの回答は回転した武器がいっせいに飛んで来ることだった。
「『すごい盾』『打ち上げろ』」
悠馬の目の前に光る板状のものが出来、武器を跳ね返して行く。そしてウィナノクケの足元の地面がはじけ、鎧がほんの少し宙を舞う。
「『全身強化』」
悠馬は一気に走り出す。強化された足により一瞬で近づき体制を崩しているウィナノクケに拳を叩き込む。
「痛すぎる。鉄は殴っちゃいけませんってか」
悠馬はそう言いながら殴り続ける。ついに鎧が砕け動かなくなった。
「あっけねえな。じゃあ帰るか」
そうつぶやいた悠馬は背後から迫るランスをよけることが出来なかった。
ウィナノクケはウィナが集まって出来ている。つまりその要がなくなれば個々として動き出す。
「しまった。しかしめんどくせえ『回復』」
悠馬はその場でジャンプする。そして足元を通っていった長剣をかわしそのまま踏み抜き破壊する。次にもう一度飛んで来るランスを横にステップすることで回避し肘で撃つことで破壊する。
こうして迫りくる武器を破壊しつくし残ったのは悠馬と一本の大剣だけだった。この大剣は悠馬の攻撃で壊れない。かなり良いつくりなのだ。悠馬は脳裏でゲージが残り三分の一になったことを確認するが途中で回復をしすぎたためもう魔力がないのか回復が出来ない。悠馬はため舌打ちをし考えをめぐらしていく。
そうしているうちに少しずつゲージが減っていく。
「いい加減壊れろよ。硬すぎだって。おれもこんな武器作れるようにならなきゃ」
ここで悠馬はあることに気がつく。武器にウィナは取り付くのである。なら武器とウィナは元は別物。つまり武器を加工できないのかということである。
「一か八か。加工したるぜ」
頭から真っ二つにしようと迫る大剣の刃を側面を左手で叩くように押しのけ自分は左側にずれることで回避し、そして加工を発動する。
悠馬の目論見は成功した。悠馬の目の前にあるのは大剣を素材として出来た、たわしである。鉄のような金属で出来ていて柔らかいもの。悠馬はこれしか思いつかなかった。悠馬はそれを踏み潰す。中にいたウィナはそのまま押しつぶされ、悠馬は狩猟に成功した。
「ウィナノクケって取り憑いた武器によって強さ変わるよな」
悠馬はウィナノクケの憑いていた武器を修理し持って帰って来た為鑑定してもらっている。売れるものは持って帰るのだ。きっとこれを見越してエマはこの依頼を受けさせたのだろう。
「ふむふむ。鑑定終了っと。むむ。このたわし無駄に高品質ですね。私が買い取りたいってぐらいのレベルですよ。もらっていいですかー」
「ギルドから買えよ。それより今どのくらい金額貯まってる」
「えーとですね。おおっすごいです。なんと六十万二千Gですよ。半分私の給料三か月分です。少しわけてほしいってものです」
「金はやらん。それに足りねえ。次だ」
エマは腕を組み空中をにらみつける。
「そうですね。ガラコウパクがいいと思います。奴は体内になんと鉱物を溜め込むんですよ。これで一攫千金狙えるって物です」
「じゃ行ってくる」
ガラコウパクは鉱物を溜め込むことで有名な魔物だ。時に珍しい鉱石も持っていることがあり、それを目当てにして狩るものも多い。もしそれがなくても初心者なら鉱石を売れば魔物を狩るよりも多くのお金を得ることが出来るため人気が高い。が適正レベル80と高く防御力が高いため狩るのが難しい。
「堅いならやわらかいところを攻撃すれば良いじゃない」
悠馬は急所を使い地道にガラコウパクの表皮を削っていた。ガラコウパクは亀のような魔物のため背中にのぼり気づかれないように削っているのだ。
そしてついにその作業は終わりを迎える。悠馬は息を整え右腕を振り上げる。そして貫手を繰り出し、剥き出しになった柔らかい部分へ腕を突き刺した。
その一撃によりガラコウパクが息絶え悠馬の頭の中でカードのイメージが浮かぶ。なので悠馬は確認する。
レベル 74
職業 学者
スキル 器用 学者 一撃 加工 体術
急所がなくなり一撃へと変わり体術が増えていることを確認した悠馬は詳細を確認する。
一撃
一撃必殺のすごい奴。
弱点部分を感知できる。
弱点部分への威力を大幅に上げる。
弱点を守る部位を破壊しやすくなる。
体術
殴って蹴って投げ飛ばす。
身体能力が少し上昇。
武器を持たない攻撃の威力を上昇。
「これは俺に遠距離をすすめているのか? 一撃狙って外したり敵に近づかれたら体術でってか」
悠馬はガラコウパクを解体し加工しながら一人ぶつぶつ呟いていく。
「きめた。殴って蹴って逃げられたら石ころかナイフなげよう」
悠馬の結論はそれに至った。遠距離でなどつまらないのだ。自分の手で殺すからこそ実感が湧くのだ。自分が引く時のことなど考えていない。悠馬はそう結論付け、ギルドへと帰還した。
「これはいくらになるの」
受付に大量の鉱石などが入った袋を置きエマに質問する。
「おおっと! これはすごい。くすねちゃいたいぐらいの代物ですよ。気分が高揚しちゃうってもんです。合計はなんと! 驚きの三十万Gですね」
「まだ足りないか。ん? ちょっと良いか。今ギルドはどんな武器を高く買い取っている」
「そうですね……備蓄用の長剣と槍ですね。短剣はもういらないです。ポイですポイ」
「数はどれくらいだ」
「そうですね、どっちも百はほしいです」
「俺が作っても良いんだよな。ちょっとインゴット買ってくる」
「おおっ! その手がありましたか。注文を出す前なので大丈夫です。それに貴方のは品質が良いですしね。ありがたいってものです」
「じゃ金おろす」
「あ、そうです。カードを使えば勝手に引き落とせますよ。残金に注意です」
「了解。ちょっくら行ってくる」
悠馬は会話終えると金属店へと向かった。
「いらっしゃい」
「金はある。鉄をあるだけよこせ」
「全部で三十万Gはかかりますよ?」
「ほれカードだ」
悠馬は怪しみながら金額を提示する店員にカードを渡す。ちゃんと金額があることを確認した店員の顔がにやけ笑みがこぼれ落ちる。
「お持ち帰り方法はどういたしましょうか」
「ここに並べておいてくれ。どんどん運んでいくから。手伝いはいらない」
「わかりました」
悠馬はインゴットを加工し袋につめ次々とギルドに運んで行く。
そんな作業を延々と繰り返しついに時間が無限に感じられるようになったころ作業は終了した。金属店とギルドを往復しすべてを加工し運び終えたのだ。
「さあ合計おいくら?」
「おめでとうございます。百二十万Gです。すごいですよ。この短期間でここまで稼ぐのは。まあハンターにはもっとすごい人がたくさんいるわけですが」
「最後いらないこというな。けど気分が良いから見逃してやる」
こうして悠馬は店を出すための資金を集めあとは店を買うだけとなったのだった。