二話 さあ、鍛えよう
悠馬がカードを調べて様々なことがわかった。
この世界では職業によりその職業のスキルがもらえ、それに応じたことが出来るそうだ。
悠馬の学者の能力は知らないものでも、読める話せる書けるなどの動作が感覚的に出来るようになることだ。それと学者の能力で物の情報が手に入ること。これらの情報はこれが発動したおかげで調べられている。
次に器用。これは物を作ったり攻撃をするときなどうまく動けるようになることだ。細部まで細かく頑丈なそれでいて美しい武器や防具を作れ、その素材をうまく残して敵を倒していける。ついでに経験値とやらも少し多くもらえるらしい。
これがわかったとき悠馬はとても喜んだ。具体的にはその場で腰を振り踊りだすぐらいに。
少したって悠馬は自分の体力が回復しているのがわかった。きっと学者のおかげだろう、緑色のゲージが満タンになっているのが脳裏に移る。
そこで悠馬はレベルを上げようと考える。
「さあ木よ。我が成長の糧となるのだ」
先ほど木の攻撃で体力が半分は減らされた。しかし休めば回復する。そして木は自衛しかしない。つまり時間を掛ければ倒せるはずなのだ。それに体力を半分持っていくということはそれなりに強いはず。
悠馬は抱きつこうとした木の正面に立ち、体力ゲージを確認する。敵の体力は満タン。
とりあえず落ちている石を拾って投げつける。しかしあたる直前で枝が伸び防いでしまう。仕方ないのでもっと観察をする。と学者のスキルが反応する。
ウッドハント 弱点は炎
よく燃える。生木の癖に良く燃える。
樹皮は防具に枝は武器となる。
「燃えるんだ。じゃあ燃やそう。素材なんて今はいらねえ。レベル上げが肝心なのだよ」
だが悠馬は燃やすものがないし火をつけるものも持っていない。だがあることに気がつく。
木が動くつまりファンタジー。なら魔法がいける。
悠馬は学者を発動させる。
魔法は魔力を使い、呪文を唱えれば使えるそうだ。大事なのはイメージ。呪文は合図。
悠馬は右腕を伸ばし手のひらをウッドハントに向ける。
「おっしゃ。いける。これはいける『ファイヤー』」
呪文は意図が伝わればいいらしい。学者で通じるはずなので叫ぶ。
頭の中で紫のゲージが三分の二減り悠馬の手のひらからこぶし大の炎の弾が飛んでいく。
火球はウッドハントの防ごうとした枝に当たりそのまま燃え広がっていく。
三分後そこには黒焦げの炭化したウッドハントとカードを見つめている悠馬の姿があった。
レベル 17
職業 学者
スキル 器用 学者
悠馬はレベルの上がった喜びを表現するため残った魔力で紙吹雪を撒き散らす。
調子に乗ったおかげで魔力の回復にかなりの時間がかかったの言うまでもない。
魔力の回復は、取り合えずほうっておけば回復する。しかし座禅を組んで空気中から取り込むようなイメージをすると増えやすいそうだ。
魔力が回復した悠馬は次のウッドハントに手をむけ呪文を唱える。
「いくぜ燃え広がるぜ『火の海』」
イメージに反し海と言うより水溜りのような規模になったがウッドハント相手には問題ない。
三~四体まとめて炎に包まれる。
レベル 21
悠馬はだんだん楽しくなってくる。レベルがバンバン上がるのは気分がいいのだ。
この調子で悠馬は自衛しか出来ないウッドハントを次々と倒して行く。途中いじめっ子みたいだなと思い始めたが、自重はしない。
魔力がなかなか回復しなくなってきた頃、あたりの暗くなってきたことに気がつき、悠馬は我に返った。
「そういや夜中にこっち来たのに明るかったな。これが時差というものか」
あきらかに違うことを考えながらカードを確認する。
レベル 51
職業 学者
スキル 器用 学者 急所
スキルが増えていたレベルもゲームだったら中盤のボス相手にする所まで来た。
学者のスキルで急所をしらべる。
急所
弱点を攻撃しまくったセコイもとい用意のいい人へ
敵の弱点へのダメージが増える。
敵への攻撃で鱗などを剥ぎ取り急所を晒させることが出来る。
「セコイとな。まあそうだろうな。だが俺は褒めしか受け付けん」
カードに文句を付けながら次は素材を剥ぎ取ることにする。
「ぐへへ。さあ急所を晒すのだ。じっくり丸裸にしてやるぜ」
変態の誕生の瞬間である。
ウッドハントに近づき飛び掛る。
枝が悠馬の体に迫るが枝の葉をすべてそぎ落としするりと懐に潜り込む。そして一気に樹皮を剥く。
「レベルは最初の三倍強だ。素手でいける。そしてこの感触はわすれないぜ」
樹皮を剥いだ悠馬はウッドハントの幹を蹴り一気に戦線を離脱する。手には剥かれた樹皮が握られていた。
「さてウッドハントを赤裸々にしたわけだが、この素材ウッドハントちゃんが着てたんだよな」
気味悪い声を上げながら悠馬は樹皮を確認する。
ウッドハントの樹皮
加工すると防具となる。
しなやかである程度の硬度を持つため初心者から中級者の間に使う人は多い。
初心者や中級者などが良くわからない悠馬は再度調べる。
ハンター
魔物をかる職業でランクがある
一から三までが初心者。
四から六までが中級者。
七から九までが上級者。
それ以上は覇者の職業となる。
レベルも大体自分のランクと同じとなる。
「俺って中級者ぐらいか。だがこんなにすぐ中級者になるとか俺って強いぜ」
実際は器用のおかげで普通の人の倍の早さになっていることに気がつかない悠馬は有頂天となる。
「ようし気分がいい。れっつ狩りまくりたいむだ『ファイヤー海』」
あたり一面火の海となりウッドハントが炭化していく。だがここには誰も止める人がいない。あたりのウッドハントが絶滅しそうになる頃、一匹の介入によって悠馬はようやく止まる事となる。
レベル 64
「なんだやっぱレベルが上がると上がりにくいのか」
そう悠馬がつぶやく。瞬間、耳を貫く大音量により悠馬は耳を手で押さえる。
現れたのは、巨大な熊。体長三メートルはあるだろうか。腕が四本あって毛は青で部分部分が黄色くなっている。
こいつが咆哮したのだ。悠馬はすぐに学者を使う。
ベアマナーク 弱点 頭 心臓
とにかく力強い。極寒の地でも砂漠でも対応できる。
分厚い毛により魔法などが効きづらいので刃物で切っていくか、鈍器で頭を狙うのがセオリー。
だが四本の腕により近づきにくい。
「強いって。まあ中級者の俺にはおよばないがな」
悠馬は走り出す。ベアマナークに一気に攻め寄りドロップキックを繰り出す。がベアマナークは下二本の腕で悠馬を受け止め。そのまま上の二本の腕で悠馬を地面に叩きつける。
悠馬の脳裏では緑のゲージが十分の一減る。
ベアマナークのゲージは減っていない。
だが確認している場合ではない。四本の腕で両手両足を抑えられるがベアマナークの顔が近づいた瞬間渾身の頭突きをかます。
ベアマナークが悠馬の体を放り投げ、後ろに一歩のけぞる。悠馬はその隙に残り半分まで減ったゲージを見ながら逃げるか戦うかを一瞬で判断する。
「痛いんだよクソったれが『回復』」
放送禁止用語を連発しながら悠馬は熊に突っ込む。ゲージは十分の三、回復した。
ベアマナークの手が再度悠馬に迫るがここで悠馬はスライディング。そのままベアマナークの下を通り抜ける。すぐにベアマナークが振り返るがそこにあったの悠馬の拳だった。
潜った後すぐに立ち上がり、ベアマナークの顔に一発入れた悠馬は勝てることを確信する。急所で威力が上がったのだろう。ベアマナークのゲージが残り十分の三ぐらいまで減ったのだ。そして奴は今、顔に入った一撃でのけぞっている。悠馬は一歩進みそのまま右足でベアマナークの腹を蹴り抜いた。
ベアマナークの巨体が空を舞う。
「ふう。俺にかかればイチコロだな」
悠馬はそこで気を抜いた。それがいけなかった。ベアマナークは生きていた。ゲージがぎりぎり残っている。
悠馬はベアマナークのタックルにより吹き飛ばされゲージが残りわずかとなる。
「『回復』『回復』『守って』」
悠馬は自分に回復を使いまくり防御の盾らしきものを前面に作る。だが追撃は来なかった。
恐る恐る悠馬は盾から顔を出す。そこには座りこんだベアマナークがいた。
そこでベアマナークが一声なく。
「また、戦ってくれ。気に入った」
「学者スキル万歳」
悠馬の学者は動物にも及ぶ。そしてまさかの展開に悠馬は混乱する。
「ちょっといい? 今とどめさしていい?」
「いいぞ。だが願わくば体力を回復してからにしてほしい」
「あ、そうですかじゃあ今日は俺の勝ちね」
「すまぬ」
「あ、そうだ。毛少し頂戴。素材がほしい」
「ふむ。いいぞ。……ん? そうだおぬし武器など作れるか。一度使ってみたくてのう」
「やれば出来る子。だから出来る。それが俺」
「じゃあ今度は素材とやらを集めておくか」
「了解」
悠馬はベアマナークに毛を分けてもらいながら、絶対に作れるようにしとこうと固く決心する。
「じゃあの」
「ばいばい」
手を振りながら熊を見送る。帰る途中で死ぬかもしれないと思ったがほうっておく。
今日はもうあと少しで日が落ちる。悠馬はウッドハントの樹皮を敷き、ベアマナークの毛を抱きしめ寝ることにした。
「『虫除け』『すごい結界』」
こうして悠馬は眠りについた。