一話 やってきました異世界に
夜に小腹がすきコンビニに何か買いに行こうとした高校生、神田悠馬は今この状況を飲み込めないでいた。なぜなら靴を履き玄関の戸を開くとそこは森の中だったからだ。悠馬がすんでいたのはマンションの五階。田舎の森と隣り合わせの場所に住んでいたわけではないしそもそも高度が違う。
「なぜに森」
こうつぶやいたところで何の意味もない。悠馬は自分の目がおかしくなったのかと疑い、目をゆっくりと閉じゆっくりと開く。だが目の前の光景が変わることはない。ならば夢を見ているのか? と一種のお約束のように頬をつねるがやはり景色は変わらない。
そして気がつくと握っていたはずのドアノブさえ消えており、振り返るとそこも森になっていた。
「あれ? ほんとここどこよ」
悠馬のつぶやきに答えるものはいない。一応出かけるために着替えたがそれもコンビニまでなので下はジャージ、上はパーカーという今、持ってるものは財布に携帯のみというこの状況では心もとないものばかりだ。
悠馬は辺りを捜索しだす。このまま突っ立っていても意味がないと判断したからだ。そうして一つの事実に気がつく。
周りに生えている木がおかしいのだ。悠馬が見たことのある木は動いたりなんかしない。触れようとするとピクッとなる気など見たことも聞いたこともないのだ。草だったらオジギソウというのを知っているがどう見ても動きの早さがその比ではない。
興味をもった悠馬はその木に抱きついてみようと腕を広げた。触ろうとしただけで反応するのだ。抱きつけばどうなるかとても興味を引いたのだ。
だが伸ばした手は樹皮に触れることはかなわなかった。枝が伸び悠馬の腰に巻きついたのだ。
「おお、すげえ捕獲された」
好奇心の強い悠馬は危機感を抱くところか歓喜の声を上げる。
だがそこで枝の動きは止まらない。そのまま思いっきり円を描くように木の上で悠馬を振り回し直後頭から地面へと一気に叩きつけようとしたのだ。これにはさすがに悲鳴を上げる。
そしてその悲鳴は誰にも届くことなく、悠馬は頭から地面に埋まることとなった。
だがなぜか悠馬の意識は途絶えることはなかった。頭から地面にめり込んでいるのである。普通なら即死だ。変わりに悠馬の脳裏には何かのゲージらしきものが出現し緑色の部分が減って行く。それが何かはわからないが生きていることには変わりない。腰に巻きついた枝は悠馬を叩きつけた後、解けた。なので両手を地面に付け頭を引っこ抜く。頭を振って土を落とし、木のほうを向くと抱きつこうとした前と変わらぬ姿でそこにあった。きっと自衛したんだろうと悠馬は無理やり自分を納得させる。
ふとそこで気がつく。自分の足元に落ちている紙束に。
「風で飛んできそうだな。放置すべきか読むべきかそれが問題だ」
そうバカなことを言いつつ紙束を手に取り呼んで行く。書いてある文字は見たことのない文字だったが別に読めなくもない。そう感覚で読めるのだ。
「やっべ、俺天才」
とりあえず悠馬は自分を褒めておく。自分は褒められて伸びるのだと言いながら最後まで読み進んだ。
書いてあったことは君はこの世界に紛れ込んできた。どうやってきたのかは知らないが一応説明しておくとのことだ。
こっちだって知らねーよと悠馬がつぶやく。
ここはLVがあって能力値があって神様がいる。個人の技能、スキルもあるよ。あとはそれを見れるカードがある、それは見ようと念じればみれるから。
まとめるとこうだ。
悠馬はきっと神隠しにあったのだと自分に言い聞かせ、とりあえずカードよ出てこいと念じてみる。
――
レベル 15
職業 学者
スキル 器用 学者
――
たったこれだけか。これが悠馬の感想だ。職業が学者になっているのはきっと高校生だったからだろう。スキルの学者、これのおかげでたぶん文字が読めているのだ。器用はよくわからない。
「日本人として器用はうれしいかな」
よくわからなくてもうれしいのだ。
そうしていると紙束がいきなり炎となって燃え上がる。役目を果たしたからだろう。
だが結局カードのことがわかってもここがどこだかわからない。悠馬はそのことに気がつき落胆するが、元々好奇心が強いのだカードを調べることを始め次第に周りのことがどうでもよくなっていった。