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アルバスト伝説 ~双騎士~  作者: 天剣
第一章 マナリア・クロス
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第一話

少し前から思っていたことなんですけど、タイトル考えるのがめんどくさくなってきました……(汗

マナリア・クロスの警備騎士であるラルフ・ジドーは、大欠伸を噛ましながら、いかにも不真面目な様子で門の前に突っ立っていた。時折、隣にいる年嵩の相棒から非難の視線が向けられるが、それを無視してのんびりとある少年が来るのを待っていた。


警備騎士というのは、魔物や魔獣と戦うことが出来る騎士の中でも、志願兵によって組織された団体である。そのため、騎士としての実力は総じて高くはなく、それはラルフも同様であった。


門に寄りかかり、腕を組んで街を行き交う人々を退屈そうな目つきで眺めつつも、任務には忠実であるーーはずである。だが、人を見る目は確かなようで、マナリアに入ってくる犯罪者の摘発数は彼が一番高い。色々と謎の多い人物である。


志願兵からなるというのに、その体つきは均整ながらもよく鍛えられたものであり、表情は常に穏やかなものだが、醸し出す気配はとても一般市民のそれとは離れていた。隣の相棒は、ラルフと組むたびに、彼が過去に何をしていたのかがすごく気になる。事実、気になるのは自分だけではないらしく、同じ警備騎士達の中でも話題になっている。


だが、とても普段の様子からは任務に忠実であるとは言いづらかった。先ほどの不真面目な様子や、門を行き交う人々、特に目目麗しい女性達が通るたびに、ほぼ必ずといって良いほど声をかけている事からも、それがうかがえる。


「いや~、そこの綺麗なお姉さん。観光ですか?」


「え? ま、まぁそうね。マナリアには色々と特産品があるから、それを探しに」


偶然彼の近くを通った女性ーー当然、彼と同じく二十歳ぐらいの美人であるーーに、穏やかな表情と声音で問いかける。すると、その女性はやや戸惑った感じだったが、すぐに微笑を浮かべて頷き返す。すると、ラルフはいや~、と真紅の髪の毛をかき上げながら、


「お探し物ですか。きっとあなたならすぐ見つかるでしょう。ーー運命の人と共にね」


「あら」


最後の一言を耳元で小さく、そして低い声音でぼそりと呟くと、まんざらでもないのか、女性も嬉しそうに微笑んでいる。クスクスと上品に口元を覆い、頬をやや赤らめている。ーー隣にいる相棒は、またか、とげんなりした顔つきだ。そんな彼を無視して、二人は会話を続ける。


「ふふ、お口がお上手ね」


「いえいえ、それほどでも。どうです、後で私と共に綺麗な夜の夜景でも」


にこやかに差し出される手を見て、女性もにっこりと笑みを浮かべてその手を取ろうとした。だが、彼女が掴むよりも先に背後から声がかかった。


「それじゃ今は、俺と一緒に仕事の話でもしようじゃないか、不良警備員」


「げ……」


その声に聞き覚えがあるのか、ラルフは心底嫌な表情を浮かべてそちらを見やる。


簡素な黒いズボンに、同色のシャツとブーツ。シャツの上からは黒い鎖で編まれた鎖帷子。さらにその上からは袖無しの白いコートを着用している。二の腕まである黒い長手袋を付けた両腕を組み、その表情は不機嫌だった。


このあたりでは大変珍しい銀色の髪の下にある目も、いかにも不機嫌そうに細められている。見覚えのあるーーありすぎるその人物を一目見て、ラルフは表情を引きつらせた。


「よ、ようジーク。お疲れ」


「ああ、お疲れさん。俺が迷宮で忙しく働いているというのに、お前はここでのんきに軟派か。さぞかし忙しいんでしょうな~」


ジークの皮肉たっぷりの言葉に、ラルフはますます頬を引きつらせる。彼が軟派していた女性は、不穏な空気を感じ取ったのか、「あ、そ、そういえば用事があるんだったわ」などと言ってそそくさと門をくぐってしまった。それを目で追い、未練たらしく手を伸ばしかけたが、あっさりと街の中に入ってしまったので、代わりにジークの方を睨み付けた。


「お前、もう少し空気を読んでくれよっ! 何で今来るんだよっ!」


「理不尽なヤツ……。ラルフ、お前の仕事はなんだ? ここで軟派することか?」


「い、いや……」


ジークのもっともな言葉に、返答に詰まるラルフ。口ごもりながら視線を背けるが、やがて焦ったように露骨に話題を変えてきた。


「そ、それよりだ、ジーク。頼んでおいた依頼はどうだった」


「…………」


あまりにも露骨すぎたためか、彼は不思議な物を見る胡散臭そうな表情でしばらく彼のことを見ていたが、やがて諦めたように吐息を漏らすと、渋々口を開いた。


「見つけたマターは8個、それなりに大漁だよ。……やっぱし未踏破迷宮は儲かるね」


「その代わりむちゃくちゃ危険だがな」


何でもないような気安さで二人は会話を交わしているが、隣で聞いていた相棒はその内容に思わず驚きの声を漏らしそうになる。


マターというのは、騎士ならば必ず一つは所持している物である。遙か昔、それこそ誰の記憶にも残らないほど遠い過去に造られた、魔物や魔獣に対抗できるただ一つの力である。握り拳一つ分ぐらいの大きさの、玉のような形をしており、マターと同調シンクロ出来れば、その者には対抗できる力が与えられるのだ。


今となってはもう製造法がわからなくなってしまったので、数が限られている。そして何故か、マターは迷宮ーーそれこそ未踏破という誰も足を踏み入れたことのない迷宮に数多く出るのだ。だが、未踏破、つまり情報が何もない迷宮に潜れば、自然と致死率が高まる。一人ならなおのことである。


ジークやラルフもマターを持っている。だが、ジークはともかく、ラルフと相棒はーーいや、警備騎士は本当の意味では持っていないに等しいのだ。


警備騎士は志願者によって組織されるため、人材の入れ替わりが多い。そのため、何回も所有者(シンクロ者)が入れ替わると、マターも消耗してしまう。それを防ぐために、マターとは同調せず、ただ所有するだけにしているのだ。


持つだけでも騎士としての力を得ることが出来るが、やはりシンクロしていない分、その力は大きく減少してしまっている。だからこそ、警備騎士は騎士の中で最下級なのだ。


「ま、8個もありゃ十分だろ。これは駄賃だ」


「お、太っ腹じゃねぇか」


十分どころか十分すぎる量のマターを受け取り、ラルフは懐から硬貨が詰まった大きめの袋を彼に手渡す。ジークはそれを受け取ると、光に包まれ、一瞬のうちに消えてしまった。手品のような一瞬だったが、誰も驚かない。マターの中に収納されたのだ。


「だいぶ懐が暖かくなったな」


「なら、それで今夜はパーとやるかっ!」


「やらねぇよ。大体何で俺の金でパーとやるんだよ」


渋い顔でラルフの申し出を断ると、彼はありゃりゃ、と言うような表情で応じる。ん~と唸りながら、残念そうに呟いた。


「それは残念。またの機会にしておくか」


「……そうだな。またの機会に、な」


顎に手をやって唸るラルフに、少々寂しげな表情でジークは呟いた。その一言を聞いて、まるで真昼に幽霊でも見たような、言いがたい顔つきで驚く。その視線に気づいたのだろう、ジークは不愉快そうに眉根を潜める。


「な、何だよ……」


「いや、まさかお前がそんなことを言うなんてな。付き合いのワリィお前が、どういう風の吹き回しだ?」


「別に何も……」


答えてからハッとしてラルフの方を見やる。彼は、ジークの言葉に訝しげるように首を曲げていた。


「そういえばお前、この頃妙に金稼いでいるよな……」


「そ、それがどうかしたか?」


一歩近づいてくるラルフから逃げるように後ずさるが、開けた距離を詰めるようにしてずいっと迫ってくる。妙に真剣な眼差しをしている事に気づき、ジークは内心ぼやく。


(……気付かれたか?)


「そうか……わかったぞっ!」


まるで内心の呟きを読み取ったようなドンピシャリのタイミングで、ラルフが大きく叫ぶ。それにジークはびくりと肩を振るわせ、頬が引きつるのを自覚する。


ーーまさか。そう思うこと数秒、ラルフがジークの胸ぐらを掴み、彼の顔を間近で睨み付けると、激しく歯ぎしりしながら喉の奥で怒り狂った肉食獣のようなうなり声を上げた。


「てめぇ……女が出来たなっ!」


何故にそう予想のはるか斜め上を行くっ!? むしろ斜めすぎて真上に行っているぞっ!!


流石の彼の言葉に、内心でそうツッコミながらも、口に出すことが出来ない。それほど驚愕して、思わず頬が引きつる。


「言え、どこの女だっ!? 娼婦か、それとも良いとこのお嬢さんかっ!? 良いか、お前のためを思って言っておくっ! 大金をせびるような女とは何があっても付き合うなっ! ただ単に金を巻き上げられるだけだぞっ!!」


「……めちゃくちゃ的外れな忠告ありがとさん。残念ながらこのところ女っ気は全くないよ」


思っていたこととは違うことを考えていたらしい。そのことにほっと息を吐くも、すぐにラルフのことを睨み付けて思ったことを口にする。


「それに後半部分が具体的だけど……ひょっとして実体験?」


「ばっ……! な、何を言うっ! あれは彼女にプレゼントしていただけで、断じて巻き上げられていたわけじゃないっ!」


……巻き上げられたのか。


やんわりと、可愛そうな物を見る生暖かな目つきで、ぽんと彼の肩を叩いてやった。隣で聞いていた年嵩の警備騎士も同様であった。二人に慰められるようにして肩に手を置かれた彼は、見苦しいほどに狼狽していたが、やがてうつむいて嗚咽の声を上げ始める。


「うっうう……。俺も、若かったんだ……」


十分若いだろ、まだ二十歳なんだから。というツッコミは置いておいて、どうやらラルフは早熟していたらしい。まぁ、若干プレイボーイな気もあるし、納得の出来ることなのだが。


とりあえずもう付き合いきれないので、彼のことは年嵩の相棒に任せることにして自分はさっさとマナリアの街へ入っていくことにする。


相棒に手を上げて挨拶、すると彼もしわが刻まれ始めた顔にやや笑みを浮かべて返してくれた。気分をよくして、ジークはさっそうと街の中へ戻っていった。




「ふう、泣いたらすっきりした」


「はやっ!?」


しばらくの間は復活できそうにないほど泣いていたのだが、何故かラルフは驚愕するような早さで泣き止み、すくっといつも通りに戻っていた。もしその目が、赤く充血していなかったら嘘泣きだと思っただろう。


一歩後ずさって怯む年嵩の騎士に、彼はにやっと笑って見せ、そのまま手を振ってみせる。


「ありがとな、とっつぁん」


「は、はは……まあ、いつも通りで結構」


持ち場に戻る彼に後ろ姿に、曖昧に笑みを浮かべる。面白いヤツなのだが、どことなく奇妙で、のらりくらりとしている。しかし、それでも頼りになることには間違いない。このような門の警備でも、そして魔物の討伐の時も。


「そういえば、一つ聞きたいことがあるのだが」


魔物のことを思うなり、聞き忘れていたことを思い出してラルフに聞いてみた。彼は、髪と同色の真紅の瞳をぱちりと片方つむり、


「なんすか?」


「あのジークという少年、何者なのだ?」


相方の質問に、思わず眉をひそめる。


「……えっと……一体、どういう事で?」


「いや、少し不思議に思ってな」


年嵩の騎士はやや苦笑じみた物を浮かべた。


「ジークという名の騎士は、王国騎士では聞かない名だ。そして何より、あの出で立ちはどちらかというと傭兵騎士だろ? 未踏破迷宮からマターを八つばかり回収できた事から、かなりの手練れだと思うのだが、そんなヤツが何で今まで目立っていない?」


「あー、確かにそうだな……」


彼の疑問に、ラルフも思案顔だ。確かに、ジークの実力を間近で見たことがあるし、今日みたいな、普通の騎士ーー王国騎士の連中でも表情を引きつらせる未踏破迷宮からのマター回収も、難なくこなしていた。これだけ出来れば、傭兵の中でも名の通った人物なのだろうと思っているのだが、残念ながら、傭兵達にジークの名を尋ねても大半が知らないと言うだろう。


つまり彼は無名、二つ名はないのだろう。比喩でも何でもなく、どう考えても、二つ名があっても不思議ではない強さを持った騎士。


「……きっと、アイツは成長中なんだろうぜ」


呟いた一言に、相方も興味深く耳を傾ける。そんな彼に、全部自分の考えだけど、と伝えて、


「アイツはたぶん、これからもっと強くなるだろうぜ。そん時に、勝手に二つ名がつくだろう」


有名な騎士ーーそれこそ、聖騎士や剣聖、今は亡き双騎士など、彼等の二つ名は後から勝手についてきた物である。二つ名なんて物は、強くなる、という道を進めば勝手についてくる物。かつての強者は、そう断言した。格好いいと思うが、関係ないので置いておくが。


「そんな期待値大の、若かりし頃を見れて、何か得した気分じゃないすか?」


にやり、と笑みを浮かべて言う彼に、相方もその考えを咀嚼して、やがてにこやかな笑みで頷いた。

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