プロローグ
どうも、天剣と申す者です。
新作への意欲が高まりすぎて、もう押さえられないので、作っちゃいました(えへ
……ごめんなさい、石投げないで(汗
うん、可愛くないのはわかってますから(笑
と、戯れ言(?)は置いといて、少々物語の告知を。
一人の少年を中心にして巻き起こる物語、どうぞご覧あれっ!
振り落ちて来る槍の穂先を、少年の持つ剣が弾く。
まだ十五、六くらいの少年だが、その目つきの悪さから、一、二歳ほど上に見られることも珍しくない。
一方、少年と対峙する相手も、目つきの悪さ加減では良い勝負である。ーーだが、人間ではない。上半身は人の形をしており、その手には槍が握られている。ここまでは良いのだが、問題は下半身であった。
人ならば本来あるはずの二本の足が、ない。かわりに、蛇のような長い胴があり、それが先に行くほど細くなっている。人と蛇、二つを足して割ったように見える。しかし、実際には人が一、蛇が三という割合が正しいかもしれない。
何せ、人の形をした上半身は、毛が一本もなく、かわりに鱗がくまなく覆っていたのだ。目も瞳孔は見当たらず、眼球そのものが紅い。
その紅き眼光は、今は目の前にいる少年を警戒するかのように細められていて、時折その口からはチロリと細長い赤い舌が見え隠れしている。
対する少年は、全く警戒するそぶりも見せず、だらりと剣を下げるーーとは流石にならない。むしろその逆で、片手に剣を持ち、いつでも反応できるように一時も相手から目を逸らさない。
語りべの中で歌われる英雄達のように、少年は自らの実力に幻想を抱いてはいないのだ。
「全く、依頼が終わったと思った途端これか。流石、呪われた迷宮」
言葉は軽いが、口調は重い。それもそのはず、目の前にいるこの蛇男ーー名をカリプスという化け物は、この迷宮の中ではおそらく一番強い。決して油断できない相手なのである。
ちらり、と隙を見て後ろの出口に目を向けた。ここからでは少々距離があるためか、外に繋がるそこは光りに包まれている。
目の前の魔物であるカリプスは、自らの縄張りに入ってきた獲物を安々と逃がすことはない。一度目をつけられたら根気強く追ってくるが、無論、限度という物があり、あそこに見える出口を超えて迷宮を出れば、その限度を超えた事になり、おそらく追ってくることはないだろう。
大抵、迷宮に巣くう魔物は、その迷宮内でしか生きられない。何でも、その迷宮内にある特殊な空気が必要なのだそうだ。この空気が、人体には無害なのが幸いか。
しかしそのためか、迷宮外に出る魔物と比較すると、その強さは格段に違う。
「シャーー!」
「って、待ってくれ!?」
出口に気を向けていた事を見抜いたのか、カリプスは見た目通りの蛇みたいな鳴き声をあげると、地面を滑るような動作で素早く距離を詰めてくる。振り上げた槍が、仄かに赤き光を纏って襲い掛かる。
「っ!」
自分に向かって振り下ろされ、赤い軌跡を宙に刻む穂先をじっと見つめ、少年は意識を、右手に握る剣に集中させる。
次の瞬間、彼が持つ愛剣の刀身が青い光に包まれた。光に包まれたままの剣を、振り下ろされる槍に打ち付け、弾く。
光を纏い、重いはずの槍の一撃をあっさりと弾くなり、少年は滑り込むような滑らかな動作で、相手の間合いの内側に入り込む。
滑り込んだ勢いを殺さぬまま、光に包まれた剣を横なぎに振るう。が、それを妨害するかの如く、カリプスの長いしっぽが鞭のようにしなり、少年を襲いかかる。
「遅いっ」
しかし、少年はその動きに反応して見せた。横なぎの剣のベクトルを袈裟気味に変え、カリプスのしっぽ目掛け振るう。ねらい通り刀身がしっぽに突き刺さり、そこで停止した。
「キシャーーー!!?」
途端、思わず耳を塞ぎたくなるような奇声を上げ、カリプスが怯む。しっぽに走った痛みが、目の前にいる少年が危険な存在ということを告げている。自らの命を脅かす存在。目の前の少年をそう認識したカリプスは、素早い動きで彼との距離をとり、槍を両手で持ち、穂先を向けた。
鈍く光るそれを向け、先ほどの赤き光が穂先の先端に集まり出す。その光方と構えから、こちらに向かって突進してくると言うことを漠然と悟った少年が動き出した。
「させるかよっ!」
カリプスが開けた距離を詰めようと、少年は大きく一歩を踏み出し、右手の剣を下からすくい上げるように振るい、相手の胴を縦に切り裂いた。完全に分断するには至らなかったものの、それなりに深く斬りつけたようで、カリプスの体から緑色の体液が噴水のように吹き出す。
「ギギギィィ!!」
かなり痛いのか、くぐもった悲鳴を上げながら大きくのけぞる相手を前に、少年は顔をゆがめた。たとえ魔物とはいえ、命を奪うことに抵抗があるのだろう。だが、戦いに関してはそれは甘い考えである。故に、彼はその思考を止め、ぐっと剣に意識を集中させる。
すると再び、刀身に青き輝きが宿り、上段から袈裟にかけて一気に振り下ろした。
細長い胴体を完全に真っ二つにし蛇のような下半身と人の形をした上半身に分かれる。上半身に乗っかっていた顔が、こちらの方を怨ましげに見つめーーその両目から光が消えると同時に、下半身とともに地面に倒れた。
「……ふぅ」
少年はそれを見て、ようやく振り下ろした状態から残心をとき、ゆっくりと直立の状態へと戻っていく。数秒たつと、カリプスの体が黒く変色し、そのまま塵となって消えていく。
それを確認した後、未練なくこの場を立ち去ろうと、右手に握ったままの剣を背中の鞘に収め、歩き出す。外に出ると、お日様が傾いてきた所だった。昼をやや過ぎたぐらいだろう、と判断して後ろの迷宮へと目を向ける。
迷宮ーー地下へと続く洞窟の入り口は、怪しげな雰囲気を醸し出していた。冷気を感じるとともにわき上がる原始的な恐怖、それらを味わいながら少年は顔を背けた。
「よく生きていたよ、俺……」
微かに笑みを含む独り言に、少年は呆れたようにため息をついた。そう言うならば、危険なことなどしなければ良いのに、と思うが、彼の背中にある愛剣の重みがそれを妨げる。まぁ、そう簡単に死ぬ気はないしな、と剣をなだめるように柄に軽く触れる。
「さて、依頼の件は終わったし、さっさと戻るとするか~」
先ほどまでとは打って変わった、何でもないような軽い口調で彼は言う。しかし、口調とは裏腹に、迷宮から一刻でも離れたいのか、早足で拠点としている街へと進んでいく。
彼が拠点としている街、マナリア・クロス。そこへ足を向けるこの少年の名はーー。
ーージークーー