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雨上がり

作者:

長い割りに内容の薄いものになってしまいました。

今までのモノとはちょっと感じを変えてみたのですが・・・。

本でも読むか・・・。

ふと、そう思った。

今日は小雨が降り続いていて少し憂鬱な気分だった。

だからかふと最近欲しい本があったのを思い出したのかもしれない。

私の住んでいるこの町はとても小さく、そして店が無い。

だから本を買いに行くには隣町まで行かなくてはならない。

私は憂鬱な気分のまま服も着替えず、透明なビニール傘を片手に歩いて10分ほどのところにあるバス乗り場へ向かった。

髪は後ろで団子にして束ね、上はダークグリーンの長袖に、下は普通のジーパン。

片手にはビニール傘。ジーパンのポケットには小銭で膨らんだ財布。

なんともやる気の無い服装で出てきてしまったものだ。

まあ、誰にも会わないだろうからいいけど。

水溜りを飛び越えようとして少し失敗してしまった。

ジーパンの裾が冷たくなる。

「ちっ」

っと息を歯の隙間から漏らし、雨に打たれる家々の木々を眺める。

バス停までの道のりはあと半分だ。この通りを右に曲がって後は直進。

ふと雨を掌で受け止めながら明日は学校か・・・。と深くため息をついた。

学校は好きだけど別に誰も「行きたい!!」とは思わないだろう。

まあ、そんなもんだと思う。私は。

でも私は学校に行く。

行きたいと思ったりする。

それは友達との他愛無いお喋りがあるから。

打ち込んでる部活動を休みたくないから。

そして、好きな人が出来たから・・・。

傘を回しながらふっと微笑んだ。

そう、「好きな人」が出来たのだ。

今まで好きな人のことを嬉しそうにキャアキャア話す友達を呆れ顔で見ていたけど今では騒ぎたい気持ちも分かるようになってしまった。

秘密にしていたいけど・・・でも誰かに話したい・・・。

なんて、矛盾した思いが沸いてくるのだ。

お腹の下がムズムズして痛いような、かゆいような不思議な感じがして、好きな人を見かけてしかも目が合ったりなんかすると・・・もう心臓は息も絶え絶えになってしまう。

バス停に着き、傘を回して滴る雨水を振り落とす。

次のバスが来るまでもう2分程度だ。

私は傘を回しながら「彼」の事を思い出していた。

クラスメイトであり、今回の席変えで初めて隣になった黒澤 晴 (クロサワ セイ)。

何で好きになったかはよく分からない。

見た目は別にかっこよくも悪くもない。

楕円形の薄い黒ぶち眼鏡をかけていて、そこから覗く瞳はいつも真っ直ぐで強い感じを放っているのに、それでもどこか優しさが滲み出ている。そんな目が私はとっても気に入った。

真っ黒な髪は少し長めのスポーツ刈りにしていて、野球部の練習の時にはキャップ帽から少し髪が覗く程度だ。

身長は私よりも高い。

私も女子の中では2番目に高い172cmなのだが、晴は私より4cm高い176cmだ。

そこも又気に入っている。

うちのクラスで私より高い男子は晴以外にはあまりいなかったし、晴以外の男子とは別にそこまで仲良くなかったから、すれ違ったときに私の頭を軽く叩いていくという動作は晴しかできなかった。

晴と私はすぐに仲良くなった。

冗談を言い合い、笑った。

お互いの好きなCDを貸し借りしたり、好きな本も貸しあった。

そして・・・いつしか私にとって晴の存在が心地よいものになっていた。

晴の声。晴の目。晴の手。晴の仕草。

晴が私にしてくれる事一つ一つがくすぐったい。

晴の笑い声をずっと聞いていたいと思った。

排気ガスの臭いがしてバスが来たことに気付く。

すかっり水気の取れた傘を片手にバスに乗り込み、右側の列の後ろから2番目の席に座った。

バスが何人かの乗客をのせ、走り出しす。

私は少し揺られつつも、外の景色を眺めながら隣町までの20分を過ごしきった。

本屋まで50メートルほどの所にあるバス停に降り、傘を大きく開き本屋に急いだ。

雨の日ということもあってか今日は人通りも少ない。

水を乗せた傘を本屋の前の傘立てに突っ込み、本屋に入った。

真っ直ぐに新刊の置いてあるコーナーに足を向ける。

積み上げられた本達をゆっくりと眺め、斜め左下に欲しかった本を見つけた。

本を掴み、他にも面白そうな本が無いものかと棚の方に向かい、目を凝らした。

「ど〜も、こんにちは〜。」

どこからとも無く聞こえた、いかにもやる気のない声に私は飛び上がった。

振り向くとすぐ後ろに顔のにやけた晴が居た。

「お前、驚きすぎだろ。」

くっくっとのどの奥で笑い、私の頭を軽くポンポンと叩く。

「ほんとにビックリしたんだよ!」

私はそう言って晴の腕を軽く叩いた。

晴は今度はハハッと小さく笑って私の隣に立った。

心臓、ヤバイ・・・。

なんでこんな所で会うのよ・・・。

隣町の本屋だよ?

ありえない・・・。

服、もうちょいまともなの着てくるんだった・・・。

しかも、私服で会うの初めて・・・。

なんか、普通にかっこいいし・・・。

むかつく・・・。

なにを話していいのやら、頭はフル回転しすぎて回りきってなかった。

「お前、本買いすぎじゃね?」

晴が私の手元を見つめながら言う。

「だって、すぐ読み終わっちゃうし。なかなか買いに来ないからさ。買いだめ。」

なんとか言葉を返し、晴の目をまともに見ることもっ出来ないまま本棚に急いで視線を戻した。

「へえ。お前そんな本、読めんのかよ?」

私が無意識のうちに本棚に伸ばした手の先にある本を見て晴が笑う。

私が取ろうとしていたのはいかにも難しそうな「シンリガク」の本だった。

慌ててその本をとり

「いいじゃん!」

とぶっきらぼうに返してしまった。

読む気なんてサラサラ無いけど・・・。

ああ、もう慌てすぎてかっこ悪い。

晴がまたくっくと笑い

「じゃあ、読み終わったら感想聞かせろよ。」

とかなんとか。

完全に馬鹿にされてる・・・。

微かなむかつきを押さえ、深呼吸。

何も言わずにまた本棚に視線を戻す。

今度は晴も真面目に本を探しているよう。

こっそり晴を盗み見た。

私の横に立って本棚の上の方を見ている。いつもの眼鏡に、なんか少し英語が書いてある長袖のシャツ。

下はジーパン。

クスッと笑ってしまった。

よくよく見ると晴もやる気ない服じゃん。

なんか服の趣味まで似てんのってどうなの?

自分で思ってから又笑ってしまった。

晴がさすがに今回は私が笑っているのに気付いたらしく不思議そうに私を見た。

「なに?なんで笑ってんの?」

きょとんとした晴の顔を見て思わず吹き出してしまった。

「なんだよ!!何がおかしいんだよ!!」

私は晴の顔を見てまた笑い出しそうなのをぐっと堪え

「別に・・・!」

と必死に答えた。

晴はちょっと膨れた顔で私を見る。

さっきまでドキドキしてたのに、今はもう大丈夫。

やっぱりドキドキしてるけど、なんだかそれすらも心地よい。

晴の隣にいるのが嬉しい。

晴の全てが私を包んでく。

晴といる時間が愛しい。

「好き」

って言いたい。

叫んでみたい。

もっと一緒にいたい。

ふと本棚に視線を戻すと白いカバーに薄い水色で題名の書かれた本が目に入った。

手を伸ばす。

晴がそれに気付いて

「お前、恋愛小説なんか読むのかよ。」

と茶化してきた。

私はサラッと

「まあ、好きな人もいるしね。」

と返してやった。

晴の顔が驚きに染まっていく。

「晴には秘密だけどね。」

心臓は爆発寸前だ。

言ってしまってからなんで言ったんだと自問自答する。

晴が

「っち。誰だよ。」

と呟いた。

「教えてあげようか?」

ここまできたらもう引き返せない。

自分で自分を追い込んでどうする・・・。

心の中では焦りまくってるのに口だけは淡々と動く。

晴が私を見る。

なんともいえない表情が浮かんでいた。

「誰かって言うと・・・」

「いい!!言わなくていい!!」

私が言おうとすると晴がそれを遮ってしまった。

びっくりして見ると晴は息を乱してこう言った。

「言わなくていい。ってか言わんで。俺が言うから。・・・。」

そう言うと晴は深呼吸して

「好きだ。」

真っ赤になってそう言った。

「・・・誰を?」

何で真っ赤になってんのよ?

意味わかんない!

「−−−っだから!!俺が、榎菜を!!好きだっつてんの!!」

今度はこっちが真っ赤になる番だった。

俯いて・・・耳まで赤くなっていくのが分かる。

「あの・・・さ。私の好きな人は・・・うちのクラスで唯一私の頭を叩ける人・・・。」

晴がパッと顔を上げたのが分かった。

「それって、俺のこと・・・?」

一気に顔が熱くなる。

「ああ、もう嫌!言うんじゃなかった!!」

晴が満面の笑みを浮かべてこう言った。

「はっきり言って欲しいんだけどな・・・。」

私が顔を上げると晴がにやついていた。

「分かってるくせに!!」

「わかんねえよ。俺。」

くっ。何て奴だ!!!

かすれる声で搾り出した。

「・・・好きです。」

「えっ?何て?聞こえねえよ。」

ここまでくるとむかついてきた。

「好きだってば!!」

大声で言ってやった。

店にいた数少ないお客さんと店員の驚いた目が私達に向けられた。

どこからかヒュウ♪と口笛を吹くのが聞こえた。

恥ずかしすぎる!

「ああ、もう!最悪!!」

と、溢すと

「ああ、最高だよ。」

と晴が言った。

「何がよ!!」

と、くってかかると眩しいくらいの笑顔で

「お前!」

と言った。

私は思わず手に持っていた本をバサバサと落としてしまった。

「ーーっなんつー事を言って・・・!!」

晴はハハッと笑って私を引き寄せ、キスをした。




外は雨が上がり虹がかかっていた。



読んでいただき有難うございました。

どうでしたでしょうか?

出来ればご意見・ご感想いただけると嬉しいです。

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