09:優しい忘却
某:アニソンとサブタイが被ってることは沈黙して下さい…。
『お母ぁさ、ん?』
『大丈夫よ。皆で天国に行きましょう?』
嗚呼。行きましょう?
逝きましょう?
どっちでもいいけれど止めて。私は生きたい。
必死にもがく。命懸け。首に手をかけられて…。
私の家族は“無理心中”をしようとしてた。
まぁ、私以外公認してたけど。
『ねぇねぇ君さぁ。契約する気ない?』
ふと隣で聞こえてきた声。
くるりと後ろを振り向く余裕もなく。誰が話し掛けているのかも分からずに。
『…契約する…』
『なにをいっているの?樹』
どこか切羽詰まった母の声。
きっと一人でうわ言を呟き始めたとでも思ったのだろう。
『んじゃあ、君は何を願う?何をボクにくれる?』
声は聞いてくる。
なんだか頭の中に直接入り込んでくる。
ぐわん、ぐわん。反響して…。
『私はっ生きたい!』
首を絞められながら、息も絶え絶えに言う。
『で、何をボクにくれる?』
『あげるっ私をあげるっ…駄目?』
駄目かなぁ?
私なんてあげてもなぁ…。
『契約完了っと』
クス、顔も見えない彼が――嗤った気がした。
*
「ニンゲンは何でも忘れる…」
忌々しそうに彼はいう。
「うん。忘れてた…」
「何でもないことのように言うな…」
静かに告げられた声がなんだかとても、鋭く響いた。
「ごめんなさい…」
誤った私を一瞥すると、
「それより、追わなくていいの?」
くいっとドアのほうを顎でしゃくる。
む。としながらも、
「私は翼のものなんでしょう?だったら今この瞬間も私は全部、翼のもの…聲も血も瞳も骨も…全部」
「――そうかぁ、その心で“殺戮の堕天使”を堕としたの…」
私はその時耳当たりの髪の毛をいじくっていたので何を言われたのかはサッパリわからなかった。
でも“殺戮の堕天使”という単語だけは聞こえた。
「――…殺戮の堕天使」
「気になる?」
面白そうに笑いかける緋之宮。なんだかその態度が面白くなくて、しかも図書室も全然居心地がいいところではなかった事が分かったので無視し、調べていた本と崩れた制服を直して立ち上がる。
「む?どこに?」
「翼が一番綺麗に見える場所」
むふふ、我ながらいいネーミングだ。
「屋上か…」
造作もなく答えを暴く。
ええええっ!何故分かった?!
「誰でもわかる…」
むぅ。
「じゃ、あ、あとね君が喋れなくなったのは薬のせいで…いきなり喋れるようになったのは、君に残ってた堕天使の魔力のせい。……愛されてるね」
そう言った緋之宮の声は余りにも哀しかった。
「う、ん。そう、そうよ!私は愛されてるのっ」
いいでしょ?。と笑うと、
「うん。いいな」
――…と素直な答えが帰ってきた。満面の笑みで、無垢な素敵なそんな天使みたいな笑み。
「バーカ、何見とれてんだよ」
それは事実で。
「緋之宮月夜。私、アンタだけは嫌いになれない…かも?」
我ながらおかしなことを言っていると思った。
「――っ!!」
吃驚してる…。
新鮮だわ。
「じゃあ、ねっと…わわ!」
ドアに向かっていた緋之宮の脇を通り過ぎようとしたら、腕を捕まれバランスを崩して…抱きしめられてた。
恐怖が蘇る。
そんな私の心境を察したのか、察しなかったのか緋之宮は、とても掠れた声で、「もうちょっとだけ…このままで」と言った。それは魔法のように私の心を落ち着かせた。
「浮気になる…でも君弱ってるから…特別っ」
むぎゅ~っと抱きしめ返してあげた。
心の中でも外でも“特別”と言い訳しながら。
ふわっといい匂い。
若草の匂い。
好き、好き。
でもこれ以上は翼だけに許された時間。
だから私はそっ、と離れた。
私を抱きしめていた手は虚しく空をかいて落ちた。
諦めたように、
「月夜…俺の…名前」
と囁いて一歩、退く。
「ん。月夜…バイバイ」
少し軋むドアに手を掛け、一気に払う。
――キィ…ガララッ
た、っと助走をつけて今度こそ……!
そのまま、キキーッと急ブレーキ。そして勢いを殺さずに階段を駆け上がる。
愛しい人を思いだしながら。
--+月夜Side+--
嗚呼。行っちゃった。
君はとってもいい香りがした。ふわりとした黒髪に、少し低い声。
嗚呼。行かないで。“殺戮の堕天使”が持っている君の全てを奪って、優しく檻に閉じ込めたい。
嗚呼。君みたいなニンゲンが僕の側にいてくれたら…優しいその声で永遠に僕の名前を呼び続けてくれたら。
どんなに素敵だろう。
どんなに素敵だろう。
“殺戮の堕天使”から奪ったらそうなるかなぁ?
愉しみ、愉しみ。
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注)Mではないっす。決して…!