06:罰と倖
お楽しみあれっ!
06:罰を与えなきゃ
『翼、翼ぁっ!』
なんでそんなに名前を呼ぶの?意味が分からない。
気持ち悪い。
とろん、とした瞳で自分を見上げてくる。
つつーっ。と透明な液体が唇と唇を伝う。
『彩。』
軽くキスしながら名前を呼ぶと嬉しそうに笑いながら、言う。
『なぁに?翼』
あぁ、気持ち悪い。
自分の名前を呼ばれるのすら嫌だ。
『彩さぁ野々宮…だっけ?パーティーしてるでしょぉ』
『…?うん』
言いたい事がわからないと言うように首を傾げる。
『あれさぁ超ウザい…』
言葉をオブラートになんか包んでやらない。
俺はぐだぐだした会話が大っ嫌いだ。
『!?』
驚いたように瞳を見開く。
きっと自分が腐るほど言ってきたこの台詞を言われるとは思わなかったようだ。
『もう既成事実作ったし…ばらされたら困るでしょ?彩も。シ・タ・コ・ト?』
ニタァっと笑いながら言ってやる。
青ざめる彩。
『な、なんでそこまでしてっ』
理解出来ないでしょう?
樹。って呼んでみたい。
その綺麗な声で自分の名前を呼んで欲しい。
君の瞳に俺だけを入れていて欲しい。
『ん?君に教える義理はないなぁ』
と言いながら、“既成事実”を撮影した携帯を振って見せる。そこには見たらPTAが怒り狂う様な光景が記録されている事だろう。
理事長の娘がこんなコトをしていたとばれたら…。
あはは。
考えただけで面白い。
『と、いうことで…パーティーをやめる、のが条件ね?いい子で守ってたらご褒美…あげないけどね?』
じゃあね~と手を振りながら部屋のドアをあける。
『俺にはこれくらいしか出来ないよ、ごめんね』
と言う声が微かに響いた。
*
「で…?」
気が付くと空は暗くなりはじめ、寒々とした風が突風に変わっていた。
「だから……」
神崎が言いよどむ。
何。と聞こうとした瞬間。
―――ザァァ
一段と強い風が吹いた。
「ひゃっ!」
色気一つない悲鳴(?)を上げながら、風のせいで出てきた涙を拭おうとしたら、
「大丈夫!?」
と、過剰に反応された。
「わわっ!なぜに驚く!逆にこっちが聞きたいっ!」
やや驚きながら答えると、
「これが…言いたかったコト」
と言いながら近づいてきた。
「?」
つい首をかしげる。
「その日さぁ…」
いきなり脈絡もなく話し出されて私の単細胞はパニック状態です。
でもなんとか何を言っているか(彩に【既成事実】をした日のことのようです)わかって、
「うん」
短く相槌を打つ。
「樹…泣いてた…いつも無表情バッチリ氷のプリンセスなのに…」
「はい?」
「覚えてない?あの日…校庭の隅っこで泣いてたの…」
「のぞいたの?悪趣味…」
恥ずかしまぎれに言ってみる。まさかあれを見られていたとは!
恥ずかしい。穴があったら入りたいとはこのことだ。
「まぁ吃驚したわけ」
うわ。華麗に無視したよ。この人。
「でも同時に可愛くもあったんだ。いつもとのギャップとか…あ、なんか恥ずかしいね…」
にへへ。と笑って言う。
とたんに顔が赤くなるのがわかる。
「こっちだって…恥ずかしいわ」
「で。俺のこと好きになってくれた?」
「どうかしら?」
正直なのは心。
心は“大好き”といっている。
沈黙。
「っっっ好きよっ大好きぃっ!」
沈黙に耐え切れずいう。
でもやっぱり恥かしい。だから神崎…ううん。翼の胸に飛び込んでやる。
「っ!」
びっくりしながらも抱きしめてくれた。
泣きそうだったことは言わない。
ちょっとくっつけんの早くない?というのはスルーの方針で…