05:君がいた…
●神崎 翼の過去編はあと1つか2つで終了です●
05:君がいた
俺の隣にはいつも違う女がいた。 いろんな女を試した。けれどダメだった。君の泣き顔が忘れられなかった……。
*
「ねぇ翼…しよ?」
気持ち悪い艶のある声で誘う女共。ときどくその眼球を引っ張り出してズタズタにしてやりたくなる。でも君を見つけるまでは我慢しようって思ってたから。
「ん?やーだ」
と適当にあしらっておいた。だってキスしても性行為をしてもだんだん虚しくなるだけだった。でも君に会うまで死ねないから。だから俺の存在意義は君。君について話そうと思う。
君はとても寂しい人で哀しい人で、でも誰にも癒されたくない傷が合った。
―――あぁ、きっと私のコトを言ってるんだ。と神崎の話に出てくる“君”は私なんだと…
俺が君にこんなにも依存してるのはある意味可笑しいことだった。だって1年の時同じクラスだったから…。
君と俺は反対だから。
虐められてた君とクラスの中心にいた俺とは話も出来ないほど遠かった。
*
放課後開始のベルがなり皆帰り支度を始める。
『クソ宮ウザくない?』
『わかるーなんかKYだよねー』『じゃあイジメちゃう???』
『さんせ~い』
『キャハハハ!!』
クラス中に響き渡る声。
勿論、本人である野々宮は端正に整った眉をぴくりとも動かさずページをめくった。
『ちょ!?聞こえなかったのー?もしかして耳、遠い??』
『ウケルぅ~』
何の反応もしない野々宮を見ていよいよ本気になってきた女生徒達は、
『あんたそんな涼しい顔してられるのも今のうちだよっ!!』
と言って帰っていった。それでも野々宮 樹はどんな行為もしなかった。助けないクラスメイトを睨む訳でもなく、ただ本を読んでいた。
次の日。
――ぺた、ぺた
『でさーーって!!』
楽しげに会話をしていたクラスメイトは登校してきた野々宮の姿を見て驚愕した。
――…ぴちゃ、ぴちゃ
野々宮は全身から異臭を漂わせて扉に立っていた。
『ちょっと…野々……』
野々宮に事情を聞こうとした一人の女生徒の声は、野々宮とは違う扉から入ってきた者たちの声で遮られた。
『これからーコイツと喋ったやつはーどうなるかぁ分かってるよね?』
クスクス笑いながら言う。
『……』
どうしようもない。
クラスメイト達は申し合わせた様に押し黙った。
これが普通のパーティーならよかったのだろう。
しかしこのパーティーの主催者は学校の理事長の娘。
加倉井 彩。
コイツに逆らったら最後まともな進学は出来ない、どころか酷いときには退学という手段で口を封じられる。
『なぁに?皆、遊んでいいのよ?いつもの憂さを晴らすための“パーティー”なんだから。ね?』
殴るも良し。
切るも良し。
上辺だけの笑顔で相手の心を残虐に殺すこのことを彼女は“パーティー”と呼んでいた。
『やらないの?しょうがないなぁ…千鶴…』
彼女は呆れたようにため息をつくと側に居た茶髪の少女を見た。千鶴と呼ばれた少女はコクリと一つ頷きながら野々宮の方に近づいていく。
気がつくと野々宮はびしょ濡れになりながらも席に付いていた。千鶴が目の前に立ってもまるで居ないかのように本を読んでいた。
『失礼。』
千鶴は一言呟くと鮮やかな手つきで野々宮が読んでいた本を取り上げて引き裂いた。
――シャッビリビリ
耳障りな音が辺りに響く。
クラスメイト達は呆然とその光景を眺めていた。
『あら?もうすぐH.Lが始まるから皆席に付いたほうがいいんじゃなぁい?』
手で口元を覆いながら笑う。
その日から野々宮 樹に対するクラスメイトの態度は…言うまでもなく悪化した。
*
「で?」
そういえばそんなことも在ったなぁと思いながら私は神崎の話を聞いていたけれど、それがなぜ神崎と関係あるのかわからなかったので聞いた。
すると…神崎はニタァと笑って
「潰した」
と一言呟いた。
「…え?」
ツブシタ?
「うん。相手のあのー彩だっけ?あの女…潰した…でごめんね。勝手に…」
心底申し訳なそうに校門を出た道を歩きながら話した。