04:君を好きになったわけ~in the distant past~
04:君を好きになったわけ~in the distant past~
『い、樹?大丈夫よ。皆で天国に行きましょう?大丈夫。怖くないわ』
『……っ!』
なんでお母さんは震えているの?
なんで私の首に手をかけているの?
ねぇ。なんで……?
壊れていたの…かな?
*
「おーい?ののっち?」
「ん……っ!」
瞳を開けると神崎の顔。
神崎は心配そうに私の顔を見下ろしている。神崎に見下ろされるなんて屈辱だ!
でも今は状況確認から。
今一番気になること。
それは、
「緋之宮は?」
私が聞くと神崎はふて腐れた顔で、
「開口一番なんで他の男のコトぉ?」
と呟いたけれど私が黙ると、
「あわわっ!!!あのねっ緋之宮はね帰ったよ!あとねっ!!!ののっちがここにいる理由はねっ俺が突き落とされた後……」
あ。忘れてた。
こいつのコト突き落としたんだった。
じっとりと恨みのソースをかけて私に絡み付いてくる視線。
「あ、えっとー」
今度は、私が焦る番。
「俺…本気で嬉しかったのに…」
あ。ヤバい。これ本気だわ。
「ねぇ。つつぎし・て?」
悪戯っ子のように口角を上げて笑う。
「あ、あのねっ神、崎?」
「なぁに?……樹」
なった。なってしまった。
通称 サドモード。
いつもは(私にだけ)ヘタレな癖に……っ。
まぁ、これがあるから女子にモテるんだ。きっと。
私の前でヘタレになると幻滅する女子もいるのに……。
なのに辞めない。なぜ?
ま、まぁ。とにかく神崎が私のコトを名前で呼ぶときは《要注意》だ。今がそれ。
今は横たわっているので避けることすら出来ない。
「さわら、ないで」
「ぇ」
「触らないでっ!」
拒絶。
↓
隙が出来る。
早く緋之宮を探さなきゃっ!
でも少し演技じみてるかも???
「さらばっ」
と言いながら起き上がろうとした。でも
「なんで…泣いてるの」
なぜって。泣いてたから。
色素の薄い灰色の瞳からぽろぽろ透明な雫を零していた。
私が言うと神崎は吃驚したように目を見開いた。
それはまるで自分の行動に戸惑っているみたいだった。
「あ、あり?なんだろー」
ごしごしと目元を擦りながらアハハ。と力無く笑う神崎 翼は何だか小さくて、子供みたいで、誰かと重なって、緋之宮なんかどうでもよくなって。
「ごめんねっごめんねっ、だから泣かないでっ」
気づくと神崎の意外に硬くて大きい身体を抱きしめていた。
こんなふうにただ抱きしめてくれれば……。
あぁ。あの時謝ってくれ、とは言わないから。
私はここまで自分を憎む事は、なかったのに……。
『違うね。お前は罪を人に押し付けているだけだ』
(……っ!)
突然響く声に心臓が痛くなる。忘れられない、声。澄んだきれいな音。
(緋之宮っ!)
『お前……まぁいい、人生は甘くない、だろ?』
(……っ!)
『ははっ!!人間は面白いなぁ…じゃあな。野々宮 樹♪』
なんで、過去のコトを知っているの!?
「い、ッつき…?」
翼の言葉にハッとする。
「あ、とにかく…顔冷やしなよ。イケメンが台なしッ!」
笑い混じりに言うと、
「むぅ…ののっちに認めてもらえなきゃ意味ない」
とむくれた顔でいった。
「嘘」
どーせからかってるだけ。
そう思うとなんで悲しくなるのか。私にはさっぱりわからない。
「嘘…かぁ」
「ん?なんか言った?」
先程から吹き出した風の音で、神崎の声が掻き消された。
「な~んでもな~い」
軽い口調で断ち切る。
「そろそろ、かえろっか?」
軽く微笑んで手を差し延べてくれる。
神崎は他人の気持ちが分かる子だと私は思う。
だから余計に不思議。
クラスで一人孤立している私に同情した?
私は、か弱系を狙ってないぞ。だとしたらからかってるのか。そーかそーか。分かったから一発殴らせろ。と私が腕をゆらりと挙げようとした時。
「なんで俺が樹のこと好きになったか…聞きたくない?」
と私の鞄を手にもって自分はエナメルバックを肩に掛けながら問う。
「聞きたくない」
即答。
どーせ変態でふしだらな理由だ。聞きたくない、聞きたくない。
「あはっ即答だぁ…」
クスクス笑いながら言う。けれど、
「俺が樹を最初に見たのは中学2年の冬休み…」
こいつは私の即答にめめげずに滔々と語りだした。