19:神崎 翼
19:神崎 翼
退院してから約一ヶ月が過ぎた。
先生やクラスメートは何かと気を使ってくれるけれど、知らない人や思い出せないことがあるたびに責められているようで、胸が苦しかった。
あまりにも心配する皆には『もう大丈夫、昔の自分じゃなくて違和感があるのは謝るけど、私は私。野々宮 樹だから!』と言った、言ってみた。
これで反感を買っても、いいや。
そう思ったのに口々に謝られて面食らった記憶がある。
そうだ、これから記憶をくっつけて行けばいいや……そう楽観した。
ただ一つを除いて。
「翼ぁ!放課後、補習だとよ!」
――神崎 翼くん。
私の彼氏。随分遊び慣れているご様子。ちゃらイケメン。不真面目。(付き合っているかどうかは不明)
正直言ってこんなに格好いいとは思っていなかった。しかも一ヶ月も同じ教室で生活しているのにコンタクトを取る気は皆無。私もなんだからチャラ系は怖いから近づけない。私達はぎこちない友達未満だった。
でも神崎くんは時々こちらをじっ、と見詰めては目を細めて、険しい顔をすることがあった。
そんな時、いつも輪の中心で笑っている神崎くんとは別人のようになったかのようで怖かった。
これは――チャンスかもしれない。
樹は唇を噛み締めた。
樹は入院期間、全くといっていい程、勉強に手をつけていない。
だから樹も補習に参加するわけだ。
「会える」
というわけだ。
しかも補習は何度か参加したけど、人数は限りなく零に近かったはず!
ひとり意気揚々と樹は教室を出た。