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~天使の贈り物~  作者: 麦茶のれんぴっか
Ⅲ今宵は……
14/21

14:本当の君は__だった

グロ描写を少し含んでおります。

苦手な方は回れ右!

 

 とにかく私は翼の所に行って確かめなきゃいけないの!」

「確かめるって…何を?」

「私になんでそんな事したかを、よ!」


 勢い込んで怒鳴る。

 月詠の虚を突かれて様な顔。


「な、なに?」

「そんなことも分からなかったの?」


 む、とする。

 今まさに私はこいつによって記憶を書き換えられて大切な人の記憶も失ってしまうっていうのに…。

 起こっている場合じゃない。今はただ――逃げることだけかんがえろ!馬鹿。


「彼――“殺戮”はね…魅せられてしまったんだ」

「は?」

「君という蝶に、ね?」


 かぁっと、場違いな表情をしてしまう。


「嘘、う、そよ…だったら私の幸せを願う筈じゃな、い」


 そうだよ。ありえないよ。

 いくら彼氏だからって住む世界も、種族も違うのに。


 ダメだよ。――…翼。


「だから、そこでメモリーを書き換えれば全部OKだと思う」


 書き換える、書き換える、煩いなぁ。


「ばっかみたい――」


 幾分か冷静になった頭で現状分析。

 私は両親と衝突事故で死ぬはずだった。しかしそこに翼が割り込み、私の運命を変えた。


「馬鹿みたい―って言った…?」

「ええ、私みたいな無力な人間相手に馬鹿らしいな……っ!」


 苦しい、苦しい、苦しい!

 喉と背骨に来る衝撃。

 痛い、痛い、痛い、痛い。


「君ってカスだよね…ホントに。なんで“殺戮”が愛してるのか理解不能…だよ?」


 にっこり、天使の笑み。

 魅了するでも、ごまかす笑みでもなく……ただ気味の悪い、笑み。


「わ、たしを殺、して…いいの?」


 全身の骨が軋んだ。


「ん~?半殺しならいいんじゃない?」


 事もなげに言う。

 何にキレたのか知らないけど、苦しい、痛い。

 嗚呼、死ぬのかな私――。

 段々と意識が朦朧としてきて……。


 でもいくら待っても永遠の眠りは訪れなかった。


「馬鹿、殺す訳無いじゃん――罪なき者を殺すのは愚者のみ…だよ」


 くくっ、と笑いながら私の喉から手を離す。


 そのとき――、


「キヒヒッ――なァ…樹ィ、コイツヲ殺シタラ樹ハ哀シィ?」


 地獄から響いてきたと錯覚する程低い音、いや声はよく知った愛する人のもので……。

 けれど、私の部屋の一壁を壊して入ってきた悪魔は……翼は…、


「ナァニ、少ォしヒネッテ、ツブシテ、ナカのグチャグチャしたモノを引ッ張リ出シテ破壊スレバ終ワルヨ…キヒヒッ…愉シミダナァ」


 この人は誰?

 翼と同じ、声、容姿、瞳をしたこの人はだぁれ?


「ナァ、樹ィ?」


 全身から殺気を感じる。

 怖いよ、怖い。

 言いようのない悪寒が全身を駆け巡り、色素が薄かった灰色の瞳は今は血の様な朱……その視線がこちらに向いた時…死ぬかと思った。

 カタカタと歯が鳴る。いや全身の骨が鳴っているようだ。


「怖イノ?俺ガ怖イ?樹ヲ大事ニシテキタ俺ノ事ガ?」


 ねっとりと絡み付くような視線を全身に注がれる。

 私よりも震えているのは月詠。カタカタなんてもんじゃない。

 今にも崩れ落ちそうな様子だ。瞳は零れそうなくらい見開かれ、もともと白い肌は白を通り越して蒼い。


「ナに?ナンデ他ノオトコヲミツメテルの?好きナノ?ジャア殺ソウカ?君の視界にイレテいいのは俺ダケだ……嗚呼、樹の瞳モツブシテシマエバいいの?ネェ」


 月詠が死ぬ!

 畏れに満ちた顔でこちらを向く。その顔は先程まで私を殺そうとしていた天使だとは思わなかった。思えなかった。


「い、つき…助け……」


 彼の声は永久に聞けないだろう。

 だって――死んじゃった。

 死んじゃったらもう会えない。


「樹ニ喋リカケルなんて図々シイネぇ?ネェ?」


 月詠の身体を引き裂きながら・・・・・・・翼は聞く。


「あ、ああ――…あぁっ…!!」


 引き裂くたびに赤黒い血が飛び散る。月詠の身体はびくびく痙攣していて……ソレを恍惚とした表情でぶちぶちと引き裂き続ける。血が吹き出る。ぴゅーっと……天井が真っ赤になる。


「アハハ、ハ!死んだ、殺した、死んだ、殺した、死んだ、殺したぁっ!」


 気が可笑しくなったかのようにわたしは自分の身体を掻きむしり続けようとした。

 でも、それに気付いた翼はいち早く私の傍に来て腕を抑えた。私の腕はカッターでやったみたいなのじゃなくてもっとグチャグチャしてた。


「樹!樹ィ!?ドーシタノ!?」


 嗚呼、こういうときならすぐ分かってくれたのに……。


「殺戮さん?翼を返して?ね?」


 私がそういうときょとんとした顔になって、


「俺ガ翼ダヨ?」

「翼はそんな喋り方しない」

「デモワカンナイんだ…」

「翼…帰ってきて…私を助けに来てっ!」



 悲痛な声で叫ぶ私を“殺戮”は怖ず怖ずと抱きしめた。心配だからしてくれてるんだと分かってるのに“いつも”ではない抱きしめ方に違和感と苛立ちしか芽生えない。

 でも、必死に血と内蔵がこびりついた腕で私を抱きしめてくれる。

 嗚呼、これが“殺戮”であり“翼”なんだと。

 どちらも私を愛してくれている、歪んでるけど。

 どちらも私を抱きしめてくれる、怖ず怖ずとだけど。

 どちらも私のココロを縛り付ける、力任せに。



「い、樹…?大丈夫、大丈夫だから…俺に何をして欲しい?」


 力強くて、優しい声。

 私が一番安心できる。



「今の俺は悪魔の時ほどのチカラは無いけど…弱いけど…樹位なら護れるから、ね?」



 抱きしめたまま言う。

 きゅうっ、と抱きしめ返す。

 翼からは厭な死臭しかしなかった。でも、心地好かった。


「、ヒック…ァ…グス」


 涙か止まらない私の背中をとんとん、と落ち着かせるように優しく叩いてくれる。


「だから……アイエオス……この契約は破棄する」

「っ……!……御意」



 ややあって、苦々しさを交える声で答えたのはアイエオスと呼ばれた青年くらいの人(?)。

 頭が働かない…。


「しかし…――・――様。貴方は…貴方の救いは……っ、……申し訳ございません。出過ぎたことを申しました」


 翼の名前は聞き取れなかった。言葉が濁っていた・・・・・としか形容できない。

 清んでいた泉の水に汚れた石を落とした時のような…。

 そんなことはどうでもよかったけど、


「翼?どこかに行っちゃうの?」


 私が話しかけても、翼は振り向いてくれない。

 なんで?どうして?


「樹、君はすべてを忘れなきゃいけない……」

  


 ―――え?


「だ、だって……ずっと一緒にいようって……」

「そんな約束した覚えがない。ソナタとの契約は今我の名において破棄された。さぁ、我が呪縛からそがれて何処へなりとも行くが良い!」


 その声は何百年も生きてきたものとしての威厳と自信があって、私みたいなちっぽけな人間が縛っていい心じゃなかったんだと……。 


「最後に悪魔は儀式を、謝罪の儀式を……」

「ああ、そうか……屈辱だな、こちらから手を引かねばならぬとは。私の悪魔人生で最大の汚点だ」

「――・――様っ!」


 嗚呼、そっか。

 私との契約は人生最悪か……。

 そりゃそうだ。大して美味しくもない魂を持った小娘相手に何十年も時を費やして、そのうえ食すこともままならないなんて…。

 そんな事を考えていると、翼がやってきて私に傅いた、


「我が主よ、契約を破棄することを謝罪しよう、この身をもって……」

「うん……ごめんね?何年も苦しめて、縛って……」

 

 何をするんだろう?

 ぼんやりと思っていると、首筋に熱い痛みが走った。


「!」

「我の付けた刻印は一生消えることなく、主の傷を癒すだろう」

「よく分からないけどありがと?」

  

 本当に何が起きているのか分からなかった。ただ彼が私を噛んだというのは分かる。


「主はっ……謝る事も、感謝することもない!我が我がっ!」


 だからなのだろうか?

 目の前に傅く血染めになった黒い男を見て、もう薄れ行く記憶の中で、そっと彼の手をとり、


「貴方が誰だか知らないけれど、悲しみは恋愛の次に人生を彩る最高のスパイス、だよ?誰かがそう言ったの……遠い昔に」


 と言って、笑ったのは。

 彼はしばらく呆然としていたけれど、だんだん笑みが顔じゅうに広がって、


「それを教えたのは我だ。我が主よ……」


 といわれた瞬間、私は意識を失った。



――さようなら、

どうなるんでしょ?

この人たち……。

作者の理想を無視して暴走しています。

特に翼。

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