13:月が満ちる時(下)
なんだか、予想外にぐだぐだですOrz…
13:月が満ちる時(下)
「電報でーす。野々宮さーん?電報でーす」
…月夜…?
時計を見る【9:57】。
あと3分で10時だぁ。この時計はピッタリの時間になると音が鳴るんだよなぁ。止めないでいるとずーっとピピピピピピピ鳴りつづけるんだよね。
結構、煩いんだよね~。そして私はそれを止めなければならないという使命感に燃えて絶対に押してしまうんだよね。ポチッと。
………しかし、今押して止めたら私がここに居ることがばれてしまう。
冷や汗が伝う。
――ピピピピピピピピ!
けたたましい音が9畳間に響き渡る。
嗚呼、鳴っちゃった。
――もうどうでもいいや。
私は半ば自暴自棄になっていたのかもしれない。
頭のキャパシティを越える出来事が起こりまくって…でも誰にも相談出来ない…つらさ。
ポチッとボタンを押す。
今まで鳴り響いていた電子音が嘘の様に止まる。
「樹ー居るなら返事くらいしなよー」
もう、煩いんだよね。
何が面白くてそんな声出してるの?
―――カチャ
ドアノブが回る音がする。
ちらりとドアの方を見る。
さっきまで感じていた恐怖は消えていた。
「こんばんは。月夜」
と、我ながら見当違いな返事をしているな、と思う。
「…こんばんは。樹…怖くないの?」
その質問にゆるりと首を振る。代わりに、
「お仲間は?」
と質問してみる。
先程の人影で月夜一人というのはさすがにおかしい。
「いるよー下に。ていうか仲間、違う」
と言いながら勉強机に座る。
椅子があるんだから椅子に座ればいいのに……。
「ご用件は?」
「メモリーを奪う…いやメモリーを書き換える…」
「書き…換える?」
そ。と言いながら足を組む。
栗色の髪の毛が光に反射して金に見える。瞳は…灰色?
翼と同じだ。
「頭のいい君なら分かるんじゃない?」
と言われて考える。
私のメモリーを書き換えて月夜にメリットが?
「何が目的なの…」
「“殺戮”を連れ戻すこと」
翼を…?
「最近アイツ仕事してないんだ…君に…」
「私に?」
「本来“殺戮”は君の体から気を奪っていかなきゃいけない。それが代償だからね…」
「……」
忘れてた。
そうだ。私は生きる代わりに悪魔に自分を委ね、その後生きる障害となっていた両親を殺した。
「なのに、君は弱らずにこうして生きてる…可笑しいと思って調べたら“殺戮”ったら君のこと凄く大事にしてるんだから…困っちゃうよね…だから代わりに僕が君の気を少ぅーし奪った。大変だったよ…“殺戮”の目を盗んで二人っきりになるのは…今日もこうして悪魔が弱る満月に事を進めた…」
そんな滔々と言われても…。
ということは薬って言ったのは、嘘?
でも…じゃあ、私に縋ったのはなんで?
意味がわからない!
「で、君のメモリーを書き換えることで生じる僕のメリットは?」
もし…もし、私が記憶を失ったら翼はどうなるだろうか?
きっと契約者がいなくなって構う相手がいなかったら寂しいんじゃないんだろうか?
というか…自意識過剰かもしれないけれど…彼女がいなくなったら悲しい…くはないよね?
でも傷ついても狂っても、もとの“殺戮”に―…もどる。
「もしかし、て…」
声が震えないように気をつける。
目の前で嗤ってる天使に気づかれないように…。
そっ、と時計を手に取り時間を戻す。
10時1分前に…。
「もしかして私の翼に関してだけの記憶を消すの?」
「御名答」
ぱちぱちと掌を合わせて私に拍手する。
その瞬間私は月夜の方にダッシュする。
そして、喧しく鳴りはじめた時計を片手に突っ込む。
このままっ逃げれば――っ!
耳を押さえている月詠を横目で捉える。
確信しながらドアノブに手を掛ける。冷たい金属の感触。
「ダメだよ?飼い猫が外に出ようとしたら」
耳を塞いで顔を顰めていた筈の月詠がにっこり笑いながら私の手をとった。
「な……なんでっ!」
「私がニンゲンの動きを予想できないとでも?」
首をかしげて愛らしく言う。でも私には全然可愛らしく見えなかった。
「私を……どうする気?」
「だから樹のメモリーを書き換えるんだって!」
焦れたように月詠はいう。
そして、強く私をひっぱってベッドに落とす。
嗚呼。ドアノブの感触がまだ残ってる。もう少しだったのに…。
「樹は天使のことも、悪魔のことも、みんなみんな忘れるの!」
歌うように言う。
嫌だ。これはもう思い出して眺めることができない!!
「あ。なんなら昔の記憶……幸せなものにしてあげようか?」
私の両親は、無理心中をしようとして私が殺した。父はその時もう死んでいて…母だけ殺した。
返り血がびちゃ、と私にかかって。幸せな家庭だったのに。周りの親族も“何故あんなことをしたのか分からない”と言っていた。
「必要ないわ」
声がふるえなかった自分はもう乗り越えたのかな?
このことを。
「でもぉ。知らないの?君の親御さんたちは本当はドライブに行って“事故死”だったんだよ?」
―――え?
目の前の天使は続ける。
「あれ?知らなかった?やだなー隠し事があるなんてねぇ」
にたにた笑いながら聞いてくる。
茶化しの声はもう聞こえなくて…。
「殺戮が変えたんだよ…君の人生を」
「それ、本当?」
嗚呼、やっぱり乗り越えていなかった。
だって震えていると思うのよ、私の声。
「本当だよぉ~メモリーを司る悪魔は怒ったけど殺戮には敵わないしねぇ~?」
―――私は平凡に生きれたの?
「だから、ねぇ?どうせ皆忘れちゃうんだから…この際元に戻していいでしょ?」
分かんない。私は親殺しの罪を忘れて、事故死した両親を毎日、毎日悲しむだけでよかったの?
そっちのほうがまだ楽だ……。
――でも。
私は時々自分の手が血で染まっている夢を見るし、親の最期の顔も時々ホントウとして呼び起されるだろう。だって真実だから。起こってしまったことだから……。
「やだ、やだっぁ!」
確かめなければ…っ!
「ちょっ!信じてよ!」
―――信じるものか!
ねぇ嘘だったの?翼!