12:月が満ちる時(上)
12:月が満ちる時(上)
夕食にはカップラーメン。
3分きちんと待ってから蓋を取る。もくもくと湯気が立ち上る。
「しっかしあれは何だったんだろ…?」
今日の翼は何だか変だった。
いつもへらへらしてるイメージしかないのになぁ…。
『気をつけて』
って何にだよ!
もっと具体的に説明しろ…。
ずるずると麺を啜る。
不健康?
私は料理が出来ないんだよ!
悪かったなっ!家庭的じゃなくてっ!←(結構気にしてる。
ずずずっ。と醤油味のツユまで飲む。
こくり、美味いわぁ~。
カップヌードル作った人おいで~。なでなでしてあげるから~。
いつもよりハイな気分で自室へと足を進める。叔母夫婦の家は、結構大きくて私の部屋も割と大きい方だと思う。
9畳という広さ。
私が昔住んでいた自分の部屋は6畳くらいだった。
その広さの中にクローゼットとシングルベッドと勉強机しかないという殺風景さ。
しかも私は洋服やなんやらは余り持っていないのでクローゼットは9割、書籍で埋まっている。家具を増やそうとしても養ってもらっている義理があるので無闇にねだれないし…。
それにいまのままで十分生活できるのだからそれでいいのだ。壁はクリーム色でカーペットは若草色。カーテンも同色。
ふとデジタル時計を見ると【8:56】の文字。
「勉強する気も起きないしなぁ…」
お風呂に入って、本読んで寝よう。
ということで、お風呂にはいる。
一人はさびしいとは思う。ひと肌が恋しくて泣いた日もある。けれど、もう私は中学生なのだ。甘えは許されない。
ガラッとモザイクがかかった扉を開けて湯気が立ち上るお風呂につかる。
ふぅ~、一日の疲れがとれる。バスボムをいれてあるのでミルク色のお湯だ。
一人のときだけ使うこのバスボムはミルクの匂いをゆるゆると立ち昇らせてくれる。
お湯にもぐって空気を吐き出す。ぷくぷくと音を立てて空気の泡みたいのができる。
一通り温まってから湯船から出る。
「うぅ沁みる~」
といいながらシャンプー&リンスをする。
お湯につかるのは好きだけれど、こいつだけは好きになれない。
だいたい沁みるだけだろ…。あまり綺麗になった感がないし。
と胸中で悪態をつきながら――終わった。私とあいつらの戦いが。
「一万年と二千年前から愛してるぅ~~♪」
訳の分からん音程で歌を口ずさみながら体を拭き、ドライアーで髪を乾かす。
私の髪は肩までくらいあるのだけれど、乾きが遅くて遅くて…。
こうして私は約1時間程度の入浴を終了した。
1階にあるお風呂から出て2階にある自室へと向かう。
――パチリ。
部屋の電気をつけると優しい光が部屋の隅々まで照らした。
なんだか、本を読む気にもならないなぁ。
ということで…ベランダにでもでるか。
ガラリと扉を開けて外に出る。
サァーっと冷たい風がお風呂上がりの私の体温を奪っていく。
余りの寒さにいったん部屋に戻ってカーディガンを羽織る。
――満月だった。
2階から見たご近所さんの家は月の光に照らされて輝いているように見える。
『魅せられないようにね』
といった翼の言葉が脳裏に浮かぶ。
まさか、いくら綺麗な満月でも魅せられるって…。
そう思いながら優しい光に照らされてよく見えるアスファルトに目をやる。
―――?!
何かがやってくる!
眼を凝らすと人影がやってきた。ざっとみたところ10人くらいだろうか?
一見普通の人影だけど、なにか…怖い…怖い、怖い。
私の家のほうへやってくる…?!
言いようのない寒気、悪寒が押し寄せる。
さーっと頭から血が引いて動物的本能が芽生える。
急いでベランダから部屋に戻る。カーテンを閉めてベッドに入る。
背中に嫌な汗が伝う。自分の呼吸音ですらうるさく感じる静寂。
いまでは布団に侵入してくる満月の光は自分の居場所を示されているようで恐ろしいものでしかなかった。
全身の器官を総動員させて人影の気配を探す。
分からない。分からないものほど恐ろしいものはない。
――リーン
鈴の音?
――リーン
透明な音だ。でも今はそれですら恐ろしい。
「電報でーす。野々宮さーん?電報でーす」
その時。面白がるような声で、ふざけた声で月夜の声が聞こえた。