10:歳は関係ありません!
10話です。
たったったっ。
リズムよく階段を駆け上がる。あともう少しで屋上。
翼が、そこに居るっていう確信みたいのがあった。
錆びたドアノブに飛びつく。
力任せに捻って引っ張る。
「翼の~~~ウ゛~ァカ!」
居るかどうかもわからない。
でも叫んだ。
秋なのに暖かい風が吹く。
「翼~っ!」
裏側に駆け込み、一際高くなっている所の梯子を登る。
「みーつけた」
思わず笑みがこぼれる。
背中が見える。
顔がゆっくりとこっちを向く。
「翼」
「さっきから煩いよ…」
「しょうがない。だって翼が降りて来ないから~」
それきり答えない。
「私さ、愛されてるんだ」
「……あの天使に?」
少し恐る恐る聞いてくる様子はとてもじゃないけど悪魔なんて者には見えなかった。
「ううん。悪魔に、とっても優しい悪魔に……もっと言うと“翼”っていう悪魔に…」
「悪魔、悪魔って…」
「うん、私こんがらかってきた」
「でもキスしてた」
「私は全て貴方のもの。聲も血も瞳も骨も、全部…でしょ?」
「っ!」
「何を恐れてるの?私が聞いてあげましょうか?」
「――淫魔みたいだよ?」
ボソッと呟かれる。
ひどい。
「でも、好きなんだ」
間髪入れずに翼は言う。
「好きで、好きで、樹があの天使のものになっちゃったら…って」
「私は貴方のものにしかならない…もっと言うと私は貴方のものにしかなれない(・・・・)」
なんか可愛いぞ。
優しく抱きしめていいですか?いいよね?
だって私、彼女だし……。
そろ、そろと近づくと、睨まれた。その視線は酷く頼りなかった。
「だぁいすき!」
そう言いながら抱き着く。吃驚してる。
でも、と続ける。
「きちんと説明して」
腕に翼の温かいぬくもりを感じながら、言う。
「わかった…」
翼は語る。
私のこと、自分のこと。
「ボクは悪魔。通称“殺戮の堕天使”とかよばれてる」
「殺戮…」
日常とはかけ離れた話に思わず呟く。
「そ、契約者に無理難題を押し付けるだれにも懐かない悪魔…殺したこともしばしば」
「へ、へぇ~ずごいのね」
「怖い?」
胸の内を当てられる。
だってしょうがないよ、私も“契約者”なんだから。
いつ殺されるかも分かんないんでしょう?
「…でもボクは恋をした」
私の返事を待たずに語りだす。
「私に?」
「…全部言わせてよ」
半ばあきれながらも言う翼。
よかった。いつもよりちょっと鬼畜だけれど翼だ。
「嘘、ついてない?」
「…ない」
「絶対?」
「…すくなくとも樹に嘘はついてない」
「じゃあ誰に嘘ついてるの?」
「う~ん、樹が知らなくていいとこのお偉いさん?」
「……なにそれ?まぁ、いっか…」
「疲れた」
「同感」
どちらともなく呟き、ばたりと堅いコンクリートに横になる。
「痛く、ない?」
唐突に聞かれて困る。
うつらうつらしてたもんだから何て言われたのかすら…。
「ん?…いいよ?」
適当に返事しておく。
翼の顔が微妙に歪む。そのあと悪戯を思いついた子供のような顔になり、
では。と言って顔を近づけてきやがりました。
しかし、唐突(私はいきなりに弱い、脳がついてこない)に近づかれたので、避けることもできず。
「クフ、充電完了?」
長きにわたるあーだこーだ。
何回したんだ、この色魔。
「んっ…はぁ…やけに疲れた。よって膝枕することを命じます」
「……!」
びしっ!と言わなくてはならない時が女にはある!…はず。
暫く戸惑って(と言っても2秒ほど)
「どうぞ、お姫様」
と言って恭しく手を差し伸べてきた。
さすが悪魔、きっとこういうことに慣れてるんだろうなぁ…。
てか幾つなんだ?
「んー319くらいじゃない?まだまだ若いなぁ」
こ、こいつエスパーかっ?!
しかしその前に…、
「!!!300!私は300のおじいさんとキスしてたの?詐欺だ!」
「いや悪魔で言うとまだまだ若造だし?それに樹と同じくらいだよ!頭の中は!!」
「ううううう!……寝る!」
私はめんどくさいことがあると寝ます。
でも今私は幸せだから…。許そうかな?