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3話 どうしてお水はおひやなんですか?

はじめましての方々ははじめまして。こんにちは。野平と申します。


こちらはかなりのスロー更新で、もう一つの連載とは間逆でどっちかというとキャラクターも少なく、一話一話も短くなっております。


頭をからっぽにしてゆるーい気持ちで読んでもらえれば幸いです。


翌日。


春と桜、そしてクリスは鷺宮邸を朝の10時に出て、駅の方に向かって歩き出した。

朝の通勤ラッシュを過ぎているが、吉祥寺駅は人が集まる駅だ。さまざまな方向に向かう人であふれかえっていた。

狭い道路には人が多いというのにバスが走っていて、今にも接触事故を起こしそうなほどだ。

バスどころか車を初めて見たクリスはおどおどと不安そうに春と桜の後をついていこうとするが、幾度も人にもまれてはぐれてしまう。

そのたびに桜が振り返って駆け寄ったが、春は足を止めずにすっすと歩いて行ってしまう。


高架下をくぐって中央口方面に出て、アーケード商店街を抜けて、小道に入った。

ようやく人通りが少なくなって、クリスは安堵のため息をついた。


「大丈夫でした?あそこの通りはバスも通っていて怖いよね」

桜が穏やかに尋ねると、クリスは苦笑した。

「あれがバスというものなんですね。馬もないのに入れ物が動いているなんて、不思議でした」

「轢かれると痛いのよ。

そういえば春さんは前バスに正面から突っ込んでしまったの」

「桜・・・」

「ふふふ。

そういえばクリスさん、服はいかがですか?動きやすいですか?」

話を変えて、桜がクリスに尋ねた。


クリスの服は桜の私物だ。

さすがに真っ白のドレスで外に出るわけにはいかなかったからだ。

初秋はうだるような暑さはない。さらりと心地よいブラウスとロングスカートは季節としてはちょうどいい。

桜は全体的にふわんとした服装を好むので、クリスの雰囲気にちょうどよかった。

対照的に、春は上から下まで真っ黒。

黒のカッターシャツを肘までまくってはいるものの、少々暑そうな印象を受けてしまう。着ている本人の表情はいたって涼しげなのだが。


「桜さん、本当にありがとうございます。

素敵なお洋服ですね。それにみなさんすごくいろいろな服装をしていらっしゃるのですね。素敵です」

「それはよかったわ。

でもね、これからもっとかわいいお洋服を着られますよ」

「え?」

「着いた」


にこやかな会話が終わった。

ようやく春が足を止める。

辿り着いた場所は、白い壁の小さな一軒家だった。

クリスの心臓が少しずつ速さを増していった。

ここが春の紹介する職場らしいが、一体どういうところかクリスには見当もつかない。


春が扉を数回ノックすると、中から甲高い声が帰ってきた。

「はーいはいはい!

あ、鷺宮さん!お待ちしておりましたぁ~どぞどぞ!」

中から出てきた人を見て、クリスは首を少しだけ傾けた。

返事をしたのは、若い女性。

年齢は春と同じくらいだろうか。とびきり美人というわけではないが、威勢のいい子だ。

白いカッターシャツと黒のスラックスをはいている。


「話にしていた、クリス・オーフェンだ。

クリス、彼女はこの店の給仕をしている」

「糀谷紅葉と申します!よろしくクリスさん」

満開の笑みで迎えられても、クリスはただただ困惑するだけだった。

どうやら悪い人ではなさそうだが。

クリスは未だ自分がなにをさせられるのかわからないのだ。だから不安に思うのも仕方がないだろう。


紅葉が3人を屋内に案内する。


フローリングは半分ほどがピカピカで、紅葉が掃除途中だった様子がうかがえる。

丸テーブルが二つ、窓際に四角いテーブルが二つで、椅子が全部上に上がっている。

カウンターの奥にはグラスとボトルが所狭しと並んでいて、ここが飲食店であることはすぐに理解できる。

とはいっても、おとぎの世界にもこういう店があるかなんて、春も桜も知らないのだが。


春は磨かれた床の上にテーブルに乗っていた椅子を降ろし、腰をおろし、クリスに言った。


「貴方はこの店の給仕をしてもらいます。

開店まであと2時間。必要なことは糀谷氏に教えてもらってください」

「は・・・い」

「よーぉっし!じゃあクリスちゃんこっちこっち!着替えなきゃねー!

あ、あたしも着替えなきゃだ!」


ご機嫌な様子の紅葉に引っ張られ、クリスはスタッフルームの中に消えていった。

桜も椅子を下ろし、春の向かいに座って、いつもの笑顔を見せた。

彼女は基本笑顔だ。どんなことをその口から言おうとも。


「春さん、どうしてクリスさんに給仕の仕事を紹介したのかしら。

ここのお店はすっごく大変なんでしょう?昨日の今日で右も左もわからない子に忙しいお店の接客を勧めるなんて、初めてですよね?」


穏やかで優しげな桜の質問に、桜はこともなげに答えた。


「勘さ。いつものとおり。

たまたまそういう人が今まで自分の店に来なかったから紹介しなかっただけです」


春は立ち上がると、勝手にカウンターの中に入り、コップを二つ取りだした。

そして冷蔵庫の中から冷えた水を取り出すと、勝手に注いで、テーブルの上に置いた。


「仕事って言うのはね、これはあくまで自分の解釈なんですが、

己の持っているものを他に与えるため、己に欠けているものを他から得るためにあるんじゃないか、とね。

それはどっちかだけじゃなくて、延々と繰り返していくものじゃないかと。

むしろ、かたっぽだけじゃ駄目だ。

クリスはあと少しだけ、足りないものがある。それに気づくには、紅葉とこの店が必要なだけさ」

「それは、宮家の意思?」

「自分の、です」


宮家、という単語に、わずかに春が眉を上げた。

それを気にしない風に、優しい笑顔につつみこんでしまった桜は、コップに口をつけて、一口だけ水を飲んだ。





それにしても短すぎますかね。苦笑。

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