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外伝 別の転生者の場合②

外伝二話目です。結構匠の性格、口調が変わってますが中二病にさしかかろうとしている、と言う事で許してください。一応中学一年生ですからね。それでは今回も最後まで読んで頂ければ幸いです。おそらく今までで一番長いと思います。でも眠気を抑えて頑張って書きました。ではよろしくお願いします。

 相変わらず不思議な夢を見続ける日々が続いている。内容の速度が速く、一瞬のうちに全てを見る事が出来たのならそれは走馬灯なのではないだろうか。でも俺の生活している内容では無い。まるで夢の中で物語を見ているようだ。普遍的な、摩訶不思議の無いくだらない人生という物語を。





 あの屋上で亜里抄と初めて出会った日から毎日、亜里抄は屋上に現れた。一人で勝手に喋るのを適当に頷き、適当に返している事が最初の頃は多かった。次第に、少しずつ会話をするようになった。嫌なら行かなければいいだけのはず。だけど、毎日屋上に俺は行った。何をする訳でも無く、ただ亜里抄の喋ってる事を聞いているだけなのに。


「お、今日もいるね。私といるのが好きなの?」

 下から顔を覗くように亜里抄が俺を見る。女性の上目遣いは何故か男心をくすぶる。

「別にそんなんじゃない。」

「またまた~照れちゃって~可愛いな~。」


 特に重要な会話をする訳でも無い、何かをする訳でも無い、それなのに俺と亜里抄は放課後に毎日屋上で会っていた。いつしかそれが俺と亜里抄にとっての日課になっていた。







 どこもかしこも文化祭で盛り上がってる。たった一日しか行われない展示のためにクラスメイトは張り切り、楽しそうにしている。何をそんなに楽しいのか。どうせ最後に壊すんだから適当に作って適当に行えばいいのに。俺が帰ろうとして鞄を持ち、椅子から立つと、

「ちょっと佐藤、あんた部活も入って無いならちゃんと手伝ってよ。」

 ある女が俺が帰るのを止めた。何で俺がこいつらの青春ごっこに付き合わなければならないのか。

「聞いてるの?手伝えって言ってるの!」

「うぜぇよ。お前らに手伝う義理なんて一つも無い。」

 たったそれだけの言葉で、俺に手伝えと言ってきた女は怒り狂った。別に俺一人いなくたって出来るんだろ?ただ作業の効率が良くなるためだけに呼んでるんだろ?そんなのお断りだ。誰が好き好んで歯車になりたいものか。そんな奴の気が知れない。

「佐藤君だっけ?君が手伝わないで帰るのは、何か理由があるのかな?」

「うぜぇって。」

 こいつもこいつだ。女に良い所を見せようとして偽善者ぶっている。くだらない。ちょっとドラムが出来て、ちょっと顔がよくて、ちょっと頭良いだけで周りの女はキャーキャー騒ぎやがって。

「何か理由があるなら仕方ないけど、何も無いなら手伝ってくれないか?見ての通りまだ終わって無いんだよ。」

「だからうぜぇよ。」

「そういう態度をとらずにさ、手伝ってよ。」

 俺はこいつの言ってる事を聞いていて、段々頭に血が昇っていくのが解った。言葉よりも先に手が動く。気が付いたら胸倉をつかんで殴っていた。

「うぜぇって言ってんだろ!」

 そいつを殴り飛ばし、ドアを開けて教室を出ようとした時、

「理由があっったのなら僕が詫びるけど、君の我が儘で帰るのなら僕は君を許さないよ。」

 俺に殴られたのに脅えるどころか言い返しやがった。そいつの言葉を無視して俺は教室を出て行った。廊下に出るとそれまで静かだった教室内が騒がしくなったのが解った。どいつもこいつもくだらねぇ。


 教室を出て、そのまま帰ろうと思ったのだが、殴った時に鞄を教室に置いた事を思い出した。今更教室に戻って忘れ物を取りに行く、なんてカッコ悪い事出来る訳が無いので、玄関に向かわず、屋上で時間を潰す事に決めた。

 屋上に出ると、どこかのクラスか部活が文化祭のための準備を行っていた。幸いにもうちのクラスの連中はいなかったので、俺は屋上の端に行きアスファルトに腰を下ろした。

 放課後に残って文化祭のために準備をする。せっかくの時間をそんな事に割く事が俺には不思議でならなかった。

「おいたく!お前大変な事になったぞ!」

 いつの間にか正也が目の前にいて、鞄を俺に投げ渡した。

「お前が殴った相手あいつだぞ?良だぞ?これで女子全員を敵に回したぞ。しかも最初にお前が反抗した相手もまずい、真美さんにあんな態度取ったら男子全員からシカトされるぞ。」

「別にいいんじゃね。」

 俺の発言に正也は呆れた顔をして一言言い残し、屋上を出て行った。何を言ったか聞こえなかったが。








「それで匠は屋上にいるんだね。」

 屋上のフェンスに背をもたれ、空を見ながら亜里抄が答えた。最初に来た時よりも人数が減り、日が傾け始めている事もあり屋上は寂しさを感じさせられる。

「亜里抄は手伝わなくていいのか?」

「私のクラスは今日はもう終わったから。それに、私不器用だからあんま手伝わせてくれないんだ。私が何かすると皆が慌てちゃうし。出来る事は特に無いんだ。」

 空を見ながら悲しそうに亜里抄は答えた。

「手伝わなくていいならそれでいいだろ。俺なら喜ぶね。何をそんなに悲しそうにしてるんだよ。」

「だって!」

 亜里抄はそれまで見上げていた空から私の方を向いたと同時に声を張り上げて言った。

「だって・・・・・・皆が必死に一つの目標のために頑張っている時に、私は何にも出来ないんだよ!?それほど悔しくて、悲しい事は無いよ!」

 亜里抄が悲痛の声を上げて訴えるが、何故そこまで悲しいのか全く理解出来ない。そもそも、皆が必死に一つの目標に向かっている事に自分が一緒に取り組む必要は全く無い。そういうのはしたいやつだけでやればいい。

「やっぱ俺は悲しいとは思えない。自分の力が足りないって点は悔しくおもうだろうけど、そういう、皆で頑張ろうって気持に俺はならない。」

 俺の言った事に対して亜里抄は驚きを隠せない顔をしている。

「亜里抄は、ただ皆で行う作業を手伝って力になれたっていう結果が欲しかったんじゃないのか?それを過程の段階で結果に結びつけなかった、それが悔しくて悲しいんじゃないのか?そんな自己満足を得るために行っている事に同意を求められても俺は困る。」

「違う・・・・・・私は皆で喜びたくて・・・・・・」

 亜里抄の口から出た言葉は今までにないくらい小さく、弱く、脆く感じた。嗚咽も聞こえる。今まで人のため、と行ってきた事が本当は自分のためと言う事に気が付かされてショックなのだろう。

「違う・・・・・・自己満足なんかじゃ・・・・・・」

 膝を抱え、蹲るようにして亜里抄は言った。

「くだらねぇ」

 鞄を持ってから立ちあがり、俺は亜里抄を残して屋上を後にした。俺の言った事に間違いは無い。それなのに、泣いている亜里抄をみてられなくて俺は屋上から逃げ出した。






「だりぃ」 

 文化祭が始まったが、俺は一人屋上でふけていた。あれから亜里抄は屋上に来る事は無かった。それでも今日まで毎日屋上に来てしまうのは日課となった事を忘れられないからだろう。

 あの後、正也の言う通り俺はクラスの連中からハブにあった。皆が腫れ物を扱うように俺を見てきたのが解った。ただ、俺と衝突したあいつだけは執拗に手伝えと言ってきた。正也もクラスでハブに遭いたくないのか学校で俺と会話する事は無くなった。はれて、俺はクラス内でぼっちという称号を得たのだった。取り敢えず、下校時間になるまでここで俺は寝ている事にする。そう思い瞼を閉じた瞬間、

「佐藤、今の時間は君が当番だ。こんな所にいないで今すぐ行くぞ。」

 目を開けるとあいつがそこにいた。

「うるせーな。別に俺がいかなくてもいいだろ。逆に俺が行ったらあいつらが困るだろ。」

「へー、君は他人の心配をきちんと出来るんじゃないか。」

 その言葉に若干苛立ちを覚えてあいつを見るとニヤニヤした顔で俺を見ていた。

「殺すぞ。」

「それは勘弁してほしいね。」

「じゃあ黙ってろ。」

「そうはいかない。君が当番になってくれないと僕が困る。今からライブなんだよ。」

「知るか。」

 お前のライブなんかどうでもいい。むしろお前が困るのなら喜んで邪魔をしよう。

「そっか、そんなに嫌か。残念だな~、君が来てくれるんだったら・・・・・・」

 物で釣ろうとか考えているようだけどそんな物では俺は釣られない。

「君が常に屋上にいる事を皆に伝えよう。」

 勝ち誇った顔で言っているがそれが何になる?別に俺が屋上にいる事が知れたくらいで俺に不利益は被らない。

「何にもおきないとか思ってるだろうけど、君が平日の放課後に屋上を頻繁に利用している事を真美が知ったら悪戯されるだろうな~執拗に。それにある事無い事を喋って君をクラスで一番のお笑いキャラにしてやるさ。」

「おい、お前マジで殺すぞ。」

「今の君に暴力やハブかれる事は痛くない。それよりも周りの皆から自分が笑い物にされるほうが痛いはずだ。例えば、屋上で物思いにふける事がカッコイイと思ってるハードボイルド野郎だと思わせたりね。」

「べ、別にカッコイイって思ってここにいるわけじゃ!」

 慌てて反論しようと思い掴みかかろう、としたのだがやんわりとかわされた。そう言えばこいつ運動面も良かったんだっけ。

「それに、独りになりたがるのもそうなんじゃないのか?変に論理ぶって相手を追い詰めるのも。」

 こいつの前でそういう話をした事は無い。しかもあの時だけだ。

「・・・・・・お前!」

「ま~聞けよ。別にそれが悪いって言ってるんじゃない。今の君がそれが良いと思ってそういう風になった事に僕が否定出来る訳が無い。でもな・・・・・・一つだけ言わせてもらう。お前の思う自論をベラベラと一方的に相手に喋って、泣かせてどうするんだ!」

 気が付けば胸倉を掴まれ、睨まれていた。その声は、低く静かな感じで、ドスが効いていた。反論しようにもこいつの出す迫力に俺は何も言えないでいた。

「お前はそれをして何がしたかったんだ?何故相手を思いやらない?何故相手の考えを理解しようとしない?お前はあの時に彼女が悲しんでいた事に対して深く考えるべきだったんじゃないのか?違うか!」

 俺の胸倉をつかんでいる手に力が入っている。こいつが怒った所なんて見た事が無かった。だが、それ以上にこいつの言葉が突き刺さる。何故こんなにも痛いのだ、何故こんなにも心に深く突き刺さってくるのか。

「慰めれば良かったのかよ。傷の舐め合いをすれば良かったのかよ。」

 大きな声で言う事も出来ず、こいつの目を見て話す事も出来ない。明らかに気後れしている。俺はこんなに弱い人間だったのか?

「そんな事を言ってるんじゃない。相手の考えが違うと思うなら相手の言い分をしっかり聞いて、しっかり考えろ。それから言葉を選んで喋ろ。そうしたのなら、あんな事にはならなかったはずだ。お前も相手の事を気に掛けてたからそう言ったんだろ?普段のお前なら聞き流してるだけのはずだ。」

 こいつの言う事に対して何も言えない。なぜか発する言葉一つ一つに重みを感じるからだ。同じ歳のはずなのに、同じ年数しか生きていないはずなのに。そんなあいつの言葉が俺の心に深く突き刺さって、胸に大きな痛みを感じた。

 そんな痛みを感じていると、肩を叩かれた。

「ちょっと長く話しすぎたな。もうライブまで時間が無いからこのまま行くよ。皆には悪いけどね。もう一回、彼女の言った事の意味を理解してみな。損得考えずに、心で考えるんだ。」

 そう言うと、あいつは踵を返し屋上から去って行った。

「亜里抄が悲しんでいた理由・・・・・・」

 亜里抄は文化祭の手伝いが出来なくて、それで悲しんでいた。あの時、亜里抄は皆で喜びたかったと言っていた。もしかして、出来あがったという結果の喜びを得る事が目的じゃなく、皆で同じ物を作り上げるという過程を楽しみたかったのではないだろうか。その楽しみが亜里抄にとっての何よりの喜びだったのでは。

「喜びじゃなくて、楽しみたかったって言えよ。」

 屋上の上で、大の字になって寝ころび空を見る。ただ空は青く広がっていた。どこまでもどこまでも広がっていた。

 俺は本当に馬鹿で頭でっかちだったのかもしれない。あいつの言う通り聞きもせず、理解しようともせず、自分の中の答えだけを物差しとしていた。こういう風に、相手の立場になって考えるだけで違う考えが思いつくのに。

「本当に馬鹿だよな、俺。」

 独りが良いと思いながら、亜里抄との繋がりだけはどこか心の片隅で大切にしてた、失くしたくなかった。だから、あの時屋上から降りる時にあの感情が芽生えたのだろう。

 今日、文化祭が終わるまで、終わってからも亜里抄がここに来る事を願ってここで待っていよう。あいつに伝えなければならないことが出来た。


「もしもし、正也か。ちょっとクラス展示の当番やっててくれ。」

 正也に電話でそれだけを伝えると、俺は音楽室へ向かった。あいつが夢中になっているというものがどんなものか興味が沸いたからだ。あんな事を言え、俺のためにあそこまで言ってくれたあいつが一番打ち込んでいるものを見てみたかった。

 音楽室へ入ると大勢の人がいた、それこそ身動きが出来ないくらいに。そういえば開催式の時にも出てたんだっけか。その時寝てたから解らなかったけど、あの一回で学内で人気が出たのだろうか。

 流れていた音楽が違う曲に代わり、ライトがステージを照らす。それと同時に、ステージ側のドアが開かれ三人が現れた。よくよく見るとあいつが同じクラスなのは解っているが、他の二人もクラス内で見た事がある。三人がそれぞれの場所に移動し、音を出したと思ったら流れていた音楽が止まった。いよいよ始まるのだ。それまで音楽室内に飛び交ってた歓声も一段と大きくなった。しばらくして、歓声が止むと、あいつが叩くドラムから曲が始まった。始まるや否や歓声はそれまでとは比較にならないくらいに大きくなった。だが、それ以上に、バンドの爆音が俺を包んだ。

 体全身に響き渡るドラムとベースの音、繊細な音でその場全てに広がって行くキーボードの音、それらが完璧に重なり、今までに味わった事の無いような感覚が生まれる。楽器の演奏に乗せ、二人の歌声が広がる。片方は奇麗で優しい歌声、もう片方は力強い歌声。

 初めて聴いた曲のはずなのに、気が付いたら涙が流れていた。






「今日は楽しんでくれてありがとう!最後の曲なんだけど、本当はキーボードじゃなくてギターが必要な曲なんですよね。でも私達、頑張ってアレンジしました。とてもいい歌なので最後まで聴いて下さい。ちなみに、歌詞は受付で貰ったパンフレットに書いています。よかったら終わった後にでも読んでください。では、聴いて下さい。MR.BIGで〝To be with you"」






「お前、何でここにいるんだよ!クラス展示の当番だったはずだろ!」

 トイレを出た所で、あいつらにばったりと出くわした。ライブ後直ぐと言う事もあり、肩で息をしていた。

「別に・・・・・・」

 恥ずかしくてこいつの前では絶対にライブを観てたなんて言えない。と思ってたら、ベースを弾いてた奴が俺を指さし、

「佐藤さ、私達のライブ観てたでしょ?ちょっと後ろの方で。しかも泣いてなかった?」

 と、ライブを観てた事と俺がライブ中に泣いていた事をこいつはばらしやがった。

「観てなんかいないし、泣いてもいね~よ!」

「そういえば目元が少し腫れてますね、佐藤君、私達の曲聴いて泣いてくれたんだ!ありがとう!」

 キーボードの奴が俺の手を両手で握り、上下に振りまわした。違う!と言おうとした時、あいつが俺の目の前に来た。キーボードの子も俺の手を離し、俺はポケットに手を突っ込んだ。

「それで、どうするんだ?」

 そんな事言われるまでもない。

「やるべき事が解った。」

 それだけを言うと、俺は屋上へと向かうために歩き出した。あいつを通り過ぎようとした時、

「じゃ、頑張れよ。それと僕達の曲、最高だったろ?」

 自信満々に言ってきたのがむかついたので、

「悪くは無い。」

 一言だけ返して、俺は屋上に向かった。









 辺りも暗くなって、グラウンドのキャンプファイヤーが綺麗に見える。真ん中で燃え盛る炎を囲んで、生徒達が文化祭の最後を楽しもうと騒いでいた。屋上から観るキャンプファイヤーは俺が思っていたよりもずっと綺麗だった。

 あいつと別れてからずっと俺は待っている。でも現れてくれない・・・・・・やっぱり愛想を尽かされたのだろうか・・・・・・




「綺麗だね・・・・・・」




 声がした方を向くと、そこには亜里抄がいた。

「私ね・・・・・・自己満足でも良いって思えるんだ。」

 亜里抄は俺の目を見て、真剣な顔で言葉を紡いだ。

「私、あれから凄く考えたんだ。今まで楽しんで皆で取り組んだ事って私自信が成功した事を喜ぶために、自己満足のためにやってたのかなって。それはあるかも知れない。でも皆で一緒に喜びたいって気持ちも本当なんだよ?確かに自己満足なのかも知れない。でも、自己満足のためにやってきた事で皆で一緒に喜ぶ事が出来るのなら、私はこれからも続けたいと思う。皆のために、皆が喜ぶためにっていう他人のためじゃなく、皆で一緒に喜びたいっていう自己満足のために。」

 亜里抄の話しを聞いて、やはり皆で喜びたかったから手伝えなくて悲しかったのだと解った。手伝えないからでは無く、手伝わなかったという結果から亜里抄は自分は皆と喜ぶ資格が無いと感じていた。もし自分がしっかり手伝えたのなら、もし邪魔にならないくらいで良いから手伝えたのなら自分にも皆と喜ぶ資格があると、でも実際は出来ない、皆と喜ぶ資格なんて無い。だから悔しくて、悲しかったんだ。そして、俺が自己満足と言う否定的な言葉で片づけたため、もっと傷つけてしまった。

「ごめん。」

 謝らなければ、そんな気持ちを知ろうともしないで、一方的に傷つけさせたんだ。

「亜里抄の気持ちを考えずに、理解しようともせずに、俺の考えで追い込ませ、泣かしてしまって本当にごめん。俺、今日あるやつに言われたんだ。俺は人の事を考えて無いんじゃないかって。確かにそうだった。あの時亜里抄が言った言葉を何一つ理解しようとせず、自分が思う事を物差しにして喋ってた。でもそれじゃ傷つくだけだよな。誰だって自分の考えを理解されずにただ一方的に否定されるのは辛い。俺はそんな事をしたんだって教えら、やっと気づいたんだ。」

 パチパチとキャンプファイヤーの組み立てた木の燃える音も、生徒達の騒ぐ声も段々耳に入らなくなってきた。

「それで、亜里抄の事を考えたら、俺も亜里抄と同じような考えに行きついた。確かに自己満足と言えば自己満足だけど・・・・・・そういう事を言いたいんじゃ無て・・・・・・」

 言いたい事は解っているはずなのに言葉に出来ない。簡単な言葉なのに、単純な言葉なのに口から出ない・・・・・・でも、ここで言わなくちゃいけないんだ。

「それで・・・・・・その、亜里抄とこのまま会えなくなるのは俺嫌なんだ。これからも屋上で二人で会って色んな話をしたいんだ。俺にとって亜里抄と会って話すのは何よりも大事なんだ。だから・・・・・・これからも屋上に来てくれないか・・・・・・」

 喋りながら涙が出てた。普段の俺なら考えられない、泣きながら叫び、伝える事。普通に喋ってたはずなのにいつのまにか気持ちが抑えきれなくなっていた。

「馬鹿、それじゃあ告白じゃない・・・・・・」

 涙を流し続ける俺を亜里抄は抱きしめ、

「私だって、匠と一緒にいたいよ。屋上で初めて会った時からなんかほっとけない感じがしてた。ぶっきらぼうで、歳下なのに生意気で、敬語も使わない後輩君。そんな匠と話してるのが楽しかった。一日で一番大切な時間だった。だからあの日、私は匠に拒絶されたと思って凄く悲しかった。準備の事よりも悲しかった。ここに来るのも凄く勇気が必要だったんだよ?でも、来なかったら絶対後悔するって思って・・・・・・だから・・・・・・ここに来て良かった。」

 俺を抱きしめる亜里抄の体は、思ってた以上に小さかった。亜里抄の体を俺も抱きしめた。理屈じゃ無い、心で感じた事を言うだけでこんなに気持ちが近づくなんて。

「俺、こういう感情を初めて感じたから・・・・・・人によっては違うと言うかもしれないけど、亜里抄の事、好きだと思う。」

「馬鹿、普通に好きって言えないの?」

 暗い屋上で、グラウンドではキャンプファイヤーが燃え続ける中、生徒達が文化祭の余韻を感じている中、















        俺と亜里抄はお互いの素直な気持ちを確かめあった。






















「佐藤、また行くのか?」

「うるさいな。」

 放課後になったので屋上に行こうとしたらあいつが喋ってきた。文化祭後、必要以上に俺に話しかけるあいつを見て、クラスの奴らは驚いていた。そしてさらに、ベースの女とキーボードの女も俺に話しかけるようになり、クラスの奴らは混乱していた。正也は学校で話さなくなった事を詫びてきたが、学校以外では変わらなかったので俺は気にしていなかった。

「でも小説のような出会いだよな、お前とあ「それ以上言うな。」」

 あいつが俺と亜里抄の関係を口走りそうになったので、それ以上言わないように手で口を押さえた。基本的に、誰にもこの事は話していないはずなのに、何故かこいつらは俺と亜里抄の事を知っているみたいで、たまに茶化してくる。どこで見られたのか・・・・・・

「ね~佐藤、今度さ~亜里抄さんに会わせてよ、いろいろ話したいんだけど。」

「私も亜里抄さんと話したいです!」

「お前ら声がデカイんだよ!」

 と、あいつ以上に二人の女の方が執拗に喋ってくるので、おそらく、俺が誰かと付き合っている事は知られていると思われる。最初の頃のように、静かな学園生活とは少し離れたけど、これはこれで悪く無いのかもしれない。




「お、やっと来たね。」

「悪い、あいつらがうるさくてな。」

 俺と亜里抄の会う場所は屋上だが、放課後の早い時間なのに人はいない。。どこか、人が来なくて誰にもばれないような場所は無いかと探していたら、意外にあるものだ。そこで俺と亜里抄は会うようにしている。

「でもあのバンドのメンバーと同じクラスだったなんてね~うらやましいな。」

「普段はうっとおしいだけだ。」

「そうなんだ。」

 亜里抄が笑いながら答える。まあ、亜里抄さえよかったら今度あいつらを紹介してもいいのかもしれない。

「ね、匠。」

「何だ?」

 亜里抄の方を振り向いた時、唇にやわらかな感触が伝わった。

「え、ええ!?」

「相変わらず、突然の事に弱いよね。ファーストキスなんだから大事にしてよ?」

「俺も初めてだし・・・・・・」

 亜里抄が恥ずかしそうに笑っている。よく顔を見ると少し赤くなっている。おそらく、俺の顔も赤くなってるんだろう。

「取り敢えず、これからもよろしくね!」

「う、うん。」













「佐藤が照れてる姿って面白いね。」

「佐藤君も亜里抄さんも幸せそうで羨ましいです!」

「二人とも覗き過ぎ。」




読んで頂きありがとうございます。今回で外伝その一は終わりです。書き終えた後、転生全く関係ね~と思いましたが、本編もぶっちゃけ転生関係無くなってたんでしょうがないかなと。それもひとえに私の実力不足です。もっと考えている事をきちんと文章で著わせるようにしなければなりませんね。途中、自己満足は否定的な意味合いを含むと書きましたが、当たり前ですけど私のこれも自己満足に入ります。そんな自己満足に付き合ってくださり本当にうれしく思います。またきっと匠と亜里抄の話しは書きたいと思うのでその時は宜しくお願いします。次の外伝からは結構重い話を書きたいと思います。それこそ、超ネガティブ人間の話を。まだまだ構想全然練って無いのでこれからですけどね。では、今回も読んで頂き誠にありがとうございます!あ、あともしよろしかったらMR.BIGのTO BE WITH YOUを最後らへんに聞いてみたらいいかも知れないです。書いてる時にずっと頭の中で流れてました。良い曲なので(メタルじゃないですよ~普通のバラードです)もし聴いた事の無い人はこれを機会に聴いてみてください!実は、私が一番好きなバンドはメタルバンドじゃなくてMR.BIGです。

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