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中学一年生③

怒涛の羊よろしく、第六話です。書き始めたら止まりませんでした。本編は一応この回まで考えていたので、これからどうするか考えます。それでは今回も最後まで読んで頂けるのならば幸いです。

 夏休みが開け、段々と気温が下がってきてもおかしく無い季節になろうとしているのに、相変わらずの暑さに登校するだけで汗をかく。私は、二週間後の文化祭のために、軽音楽部のバンド練習で多忙な日々を過ごしていた。

 文化祭一日目の開催式において、軽音楽部は持ち時間二十分を生徒会側から頂いたので、一バンドだけ全校生徒の前で演奏する事が出来る。また、二日目は音楽室を丸一日使えるので、一バンド持ち時間50分とたっぷりと演奏する時間があるのはこちらとして嬉しい。これだけ好条件を与えられている事から、学校側、生徒会側からの軽音楽部に対する期待は高いと思われる。

 かく言う私は二つバンドを組む事になった。一つは私、真美、増田さんとのスリーピースバンドで、もう一つは先輩のバンドにドラムで誘われる事となった。今更だが、生きてきた年数だけで上下関係を決めるならば私はここにいる一部の教師を含めて先輩となるのだが、どうなのだろう?それはそうと、増田さんも軽音楽部に籍を置く事に決めた。冬までコンクールも発表会も無いので暇だったそうだ。夏のプール以来、真美と増田さんは親しくなり、真美が誘う形で増田さんを部に引き入れた。どのように説得したか解らないが。これらの事が重なり、最近の私は帰りの時間が遅くなっている。放課後、バンド練習後にドラムのレッスンや師匠との個人レッスンを行う。逆のパターンの場合、帰宅する時間が夜九時近くになるから加奈は少しご機嫌斜めだ。もう少ししたらクラスの出し物の方にも顔を出さなければならないのでこの時期は本当に忙しい。



「なんか、もっとこう面白い形のベースライン入れてくれない?歌メロを邪魔しないようにかつ、ベースラインが動くみたいな。」

「う~ん、解った。それじゃあちょっと違う感じで弾いてみる。」

真美と増田さんとのバンドはオリジナルを作る事になったので練習中はもっぱらアレンジ作業ばかりだ。真美と増田さんのツインボーカル、ギター無しのドラム、ベース、キーボードという編成でバンドを組んでいる。欲を言えばギターも一人欲しかったのだが、私達の要求するレベルについて来れる人がいないのでこの形になった。

「サビ前のオカズ、もっと勢いよくサビにいけるようなのに変えてくれない?ロールとかの連打系じゃない感じで。」

「了解。」

基本的に誰が曲や詞を作ると決まっている訳ではない。それぞれが家や学校で思い付いたメロディーを皆に披露して皆が良いと思ったら曲を作る。そういう形で作曲は行われる。作詞はその曲でしたい人が行う、という事を取り入れた結果、増田さんがほぼ全ての作詞を担当する事になった。増田さんの書く詞は恋愛ものが多く、時に女性ならではの繊細で優しい感じの詞を書く事もあれば、男性的な熱い詞を書く事もある。数曲はコピーを行うが、一度合わせた時にほぼ完璧だったので最近は常にオリジナル制作に意欲を傾けている。


「これで三曲出来たね。あと二曲くらい作ってみる?」

「じゃあインストでも作る?プログレ的な!」

練習後、それぞれが自分達の楽器を片づけている時に何気ない一言を真美が発した。

「いいね。客の反応は悪いだろうけど。」

「ま~プログレを好んで聴く中学生なんてあまりいないからね。増田さんは聴く?」

「私はあまり聴かないな~。」

ですよね~と私と真美は顔を合わせた。それぞれ、片づけが終わり準備室を出ようとした所、部長が準備室に入ってきた。

「お、危ない危ない。もう帰る所だったのかい?」

少し慌てた様子で部長は私達を見渡した。

「どうしたんですか?」

「いやね、君達に頼みがあるんだよ。」

部長は一呼吸おいから、

「君達のバンドを開催式に出す事に決めたから。」

と、私達を見て言葉を紡いだ。



「ここ一カ月凄く忙しそうだね。文化祭が近いから?」

ドラムを叩き終えた後、師匠が私に向かって問いかけた。

「忙しいですね。疲れてるように見えます?」

うん、と師匠が頷いた所を見ると、私は見て解る位に疲労がたまっているようだ。自分自身では忙しいなと感じるだけだが、体は外に向けて信号を出していたらしい。

「ま~体を壊さないように気を付けてね。ドラマーは体が大切だから。じゃあ今日は早い所切り上げて夕飯でも食べに行くか。親御さんにはちゃんと連絡しとくからゆっくり片づけていいよ。」

師匠は立ちあがると、スタジオを出て行った。周りの人が心配するくらいに私は無茶をしていたのだろうか。それとも要領よくこなせていなかったのか。長く生きてきたつもりだったがまだまだ改善すべき点は色々あるな、と考えさせられた。


 師匠と近くの定食屋に入ると店は会社帰りのサラリーマンで溢れていた。スーツを身に纏い、酒を口にしているのを見ると飲酒したい気持ちになるが、未成年なので後数年我慢しなければならない現実を思い出した。

「なんだ、良も酒を飲みたいのか?」

私が恨めしそうに隣のサラリーマンの飲む所を見ていたのが解ったのか師匠が私に問うてきた。

「いえ、別にそういう訳では・・・・・・」

「はは、中学卒業したら飲ませてやるよ。」

笑いながら、師匠は店員に注文を行った。私も一緒に軽い食事を注文した。疲れている時に重い食べ物は喉が通らないからだ。師匠は店員が運んできた水を口に少し運んだ後に、私を見て、

「それはそうと、バンドは楽しんでるか?」

と言った。それの意味する事は簡単な用で深いと私は思った。長年、音楽業界にいる師匠ならば私が経験した以上の事を身に染みて経験したのだろう。

「ええ。楽しくやってますよ。」

私が笑顔で答えたのを見て、師匠は軽く笑った。だがその目はどこか遠くを見ているようだった。純粋に楽しんで演奏していた時が懐かしい、そして今、その時期である私が少し羨ましそうな目だった。そんな師匠を見て私は尋ねずにはいられなかった。

「師匠は、まだバンドをやりたいと思いますか?」

私のその問いに師匠は面をくらったような顔をしたが、直ぐに

「そうだな・・・・・・やってみなければ解らないけど、心から楽しいって思える事は十年近く無かったよ。」

と、答えた。それは趣味で行う事と、仕事で行う事の差。よく、好きな事は趣味に留めておいた方が良いと聞く。趣味で行うのならば自分だけが楽しければいい。そこに周りの重圧や大きな責任が伴う事は無い。だが、仕事となると別問題だ。仕事に結びつく事になると自分が目に見えてる以上に多くの人と繋がる事になる。自分一人のミスで最悪、誰かが首を切られるかもしれない。自分のせいで誰かが路頭に迷う結果につながる可能性があるのだ。お金を貰って仕事をする以上、これはどうあがいても仕方の無い事だ。

「それでも俺は、この仕事に就けた事に誇りを持ってるよ。嫌な事もあったし、認められるまで回り道もした。それでも後悔なんてしてない。俺は胸を張って、職業はプロのドラマーだと答えるよ。」

胸を張れると答えた師匠は輝いて見えた。業界の汚い所を見てきただろう、大きな挫折を味わったのだろう、現実を見る事で理想が崩れた事もあったのだろう。それでも後悔をしていないと言う師匠に、大人に私は成らなければならない。大人というものは皆そういう生き物なのだから。私はまだまだ社会の事は知らない。知って行かなければならない。

「ま、こんな辛気臭い話をするためにお前を飯に誘った訳じゃないんだがな。」

苦笑いをしながら、師匠は頭を掻いた。

「とにかく、今を精一杯頑張れって事だ。勉強でも、ドラムでも、恋でもな。人生はゲームみたくセーブ、ロード機能なんて付いてないからな。どうあがいても後戻りが出来ない一方通行の道なんだ。」

「そうですね。俺も精一杯、今を生きます。」

師匠の言葉が胸を突く。どれだけあがいても後戻りが出来ないんだ、人生というのは。私があの時、周りをよく見ていたならば・・・・・・と考えても今になってどうする事も出来ない。過去の過ちを次に生かすしか道は無い


 ようやく、私達のテーブルに料理が運ばれた。頂きますと言い、ご飯に箸を着けようとしたその時、

「そう言えば、真美ちゃんともうやったのか?」

師匠の何気ない一言で私はご飯に箸をさしてしまった。

「な、何言ってるんですか!真美とはそういう仲じゃないって何度言えば解るんですか!」

私がうろたえている事が珍しいのか、師匠は大笑いをしている。

「何、隠さなくていいって。あんだけイチャイチャしてるのを見せられるとこっちもちょっとムカつくんだよ。あんな可愛い子と付き合いやがってよ。」

私と真美が一緒にスタジオにいる時や、増田さんと真美と三人で学校帰りに楽器屋や、ファーストフード店にいる時に、何故か師匠に会う事を思い出した。その度に茶化してくるのだ。

「だから付き合ってないですってば!」

笑っていた師匠が急に真剣な顔になり、

「じゃあ、何か。テメーは真美ちゃんだけじゃ物足りなくあのお嬢様っぽい子とも遊んでるのか?おいおい、俺はお前に二股だけはするなと言ったはずだぜ?」

と、怖い顔で言った。

「だから、二人ともそんな関係じゃないですってば!」

その後、師匠に二人とも何も関係が無い事を説明して納得させるまでに三十分かかった。


 店を出ると一台のタクシーが止まってた。

「もう遅いからな。今日は俺が付き合わせたんだ。お前はタクシーで家に帰れ。金は心配するなよ。」

と、言うと、師匠は私に五千円札を渡した。夕飯を御ちそうしてくださったのにここまでしてもらうのは相手が社会人とは言えさすがに悪い。

「大丈夫ですって!僕電車で帰れますし!」

「いいから黙って言う事聞け。弟子は師匠の言う事をちゃんと守るもんだぜ。それにほら、タクシーの運ちゃんもお前を連れていけないと商売あがったりじゃねぇか。」

「でも・・・・・・」

「いいから乗れ。お礼なんて考えるなよ。それでも何かを返したかったら、文化祭でお前が出来る最高のプレイを最高に楽しんでいる姿を俺に見せろ。それこそ、俺がもう一度バンドを組んで楽しみたいと思わせる位にな。」

そこまで言われて私は師匠の恩を受けない訳にはいかなかった。

「師匠、ありがとうございました。」

私は師匠に頭を下げてタクシーに乗り込んだ。タクシーに乗り込んでから師匠の方を見ると、師匠は私の方をずっと見続け、一言、頑張れよと言って踵を返した。

 


 それから、家に着いた後に師匠から一通のメールが届いた。内容は文化祭が終わるまで個人レッスンは無し、文化祭終了後に真美と増田さんと私とでご飯を食べに行く事、そして最後に精一杯楽しめという事が書かれていた。    










 速い物で、あっという間に文化祭当日を迎えた。クラス展示の準備も無事に終了し、後は文化祭を楽しむだけだった。私達は開催式を行うために近くのホールに向かった。私はスネアとペダル、スティックを持って、真美はベースとエフェクターケースを持ち、増田さんはキーボードを背負いホールの裏側へ向かった。

「よ~し、私達の初ライブだ!気合入れて行こうぜ!」

「まだ時間じゃないよ。今は楽器を置きに来ただけ、そうでしょ?」

うん、と元気よく真美は頷いた。ステージ裏に着くと、既にダンス部がステージでリハーサルを行っており、その後ろに部室にあったアンプとドラムセットが準備されていた。

「いつの間に運んだんだろう?」

「ジョバンニが一晩でやってくれました。」

増田さんの問いに真美がふざけて返す。その問いが面白かったのか、増田さんは上品に手を口に押さえて笑っている。本当にこの二人は最初の頃が嘘かのように仲良くなった。


 それから私達はリハーサルを軽く行い、ホールで昼食を取り、クラスの皆が来るのを待った。皆が来ると私達は合流し、指定の座席に腰を掛け、開催式を迎えた。オープニングから始まり、数々の催し物が行われ、多いに盛り上がった。同じクラスの友人も、初めての文化祭に目を輝かせて楽しんでいた。私も何十年ぶりかの中学校の文化祭の開催式を楽しんだ。

 私達の出番が次にさしあたった所で私達は席を離れステージ裏へ向かった。ステージ裏に着いた時には私達の前のダンス部の演技が終わり、幕が下がっていた。業者の人達が楽器をセッティングしていたので、私達も急いで楽器を取り、それぞれの楽器をスタンバイした。軽く音出しをした所で一度ステージの真ん中に集まった。

「私達の初ライブだね。」

「気合入れて行こう!」

「あんまり気負いすぎるなよ?楽しく行こうよ。いつも通り、観客を楽しませるのも大事だけど、僕達が皆楽しまなきゃ意味がないよ。」

ステージの真ん中でそれぞれ思った事を言い放った。

それから私達は円陣を組み、

「良、何か言いたい事ある?」

真美が私に向かって言った。

「そう言えば、師匠が文化祭終わったら皆でご飯食べに行こうだってさ。」

「「それ今言う事?」」

真美と増田さんが笑いながら言った。気を取り直して、

「それじゃあ思いっきり楽しみましょう。真美は?」

と言い、真美に繋げた。

「私からは、音楽を楽しみましょう!これだけ!はい次、まっちゃん!」

ちなみにまっちゃんとは増田さんの事だ。

「皆で楽しく音楽を演奏しよう!」

結局、皆音楽を楽しむためにここにいる。それでいいんだ。

「それじゃあ音楽を楽しもうぜ!」

「「オー!」」












 



 二日に渡って行われた文化祭もいよいよ終わりを迎えようとしている。今、私達はグラウンドで行われているキャンプフェイヤーを準備室から見ている。

 初日のライブは大盛況で終える事が出来た。私も真美も増田さんも、持てる力を精一杯出し切り、楽しく演奏をした。それが伝わったのか、一曲目、二曲目と次の曲に行く度に盛り上がっていった。最後は大きな拍手と声援を貰い、私達は感動を貰った。

 嬉しい事に、開催式が終わり学校へ戻る途中に、同じ学年の女子や先輩達から話しかけられたりしたのだが、真美と増田さんが良いタイミングで話しかけてきたり体を入れてきたので話すタイミングを逃してしまった。私が他の女子と仲良くなるのを好しと思えない理由でもあるのだろうか?小倉からは死ねと散々言われた。

 次の日、午前中はクラス展示の場所に私はいた。観に来る一般のお客さんの相手をしたりと中々忙しかった。

 午後は音楽室に向かいライブを行った。私と真美と増田さんのバンドは開催式効果もあり、音楽室の中が人で溢れていた。それこそ小さなライブハウスに有名バンドが来た時みたいな感じに。ドラムの位置から見ていてダイブやモッシュをしたら楽しいだろうなと思いながら演奏をした。今回も最高に楽しく演奏する事が出来き、終わった後に師匠から俺にドラムをやらせろと言われた。可愛い女子中学生とバンドが組めるなんて事あり得ないんだぜ?と笑っていたが、私達の演奏を見て何か思ってくれたのだろう。素直に、師匠にそのように思わせる事が出来て嬉しかった。

 その後、先輩達とのバンドのライブも行い、無事に中学一年生の文化祭は終了した。


「なんか、あっという間だったね。」

窓からグラウンドを見ながら増田さんが喋った。あっという間に始まってあっという間に終わった文化祭の余韻に浸っているのだろう。

「そうだね。」

私も窓からキャンプファイヤーを眺めてそう答えた。私としても、これまであったどの文化祭よりも忙しく、楽しかった。素晴らしい思い出が出来たと思っていると後ろから頭を叩かれた。

「痛いな!」

「何余韻に浸ってるんだよ!俺は全然満足してないぞ!」

そう言えば小倉とはバンドも組んで無かったので文化祭期間中はあまり会っていなかった。

「知らないよ。」

僕がそう答えると、小倉は何でお前ばかり良い思いするんだよ!と叫び泣いてしまった。確かに私は他の人より得をしているのかもしれない。

「あ、キャンプファイヤー終わっちゃうよ!ね、最後は皆でグラウンドで見ようよ!」

真美の問いに、

「それもそうだね。小倉、外行くよ!」

私は小倉を引き連れて外へ向かった。後ろに真美と増田さんが仲良く話しながら着いてくる。

 グラウンドに着くと、調度キャンプファイヤーが燃え尽きる所だった。それを四人で見て、私達の文化祭が終了した。最高の思い出と共に、二度と戻らないこの時を胸に仕舞い込み、私の二回目の、そして最高の中学一年生の文化祭が終わりを告げた。

読んで頂きありがとうございました。今年になって歳が一回り以上上の方と話す機会を多く頂きました。その人達が経験してきた事を聞く度に、重みが伝わってきて違うんじゃないかと感じても、違いますよね?と軽々しく話せない、という事を経験しました。彼らのそういう話を聞いて、ただ時間の無駄にするか、自分の人生に活かす事が出来るかは自分次第なんですね。過去から学び、それを次に活かす、これが大事なのではないかと私は思います。違うと思ったのならば、そのようにならないようにする。そうだな、と思ったのならばそれを活用する。何事も使いようでどうともなるみたいです。

それでは今回も読んで頂き本当にありがとうございます!もっともっと読みやすくなるように頑張りたいと思います!

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