中学一年生②
本編第五話です。早い物でもう五話目です。徐々にアクセス数、PVが増えて行くのを見る度に読んで頂いてる皆さまに感謝、感謝です。それでは今回も読んで頂けたならば幸いです。宜しくお願いします。
「暑い・・・・・・」
「言うな、もっと暑くなる・・・・・・」
扇風機の前で真美が力無く喋る。今、私と真美は学校の音楽室、の隣の隣の準備室にいる。通常、音楽室は吹奏楽部が使用する。それなので、軽音楽部はその隣のさらに隣の第二音楽室準備室で活動を行う。準備室と言う名目だが、言うほど狭く無い。それなりの防音をしているはずらしいが、音はダダ漏れなために、よく吹奏楽部の人達といざこざがある。そして、今年の夏は例年に比べて暑い。裸足でアスファルトを歩いたら低温火傷するのでは無いだろうか?
「音出す時に締めきらなくちゃいけないならクーラー付けてよ。扇風機だけで何とかなる訳無いじゃん!」
「じゃあスタジオで練習する?」
「今月お金無いから無理!」
と言う訳で、私と真美はここで練習している。当たり前だが、音を出す時は窓、ドアを締めきらなければならない。そうすると熱がこもる、演奏していくと自然と体が熱くなる、また熱がこもる。この悪循環の繰り返しだ。
「服脱ぎたい気分・・・・・・」
「頼むから僕の前で裸に成らないでね。」
「お、良は私の裸見たくないの?」
真美はシャツの首元をブラが見えるか見えないかの瀬戸際まで伸ばし悪戯っぽく笑った。
「そんな事しなくても汗で透けて見えてるよ。」
「嘘!?」
「嘘です。」
そう言うと、真美は私の方に向けて近くにあったペットボトルを投げつけた。少しデリカシーが無かったのだろうか?
この準備室を実質スタジオ化している軽音楽部は、時間を決めて各バンド事に利用している。学内のライブが近い時は時間がびっしり埋まるらしいが、それが無い時はガラガラに空いている。そんな時や、どのバンドも入っていない時は自由に使っていいというのが暗黙のルールだ。夏休みの午前中という時間帯にバンドが練習を入れてる訳も無く、私と真美は二人でここにいる。時間表を見ると、二週間後までバンド練習が一切入っていない事が解る。ここにあるアンプは私立の学校なだけあっていいアンプを置いている。中学校の軽音楽部にアンペグやマーシャルのスタック、ジャズコーラスが置いてあるものなのか?
「真美、ちょっとギター弾きたいから窓閉めるよ。」
「わかった~。」
ギターのヴォリュームを上げてギターをかき鳴らす。最近、キングクリムゾンにはまり始めたのでその曲をよく練習している。21st Century Schizoid Man including Mirrorsの最初のリフを弾き始めるとそれに合わせて真美も弾き始めた。ドラムが無いのが寂しいが、それでも曲として何とかなってると思いたい。この曲の難しい所は最初のゆったりしたテンポからの転調、そしてまた戻る時にもたってしまう可能性が出てくる所が一番厳しい。他にも、全てのパートがきっちりと合わせなければならない場面が多数あるので、バンドで合わせるとなると一人一人がしっかりとリズムを把握して無ければ全くと言っていいほど形にならないだろう。
私と真美が弾き終えると同時に準備室のドアが開き、小倉が中に入ってきた。
「やっぱ良と真美さんか。」
開口一番に私と真美を特定する言葉が出てくるのはどうしてだろうか?
「何でって顔してるけど、あんな難しい曲弾けるのお前ら位しかいないよ。同じ学校にお前らレベルがいっぱいいたらこっちが困る。」
世の中には同い年で同じ位、それ以上は山ほどいるだろうけど、小倉の言う通り、同じ学校に沢山いたら嫌になる気持ちは解ら無いでもない。
「それはそうと良、ドラム叩いてくれないか?今度のライブでこれやるんだけど。」
と、言い私にスコアを渡してきた。曲はグリーンデイのAmerican Idiotだった。これならば真美と私で一度だけ合わせた事があったから直ぐに出来る。
「いいよ。真美も弾けるはずだから皆でやろうよ。American Idiot覚えてるでしょ?」
「覚えてるよ~歌も歌おうか?」
「頼みます。俺コーラスだからさ。」
ギターをアンプに接続しながら小倉は答えた。それと同時に私はドラムスローンに座り、真美はマイクスタンドを調整し始めた。それぞれの準備が整った所を見て、
「じゃあ、やろっか。」
小倉のギターから始まり、私達は曲を演奏した。
「まったく、リズム帯がしっかりし過ぎてCDに合わせてる気分だったよ。」
小倉がギターをスタンドに掛けながら私の方を見て喋った。
「そりゃどうも。」
「ま~あれくらいならね~」
演奏が終わると直ぐに窓を開け、扇風機の前で陣取っている真美もそう答えた。小倉が水を飲みつつ、
「そう言えば良は目ぼしいドラマー見つけたのか?ギターでバンドやりたいんでしょ?」
と聞いてきたので、私は
「いや~手数が多い人はいるんだけどリズムがね~。真美がリズムしっかりしている人じゃなきゃやりたくないって言うから結局僕がドラムやる事になるかも。」
「ぶっちゃけ良より上手い人いないよ~ライブで見て解ったもん。」
自惚れる訳では無いが、真美の言葉は本当だった。私が入るきっかけになった先輩もドラムだったが、ぶっちゃけそこまで上手く無い。ドラムを初めて一年と言う事だったが、私が一年経った頃よりも全然下手だった。先輩には練習出来ない理由があったのだが。
「ま~良より上手い人ってあまり見かけないしな~。」
「いっぱいいるよ。師匠とか雲の上の存在だよ。」
「良の師匠プロだしね~。プロの中でもトップレベルだし当たり前じゃない?」
そんな話をしていると、またドアが開き人が入ってきた。
「お疲れ様です!」
小倉が持っていた水の入ったペットボトルを置いて挨拶をした。先輩が入ってきたのだろうと思い、後ろを振り向いたらあの先輩がいた。
「おいおい、良君は挨拶しないのかい?」
「・・・お疲れ様です。」
少し睨みつけて挨拶をしたら先輩は笑いながら、
「冗談だよ。そんなに睨まないでくれよ。こっちがビビるってば。」
と言った。
「前田先輩は見た目が怖いんで冗談に聞こえないんですよ。」
「確かに。」
小倉と真美がそれぞれそう言うが、前田さんは笑ったままだった。あの時の印象は最悪だったが、本当は優しい人なのだ。三年生の人からそうしろと言われたので仕方なく、行ってただけらしい。
「前田さんはサッカー部に行かなくていいんですか?」
「もう終わったよ。今日は午前だけなんだ。」
前田さんは軽音楽部とは別にサッカー部に入っている。本業はサッカー部の方なのであまり練習は出来ないらしい。
「それにしてもさっきの演奏は君達かい?プロがいるのかと思ったよ。」
「そんな、プロだなんて褒めすぎですよ。」
調子よく小倉が笑いながら答えるが、断じて小倉のプレイがプロレベルな訳が無い。
「小倉君は今年入った部員の中で一番ギター上手いけど、君達は僕達とレベルが違うね。小学生の草サッカーに高校生の全国レベルが入ってきたみたいだ。」
サッカーに例えて前田さんが説明する。その例えは予想以上に的を得ていた。
翌日、私は真美と前田さんと加奈と小倉で近くのプールに来ていた。夏休み中、連日の猛暑により、プールは超満員状態だった。
「人多すぎだろ・・・・・・」
「皆考える事は一緒なんだよ。」
小倉と共に、私は人の多さに少しばかり不満を抱いた。ビキニ姿の女性を見る度に、小倉は喜びを隠せないでいたが、その気持ちは私も解るので黙っている事にした。
「おい良、ここにいる人達のレベルは高いけど増田と真美さんも期待できるんじゃない?他の奴らからしたら羨ましい事なんだろうな。」
「・・・・・・確かにあの二人は可愛いけど。」
真美も増田さんも人気が高い事は私も知っている。そして、二人と親しくしている私に非難が来ている事も承知している。だが、今の段階で私は特定の誰かと付き合おうという考えは無い。同い年なのに恋をしてしまえばロリコンと言うレッテルを貼られそうな気がしてならないのだ。誰も私の本当の事を知るはずもないのに。それにあれほどルックスがいいのだ。私よりも似合う人がいるだろう。
「加奈ちゃんも後少ししたらとびっきりの美人になるだろうな。今でも十分可愛いけど・・・・・・お義兄さんと呼んでもいい?」
「殺すぞ?」
「じょ、冗談だよ冗談!マジになるなよ、目がめっちゃ怖いんだけど・・・・・・」
冗談でもそんな事は言うものでは無い。加奈と付き合う人は俺がしっかりと見定めなければならない。どこぞの馬の骨に加奈の操を預けてなるものか。
「お、待った~?」
「遅いよ、やっとき・・・・・・」
ようやく三人が来たと思い、二人で振り返ると私達は言葉を失った。学校のプールの授業とは違い、それぞれがビキニの水着を着ていた。増田さんは見る者全てが奪われるほどの、中学一年生とは思えないほどの胸がスクール水着以上に強調ささって目に毒だ。真美は胸は普通だが、モデル並みのスタイルの良さが露骨に表れ、足フェチにはたまらない魅力を醸し出していた。加奈は、私は肉親だから小学生の割に発育が良いとしか思わないが、そのルックスはロリコンじゃなくても手をだしそうになるのではないだろうか。
「どうしたの?固まって。」
真美の問いにハッと我に返って、
「いや、何でも無いよ。ね、小倉。」
「そ、そうだね良。」
私達は互いに肩を抱き笑って誤魔化したが、加奈が不機嫌そうに、
「お兄ちゃん、絶対増田さんの胸見て固まったでしょ?」
と言い、増田さんの後ろから両手で胸を揉んだ。
「きゃ!?ちょっと加奈ちゃん!」
「どうしたらこんなに大きくなるのよ!」
「確かにね~私も小さくは無いのに・・・・・・」
加奈が増田さんの胸を揉み、真美は一人で胸を見て落ち込むという謎の状況。加奈の手により豊満な増田さんの胸が色々と形を変えていく。非常にけしからん光景である。けしからん!もっとやれ!・・・・・・と言いたい所だが、小倉が鼻を押さえそうになったので、
「か、加奈。もう辞めるんだ。増田さんも嫌がってるじゃないか。それにそろそろやばそうな人がいる。」
加奈に辞めるように言った。手を掴めば速いのだが、そんな事をしたら増田さんの胸に触れてしまう。
「え~でもお兄ちゃん、もっと見たいって顔してるよ?ほらほら。」
加奈の揉む手が本格的にやばくなってきた。これはいけない!
「ちょっと加奈!辞めろって!」
「きゃあ!!」
考えるよりも先に体を動かしたために、加奈の手を離すため掴んだ私の手が増田さんの胸を少しだけだが揉んでしまった。
「ご、ごめん増田さん!」
「お兄ちゃんへんた~い。」
「見損なったよ、良!」
真美と加奈が私を軽蔑の目で見てくる。だが、加奈の目は笑っていた。間違いなく確信犯だった。
「い、いや全然気にしてないよ!それに・・・・・・」
増田さんは苦笑いをしながら答えた。最後の方は小さくてよく聞こえなかったが大丈夫だろう!ふと小倉の事を思い出して小倉を見たら、小さく蹲って鼻を押さえていた。
「おい、大丈夫か!?」
「良か?大丈夫とは言えないが、今日この場にいる事を俺は誇りに思う。」
恐らく、鼻血を流しながら生理現象が起きたのだろう。私は小倉をそっとしておく事に決めた。
それから私達は気の赴くまでプールで楽しんだ。途中、加奈が危ない人達に声を掛けられると言うハプニングが起きたが、監視員の人に急いで連絡をする等をして何とかその場を乗り越えた。
「楽しかったね、お兄ちゃん!」
「楽しかったけど、悪ふざけしすぎだろ?」
えへへとほほ笑みながら加奈は私を見た。いつもなら愛くるしい笑顔なのだが、今日に限って小悪魔のように感じた。加奈の将来が少し心配になってきた。
「小倉君大丈夫かな?最初からずっと蹲ってたけど・・・・・・」
「大丈夫大丈夫、あいつは私達の体を見て興奮しただけだから。ね、良?」
「いや、恐らく暑さにやられたんじゃないかな。」
「そうなんだ~。」
にやにやしながら加奈は私を見た。あいつの名誉に誓って本当の事を言う訳にはいかない。
今日は私と小倉にとって忘れられない日になったのは言うまでも無いだろう。特に小倉にとっては。
「また皆で一緒に行こうね~ね、加奈ちゃん?」
「うん!今度、真美さんも増田さんも私達の家に来てよ!いっぱい遊ぼう!」
加奈が無邪気に笑いながら喋っているが、顔が悪い顔つきになっている。何が起こるか考えただけでも胸があつく、寒気がしてくる。
こうして、中学生になって初めての夏休みが終盤へ向けて始まった。私はしばらく師匠の所にお世話になろうか本気で考え始めた。
読んで頂きありがとうございました。今回は未熟ながら、精一杯頑張らせて頂きました。今後も、思う事を文章で伝えれるように努力して行きます。それでは、今回も読んで頂きありがとうございました。