高校一年生③-1
遅くなりました……そして、良編再開です。ま~、いろいろありましたが、今回も皆様が楽しんで読んでくだされば幸いです。では、どうぞ宜しくお願いします!
「良、ピッチがずれてる。ちゃんとオクターブ合わせたのか?」
「すみません。」
私は急いでチューナーのスイッチを踏み、オクターブの確認をする。ほんの僅かだがGとBのオクターブが高い。僅かな音の違いでも、レコーディングにおいては多大に影響をもたらす。世に出す以上、バンド側、レーベル側、共に妥協を許さない。それが商業ラインに乗せて音楽を出す者の義務である。
「確認しました。今度はバッチリです。」
「本当か?弾いてみろ?」
「はい。」
再度チューナーのスイッチを押し、ギターの音が出るようにする。そして全開放弦を鳴らした後、それぞれの弦の単音を弾いた。ガラス窓の向こうからエンジニアがOKサインを出す。
「じゃあもう一回。今度こそしっかり決めろ。駄目だったらお前はギタリストとしては首だ。」
「はい。行きます。」
ヘッドフォンからクリック音が聴こえ始め、私はギターをかき鳴らした。
「良、コーラスなんだけど……あんたのコーラス入れる?ぶっちゃけ無くても良いような気がするんだけど。」
「ああ……じゃあ無しで行こうか。今後は全部歌系は真美と江利子に任せるよ。」
水を一口飲んだ後に私は答えた。今まで何曲か私もコーラスをする場面があったのだが、レコーディングしている内に女性陣だけのコーラスでも十分だと感じた。むしろ所々音を外してしまう私を外す方が良いのではと考えていた所だった。
「じゃあ私達だけね。良は後何も無いでしょ?どうする、帰る?」
「どうしようかな……」
「迷うくらいなら残りましょうよ!皆で一緒に帰りましょう!」
「そうしようかな。じゃあ見ているよ。頑張って。」
残りは歌物だけなのだが、一応残る事に決めた。
夏休みが終わり、私達はレコーディング作業に勤しんでいた。シングルに出す用にと二曲レコーディングする事になり、一曲は歌を入れるだけで完成という所まで来た。わざわざ曲を作ってからレコーディングと言う訳では無く、既存の曲をシングルで出す事に決まったのでそこまで時間は掛からない、と思っていたのだが、私以外の二人は始めてのレコーディングにだいぶ手こずってしまったようだ。プロデューサーの要求する事に即座に理解、対応する事が難しかったらしく、二人共最初は戸惑いを隠せなかった。だが、彼女達の適応力は凄まじく、翌日にはもう要求していた事に直ぐさに答える事が出来ていた。そして、この中で一番時間を使ってしまったのが私のリズムギターである。スタジオ音源だから音を厚くしてはどうか、と言う事でリズムギターを入れる事にしたのだ。そこまで難しい事をしないのだから私でも大丈夫だろうと思い、プロデューサーに伝えギター録りをしたのだが、私が思う以上に音、ピッチについて厳しく駄目出しされた。そのせいで歌入りするまでにだいぶ時間が掛かってしまった。もしかしたら、今後はギタリストを呼ばれるかも知れない。ギターの方も結構自信があったのだがだいぶへこんだ。
ドラムの方は良くも悪くもいつも通りだったのだが、そろそろ新しい金物系に変えなければならない。ただ、レコーディングやこのバンドに使っている物は安い物ではない、そこそこ値段がはるのが悩みの一つだ。経費として落ちれば良いのだが、世の中そんなに甘くは無い。もっとも、有名になるなりしたらメーカーと契約、タダで試供品を貰えたりするのだが……今の私には関係無い話だ。
「良、あのギターだけどよ。次使う時までにメンテ出しておけ。そうじゃ無かったら今後は二度とお前にギター弾かせないからな。」
ギター録りが終わると同時に、プロデューサーは私のそう言った。
ギタリストの方も何とか首にならずに済んだようだ……何とかではあるが。
「明日学校か~……てか、そろそろ文化祭だね。もう出れないのかな?」
「ま~、言えば何とかなるかもしれないけれど……今回は駄目だろうね。まだレコーディング終わってないし。それに直ぐにアルバムの方もあるからね。」
休憩室で椅子に座りながら私は答えた。数週間後に文化祭が行われる。だが、今回は私達の出番は無い。個人個人ならまだしもバンドとしてならばいささかややこしくなるからである。まだ契約したばかりでかつ、レコーディングも終えていない今の時期に色んな人にこれ以上忙しくさせたくない、との皆の意見で今回は自粛する形となった。
「そうだ、真美さんも良くんもこれからお時間ありますか?良かったら家でご飯食べていきませんか?」
「え、いいの?もちろん行くよ!良も行くでしょ?」
江利子の誘いに真美は乗り気で答え、私に問うてきた。だが私は、
「ごめん、二時間後に学校でバンド練習なんだ。」
そう答えた瞬間、二人は驚くようにこちらを向き、
「いつのまにバンド組んでたの?」
「何で私を誘ってくれなかったんですか!?酷いです!」
真美は少し呆気に取られた顔をしながら、江利子はむっとした顔をして尋ねてきた。
「いや、その時二人とも大変そうだったしさ。それに小倉とだよ?」
「でも、メンバーに女の人とかいるんじゃないんですか?」
ジト目でそう言う江利子は本当に怖く感じる。まるで浮気は絶対に許さないと妻が夫に念を押しているかのようである。最近ますます強気な態度の江利子に少したじろきながらふとメンバーの事を考えた。私は小倉にバンドでギターを弾かないか?と誘われただけで他のメンバーもやる曲も知らない。
「そういえば誰とやるとか聞いてないな……」
小声で呟いたにも関わらず、
「ほら!ぜ~~~~ったい女の子いますよ!先輩にも同学年にも女の子いっぱいいるんですからね!小倉くんの事だから絶対入れてますよ!」
江利子は私の呟きに強くそう答えた。なぜあの呟きが聞こえたのだろうか?
「あ~、小倉だもんね……でもまっちゃん大丈夫だよ!何かあったら……ね?」
言いはしないが、解っているだろ?と念を押すかの真美の言い様である。顔は笑ってはいるのに目が笑っていないのはそのためだろう。二人ともう一人と長年過ごす事によって目は口程にものを言う事を身を持って知る事が出来る。
「ま、まあ……何も無いと思うよ……うん。」
二人の物を言わない迫力にたじろきながらも、何も無いであろう事を伝えた。誰でも良いからこの空気をどうにかして欲しい、そう思っていると部屋の中にマネージャーが入ってきた。
「お、皆揃ってるね。今日はお疲れ様~、次なんだけど来週の金曜日の17時からだね。忘れてないよね?土日はいつも通りの時間ね。」
「解ってますよ。」
「はいは~い、覚えてますよ~。」
「大丈夫です!」
「なら良かった。取り敢えず今日はお疲れ様。次からはもう一つの方だけど……それにしてもレコーディングってこんなに早く進むものじゃ無かったんだけどな~。」
マネージャーの呟きも最もである。新人バンドのレコーディングは一曲だけだとしてもこんな短時間で終わるハズは無い。長年活動を続けセミプロ、プロレベルのバンドならいざ知れず、高校生バンドではまず無いだろう。あまりにもレベルが低すぎてプロがレコーディングする場合もある。
「良くんは元々プロでしたしね。」
「良は元より君達二人も十分プロレベルだよ……技術もあって曲作りの才能もあるのか……ほんと、君等みたいなのが上に行くんだろうね……」
マネージャーが若干羨ましそうにこちらを見て言った。元々ミュージシャン志望だったそうなのだが、大学時代に自分の限界を感じて諦め、マネージャーになったそうだ。まだ入社して三年目と年齢が若い分そう思う気持ちは大きいのだろう。
「ま、取り敢えず今日はこれでおしまい!機材は……僕が全部積み込むのか……そしてそれぞれの家まで持って行くと。そうだ、ついでだから家まで送るかい?これから何処か行くんだったらそこまで乗せていってあげるよ?俺も会社に戻るし。」
「じゃあ私をまっちゃんの家まで送ってよ!良は学校だって~。」
「了解。それじゃあ準備が出来たら駐車場まで来てね。」
マネージャーはそう言うと部屋を出て行った。一度ギターアンプを車まで持ち運んだ後、私達は帰り仕度を行い、部屋を出て再度駐車場へ向かった。その後、一足遅れて来たマネージャーに載せられ、それぞれの場所へと向かった。
「ありがとうございました。それではお疲れ様です。」
「お疲れ様~。」
「また明日ね。」
「お疲れ様です!」
一度私の家にアンプを置いた後、私は学校で降ろしてもらい、部室棟へと向かった。部室に入ると私以外のメンバーと思われる人が三人いた。小倉はまだいないが。
「お疲れ様です。」
「お疲れ様。」
「お疲れ。」
「お疲れ様。」
私の挨拶に三人とも私の方を向き挨拶を返した。三人の内、ベースを持っているのは早瀬と言い、中学の頃に軽音楽で小倉とバンドを組んでいた。なので、早瀬とは接点はあるが、他の二人と私は接点が無い。ドラムスローンに座り腕を組んでいる人は先輩だったと思うが、腕前は良く解らない。最後の一人は……女性だった。マイクスタンド前に椅子を置き、足を組んで座っていた。真美、江利子とはタイプの違う美人だった。確かヴォーカルをしていたのを何回か観たことがある。観客に熱狂的なファンが男女問わずにいたのを見た気がする。この人も先輩のはずである。
室内に入り、ギターアンプの方へ向かおうとした所、
「新堂、小倉は一緒じゃないのか?」
早瀬がベースアンプのセッティングをしながら私に尋ねる。
「いや、僕は一人でここに来たから……」
「そっか。」
背負っていたギターケースからギターを取り出し、スタンドに立て掛ける。エフェクターケースからシールドを出した所で、そもそも何の曲をやるのか知らされていない事を思い出した。
「早瀬、何の曲やるのか決まってるの?」
私の問いに早瀬はベースの音量を絞った後、
「聞いてないのか?Coccoの星に願いをとParamoreのMisery Busines、Decodeの三曲だ。あいつ、お前に知らせていないのか……」
呆れながら早瀬は頭を抱えた。Paramoreの二曲は聴いた事があるが、Coccoの方は知らない。それに、聴いた事があるだけで、コピー等していないのだ。つまり、今回の練習においては私は何もする事が無くなってしまう。せめて音源を何回か聴けばそれなりにコピーは出来るのだが、三曲は難しい。
「取り敢えず、早瀬は全部コピーしてきたの?」
「何とか。」
他の先輩達はどうなのだろうか?
「すみません、先輩たちは全部コピーしてきましたか?」
「俺はしたぜ。お前してこなかったの?」
私は事情を説明すると、ドラムの先輩は腕を組み始め、
「それは小倉が悪いな。でもどうする?」
と言ったので、
「ま~、最悪曲の展開さえ解ればバッキングは出来ると思いますよ。楽譜見ながらでも何とかなる気がしますしね……」
「じゃあ、俺のプレイヤーと楽譜渡すわ。」
先輩から楽譜と、曲の入ったプレイヤーを借り、私は曲を聴き始めた。丁度一曲終わった所で、
「遅くなってすみません!でも完璧にしてきたんで大丈夫ですよ!」
小倉が汗をかきながら部室内に入ってきた。
「小倉、先輩が十分前に来てるのに遅刻か?」
「す、スミマセン!」
ヴォーカルの先輩に嫌味を言われながらも、小倉は急いでギターの準備に取り掛かった。そして、終えた所で、
「それじゃあやりましょうか!!!」
と、張り切るのだが、私はつい先程曲を知らされたばかりだ。
「小倉、張り切るのは良いが、新堂は何も知らされていないようだぞ?」
「え?」
不思議そうな顔をしてこちらを見るが、本当の事である。イヤホンを耳から外し、
「小倉……僕は聞かされてないよ……」
私がそう言うと、小倉は冗談だろ、とでも言いたげな顔をした。が、私や皆の顔を見渡した後、携帯電話を取り出し確認をすると、顔が段々と青くなり、
「ごめん……メールが送信ささってなかった……」
と私を見て言った。その言葉に皆呆れはてた。
「いや~……まあ、元から良のレベルなら大丈夫だとは思ったんだよ!な?な?……というか俺が足引っ張ってたしな……」
練習が終わり、それぞれ片付けをしている時に小倉が私に言った。最初は私抜きで一度全ての曲を合わせていたのだが、如何せん個々のレベルが高い訳では無いし、初練習と言うこともありバラバラであった。私も何とかParamoreのMisery BusinesDだけは覚えて皆で合わせたのだが、私も含め皆の完成度が低かったために今日はこの曲だけを重点的に練習した。一時間前と比べると少しはましになったとは思う。他にも小倉のギターの音、リズム帯の合わせ方、ヴォーカルにバンドの音を聴く事を伝える、等指摘をしていたらあっという間に時間が過ぎていった。
「新堂、時間がある時俺にドラム教えてくれないか?」
「良いですよ。ただ、週に二日か三日位しか無いと思いますけど?」
「それで良い。今日一日でだいぶためになったと思うし。」
なんだかんだで私も忙しい身である。もうドラム教室に通ってはいないが、師匠とのレッスンはあるし、今月はバンド以外にも仕事の依頼が三つ程きている。業界内で私は、私達のバンドのドラマーとしてよりも、高校生ドラマーとしての方が知名度がある。以前と変わったのは事務所に所属しているか否かである。
「新堂、俺ももうちょいリズムと言うか、グルーブ?の取り方とかさ教えて欲しいんだ。」
「あ、私もヴォーカルの事を……」
「良!俺もギターの事を今以上に……」
一人良いと言ったがために皆が私に頼り出してきた。非常に嬉しい事なのだが、
「と、取り敢えずその話は部室出てからね。次のバンドの人達待ってると思うし。」
ここで長く居座り続ける訳にもいかないので私は皆にそう促し、片付けを終わらせ部室から出て行った。
その後、外で私は皆の質問に答え続けた。全てが終わった時にはもう辺りは真っ暗になっており、私は急いで帰路に着いた。
それから小倉達とのバンド練習、師匠とのレッスン、他の仕事、バンドのレコーディングと中々に忙しいスケジュールをこなしていった。忙しい時は何も考えずにただ目先の事を黙々とこなしていくために解りづらいが、充実している証拠でもある。時間が経つのが早く、アッという間に過ぎ去っていく。この出来事が私に今以上に良い事をもたらしてくれるはずであるから。
文化祭まで残り一週間を切り、レコーディングの方も無事に二曲録り終わり、後は編集作業を残すだけとなった。編集の方は私達は誰もやった事も無いので、違う人に任せる事になったのだが、ゆくゆくは自分達でしたいので、様々な人にレコーディングの時から色々と教わったりした。自宅で、自分のPC、ソフトを使い編集する事は出来るのだが、プロ用のツールにはあらゆる面で叶わない。それらを揃える程の費用も無いので、私の当分の目的はこれらを揃える事である。そのためにも様々な仕事をこなしてお金を貯めるしか無い。既に月の収入が新卒のサラリーマン並になり始めたので、この調子で行けば数年で揃える事が出来ると思う。
「こんなに早く終るんだったら私も何かバンド組めばよかったかな~?久しぶりにメタルやりたい気分だったし。」
「僕もギターならやりたいな。」
「ツイン踏める人良以外いないから無理だと思うけどね~」
昼休み。教室で私は真美と他愛も無い話をしていた。するとそこに、
「お~い。新堂いるかい?」
ドアの方から私を呼ぶ声が聞こえた。ドアの方を見ると千佳先輩が私を手招きしていた。千佳先輩は小倉とのバンドでヴォーカルをしている人である。
「良、千佳先輩と何か接点あったっけ?」
「あ……」
ここの所忙しくて真美に千佳先輩の事を話すのを忘れていた。もちろん江利子にもだが……
「あ、って何よ?」
「と、取り敢えず行くね!ちゃんと話すから!」
今ここで全てを話すと時間がかかってしまうのかもしれなかったので、私は千佳先輩の方へと急いだ。後ろで真美が軽く怒っているのが解るが今は気にしてはいけない!多分……
「どうしたんですか?」
千佳先輩の前に立ち、私は何か用事があるのか尋ねた。
「新堂、今日の放課後バンド練習終わった後時間あるか?」
「まあ……今日は何も無いですけど……」
「ならば少し相談したい事がある。付き合ってもらえないだろうか?」
相談と言うとヴォーカルの事なのだろうか?それならば特に私が言える事は無いのだが、
「……まあ、僕なんかでよければ良いですよ。」
私なんかで力になれるのならば断る理由は無い。千佳先輩は私が承諾したのを聞くと嬉しそうに笑い、
「それではバンド練習後に。」
そう言い残すとその場を後にした。そんな事ならばバンド練習後でも良いじゃないか。焦ってしまったでは無いか、千佳先輩は小倉曰く非常に人気のある人なのだそうだ。見た目は良い、歌は上手い、性格も良い、なので学年関係無く人気があるらしい。高校の四天王のうち一人なのだそうだ。残りの三人は知らないが。
「良?」
安心しきっている所に後ろから声を掛けられる。ああ、この威圧感は事あるごとに感じてきたものだ。振り返るのが恐ろしい。
「良くん?」
なぜここにいるのだろうか?彼女は同じクラスでは無いはずだ。振り返っては駄目だ。何か嫌な予感がする。でも真美に千佳先輩の事を伝えなければならないのだが、果たして彼女は聞く耳を持ってくれるのだろうか?否、持ちはしないだろう。ならば、私の取る行動は一つしか無い。一刻も速くこの場を離脱するだけだ。目指すは屋上、最短距離で駆け抜けなければならない。捕まったら負けだ、命は無いと思え。両足に力を入れ、駆け出そうとした瞬間……
私の両肩が掴まれた。前に進もうとするも、一向に動かない。
「良?何処に行くのかな?」
「良くん、ちょっとお話しましょうね?」
身体が教室内に引っ張られていく、二人の身体の何処にそんな力があるのか?窓際のいちばんうしろの席まで連れて行かされ強引に座された時、私の目の前に二人の女性が立ちはだかった。
「小便は済ませたか?神様にお祈りは?部屋の隅でガタガタ震えて命乞いをする心の準備はOK?」
「悪魔なりのやり方で話を聞いてもらうから……」
二人に誤解だと言う事を納得してもらうまで昼休み中所か、次の授業時間全てを使った。そして、二人が今日のバンド練習、その後の千佳先輩との相談まで同伴する事になった。
「なあ、良……何で真美さんと増田がいる訳?」
「まあ……いろいろありまして……ってお前昼休みいなかったっけ?」
バンド練習中常に部室内で静かに黙ってみている二人について小倉が尋ねてきた。やはり気が散るのかも知れない。たまに見に来る人もいるのだが、二人の放つ異質なオーラに居た堪れないのだろう。それを感じ取った千佳先輩が、
「済まない、真美、江利子。ちょっと外に出てくれないか?皆やりづらいみたいだ。」
と、二人に言った。
「す、すみません!じゃあ私達でようか?」
「そうだね……そうしようか、まっちゃん。」
二人は室内を出ては行ったが、恐らく外にはまだいるだろう……
「ま、ま~気にせず続けましょうか?」
「そうだな。」
「それじゃあ、もう一回頭からでお願いします。」
練習後、千佳先輩は用事が出来たらしくその日は何も無く家に向かった。一緒に帰る時に、真美と江利子が何処かほっとした表情をしていた。
文化祭は無事終わった。軽音楽部の方の手伝いも難なく進み、クラスの方にもちゃんと顔を出せた。変わった事と言えば、漫画研究部のコスプレショーとライブイベントだろう。軽音楽部の部長と漫画研究部の部長が仲が良いらしく、文化祭ライブに一バンドだけ漫画研究部が出演した。流行りであろうアニメの劇中歌をコスプレして演奏するなど(男性が女性のコスプレをしたり……)半ば異様な盛り上がりを魅せていた。楽しそうに演奏していたので彼らにとっては良い思い出となっただろう。部員の一部は邪険そうに扱っていたが、そう偏見の目で見なければいいのに。
小倉とのバンドも無事終える事が出来た。部員、観客共に曲を知らなかったのかあまり盛り上がりはしなかったが、良い演奏が出来たので善しとしよう。
「小倉上手くなったね~。」
「ま、俺だし?」
真美のお世辞に気を良くした小倉は上機嫌であった。私達はいつものように、文化祭終了後に四人で部室の外にいた。先輩たちが中にいたために、今回は部室の外にあるベンチに集まった。佐藤も呼ぼうとしたのだが、邪魔をしてはいけない、と真美と江利子に言われたので呼ばなかった。
「じゃあさ真美さん、俺と付き合おうぜ?」
「あ~それは無理。」
真美に即答された小倉はがっくりと肩を落とし項垂れているが、このやり取りはいささか見飽きているので何も言わないでおいといた。
「良くん、次は私達も出たいですね。」
「そうだね~……レコーディングも良いけどライブしたいね~。シングルが年内に出たら来年は関東内でツアーが出来るかもね。」
それまでにアルバムも制作出来たら夏のロックフェスに出れるかもしれない。運が良ければ師匠と一緒のステージに立てるかも……
日が傾き始めた時、私の携帯に着信が入った。私は皆と離れてから電話を取った。着信は千佳先輩からだった。
「もしもし?」
「もしもし、新堂?今大丈夫?」
「大丈夫ですよ。どうしました?」
「ちょっと私のクラスまで来てくれない?じゃあ来てね。」
私の言葉を待たずに千佳先輩は電話を切った。何が何だか解らなかったが、私は千佳先輩のクラスに向かった。
千佳先輩は私達の二個上、教室は四階にある。校内に入ると、もう後片付けをしている生徒はおらず、昼間の騒がしさが無く、僅かな話声が聴こえる程度だった。
階段を登り、四階に着くと人は誰一人としていなかった。三学年は最後の文化祭、と言う事もあり打ち上げや、校庭で皆と楽しく過ごしているのだろう。千佳先輩のクラスのドアを開けた時、教室内は綺麗に片付けささっており、夕日が差し込み、室内はオレンジ色に輝いていた。その中で一人、黒板に背をむけて千佳先輩は立っていた。
「新堂、待っていたよ。」
私が室内に入るのを確認すると、千佳先輩は笑みを浮かべながらそう言った。
「どうしたんですか?」
「いやね、私は今年で卒業する訳じゃん?大学も校内推薦を取ってるから受験勉強をしなくていい。後は最後の高校生活を満喫するだけなんだよね。」
言いながら、千佳先輩は私に一歩ずつ近づいてくる。
「勉強をして、友達と遊んで、話して、バンドをして……それだけでも十分面白かった。周りの友達は誰かに恋して、誰かと結ばれて、それらの話が主だった。あの人がかっこいい、とか彼氏がどうのこうのとかね。でも、私にはその気持が解らなかった。何でそんなに盛り上がれるのか、何が楽しいのか解らなかった。」
ゆっくりと、ゆっくりと歩み寄り、
「誰かに言い寄られる事は多々あった。好きだ、付き合ってくれ、と。何の感情も持たなかったが、好きでも無い男と付き合った事もあった。最初は好きで無くても、段々と好きになる事もある。そうしたら恋愛ってどういうものか解るよって言われたから。でも、一向にそんな気持ちは湧いてこなかった。だから付き合ってもふる事ばかりだった。でも新堂、君はどこか違うみたいだ。バンドを組むまでは君も周りの男と変わらない、一人の男性だった。でも、バンドを組んで、練習をしていくうちに君の放つ何かに惹かれて行った。君の音に私の身体が反応したんだ。」
ついに、私の目の前まで来た。目と鼻の先、そんな距離まで。
「そして、気がついた。私は君に恋していると。」
今回も読んで頂きありがとうございました!
え~、だいぶ外伝②が何とも言えない結果のようですね……何件かお気に入り登録を外してしまわれた方々もいらっしゃるようで……全て、私の実力不足でございます。またお気に入り登録してくださるよう、認められるように頑張ります!皆さんがもっと面白いと感じるように頑張ります!
それはそうと、感想を書いてくださった方々ありがとうございます!ポイント付けてくださった方々ありがとうございます!読んでくださった方々ありがとうございます!どんな事でも良いので感想などなど待ってます!
では、今回も読んで頂きありがとうございました!