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高校一年生②-2

 前回で1という表記をするのを忘れていました。ですので今回は続きです!

 それはそうと、気がついたらポイント数が三桁突入!PV数も二万達成しておりました!ありがとうございます!本当にありがとうございます!これからも頑張っていきたいので宜しくお願いします!それでは今回も皆さんが楽しんで読んで頂ける事を願って、そうなって下されば幸いです。では宜しくお願いします!

「ベストパフォーマンス賞は・・・・・・東北代表!・・・・・・」

私達は精一杯の力を出したが、最優秀賞、このコンテストのベストパフォーマンス賞を取る事は出来なかった。

 自分達の力を出し切り、僅かな時間のみだったが楽しめたので私は悔いが無かった。メジャー契約が遠のいた事は残念だが、まだまだチャンスはある。真美も増田さんも清々しい顔をしていた。二人とも、悔しさはあるだろうが、それ以上に観客のレスポンスの良さ、そして自分達の実力を出し切った事に満足したのだろう。私はそう感じた。

 最優秀賞を取ったバンドがステージに上がり表彰されると、会場中から拍手が起こった。私達も惜しみない拍手を送った。

 それからその他の表彰が行われ、私達のバンドはどの賞も、貰える事は無かった。さすがにどの賞も貰えないほどに酷いとは思えなかったので、この結果に少々疑問を抱いたその時、

「おい良、ちょっといいか?」

私は後ろから肩を叩かれ声をかけれらた。この声は恐らく師匠だ、そう確信を抱いて振り返ったら、私の予測通り師匠がいた。私が挨拶をしようと口を開けようとしたと同時に、師匠は私に付いて来いとジェスチャーをした。私はそれに従い、師匠の後を付いて行った。

 私と師匠は裏の機材の搬入口に出た。ここならば、レーベルの上の人、そして出演者等に話しを知られないですむからだろう。ズボンのポケットから煙草を取り出し、口に咥え火を付けて一吸いした後、横に煙を吐き出した。

「良、悪かったな。本来ならお前らが最優秀賞なんだが・・・・・・」

そこから先は言われなくても解った。十中八九私絡みだろう。私がプロである事。バンドとしてプロでは無く、十代だったのならば出演は可である。それは十代という若い歳でプロとして活動している人が極端に少ない事に関係する。そして、そのような人達ならばツテやコネを使いレーベルの人に見せる機会を設ける。そういう事もあり、今まではいなかったのだろう。だが、今回は私が出てしまった。まだまだヒヨッコと言えど、プロである事には代わりはない。

「解っていますよ。」

「ああ、それもあるんだが、今回は出来レースだったんだよ。」

渋い顔をして、師匠はそう言った。煙草をおもいっきり吸い込み、嫌な思いを吐き出すかのように煙を吐き出した。

「最優秀バンドな。あれは審査員長の甥っ子がいるそうだ。高校生活の最後にいい思い出を作りたかったらしいんだと。だから他の奴らには申し訳ねぇよ。あんな糞バンドが最優秀だとよ。ただ、あいつらは契約はさせねぇんだと。そこら辺はさすがに解っているんだろう。」

出来レースは他のバンドには可哀想だけど、何処にでも有り得る話だ。世の中にはこういう事もある。これでコネにより賞を取得、デビューとしていたのならばこちらから願い下げだった。そんなレーベルに契約してデビューする気など毛頭も無い。追い込まれている時期なら話は違うが、今の時点ではまだまだ若く、チャンスもあると考えられる。でも、公私混合をコンテストのみで終わらせる所を見ると、まだまだこのレーベルは良いのだろう。

「それでだな。まだ確定している訳じゃないが、審査員の思考、スカウトの奴らの様子からお前らに声をかけるかも知れない。確実とは言えないが、ほぼそうなるだろう。」

「本当ですか?」

「まだ解らないがな。あくまで希望的観測だ。お前もこの業界に入ったんだから解るだろ?話が無くなるなんて事はあり得るんだ。そこら辺をきちんとわきまえていると思ってお前にだけは言うんだよ、俺は。」

吸い終えた煙草の火を靴で消し、携帯灰皿に入れると、

「ま、そういう事だ。どっちにしろレーベルがお前らに目を付けている事だけは確実だ。どっちに転ぶにしろ悪い事じゃねえよ。」

師匠はそう言うと、辺りを見回した。私も顔を上げて見回すが誰もいない。まだ表彰式の最中なのだろう。師匠は誰か来るのを待っているのだろうか?そう思っていたら、私の頭に何かが置かれた感触がした。師匠の方を見ると、師匠は私の頭に手を置き、

「よく頑張った。お前のプレイは何処に出しても恥ずかしくねぇ。立派なプロの演奏だった。それも人を惹きつける演奏だ。胸を張れ。」

そう言いながら、私の頭を思いっきり撫でた。師匠が褒めてくださったのだ。滅多に、本当に良くなければ褒めない師匠が・・・・・・それもプロと認めてくれた・・・・・・上手く前が見えない・・・・・・師匠の顔がぼやけていく・・・・・・ああそうか、私は涙を流しているんだ。師匠に褒められ、胸を張れと言われ、感極まって涙が溢れたのだ。

「馬鹿野郎・・・・・・泣くな。俺がお前の師匠だからじゃねえ、お前が俺の弟子だから褒めたんじゃねえ。一ドラマーとして最高の演奏をしたから褒めたんだ。」

「はい・・・・・・ありがとうございます!」

師匠として、一人の人間として最高に尊敬している師匠の言葉が嬉しかった。私は頭を下げて師匠にお礼を言った。師匠の顔は見えなかったが、鼻をすする音が聞こえた気がした。それが私の音なのか、師匠の音だったのかは解らない。




 それから私は会場に戻り、出演者皆で集合写真を撮った。手に賞状を持つもの、トロフィーを持つ者、それらを持たない者、皆が笑顔だった。成績という結果よりもライブをして楽しかった、という過程のほうが重要だった、結果が伴った者達も結果だけに満足するのではなく過程にも満足した、だから皆笑顔になれたのだろう。

 全体写真の後、ティーンズ向けの音楽雑誌からの個別の写真撮影、軽いインタビューを受け、私達は一時的とは言え、アーティストとして扱われた。各バンドのギタリストはさらに機材の説明、ギターを持ち写真撮影を行っていたのだが、私達はギタリストがいないのであまり関係無かった。

 その後、師匠に私達三人の写真を撮ってもらい、私達はその場を後にした。こうして、様々な人達、私達にとって、私にとって大会に出場する事よりも多くのものを得られたコンテストが終了した。









 後日、私の元にレーベルの方から連絡が入った。レーベルで話し合った結果、私達のバンドと契約を結び、専属のアーティストとして世に出したいとの事だった。









 私達三人はレーベル本社に行き、担当の人から一通り話を聞いた。その上で、私達三人の意思はレーベルと契約する事にした。日本のメジャーレーベルの中では決して大きい会社ではない。その点で言えば最大手のレーベルと比べれば宣伝、CM等のタイアップと、セールス力は少ない。だが、大手のプロデュース等、私達の意見を通さない事も少ないだろう、そう思って私は承諾した。もしかしたら甘いのかも知れない。レーベルも慈善行為で私達と契約を結ぶ訳ではない、商品として売り出すからには売れてもらわなければ困るのだ。会社の従業員を路頭に迷わせないためにも。

 契約を結ぶに当たり、私達三人は親の同意が必要になった。私達は未成年で学生である。私達の意思だけではどうする事も出来ない。私達がどう思おうが、責任等は親に行く。

 本社を後にし、私達はそれぞれの帰路に付いた。家に着いてから、私はこの事を母に伝えた。母は大いに喜び、私を祝ってくれた。加奈もその事を知ると、私に祝辞の言葉を言うと直ぐに、真美と増田さんにも電話で祝辞を伝えた。父にもその事を伝え、二人の同意を得なければならなかったので、私は黙って父の帰宅を待った。

 父が帰宅し、私と両親の三人で話し合った結果、直ぐ様同意を頂いた。ただ、学業との両立をきちんと行う事が条件だった。私自身も、大学に行くつもりだったのでその条件に喜んで同意した。その後、家族四人で近くの料理屋へ向い、私のお祝いをしてくれた。




「それで・・・・・・増田さんの方は父親が理解を示してくれなかったと・・・・・・」

「うん・・・・・・・でも、私頑張るから大丈夫だよ!心配しないで・・・・・・」

翌日、私達は三人で学校の部室に集まった。真美の家は何も問題は無かった。むしろ、私と同じように盛大に祝ってくれたみたいだ。ただ、増田さんの家の方は父親の方が頑として首を縦に振らなかった。親として娘がこのような道へ進むのを善しとしていないのだろう。増田さんはどちらかというと箱入り娘だ。小さい頃からピアノ、私立の幼稚園、と通わせている所から一般家庭では無い。所得上の問題で普通の家では無理である。だから、わざわざこの道に進む必要は無い、進めさせたくないのだろう。

「まっちゃん、大丈夫だよ。きっとお父さんも解ってくれるって。」

「うん、ありがとう真美さん・・・・・・」

増田さんの言葉には覇気が無かった。恐らく、昨日の段階で頼み通したのだろう。しかし、結果は見ての通りだ。私と真美が思う以上に見込みは無いのだろう。それならば、

「増田さん、今日君の家行っていいかな?君のお父さんと話がしたいんだ。」

私の言葉に増田さんは非常に驚き、

「え・・・・・・良いと思うけど・・・・・・」

「じゃあ、お父さんが返っきそうな期間帯を教えて。真美も大丈夫?僕らで思いを伝えた方がいいと思うんだ。」

「うん!任せて!」

一人で言って伝わらないのなら、皆で伝えれば良い。必ず人の思いは伝わる、そう思ったから私は増田さんのお父さんと話をする事に乗り込んだ。増田さん一人に厳しい思いをさせない。レーベル側の条件は三人全員の親の同意だ。それがなければ私達は契約を結べない。もし、増田さんの親が同意をしてくれなかったからこの話が無かった事になった場合、増田さんは自分を責めるだろう。そして、親との距離があいてしまう。そうなって欲しくないから、もし同意を得られなくても、増田さんには親の気持を知って納得をして欲しい。

「良くん、真美さん・・・・・・ありがとう・・・・・・」

増田さんの声に少しだけ覇気が戻った。上手くいくかどうかは解らないが、やれるだけの事をしよう、私は二人にそう言った。






「それでお父さん、二人はバンドメンバーの」

「初めまして。新堂良です。」

「稲葉真美です。」

テーブルを挟み私達三人の向こう側に増田さんのお父さんが座る。私達はあれから部室で時間を潰し、良い時間になるのを見計らって増田さんの家へ向かった。

 そして今、私達は増田さんのお父さんと話し合うため対面している。

「仕事帰りでお疲れでしょうが、本日は私達のバンドの事でお話をしたくて上がらせてもらいました。それで、増田さんがバンドでデビューする事を善しとしないのは何か理由があるのでしょうか?ありましたらお教えください。」

増田さんのお父さんの表情を伺いながら、私は言葉を口にした。何か粗相が無いように、慎重に言葉を選びながら。すると、

「君が良くんかね?そうか、江利子からよく話は聞いている。うちの江利子が大変お世話になっている。もちろん真美ちゃんも。君達が江利子と仲が良く、そして江利子も君達と仲が良いのは親として非常に嬉しく思う。だが、」

始めのうちは静かに話し始めたのだが、

「レコード会社と契約を結びレコードを出す、これは非常にやくざな仕事だと私は思うのだ。私は音楽業界の事を知らない立場では無い。私の会社の取引先としても何社か名前が挙がる。もちろん、君達が契約を結ぼうとしている所もだ。そして、売れないミュージシャン達がどうなっていくかも解る。売れる売れないは実力だけではどうしようも無い部分がある。ましてや昨今ではレコードが売れないのだ。一昔前みたいには行かない。そんな場所に、江利子を出したくないのだ。解らないかもしれないだろうが、親が子に求めるのは幸せなのだ。今は良いかも知れないが、いずれ後悔する。」

途中途中で熱く語る増田さんのお父さんの話は十二分に解る話だ。誰も好んで子供を苦労させる道に進めさせたくはない。それが増田さんの家みたいな環境なら尚更だ。話を聞くだけで相当上の立場、もしかしたら社長、会長、取締役のどれかかも知れない。

「確かに江利子は普通の子達とは違う。親の目から見なくてもどれだけ才能豊かな人間か承知している。だが、江利子には幸せになってもらいたい。人並みの幸せで良い、私と家内みたく険しい道を進まなくても良いのだ。今のままで何不自由する事無く進んで行ける・・・・・・」

増田さんの事を思うからこそ、自分が険しい道を歩んできたからこその言葉なのだろう。それが親の勤め、親の思い、そう思うのだろう。そこに増田さんの主張は無くても。なら私が言える事は、

「お父さんの仰る事は僕も解ります、と言ったら嘘になります。僕は子供を設けた経験も、結婚もした事もありません。そして、社会人としての経験も皆無です。ですから、どれほど僕達が良かれと思いこの道に進もうとしている事を甘い、馬鹿な選択であると言われても仕方がありません。そして増田さん、いえ江利子さんの幸せを願うからこそ反対している事も解りました。ですが、江利子さんの幸せを願うのであれば、もう少し江利子さんの言葉に耳を傾けて下さいませんか?」

私の言葉に増田さんのお父さんは眉間にシワを寄せた。当たり前だ、自分の人生の半分も生きていない若造に娘の事を言われたのだ。だが、私は口を閉ざさないで言葉を紡いだ。

「江利子さんの幸せを願うのは親として当たり前だと思います。でも、江利子さんの意思を尊重しないのは少し違うと僕は思います。確かに長いスパンで考えるのならばこれほど安定とはかけ離れた事は無いと思います。大きな失敗や挫折を味わうかも知れません。でも、江利子さんは決して後悔なんかしないはずです。江利子さんは過ぎた事を悔やむような人ではありません!そして何より、江利子さんのような人が失敗をするとは僕は思えないのです。何をしても成功する人、そう思ってならないのです。だからこそ僕達はレーベルと契約をするまでに至った、まだ16か15の僕達がです。技術面だけではバンドとしては上手いだけのバンドで終わります、でも、江利子さんの歌う歌、作る曲には人を惹きつける何かがあるんです。江利子さんだけではありません、ここにいる真美もそうです。」

私が伝える事は増田さんのしたい事、そして、真美と増田さんの二人が他の人と違う事。

「僕は未熟ながらプロのドラマーとして少ないながらも数々の現場でお仕事させて頂きました。その経験上から、私の感が必ず成功すると確信しているのです。江利子さんの事は僕が責任を持ちます。だから、江利子さんの事を思うのなら、どうか江利子さんの話を聞いてあげてください。」

私はテーブルに額を付けるくらいに頭を下げ、懇願した。どうか、増田さんの願いを聞いて欲しい。そう思うからだ。

「お父さん、私ね、最初は皆でバンドをするだけで良かった。その時はピアノを弾く意外でこんなにも楽しい事があるんだ、そう思ったの。それが真美さんと良くんと三人で始めて、私と真美さんで歌って、凄く楽しくて。でもそれだけでなく、お客さんが喜ぶ姿を見た時、何よりの喜びとなったんだ。私達の曲で、歌詞で大勢の人が楽しんでくれる、元気を貰ったって言ってくれる。こんな事ってあるんだなって思った。そしたらこのバンドが私の中で何よりも掛け替えの無い物になったの。私達の曲をもっと大勢の人に聴いてもらいたい、真美さんや良くんの素晴らしさを皆に伝えたい。だから私は皆でデビューしたい!このバンドは私の、私の夢なの!」

増田さんが涙ながらに訴えた。力強く、ハッキリとした声で真っ直ぐに目を見ながら。その様子に一番驚いていたのは増田さんのお父さんだった。増田さんの思いがハッキリと伝わったのだろう。そして、私も増田さんの迫力に圧倒されそうになった。普段はのほほんとしているが、自分の意思を曲げない、強い気持ちを持っている。彼女はそんな女性だ。

「いつのまにか大人になったんだな・・・・・・それも強い女性に・・・・・・」

そう呟くと、増田さんの方を見て、

「江利子、良い人を見つけたな。決して離すなよ、お前の生涯の宝物になるだろう。真美ちゃん、江利子とずっと友人でいてくれ。そして良くん、もしも江利子に何かあったら」

強い眼差しで私を見た。私はその眼差しに答えるべく強く頷き、

「はい。必ず江利子さんを守りぬきます。そして絶対に幸せにします。」

と言った。そして、言った後に気が付いた・・・・・・まるで結婚前に彼女のお父さんに挨拶をしに行った男の台詞のようである、と。ハッとして増田さんを見ると、顔を真っ赤にしていた。そして、

「良くん、娘を頼む。」

増田さんのお父さんはそう言うと頭を下げた。おかしい、これではまるでではなく本当に、そう思うと同時に増田さんのお父さんは顔をあげ、

「おい母さん、今日はお祝いだ。急いで食事の準備をしてくれ。」

「はい!江利子の旦那さんが決まりましたね!」

「ちょっと、お父さんお母さん!まだ私と良くんはそんな関係じゃ!」

「まっちゃん、もしかしてこれを狙って・・・・・・」

気分を良くした増田さんのお父さんが食事の準備を促し、お母さんは娘に旦那が出来たと喜び、真美が嫉妬心を増田さんに向け、増田さんは増田さんで突然の事に狼狽している。まるで誘導されたかのように言わされた。何故こうなったのか・・・・・・私は頭を抱えるしか無かった。





「あ~あ、まっちゃんにはしてやられたよ。まさか両親を使っちゃうとはね~」

「だから違うんです!あれは勝手にお父さんが!」

増田さん家で食事をご馳走になった後、私達は増田さんの部屋で談話をしていた。もちろん話題は先程の事なのだが・・・・・・

「これなら私も反対されるんだった~。」

「もう!」

真美が不貞腐れて、増田さんが必死に誤解を説く、という構図になっている。私が何も言えないで黙ってみていると、

「てか良も良だよ!何であんな事言ったの!両親の前で娘の事を幸せにするって言ったらああ思われても仕方ないじゃん!」

「いや・・・・・・なんか、増田さんのお父さんに上手く誘導されて言わされた気が・・・・・・」

真美の言葉に曖昧な答えを言うしか無かった。私も何故あの時ああ言ったのか全く解らないのだ。

「良くん!お父さんの前では私の事名前で言ってましたよね?何で今は名前じゃないんですか?」

「え、いや・・・・・・だって増田さんのお父さんも増田さんな訳だし」

「江利子って呼んでください!」

増田さんが私に顔を近づけながら言う。相変わらず増田さんはこういう所で行動力がある、なんてのんきに観察している場合じゃない。

「ま、「江利子!」え、江利子さ「さんもいらないです!」え、江利子・・・・・・」

顔を段々と近づけながら、目を見て言うので従わずにはいられなかった。そしてとてつもなく顔が近い。この距離はまずい。まさに目と鼻の先である。心臓の鼓動が速くなってくるのが解る。江利子の顔がさらに近づき、もうこれ以上はと言うところで

「はいはい!離れようね!」

真美が江利子を私から引き離した。

「・・・・・・あと少しだったのに!」

「ほんとまっちゃんは・・・・・・」

江利子が悔しそうに、真美が少々呆れた素振りをしている。私はほっと胸を撫で下ろし、そ~っと部屋を出た。そして人知れずに荷物を持ち、玄関に向かった。

「お、お邪魔しました~。」

小さくそうつ呟き、靴を履こうとした瞬間、

「「どこに行くつもりなのかな?」」

両肩を掴まれた。前に動こうとも動けない。左後には・・・・・・真美が、右後には・・・・・・江利子が笑って立っていた。どこに行こうというのか?そう言いたげな目をして笑っていた。まだまだ帰れない、そう思うと私は大きく肩を落とした。





「三人とも同意書も揃った事だし、君達はうちの専属となる。契約期間は四年間で、まあ延長するかどうかはその時に話しあおう。」

レーベル本社で、私達三人は再び話し合いをした。主に今後の方向性である。親の同意を得た条件として極力、学業に支障を来さない事があげられている。レーベル側も、この事に理解を示し、学校の長期休暇の時にライブ活動を行い、放課後にレコーディング、メディア出演をするようにしてくれる方向になった。

 年内はレコーディングを中心に、一枚のシングルをリリースする事、来年の春までにアルバムをリリース、そしてそれに伴なう関東圏のツアーを行う事が決まった。

「これで取り敢えず終わりかな。君達も急な話を良くここまで円滑に進めてくれた、感謝するよ。さすが薫さんが目を付けたバンドだ。今後、正式に専属となるとこれまのように好きにライブ等は出来ない。だから今日から一週間後に正式に会社から連絡が来ると思うから、それまでにしたい事をしといてくれ。それじゃあまたその時に。」

私達はサインをした後、互いに握手を交わし、その場を終えた。




 それから一週間、私達はアマチュアとして最後のライブを行うために急遽、顔見知りのライブハウスに頼み込んでイベントを行う事にした。参加するバンドは私達と関わり合いの多かったバンド、人達を選んだ。師匠にお願いした所、師匠も仲間を呼んで参加してくださる事になった。そして、コンテストで出会ったあのバンド、小学生ギタリストのいるあのバンドも出演してくれる事になった。

 そして、ライブ当日・・・・・・



「良!真美さん、増田!おめでとう、と言いつつ悔しいぜ。お前らが遠い所に行く気がしてならないぜ。」

「そんな事無いよ。取り敢えず今日は楽しもうよ、小倉もライブハウスデビューなんだしね。」

お祝いの言葉を言いながら悔しがる小倉に私はそう言葉をかけた。小倉も今回のライブに出演する。これを機に外の事を知ってもらいたいという思いがあったからだ。

「ああ、頑張るぜ!それじゃあちょっと行くわ。」

小倉は私の元を離れ、外に出て行った。内心、緊張感でいっぱいなのだろう。私が声をかける事は容易い、だが小倉が自分で乗り越える事こそが大事だと思い私は何も言わなかった。






 ライブは無事に成功した。私達三人の最後のアマチュアのライブが終わった。






 打ち上げも終わり、私は師匠と二人で近くの居酒屋に入った。





「良、二人だけだからちょっと真面目な話をしようじゃないか。」

カウンター席に付き、日本酒を呑みながら師匠は言った。

「良は解っているだろうが、これはゴールじゃない。スタートだからな。そこを履き違えないようにしておけ。」

私は頼んだソフトドリンクを一口も飲むこと無く、師匠の話に耳を傾けていた。

「今はCDが売れない時代だ。お前らは苦労を強いられるだろう。だがそんなの会社には関係ない。お前らに価値がないと判断したら契約延長しない、最悪打ち切りだ。お前らは解散をするか、会社の言う通りに誰かがソロとしてデビューするか・・・・・・間違い無くお前が切られるだろう。嬢ちゃん二人はアイドル顔負けのルックスを持っている。そんな奴らを逃す手はない・・・・・・まあ、解るとおり結果が求められるんだ。」

「そうですね。確かに結果が全てだと。でも、僕はこのバンドが売れるって思うんですよ。理由なんかありません。僕の感がそう伝えてるんです。だからと言って努力を怠る気にはなりません。師匠、僕はいずれレーベルを創りたいんですよ。理想は自分達だけの、どこかのメジャーの傘下でも構いません。そのためにも、こんな所で燻っている訳にはいかない。だから絶対に結果を出しますよ。」

私の感が必ず成功する、そう言ってるのだ。真美と江利子、この二人が売れないわけがない、と。根拠なんてどこにも無い、ただそう思うだけ。説得力は全く無い。だけど、私は信じてみたいと思う。そして、いずれは自分達のレーベルを立ち上げ自由に創る。そのためにも私は大学で経営学を学びたいと思う。レーベルで実務等を経験する、学ぶ事をしつつ、知識を増やしていきたい。それが自分達で会社を経営するに当たって必要になるだろうから。それを師匠に伝えた。

 師匠は、私の決意と言葉に対して、

「最高だ。最後は自分の心で決めるんだ。おまえのここがそう言うなら間違いないだろう。頑張れ、絶対にお前らなら成功する。その時は約束忘れるなよ?」

笑いながら答えた。胸に手を当て、叩きながら。私も笑みを返し、

「来年の夏、ジャパンロックフェスで会いましょう。」

そう言い返した。私と師匠は互いに乾杯をし直した。グラスと猪口、大きさの違う二つの杯が重なる音が響いた。







 今回も読んで頂きありがとうございました!

 え~っと、ようやく二人のフルネームが出ましたね。稲葉真美と増田江利子。こんな可愛らしい名前です。そして、バンド名決まってません!!!アハハ、どうしよう。何かいい名前ないかな?

 それにしても暑いですね。皆さんも熱中症には十分気を付けてください。あれはきついです。私も昔部活動で味わったことがあるのですが、死にそうになりました。適度に水分と塩分を摂取してこの夏を乗り切ってください。

 では、今回も読んで頂き誠にありがとうございました。

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