高校一年生①
ついに高校生にまでなってしまいました。速いですね~。それはそうと、台風凄かったですね。あ、感想頂きました。ありがとうございます!丁寧に隅から隅まで見て頂き、それに基づいて評価をして頂きとても嬉しかったです。今後も、お目にかかるようなものを書いていくように心がけます!
それでは、今回も皆さんに楽しんで読んで頂けたのならば幸いです。では宜しくお願いします。
高校生になって変わった事、と挙げていったらキリがないだろう。例えば、服装が厳しく無くなった、授業に出なくてもそこまで怒られない、アルバイトが出来るようになった、とか。私も、以前は朝の新聞配達までしか出来なかったがガソリンスタンドでバイトをするようになった。これも懐かしい思い出である。校則が厳しかった田舎の中学ではカラオケ入店禁止、等も緩和されてある程度の自由が許されるようになる。だがそれは義務教育という立場が無くなったからというのが大きい。法律上の関係も言うまでもないのだが、それをきちんと把握している人なんてあまりいないだろう。どちらかと言うと高校になったことで羽目は外す人が増える。いわゆる高校デビューだ。男子は髪型を気にしだしたり・・・・・・と、今では小学、中学からでも珍しくは無いのだが、心機一転、新しい生活のために!と意気込む人は今なお少なく無い。女子なんかはそれが多いに見受けられ、パッとしなかった子が別人のようになっている、なんて話はザラだ。化粧というのは本当に素晴らしい力である。
そんな高校生活を始めるに当たって、私達は中学の頃と同じように軽音楽部に入部した。主にスタジオ代の節約のためというのが多きいのだが、卒業した先輩達から誘われたのも大きな理由かも知れない。もうそろそろ始まるバンドコンテストのために練習もしておきたかったので、入学当初から部室を使えるのは凄く美味しい話だ。中学とは違い、高校の軽音楽部は部室棟に部室を一つ構えているので前ほど苦情が来る事も無い・・・・・・と思っていたのだが、他の部からうるさい、という苦情は中学以上に多いらしい。
それでも、部の設備は充実しているし、大きさもそれなりにあるため、私達は重宝している。個人の所有物があちらこちらに見受けられ、ギターアンプは部のマーシャル、ジャズコの他に個人のアンプ数台、それもメサブギーやレイニー、ケトナー等、とても高校生では買えない代物が目白押しだ。さすが親がお金持ちなだけある。ベースアンプは相変わらずアンペグのSVTなのだが、ごく稀にラックを持ってくる人がいるらしい。皆、機材にお金をかけすぎなのでは無いだろうかと心配してしまう。初心者のうちに良い機材を使いすぎると音作りをきちんと出来なくなってしまう可能性があるからだ。
「じゃあ、事故紹介と担当楽器、もしくはやりたい楽器、それと好きなバンドをそれぞれ言って頂戴。」
毎年行われる新入生歓迎ライブの最中の入部予定の新入生の事故紹介が始まった。一年生全員がステージに上がり、マイクを通して挨拶を行う。ステージの上にいる人達を見ると、中学の頃からの顔も見受けられるが、半数は見たことのない人達だ。上級生を見ても同じであり、部としての規模、人数は高校の方が比べ物にならないくらい大きい。私としては、中学校の時くらいの規模が好きだったのだったのだが、仕方が無い。
「良、良の番だよ。」
マイクを私に渡し、真美が喋る。どうやらもう私の出番らしい。
「新堂良です。パートはドラムをやってますが、今組んでるバンド以外では叩くつもりはありません。ギターもやっているのでそちらの方でお願いします。好きなバンドは・・・・・・色々あります。では宜しくお願いします。」
私は言い終えた後に一礼をした。少々生意気だったが、これが私の本心なので変えるつもりは微塵もない。先輩達も中学での私の事を知っているのだろう、納得している顔をしているが、一部、険しい顔をしている人がいる。おそらく外部がら入ってきた人達なのだろう。
新入生全ての挨拶が終わり、私達がステージから降りた時に、
「おいお前、何生意気ぶってるんだよ?」
と、先程の挨拶を気に食わなかった人が絡んできた。
「おい、良いんだって。良のドラムは俺らじゃ釣り合わないし良も良で忙しいんだよ。お前は高校からだから解らないかも知れないけどさ。」
私の事を知っている先輩が言ったのだが、
「そんなの関係無いだろ。俺はこいつより上級生だ。調子こいてる下級生は上級生がきちんとしてあげないとな!」
そう言うと、私は腹を殴られた。急に殴られたので、腹に力を入れる事が出来なく私はその痛みにその場にしゃがみ込んだ。その様子を観ていた周りが騒然となる。そして、
「おいヤメろ!俺らの部はそんな上下関係を厳しくしていないだろ!」
「だからと言って後輩が先輩を舐めていいなんて事決まってないだろ!」
それを区切りに、先輩が言い争いを始めた。真美と増田さんが心配そうに私の元に駆け寄るが、私は大丈夫と一声かけ立ち上がった。
「ようやく立ったか。これに懲りたらてめーは偉そうな事を抜かすんじゃねぇよ。」
私が立ったのが見えたのか、完全に舐め切った口調で私に言い放った。その口調に真美や増田さんだけでなく、小倉さえも顔が険しくなった。その言葉と舐め切った口調、表情に私は、
「・・・・・・全く、いつの時代も口だけは威勢のいいやつがいて困る。」
「あ?」
私の買い言葉に頭に血が昇ったのだろう、私は胸ぐらを掴まれた。だが、私は言葉を止めなかった。
「だいたい下のやつに威張る奴はな、実力的には下っ端なんだよ。まあ軽音楽部だから技術なんて関係無いけどよ。少しはそのちっぽけな自尊心捨てたらどうだ?たかが数年早く生まれたからって意気がる事じゃねぇだろ!自分の実力で示せよ!」
「てめ!」
その瞬間、掴んでる手とは別の手で私を殴りつけようと拳を後ろに大きく振りかざした。だが、その手は後ろからの誰かの手に掴まれていた。
「おい、やめておけ。これ以上騒ぎを起こすならこっちも考えなくちゃならない。」
その一言で、先輩は私の掴んでいた胸ぐらから手を離しどこかへ行った。
「大丈夫?あの人達あまりこないくせに威張るのだけは得意なんだよね。」
「助かりましたよ前田さん。」
私を助けてくれたのは前田さんだった。おそらく学年的にはあの先輩の方が上なのだろうが、何かあり前田さんの言葉を逆らえないらしい。元々私が売り言葉を買ってしまったのだから悪いのだが・・・・・・私達の印象が決して良いとは言えない新入生歓迎ライブは波乱を巻き込む結果となってしまった。
「にしてもよ、あの先輩マジでうざかったな。」
「まあ、僕が悪いんだけどね。」
あの一件があり、私達の学年の入部者はあの先輩の事を気に入らなくなってしまった。特に小倉は目の敵にしている。あの時が初対面であったにも関わらずにだ。私の言葉で他の人にまで影響が出てしまった事に、少なからず反省はしていた。
「良も大丈夫?お腹殴られたでしょ?」
「平気だよ。伊達に鍛えてないよ。体力がモノを言うからね。」
真美が私のことを気にかけてくれたが、不意打ちで無かったのなら何とも無かった。プロとして関わる以前からきちんと体は鍛えておいていたし、今も変わらない。格闘技経験者や常に体を鍛えている人に殴られない限りそこまで体に痛みは残らない。
「でも良くん・・・・・・印象悪くなったんじゃ・・・・・・そこが心配です・・・・・・」
皆口々に心配をしてくれる事に私は素直に嬉しかった。
あの最悪な形での事故紹介もあり、先輩から何故私がドラムを叩くのは今のバンドだけなのかと聞かれる事が多々あったが、私がドラムを叩いてお金を貰っている事、それに伴いあまり他の曲のための練習時間をさきたくない事、真美と増田さんとのバンドに集中したいからと答えた。ギターはやっている人、今から行なう人が多いためにわざわざ私を誘ってまでバンドを組もうと思う人はいないだろうと思い言ったまでだった。まあ、一つくらいならギターでバンドをやってみたいという気持ちも頭の片隅にあったのだから口に出たのだろうけど。
再来週にはバンドコンテスト、その翌週には顔見せライブ、と中々忙しい時期だった。私個人としても、音響監督に呼ばれる機会が増えたため、学生とプロとの二足の草鞋を履いている状況が多くなった。その度に、自身の力が付いた実感が湧いてくるのでとても充実している。学力の方も心配は無い。長年の蓄積と、これまでの日々の積み重ねからセンターレベルなら間違いが起きなければ確実に九割は取れる。このまま行けば校内推薦を取らなくても、一般入試で入ることが出来るだろう。今からでも必死に勉強をしたのならば国内最難関を誇る二大大学にも現役で合格出来るかもしれない。だが、私にそのような考えは今のところ無い。今無いのだから今後生まれた所でどうする事も出来ないのだろうが。
「さて、いよいよ本番だね。楽しみだね~!どんな感じなのかな?」
「至って普通のライブみたいだよ。ただ会場が今までよりも大きいくらいかな・・・・・・中学の文化祭の開催式程ではないみたいだけどね。」
バンドコンテストの会場を見渡して、私は言った。これほどの広さでライブをするの皆慣れている。増田さんは、個人でもっと広くて緊張する舞台での経験は多いし、真美もホールクラスを初めて行なった時は緊張する所か今まで以上の力を出した。私も場慣れをしてきたので問題無いだろう。むしろ、初めて会う音響監督に叩いている所をジーッと見られる方が胃に悪い。
「楽しみですね!ここにいるの皆二十歳以下の人達なんですよね!どんな曲を聴かせてくれるんでしょうか?」
増田さんも大勢の人を見てはしゃいでいた。ほとんどの人が同世代だろうが、中には、見て解るくらいに私達より若い子もいる。私達があれくらいの時は・・・・・・それなりに出来たかもしれない。非凡な二人はさすがとしか言えないが、私の場合は特別才能があった訳では無い。全てずると言っても過言ではない。その事に他の人に申し訳なく思う。
一つのバンドの持ち時間は、十五分与えられておりその時間内に準備と曲を演奏しなければならない。私達の出番は中盤の最後と、何とも言えない所だが、何とかなるだろう。早速、一番最初のバンドの演奏が開始された。ガチガチにメンバー全員が緊張して演奏している所を見ると、学校でバンドを組み、文化祭等しか出た事が無いのだろう。私も最初の頃はこんな感じで緊張ばかりしていた事を思い出した。曲もいささか背伸びした感があり、難易度の高い曲を演奏していた。
「もっと、自分達に合ったレベルの曲を演奏したらいいのに~。あれじゃあ曲を演奏するのに必死で全然楽しんでないよ。」
真美が的確な評価を下していた。必死にミスしないように、と下を向いてばかり演奏している。観ていて大変なんだろうな、としか伝わってこない。これではせっかくの自分達の持ち味を出しきれていない。
次のバンドも、その次のバンドも似たような感じであった。順番が最初という事もあるのだろう、いささか可哀想だった。そういう点で言えば、私達の順番は良い位置なのかもしれない。
「お、ちびっ子がいる。可愛いな~。」
「ですね!私も小学校の頃を思い出します!頑張れ~!」
上手のギタリストが他のバンドとは違った。それは、そのギタリストが小学生であろう事だ。真美と増田さんはその子に声援を送っていた。こんなに若い子がどんな曲を弾くのだろう、と私も興味を抱いた。そして、そのバンドの演奏が始まった。演奏しだした曲の、イントロを聴いた瞬間私は、
「嘘・・・・・・エクストリーム?・・・・・・」
と、思わず呟いてしまった。この曲を知っている者たちがざわめいたのを私は感じた。そのバンドが演奏しだしたのはエクストリームのWarheadsだったからだ。生半可なレベルじゃエクストリームの曲はバンドでは出来ない。ましてやギターは、求められるモノが多きい。だが、このバンドはアマチュアレベルとは言えそれなりに演奏している。私も、好きな曲であったから頭を振り曲にノッていた。そして、ギターソロが始まった時、
「「「「おーーーーーーーー!!!!!!!!!!」」」」
会場にいるほとんどの人が小学生ギタリストのテクニックに酔った。私も両手をロックサインにして、頭上に挙げてギタリストを讃えた。彼のソロは完璧だった。
次の曲もGet The Funk Outと大いに盛り上がった。私も真美も学校の文化祭以上に盛り上がって曲を楽しんだ。増田さんも曲を知らないなりに楽しんでいたようだ。やっぱり、エクストリームのファンクメタルなるノリは聴いていて楽しい。
「あのちびっ子凄かったね。昔の良思い出したよ。」
「私も思いました!」
「あの子の方が凄いし、才能もあるよ。」
曲が終わり、バンドに皆が惜しみない拍手をしている時に真美と増田さんが私に言った。確かに、私の方が経験の差で技術はあるだろうが、あと数年もしたら追い抜かれる。あの年代であの技術を持っているだけで凄いのだ。今後もその非凡さに驕る事無く切磋琢磨していけば将来間違いなく、素晴らしいレベルのギタリストになっているだろう。ただ、スタジオ、セッションミュージシャンを目指すのか、バンド、ソロでデビューするかで大部変わってくるのだが。
他のバンドも良いのは多かったが、インパクトを全てあの子に持って行かれた気がしてならなかった。技術的には小学生に負けない!と意気込むギタリストが多かったのだが、音の粒、正確性からあの子ほど上手なギタリストはいなかった。個性的で面白いギタリストは何人かいて面白かったのだが。
バンドとしてまとまっているのもあまり無かった。皆、どれかが抜きん出ていると言う事が多く、それを補う、バンド全体としてでは無く個ばかりに重点を置いていたためであろう。ただ、何組かのオリジナルバンドのうち一つは未熟ながらも素晴らしいセンスを魅せつけてくれた。こういうのがあるから面白い。
そろそろ私達の出番になるので、楽屋の方へ向かうために一度外に出たのだが、
「・・・・・・ここにいるの未成年だよね?まっちゃん。」
「煙草を吸うなんて不良です!」
若い子達に多い、煙草の喫煙。それを見た二人が露骨に嫌そうな顔をした。ライブハウスに出る事は多数あったが、対バン相手はどれも成人や、師匠の知り合いのプロのミュージシャンの遊びバンドとかだったために、未成年とのバンドの対バンは無かった。未成年なのに、男女構わず大勢の人が煙草を吸っている光景が嫌なのだろう。それを露骨に嫌そうに見ていたために、
「お嬢様方はこんな場所で煙草を吸っているのが珍しいのかい?さすがはお嬢様だね。どうせ下手なんだから恥じかく前に帰りなよ!」
と、ヤジを飛ばされた。言い返そうとした真美を制し、
「言わせたい奴には言わせておけばいいよ。」
と言った。真美はくやしそうに頷き、私達は楽屋へ向かった。
楽屋へ入ると、私達の前のバンドが準備をしていた所だった。
「お疲れ様です。」
私達はそのバンドに挨拶をした。あちら側も私達に挨拶をし、
「僕らの次のバンドですね。噂は耳にしていますよ。ドラムの子がプロだとか。」
「あ、そんな事まで広まってるんですか?」
私の事が広まっているらしい。
「そうですよ~それにベースもキーボードも滅茶苦茶美人だって。初めてお会いしましたけど、めっちゃ美人ですね!羨ましいな~。」
と、互いに会話をし、健闘を祈った。
「それじゃあ、楽しもうよ!」
「そうだね!」
「ファイト、オーです!」
私達の番が来て、無事終わった。会場に何人かいつもライブに足を運んできてくれた人達もいたおかげか、盛り上がり、私達も楽しく終える事が出来た。
その後、外の自動販売機で水を買った時、
「良くん。」
と、声をかけられたので、振り向いたところ、
「あ、お疲れ様です!どうしてここに?」
そこにいたのはつい最近のレコーディングのディレクターを務めていた人がいた。
「いやね、このコンテスト、実は僕らのレーベルの主催なんだよ。私こそ君がバンドで出場している事に驚いたよ。」
どうやらこのコンテストのメジャー契約のレーベルは私が仕事で知り合ったディレクターのレーベルらしい。世の中広いようで狭いとはこの事だ。
「君だけがずば抜けているようだったら考えものだったけど、他のメンバーも素晴らしいじゃないか。ベースの子もプロレベルだし、キーボードの子なんか言うまでもない。恐らく君達がこの大会の通過者の一組なのは間違いないが、私が一声上の奴に取り次いであげようか?ルックスも才能も技術もそろった子達なんて滅多にいないからね。」
「ありがとうございます!でも、取り敢えずその話は今は置いときませんか?全国大会でも変わらないお気持ちであれば喜んでお願いします。でも、今の段階でその話を受けるのは他の人達に失礼な気がするので・・・・・・取り敢えず、他の子達のバンドを観ましょう。」
「ははは、そうだな。そう言えば、来週の話なんだけど・・・・・・」
その後、私は仕事の話をディレクターと話し合った。そして、自分の力で段々と繋がりを広げている事にも気がつかされた。
「と、言う話があったんだけど・・・・・・勝手に僕の判断で決めちゃってごめんね。」
私は先程のディレクターの話を二人にした。
「ううん、良の気持ちは私も同じだから。」
「私もです!」
二人も私と同じ気持のようだった。自分達の実力だけで上に行きたい、という気持ちがあるようだ。若い時だけの特権なのだろう。私もそういう気持ちがあるって事は心に余裕があるのかもしれない。昔の職を探していた時ならば是が非でも飛びついただろう。
「取り敢えず、僕達が全国に行ける事を願いながら、今日のコンテストを楽しもう!」
「「おー!!」」
私達は残りのバンドのライブを観るために中に入っていった。
全てのバンドのライブが終わり、数十分待った後、結果発表と表彰式が行われた。私達のバンドは見事に優秀賞を取る事が出来き、夏の全国大会に行ける事になった。全国大会と行っても、場所がここから数駅離れたホールで行われるので甲子園に行くぞ!という気持ちにはならないが、私達の目標に一歩近づく事となった。そして、特別審査員賞として小学生のギタリストのいるバンドも全国大会に出場出来る事となった。その他に個人賞として、真美がベーシスト賞、増田さんがキーボーディスト賞を頂いた。私はプロという立場になるのだから申し訳ないが受賞出来ない、という旨をディレクターから聞いた。私としても個人賞に未練は無いので他の子に渡り、今後の糧としてほしいと言う事を伝えた。そして、ギタリスト賞はもちろん、あの小学生の子だった。
「見て見て~、個人賞貰ったらエフェクター貰っちゃった~!オークションにだそうかな?」
「真美さん駄目ですよ!せっかく頂いたんですから!」
真美と増田さんも個人賞を貰った事が嬉しいのかはしゃいでいた。この二人が今回の個人賞を貰えないとするならば、それは出来レースしか有り得ないだろう。それくらいに二人の技術は他の人達より頭一つ以上抜けていた。だが、嫉妬心は冷静な判断を出来ない場面もある。現に、他の出場者の女性達は真美と増田さんを目の敵にしていた。
「あの子達ってさ、絶対上の人達と寝たよね。対して上手くもないくせにさ。」
「枕ってやつ?うわ~最悪~、あのドラムの子も可哀想に!あんな女なんかにひっかけられちゃってさ・・・・・・」
「だよね~。私が今から説得して私達のモノにしちゃおうよ!」
こんな心無い言葉も囁かれているのを聞いた。とても心外である。わざわざコンテストのために寝るなんて二人に限って有り得ない。二人は見た目以上に心も立派な人達なんだ。そう思い、憤慨していると、
「良、何で怒ってるの?」
「ちょっと顔が怖いですよ・・・・・・」
二人が私の顔を見て心配そうに言った。
「あ、ごめんごめん。ちょっとムカツク話を聞いてね。」
「それって私達の話でしょ?」
真美は囁かれていた事に気がついていたらしい。それでも、心を乱すことなくいつものように振舞っている。それでも、心にうけた傷は深いはずだ。だから、
「真美、増田さん、この後時間ある?今日のお祝いをしよう!僕が全額持つよ!」
二人には悲しまないで欲しかった。だから、今日はこの良い結果を祝って楽しい思い出にして欲しいと思った。この二人が悲しんで傷つく事だけはあってはならないんだ。
「え、ほんと!やったー!!まっちゃん、今日はご馳走だよ!」
「はい!加奈ちゃんも呼びましょう!」
二人は悲しむ顔よりも笑顔が似合う。だから、私は出来るだけ笑顔にさせなければならない。二人の事が好きだから。それにしても二人は忘れているのだろうか?
「加奈は今ベルリンだよ。忘れてた?だから三人だけだよ。」
私達は全国大会に出場出来る事を盛大に祝った。お金は三人で諭吉さんが一人いなくなるという高校生としては多少高い金額だったが目を瞑った。
「てか、そんなコンテストがあるなんて聞いてなかったし!俺が出たら確実にギタリスト賞取ってただろ!」
先日あったコンテストの事を小倉に言った所、小倉は悔しそうにそう言った。それを冷めた様子で聞いていた真美が、
「無理無理!あんたじゃあの小学生にかないっこないよ。もっと練習しなさい。」
「何だと!俺だってほら、こんなに弾けるようになったんだぜ!」
そう言うと小倉は、手にしていたギターでハイウェイスターのソロを弾いた。だが、
「良、あの小学生が弾いた曲弾いてみて。弾けるでしょ?」
小倉のギターを取り上げ、真美が私に渡してきた。強引な行いに苦笑いを浮かべたが、私は仕方がかなくWarheadsのソロを弾いた。そして、
「これを小学生の子が弾いてたの。ライブで完璧に。あんたじゃまだ無理でしょ。」
あまりに的確な言葉に小倉はただうな垂れるしか無かった。
「糞~~~~!絶対そいつを越してやる!」
と、意気込み、小倉はギターをケースに入れ教室を出て行った。
高校一年のクラスで特に親しい人は真美しかいない。増田さんも小倉も、佐藤も皆違うクラスになった。悲しいがこればかりは仕方が無い事である。ただ、二年の時の文理、授業選択でほぼ同じクラスになれるかも知れない選択をする事が出来る。ただそれは、進路に関わる事なので出来れば自分が必要だと思った事を自分で決めて欲しい。
「それにしても・・・・・・あの小学生は上手だったね。」
「そうだね。楽器は違うけど、小学生の真美レベルじゃないかな?それくらい上手かったよ。ま~加奈みたいな化物が世の中にはいるから、上には上がいるって思い知らされるけどね。」
あの技術を小学生で持つのだから素晴らしい才能だ。恐らく地区や周りではあそこまで上手い子はあの子の周りにいないだろう。ただ、加奈みたいにとんでもない化物が世の中にはいるのだから、本当に世の中上には上がいるという言葉を思い知らされる。
「それにしても加奈ちゃんは本当に凄いね・・・・・あの子将来何するとか決めてるの?」
「う~ん・・・・・・何も言ってないからな~。」
加奈は去年のコンクール優勝により、国際コンクール出場の権利を手に入れ、それに出場するためにベルリンにいる。母も一緒に着いて行ったので、家には帰っても一人だ。父も寂しそうにしている。
「加奈ちゃんほどのチートは見た事が無いよ・・・・・・」
真美が言う言葉を私は小さい頃から目の当たりにしていたので最近は特に思うことは少なくなってきた。
「あ~あ、それにしても・・・今週末は顔見せだっけ?バンド数多くて疲れそう~。」
「真美は受付だからいいよ。出来る事なら僕も受付にいたいよ・・・・・・」
高校の軽音部になってから、ライブの設営等は全て自分達でやる事となっている。会場作りから、PA、そして、ライブ中の転換も自分達で行う。一年生は担当楽器毎に仕事を割り当てられていて、私の場合、ドラムの転換、準備を行わなければならない。一年生のドラム人数が少ないために、ほぼフルでやらなければならないのが面倒くさい。
「私も、良と一緒にずっと受付出来たら嬉しいけどさ・・・・・・」
真美が恥ずかしそうに答えた。私もめんと向かって言われると恥ずかしい。そこに、
「真美さん!同じクラスだからって!」
どこからともなく増田さんが現れた。増田さんは隣のクラスなのだが、感が良いのかこういう時には必ず現れる。
「ちょっと、まっちゃん!またこんな時に!」
「ええ、感じましたもん!真美さんのラブ臭を感じましたもん!」
結局、クラスは違えど二人の共にいる時間は以前と何ら変わっていないのだった。
そして、顔見せライブ当日。私は過大な労働を強いられていた。事前のミーティングで説明があったものの、ほとんどの新入生は設営はした事がない。先輩に教わりながら四苦八苦して進めていくものだから時間は押しに押した。ドラム周りも、先輩も含めマイキング、設置位置などずさんな物だったので、私が一から説明をしてそれなりの物にした。ただ、最初の時同様、気に食わない人が現れるもので、結構すんなりは行かなかった。それが適切な指摘ならば私も頷くのだが、その人の主観で違う、昔はこうだったと言われても困る。そちらの昔はよく知らないが、現場や師匠、その他エンジニアから見て教わった事を否定するのは恐ろしいにも程がある。反抗しても埒があかないので、その人達の時はそのままにしたが、今後もこういう衝突があるのかと思うと頭が痛くなった。全ての準備とリハが終わり、本番開始を待つだけになった時、小倉が私の元に来た。
「お疲れさん。お前休みなしだな。」
「だってただでさえ少ないドラム人口は少ないのに上にはあの人がいるんだよ?」
「あ~・・・・・・災難だな。」
そう、ドラムの最上級生の一人に一番最初に私に絡んできた人がいるのだ。前田さんはサッカーの試合があるらしく、今日はここにいない。最上級生のドラムの人達は皆、仕事をする事もないので話していたり、遊んだりしてまっているのだが、この人だけは違う。まるで姑のようにネチネチと文句を付けてきたりするのだ。
「ま、頑張れよ・・・・・・お前らの出番は五番目か。ここにいる客、序盤で帰っちまうかもな。」
「そうならないように盛り上げないとね。」
私はそれだけを言い、開始時刻を待った。
高校の軽音楽部、という事もありレベルは中学のより少しは上がっていると思える。先輩たちも皆上達しており、努力の成果が見受けられる。楽しそうに演奏している所を見る限り、本質は変わらないのだろう。と、準備をしつつ観ていたら、もう私達の出番が来た。出演バンド数が多いために時間が少ないので、次々と回転が速いのだろう。私は直ぐ様に、置いてあったスネアをセットし、そのまま自分でセッティングをした。
「良、疲れているみたいだけど・・・・・・大丈夫?」
「これくらい何とも無いよ。それよりちゃっちゃと準備を終わらせよう。今回は前のようにセッションから始めよう。」
「うん、解った。」
真美と増田さんに、この前のようにセッションから始める事を伝えて、皆が準備を終えた所で私達は演奏を開始した。
それからは本当にきつかった。これが労働だったのならばそれなりに賃金を貰えてもおかしくない。まさか裏方の方をやる羽目になるとは誰が予想しただろうか。それも憎まれ口を叩かれながらだ。全てが終わった時、私はライブを終えたと言う達成感より、ようやく仕事が終わったという開放感のほうが強かった。
「あ~終わった。帰って寝よう。」
背伸びをし、そう呟いた所、
「あれ?今から打ち上げじゃないの?出ないの?」
真美が私にそう言った。そうだった。これから皆で打ち上げがあるのだった。
「・・・・・・面倒臭いな。」
「良くんがいかないなら、私は行きません。」
増田さんがそういうが、事前の確認の時に行くと言った手前、行かなければ店側にも部にも迷惑がかかる。
「いや、行くよ。ただ、それまでは少し教室かどこかで休むよ。」
打ち上げまであと一時間しか時間は無いが、少しでも体を休めてからじゃないと動きそうに無かった。
部室に行き、私は少しの間仮眠を取ることにした。
「あ、良。そろそろ行かないと・・・・・・ってまっちゃん!」
真美の言葉で私は目を覚ました。だが、目の視点が少々高かった。それに頭の下の感触も床の硬さじゃなく、柔らかかった。何事かと思い、起き上がり、床を見ると、誰かの太ももがあった。その太ももの人物を見ると、
「もう、真美さんのせいで起きちゃったじゃないですか!」
増田さんが不満そうな顔をして座っていた。つまり、私は今まで増田さんの膝枕で寝ていた事になる。私は意識が無かった事を非常にうらやんだ。
「そうやってまっちゃんはいつもいつも!」
「何ですか!真美さんは同じクラスになれただけでは満足してないんですか!」
そして、二人はいつものように言い争いを始める。
「良、そろそろ行くぞ・・・・・・ってまたかよ・・・・・・」
部室に入ってきた小倉が溜め息をつきながら言う。小倉もこの二人が言い争っているのを見慣れている。取り敢えず、私は立ち上がり荷物を持ち小倉の元へ向かった。
「どこにいるかと思いきや・・・」
「ハハ、ごめんごめん。二人とも、もう行くよ?」
私は言い争いを続けている二人にうながした。二人は言い争いを続けたまま私達について来た。部室の鍵を閉め、夕暮れ時のオレンジ色の空の中を、私達は打ち上げ会場へ向かって歩いて行った。
読んで頂きありがとうございました!
え~っと、案外好きなバンドで年代がバレてしまう!って事もありますが、私と同年代でエクストリームが好きな人はあまりいませんでした。むしろ知られていないです。昔ですが、小学生がエクストリームの曲を完璧に弾きこなしているを見てびっくりした思い出があります。普通に考えて、エクストリームは難しいです。バンドでやりようものなら、本当にしんどいです。
本当はもっと早い段階で書くべきだったのですが、ご感想お待ちしております。ビビリな私なので今まで書くに書けませんでしたが、自分の実力を上げるには客観的意見が大事なので・・・・・・
では、今回も読んで頂き誠にありがとうございました!