短編 ある日の良達
今回は短編です。甲子園を見てて思いついたので書いてみました。ビールを片手に甲子園を観たいのですが、そういう訳にもいかないんですね。残念です。
では、今回も皆さんが楽しく読んで頂けるのならば幸いです。どうぞ宜しくお願いします!
1、甲子園
夏は何と行っても甲子園である。球児達の今までの努力を出すために、その地域の他の球児達の思いを胸に甲子園で戦う。その姿を私は涙無しでは見られないのだ。
「頑張った・・・・・・よく頑張った!」
試合終了のサイレンが響き、敗れた者はその場に崩れる者、人目をはばからずに号泣する者、全力を出し切ったと笑顔でいる者、様々な人達がいる。勝負には必ず勝者と敗者が出る。皆頑張りましたでは終わらないのだ。だからこそ観るものを感動させ、心に響くのだろう。
「頑張った・・・・・・・」
テレビ中継を見ながら拍手を行う。目には涙を浮かべ、私は両チームに惜しみのない拍手を続ける。君たちがこれまで頑張った事は決して無駄ではない、必ずその思い出が今後の人生に活きるのだ、だから負けた方も下ばかり向いてないで前を向いて胸を張って欲しい。
「お兄ちゃん、毎年甲子園見ては泣いているよね。」
後ろから加奈の声が聞こえるが関係無い。私は闘い抜いた選手達にもっと拍手を送らなければならないのだから。
「良くんがここまで泣いてる姿初めて見ました。」
「あ、まっちゃんは甲子園シーズンの良見た事無いんだっけ?良はね、試合を観る度に泣くんだよ。そして試合が終るとこうなるんだよ。ま~私にはよく解らないけどね。」
何故、家に真美と増田さんがいるのか解らないが関係無い。勝利高の校歌を聴いて・・・・・・君達は負けた人達の気持ちを受け継ぐんだ。次も頑張ってくれ!そう思わずにはいられなかった。
「ねぇ、気持ちは解るけどさ。なんであんなに号泣するの?さすがに不思議に思うよ。」
「そ・・・そうですよ良くん。教えてください。」
次の試合が始まる前に真美と増田さんが私に問うてきた。加奈には一度説明したのだが、二人には説明していなかったか。
「二人とも長くなるから辞めといたら?」
加奈は洗濯物をたたみながらそう言った。
「加奈!お前は・・・・・・彼らを見て何も思わないのか!?彼らのそれまでの頑張り、そして涙を見て何も思わないのか!!!!」
「思うところはあるけどお兄ちゃんほど肩入れは出来ないよ。」
加奈は私の熱弁を洗濯物をたたみながら聞くという冷めた事をしている。お兄ちゃんは加奈をそんな子に育てた覚えは無い!私は二人を見て、拳を握り、
「いいかい二人とも。彼らはね、この日のために小さい頃から切磋琢磨してきたんだ。小さい頃から甲子園を夢見て、いつか甲子園の舞台で野球をして、優勝するために!そんな事を思いながら日々を練習につぎ込むんだ!朝早くから夜遅くまで白球を追い続け、砂にまみれ、暑い日も、雨の日も練習をするんだ!そんな人達でも一握りしか甲子園の舞台に立てない、選ばれた人達しか立てないんだ!そんな夢半ばで倒れた人達の思いを背負って彼らは甲子園に立つんだ!解る?この場にいるって事はそれだけの思いを持って立ってるんだよ!?」
思わず手に力を入れ、声も熱を帯びていく。
「そんな代表校達がわずか一高しか持つことを許されない優勝旗を目指して頑張るんだ。そのために流した汗を、日々を思うだけで胸が熱くなるじゃないか!?そんな彼らが戦う。でも勝者がいるって事は必ず敗者が出るんだ、そこに必ずドラマは生まれる。事実は小説より奇なりって事を僕らは毎年テレビで観る事が出来るんだ。そんな彼らの悔し涙、嬉し涙を見ると、その日々の思いが伝わってくるじゃないか!これを涙無しでは観ることなんて僕には出来ない!そうだろ!?」
この思いを皆に届けたい!そう思うと、熱弁せずにはいられなかった。この思いは二人にも届いているはずだ、そう思い二人を見るのだが、
「あ、うん・・・・・・そ、そうだね・・・・・・」
「そ、そうですね・・・・・・」
二人は私に同意するのだが、笑顔が引き攣っている。
「だから言ったじゃないですか・・・・・・」
加奈がそう呟く。二人には私の思いが伝わっていなかったのか。こんな素敵で純粋な気持ちをまだ感じ取れないのは何故だろうか・・・・・・私が深く模索した先にたどり着いた答えは、
「そうか!三人ともちゃんと試合を観ていないからなんだね!それなら解らないよね。じゃあ今から第三試合が始まるから皆で観よう!今日は第四試合まであるからあと二試合も見れるね!」
「え・・・・・・あ、ちょっと用事を思い出したかも~。ね、まっちゃん?」
「そ、そうですね!真美さん!」
二人はその場限りの嘘で何とか逃げようとしているが、そんな事はさせない。今はそんな気持ちでも試合後には泣き崩れて僕に試合を観る機会を与えてもらった事を感謝するのだから。
「そんな嘘つかなくていいから!よしそれじゃあ観よう!さあさあ、こっちに来て!」
私は二人を強引にテレビの前に座らせた。さあ、もうすぐ試合が始まる!
加奈が洗濯物をたたみ終え、この場を去ろうとしていたので、
「加奈、どこに行くんだい?もう試合が始まるよ?」
「え?私は関係ないんじゃ・・・・・・」
と、試合を観ない気でいたので、
「僕は三人って言ったよね?加奈も一緒に観るんだよ。」
と私は加奈に手招きをした。
「私は関係無いじゃん!」
加奈がそう言った時に、真美と増田さんは立ち上がり加奈の両腕にそれぞれつかまり、
「加奈ちゃん。一緒に観ようよ。」
「そうですよ。せっかく良くんが積極的に私達に言ってくれたんですよ?」
と言い、二人は加奈をテレビの前まで連れてきて、強引に座らせた。二人にも私の気持ちが伝わったのかも知れない。
その後、私は涙無しでは二試合を観ることが出来なかった。やはり、夏は甲子園を観るのが一番である。
「一人だけ逃げようとした罰だからね。」
「・・・・・・」
「加奈ちゃんだけ逃げようという事はさせません!」
2、メタル
「な~良、メタルって難しいのか?」
昼休み、準備室でお弁当を食べていると小倉が聞いてきた。小倉はパンク好きだったはずなのだが、
「難しいって、ギターの事?」
「そりゃそうだろ。俺はギターしか弾けないんだし。」
私は食べようと持ち上げていたからあげを弁当箱に戻し、少し考えてから、
「曲によるけど・・・・・・難しいのは多いよね。」
と、答えた。一般的にメタルは凄く難しいというイメージがある。否定はしないが、メタルの曲ばかり練習するのはあまり上達しない気がする。恐らく、メタルの曲、と言う事で練習を開始すると速弾きばかり練習する人が現れるだろう。だが、曲の中で速弾き等は数秒しか披露する機会が無い。むしろその他のリズムバッキングの占める割合が多い。だからこそ、リズム面を強化するためのバッキング練習は欠かせない。
「そうか・・・・・・何か初心者にお勧めのバンドあるか?コピーする上で。」
これまた難しい質問だ。基本的に自分が好きなバンドの曲をコピーするのが一番良いのだが、私がお勧めするのは・・・・・・
「メタルじゃないけど、ディープ・パープルとかいいよ。」
「ディープ・パープルね・・・・・・どんな曲があるん?」
「有名所だと、ブラックナイトとか、バーンとか、ハイウェイスターとかかな~。僕はチャイルドインタイムが好きだけど。」
私も初めてギターを触ったときに練習したのはディープ・パープルだった。有名なスモークオンザウォーターを弾いたものだった。ソロは決して初心者用では無いのだが、リフを弾くだけで満足した。
「へ~、どんな曲?」
私が口で説明しても伝わる訳が無く、弁当を食べ終えた後、準備室に置いてあるギターで、私は小倉にバーンを聴かせた。
「案外簡単そうだな。」
「きちんとリズムを取ってやんなきゃ駄目だよ。でもだいたいリッチーの曲はソロが、」
ソロに入るとそれまで余裕そうに見ていた小倉の顔が真剣になった。私の弾くパッセージを見て、先程までの簡単だ、という考えが消え去ったのだろう。ソロを弾き終えると、
「これって難しいほうか?」
と小倉が聞いてきた。
「ディープ・パープルの中では難しい方だろうね。でも、速弾きって観点から言えばもっと速くて複雑なのはいっぱいあるよ。例えばこれとかね。」
私はイングヴェイのライジングフォースのソロを弾いた。その速さにただ小倉は驚いていたようだった。
「ま、これは難しい方だと思うよ。でも練習をしていたら弾けるようにはなるよ。必ずね。」
私の言葉に小倉が頷いた。昨今では速弾きは弾いても目立たず、ただ速く弾いてるだけと言われるが、私の中で未だに速弾きギタリストは好きな部類である。メタルを弾く上での楽しさはリフもあるのだが、速弾きも無くてはならないと私は思う。私はギターを置き、
「まあ、リフを弾くのも凄く楽しいよ。それでも練習をしなければいけないのは言うまでもない事だけどね。」
「そうだな。取り敢えず、これらを完璧に弾きこなすわ。」
小倉はそう意気込んだ。こうしてメタルを弾く楽しさを感じてくれたならば嬉しいのだが。
「取り敢えず、好きな曲を見つけてそれを練習するのが一番だと思うよ。準備室に何枚かCD置いてあるから聴いてみるのもいいよ。」
「解った。聴いてみる。」
小倉が準備室のCDをあさりだしたが、もうそろそろ午後の授業が始まるので私は小倉に一声かけてから準備室を後にして、教室へ向かった。
それから一週間が立ったある日、
「なあ良!お前のおかげで俺気づいたよ!」
と、小倉が朝から元気よく私の所へ来た。
「やっぱあれだな。邦楽なんて糞だな。俺聴いてて解ったよ!洋楽のほうがめっちゃくちゃ上手いし、良い曲ばかりだもんな。いままで邦楽を聴いていたなんて俺、恥ずかしいよ。」
活き活きと邦楽を貶し、洋楽を絶賛する小倉を見て、私はやってしまった感が大きかった。
「日本のギタリストなんて糞だ糞。皆下手くそだ!俺取り敢えずヤングギター読んでもっと海外の事勉強するわ!それじゃあな!」
走り去る小倉を見てどうしようと私は思った。
「あちゃ~、典型的なパターンに小倉なっちゃったんだ~。」
小倉が言っていたのを聞いたのか真美が私に言った。
「ま、面白そうだからこのまま見届けようよ。」
真美は笑いながらそう言うと、自分の席へと向かった。私は小倉がこうなった原因の元が私にあると思うと頭が痛くなった。
今回も読んで頂きありがとうございました!
ま~、中学生の時ってこういう考えになっちゃう人って大勢いますよね。私の時は私も含め、周りが皆そうなりました。私はバンド系だったのですが、R&BやHIPHOPが流行っていたので皆ソッチ系に。B系が多かったな~。今でもたまに会うとそういう格好の人とかいます。私がライブハウスに行くように、彼らはクラブに行くみたいです。クラブとか怖くて行けないです!
それでは、今回も読んで頂き誠にありがとうございました!