中学三年生①-1
何と言うか、皆さんありがとうございます!お気に入り登録してくれた方々、読んで頂いた方々!感謝してもしきれません!正直な話、お気に入り登録して下さる方々なんていないだろうなって思いましたし、PVも100行ったら大成功だと思っていました。みなさんのおかげで3000越えを果たしました!他の作家さんと比べたら全然少ないほうなんですけれど、私にとっては滅茶苦茶多いです!本当にありがとうございました!
それで、今回なんですけど・・・構想の3分の2くらいしか書いてないんですけど、今までで一番長くなってしまいました。まだまだ続きがあるので八話の①って事にしました。長いですけど、出来る事ならば最後まで読んで頂ければ嬉しいです。では、今回もよろしくお願いします。
「間もなく○○です、○○観光電鉄をご利用のお客様はお乗り換えください。忘れ物の無いよう、御仕度ください。この先、揺れる事がありますので、お気を付けください。お降りの際は足元にご注意下さい。」
科学の進歩は凄い物で、前世の実家まで新幹線、特急を乗り継いで三時間ちょっとで着いた。これくらいの時間ならば全然苦にならない。むしろ、新幹線、特急列車の、私の隣に誰も座らなかったので気を使わないでここまで来れた。
「暑いな・・・・・・」
駅のホームに降りるとそれまで冷房の効いていた極楽な世界から、湿度が高く、気温も高いジメジメした地獄に戻された。15年間、ここよりも暑くジメジメした都会で過ごしていたから余裕だろうと思っていたのだが、私が知っている時よりも何倍も暑く感じる。少しは涼しいだろと期待していただけに裏切られた思いだ。
駅の改札を出て、バス停まで行くと懐かしい風景が流れてた。昔と少しは変わっていたが、大々的に変わってる訳では無い。懐かしさから、辺りを歩き回った。こんな場所だったかな、とか、前世以来の、帰ってきた故郷に胸を熱くした。
私達の中学生活は残り一年を切った。二年生の時には学校内でのライブ以外にも、師匠のツテでライブハウスで演奏をしたりた。オーディションを受け、出演する事が決まった時の最初のライブはお客さんは5人だけだった。お客さんは皆、私達の対バン相手の方が本命らしく、無名な私達は観る価値が無い、と決めつけていたのである。一年生最後の卒業ライブの時の人数と比べると天と地ほどの差であった。私としては懐かしい光景だったが、真美と増田さんは多少ショックを受けたらしい。それからライブ本数を重ねるうちに少しずつ観客数も増えていった。文化祭前には目標の100人を達成し、私達は素直に喜んだ。文化祭ライブ自体も二年連続で開催式で演奏する事が出来き、音楽室でのライブも一年生の時以上に観客が増えた。嬉しい事に、音楽室の中に入りきらないほどで、廊下で聴いてた人が多かったらしい。それから、増田さんはピアノのコンクールで中学生の部、全国三位という好成績を収めた。その時の演奏を生で見ていたのだが、鳥肌物だった。演奏はもちろんの事、ドレス姿も最高だった。そう言えば、加奈もコンクールで小学校全国一位というあり得ない成績を収めた。それも二年連続である。日本全国に天才美少女ピアニストとして紹介された。おかげ様で全国区の有名人になり、全国各地からファンレターが届く。それを一通一通しっかりとチェックをして安全な物を加奈に渡している。もしも危険な物が入ってたり、ロリコンの行き過ぎた輩からの差し入れがあったら迷う事なく捨てている。加奈の安全を守るのは私の役目なのだ。
そもそも、何故私が前世の時の故郷にいるのかと言うと、単純に両親に会うためである。そろそろ一人旅をしても大丈夫な年齢になったので父と母に頼み、夏休みの一週間、一人旅をさせて欲しいと頼んだ。母は猛反対したが、父の、
「いいじゃないか、ほら可愛い子には旅をさせろ、って言葉があるじゃん。それに良だぜ?加奈じゃないんだから~。」
という言葉に母は渋々納得した。加奈が付いて行くと駄々をこねたが、さすがに小学生はまずいと言う事になり却下された。その時に加奈が私に向かって、もう子供じゃないよ・・・
・・・と色気仕掛けをしかけてきた。妹のはずなのに加奈の色気は凄まじく、本気でまずかった。おそらく顔が真っ赤だったのだろう。加奈が本当に色んな意味で怖くなってきたのを感じた。
こうして、私は夏休みを利用して故郷に里帰りをしている。家の方のお盆は他の地域より早く行われるので、調度こちらのお盆時期に来る事が出来た。お盆の時期の帰省ラッシュも上手避けれたので言う事は無い。まさに、死んだ者が帰ってきた、というシュチュエーションだ。
バスに乗り、実家へ向かう。バスから見える街の様子はやはり所々変わっていた。大きな本屋が建っていたり、全国チェーンのフェミレス、ハンバーガーチェーン等の外食産業も進出しているようだ。もし、この地に両親が居なくても、これを見れただけで良かったかもしれない。だが、会えなかった時の事を考えてなかったので不安でもある。
市街地から離れて行き、田んぼばかりの道を走る事30分、ようやく実家近くのバス停に着いた。集落も何も変わっていない。本当にもう一度ここに帰ってくる事ができたのだ。
「ただいま・・・・・・長く時間がかかっちゃったよ・・・・・・」
誰に向けて喋った訳でもなく、この土地に挨拶をした。
トラベルバックを引きずり、実家の方へ歩いて行く。近くの海から聞こえてくる波の音、所々に生えている松の木、実家に近付くにつれて、心臓の鼓動音が速くなってくるのが解る。本当に行っていいのか?もし、信じてくれなかったら、もし、まだ植物状のまま生き残っていたのなら・・・・・・不安ばかりが募る。それでも、私が望んで来たのだ。しっかりケジメを付け、今を生きるために来たのだ。今更迷ってもどうしようもない。
家の敷地に入り、正面玄関の前に立ち、一回深呼吸をしてからインターホンを押す。暫くしてドアが開かれた。
「はい、どちら様ですか?」
出てきたのは母だった。涙が溢れそうになる。母はもう60近くになっている。最後に見た時よりも随分老けてしまっていた。
「すみません、こちら小比類巻博之さんのご実家でよろしいでしょうか?」
「はい、そうですが何か?」
ここからが怖い。もし植物状態で生きていたのならどうしよう。そんな時どう答えれば良いのだ?だが、ここでずっと立ち往生している訳にはいかない。腹をくくれ、良!
「私、生前に博之さんにお世話になったものなのですが、お線香を上げに参りました。お上がりしてもよろしいでしょうか?」
さあ、賽は投げられた。ここからどうなるかは私も解らない。
「まあご丁寧にどうも、どうぞお入りください。後ろの方々もそうなのかしら?博之の知り合いにしては若すぎるのだと思うけど。」
よし、私は既に死んでいる。良かった~。って良くはないのだが。だがこれで博之の体には未練が無くなった。これからは良として生きなけれ・・・・・・母は最後の方何といったのだろうか。後ろの方も?今日は俺以外に線香を上げにくるもの好きなやつがいるのか、と変な思考をしながら後ろを振り返ると
「は、は~~ぁい・・・」
「・・・・」
「「「・・・」」」
そこにいたのは加奈、真美、増田さんのこの地に居るはずの無い三人だった。
一度、母の方を振り返り、
「すみません、急に来たので準備を行っていないでしょうから、数十分後にまた伺ってもよろしいでしょうか?」
「あら、よく解りましたね。そうして下さると助かります。」
そう言うと互いに礼をして私は扉を閉めた。そして、無言で三人に手で来い、と合図をし、近くの砂浜に向かった。
「それで、何でここにいるのかな?詳しく説明して。」
「いや、ね?加奈ちゃんが良が今日にどこか遠くに行くから追跡しようって言いだしてさ~」
「ま、真美さんが私がお兄ちゃんいなくなるの寂しいって行ったら跡着けようって言いだしたんじゃないですか!」
真美と加奈が二人で責任の押し付け合いをしている。増田さんはどうしようとおろおろしているし、ここは優しく懐柔するしかない。
「怒って無いから、ね、教えてよ?増田さん!」
「え、えぇ~~~~~~~~!!?」
こうなったら強硬手段しかない。私は増田さんの手を取り、目を真剣に見て、
「頼むから教えて欲しい。僕にとって今日は凄く大事な日なんだ。」
と頼み込んだ。増田さんの顔が真っ赤になり、静かに頷いた。私も増田さんの手を取り顔を近づけるのは凄く恥ずかしかったが、私に関わる重要な事なので我慢した。その後ろでは加奈と真美がまだ責任の擦り付け合いをしていた。
「それで、加奈が真美に僕が居なくなるのを教えて、二人で跡を付ける事に決めて、何も知らされてない増田さんを勝手に呼び出して、僕が家を出るのを確認して、コソコソ着けてきたと。」
真美と加奈を砂浜に正座させ、増田さんは私の持ってきたトラベルバックから服を取りだし、砂浜に広げて座らせた。
「「はい、ごめんなさい」」
自然と溜め息が出た。これからどうしたらいいのか。幸い、お金の方はATMからおろせば四人分なら一週間くらいなら何とかなるが、
「真美と増田さんは親御さんに説明したの?」
「私はまっちゃんの家に泊まるって言ってきた。」
「私も真美さんの家に泊まるって・・・」
二人とも申し訳なさそうにしているが、今回は軽く許すわけにはいかない。
「加奈はどうするんだよ。父さんも母さんも許可してないだろ?」
少し考えるそぶりをして、閃いたという顔をして、
「お兄ちゃんと一緒って言えば良くない?」
確かに、そうなりそうな予感がする。
「取り敢えず、帰りの電車代は僕が立て替えておくから、今日中に帰るんだよ?解った?」
「「え~~?」」
「え~じゃない!真美も増田さんも一日だけならその嘘も大丈夫だけどそれ以降は無理でしょ!常識的に考えて!」
「でも、良のおばさんに説明して頼んだら・・・」
「そんな事させません!!!」
あまりに吹っ飛んだ意見に、私は頭が痛くなった。これからどうしようというのだろう。
「取り敢えず、今からさっきの家に向かうから僕が言う場所に、僕が出てくるまでそこにいろよ?解った!?」
は~いと三人は元気無く返事をした。
「お待たせいたしました、それでは仏壇に案内しますね。」
母の案内の元、私は仏壇に向かった。家は昔と変わっておらず、所々、私が壊した場所が見受けられた。そして、仏壇に入ると、祖父の写真の他に、祖母と私の写真が新しく飾ってあった。そうか、祖母は亡くなったのか。
仏壇の前に座り、蝋燭の火から線香に火を付け、手で軽く振って火をけして、線香を立てて合掌をした。心の中で、祖父と祖母に謝り、無事に天国に行けたのかを聞いて。お供え物を置いて私は母の方を向いて深く一礼した。母も、
「本当にありがとうございます。息子も喜んでいると思います。」
母は深く頭を下げ、私に向かって言った。ここまではまだ、本番では無い。ここからが本番なのだ。
「すみません、少しお時間よろしいでしょうか?博之さんについてお話したい事があるのですが。」
「ええ、よろしいですよ。でも私にですか?」
線香を上げにきた目的の人物について話したい事があると言われ、母は不思議そうな顔をしていたが、快く承諾した。
「ここでは話しにくいと思いますので、別の場所にしましょうか?」
「そうですね。お願いします。」
私は応接間に通され、椅子に座り、母を待った。しばらくして、母がお茶とお茶受けを持って応接間に入ってきた。私の目の前にそれらを置き、母も椅子に座り、いよいよ話す時が来た。
「それでお話というのは・・・・・・」
「転生、と言う言葉を御存じですか?」
いきなり転生の話を持ちだした私に、母は首をかしげるしか無かった。
「転生というのは死後に別の存在に生まれ変わる事です。輪廻転生の方が言葉としてなじみがあると思います。」
「そうですね・・・・・・それで?」
私が仏教用語を出した事により、母は私が息子と関わりがあった人物では無く、宗教関連の人物かも知れないと予防線を張った。見て解る、母の口調が変わったのだ。
「まず最初に、博之さんは○○年に○○市の○○地域に午後○時に車に轢かれた、それが原因で死亡した、間違いないですか?」
「そうですけど、あなたは博之の死んだ日にちをまさか知らないなんて言わないでしょうね?」
「残念ながら詳しくは知りません。ですが恐らく事故に遭った日から一年以内に死亡したのではないですか?私は博之さんが事故にあってから一年後に生を受けました。ですので、今は中学三年生です。」
「・・・・・・」
母は無言になった。ここからが大変だ。いよいよ私が転生した事を伝えなければならないのだから。私は一回軽く深呼吸をし、一息おいて説明を続けた。
「今から言う事は決してフィクションでも何でもありません。全て現実です。おそらく、信じられないでしょうが、私は博之として生を受けて、生活し、事故に遭ってから意識を回復した時、赤子として生を受けました。そして今に至ります。要するに私は、新堂良という体の中に、小比類巻博之の生きてきた記憶、性格を持つ人物と言う事です。」
私が言い終えると母は肩を震わせながら下を向いていた。死んだ息子の魂が私のような若造の中に入っていると言われたのだ、今日初めて会った人に。怒りを覚え無い方がおかしい。
「信じられないのも無理はありません。見ず知らずの若造に、体は違えど息子だと言われて怒らない親がどこのいるでしょうか。ですが、今回はそのようなドラマや小説のような話が、本当の事なのです。一応、証拠となりえるか解りませんが、家族以外、それこそあなたと博之さんしかわからないであろう事を幾つかお話しましょう。」
私は母に、おそらく私と母しか知らないような事をいろいろ話した。浅い話では、父と姉に黙って二人で外食をした事、その時はだいたい私の好きなお寿司を食べた事。高校の合格発表の時、私が合格したのにわざと、落ちて落ち込んでいるかのようにして母の元へ結果を報告しに行った事、それを母は、私の口元が笑っているのを見て見破った事、等様々話した。一つ一つ、詳細に話す私を見て、段々と母の私の見る目が変わってきた。そしてついに、
「博之なの?」
と、目元に涙を溜めて私を見た。
「ごめんね、お母さん。俺、親不孝者だよな。いっぱい尽くしてもらったのに、何一つ返せなかった。ごめんね、ごめんね・・・ごめんね・・・」
そこから先、私は言葉が出なかった。溢れる涙が止まらなく、喋っているうちに言葉が出なくなった。母を見ようにも涙で前が見えない。本当に親不孝者でごめんなさい。
「それで今は都会に住んでるんだ。中学校も私立?ドラムも教室に通ってプロの人に教えてもらってる?お金持ちなんだね・・・」
それから互いに今まであった事を話した。主に謝ってばかりの私に、母は全然気にするなと言った。姿形は違えどまた顔を見せてくれた事が嬉しかっらしい。私がどれだけ感謝してもしきれない事を話すと、互いに、また涙を流した。そして、今の生活を話し、今に至る。
「今の父さんも良い人だし、会社も良い所に勤めてるからね。」
「へ~そうなんだ。そういえば、博之が来た時に後ろにいた可愛いらしい子達は?」
「ん?・・・・・・あ・・・・・・」
私は急いで外に飛び出し、トラクター小屋に向かった。
「ごめん!!遅くなった!!」
ドアを開け、三人がいる所に向かった。
「あ、良、やっと来た~、加奈ちゃん泣いて大変だったんだよ!!!」
加奈を見ると膝を抱えて蹲っている。それを増田さんが心配そうに隣について見ていた。
「加奈!何かあったのか?」
私は急いで加奈の元に駆け寄った。増田さんも心配そうな表情をずっと加奈に向けている。もしかして蛇とかに噛まれたのだろうか?
「おい加奈、何があった?大丈夫なのか?加奈!」
加奈の肩を掴み、呼び続ける。そうすると、加奈は私の胸に飛びついて、
「お兄ちゃん、怖かった・・・怖かったよぉ・・・」
と震えながら鼻声で喋り始めた。だいぶ泣いていたのだろう。
「ごめん・・・僕がもっと安全な場所にいさせればよかった・・・」
「私・・・お兄ちゃんと一緒にいたい・・・」
「ああ、いいよ。だから落ち着いて。」
「真美さんと増田さんともいたい。」
「うん、みんなでいような。だから落ち着い・・・・・・は?」
私は胸で泣いているであろう加奈を見た、そこには満面の笑顔の加奈がいた。
「え?・・・・・・・え?・・・・・・」
真美と増田さんを見ると、真美の手には携帯が握られ、増田さんは胸の前に手を合わせてごめんなさいの格好をしていた。それの意味する事と言うと・・・・・・
「もしかして僕、はめられた?・・・・・・」
真美と増田さんがVサインをして、私の胸の中にいる加奈は二人をみて、小さく、やったねと呟きピースをしていた。
「「「お邪魔します」」」
「はい、どうぞ。」
取り敢えず私は、三人を家に上げる事にした。三人と私の関係、ここにいる事の経緯を説明した所、私が帰る日まで宿泊しても良いとの言葉を頂いた。いきなり四人も宿泊させる事となり、少し戸惑っていた様子だが、まだ中学生と小学生の女の子を同伴無しで宿に泊めたり、知らない土地で勝手に行動させる事になるくらいなら、と了承してくれた。その時、
「でも博之、あ、今は良くんか。あの子達に私とあんたの関係どう説明するの?あんたが死んだのってあんたが生まれる二年前よ?・・・喋ってて何か違和感があるわね。」
「取り敢えず、全てを話そうと思う。加奈も真美も増田さんも信頼に値する人だと思うし、誰にも言わないと思うんだ。軽々しく喋っていい内容でも無いし、当事者以外が喋ったらキチガイ扱いされるからね。」
そう言うと、母はあんたがそう言うならしたいようにしなさいとだけ言ってくれた。
私と三人は、以前の私の部屋に案内されて、暫くここで寝泊まりをして下さいと言われた。幸いにも、部屋の広さは畳十五畳と、広いワンルームサイズなので広さは困らないのだが、肉親以外の異性と一緒に寝泊まりをするのは若干心もとない。朝起きた時に、生理現象が起きてしまったら大変だ。加奈とでさえ、起きる前は数分心を落ち着かせてから起きるようにしているのに。
「広いね~。ここ全て博之さんの個人部屋だったんですか?」
自分の家の間取りと比べて、あまりにも広かったために加奈が質問をした。
「博之と姉が使ってたのよ。博之が実家を離れてからは姉が嫁ぐまで一人で使ってたけどね。」
母が簡単に説明をする。そう言えば、私が実家に帰ってくると姉が一人で広々と使っていた。その姉も今は嫁いで二人の子供を儲けて主婦をしているらしい。自衛隊の航空パイロットの旦那さんだから、働かなくても生活に苦はしないらしい。
「それじゃあ、夕食の時にもう一度呼びますのでそれまでくつろいで下さい」
母は丁寧にお辞儀をすると、部屋から出るときに私にしか解らないように、頑張れ、と小さく手で合図をした。私も母に解った、と手で合図をした。
あらかじめ母が、四人分の座布団を用意してくれていたので、私達はそれに座った。一息ついてから私が喋ろうとした所、加奈が
「お兄ちゃん、おかしいよね?さっき私、小比類巻さんからお兄ちゃんとの関係を聞いたんだけど、矛盾している点がいっぱいあるんだ。お兄ちゃんは何で小比類巻さんの家に来て、何で昔からの知人かのように二人とも接してるの?私達の知り合いに小比類巻って氏の人は誰もいないんだよ?」
いつの間に母と会話をしていたのか、加奈が私とここの家との関わり合いを聞いてくる。どう三人に説明しようかと考えていただけに疑問を持ってくれた事は、説明するのには好都合だが・・・・・・フィクションの世界のような話をして、三人が簡単に納得するのだろうか?もし仮に納得したとしても今後も同じように接してくれるのだろうか?今更になって不安が頭によぎる。母とは違い、今後も付き合いが長くなるかも知れない人達だ。それこそ加奈は死ぬまで関わるだろう。
「ねえ、聞いてるの?はぐらかそうと考えていても無駄だよ。だって博之さんはお兄ちゃんが生まれる一年前に亡くなってるんだから。どうやっても当人同士の関わりは不可能。百歩譲って博之さんが芸能人でお兄ちゃんが尊敬しているんなら考えれなくも無い。お墓に行かずに、一般人の住んでいる博之さんの実家に線香を上げに行くのは非常識な行いだけど。でも博之さんは有名人じゃない、ただの一般人。おかしいよね?」
いつものふざけた加奈とは違う雰囲気に真美と増田さんは驚愕の表情で加奈を見ていた。二人は忘れていたかもしれないが、加奈は全てにおいて非凡なのだ。これくらいやってのけるかもしれない。だが、私も、犯人を推理で追い詰める探偵のような加奈を初めて、しかも私に向けてされたので内心冷や汗ものだ。
「・・・・・・お兄ちゃん、もし、私に隠してある事があるのなら言ってくれない?私はいつだってお兄ちゃんの味方なんだよ?」
先ほどまでの問い詰めるような表情から一変して、加奈の表情は悲しそうになった。加奈が名探偵のように推理を披露してくれたので私は中々、言いだすタイミングを探せないでいた。
「あ・・・兄妹間の話なら私席外そうか?ね、まっちゃん?」
「そ、そうだね、真美さん。」
慌てて真美と増田さんが立ち上がり、部屋から出ようとする。何故か、加奈がラ○トのように計画通り!って顔をしていたが、
「待って。二人ともここまで加奈が言ったら気になるでしょ?本当は加奈が疑問をもつ前に三人に説明しようとしたんだけど・・・・・・むしろ辻褄が合うし説明し易くなったのかも知れない。だから僕は二人を、僕の友人の中で最高の友人、最も信頼のおける人だからこそ話そうと思う。だから座って。」
真美と増田さんは最初、困った顔をしたが、話を聞いていくうちに表情が真剣なものになり、もう一度座布団に座った。加奈が物凄く不服そうな顔をしていたが。
「これから話す事は絶対に他の人に言わないでほしい。多分信じないだろうけどね。加奈、お父さんにも、お母さんにも言わないでね。僕は墓までこの事を誰にも言わないでおこうと思ってたから。だから三人が僕の跡を着けてここに来たのは最大の誤算なんだ・・・・・・でもしょうがない。取り敢えず、三人に話しておきたい事は小比類巻博之って人の事。この人は僕が生まれる二年前に死んだんだ。バイトが終わり、住んでいるアパートへ向かう途中に後ろからきた車に撥ねられて。彼の人生はそこで終わった。彼が当時住んでいた所はH道○○市、大学も同じ市にあり、彼はここと、○○市しか住んでいない。そんな人が、遠く離れた僕と接点を持とうにも持てないよね。では何故、僕は彼を知っていて、彼の母と親しく見えたのか・・・・・・二年前に交通事故に遭った彼が次に意識を回復した時は、目も開けれない、言葉も言えない、ただ泣き声を上げるしかできなかった。それから目を開ける事が出来た時に確認出来たのは自分が小さくなっていたって事。知らない女の人に抱き上げられ、知らない男の人が嬉しそうに私を見ていたんだ。」
私が話す言葉に一字一句逃さまいと、三人は真剣に聞いていた。途中、何かに気付いた加奈はもしかして、と言う顔で私をみたが、手で静止した。
「加奈はうっすらと気付いたようだね・・・・・彼は目を開ける前から意識があったために、彼自身にされる事、彼自身が身をもって経験した事から赤子のようじゃないかって思ってたんだ。彼は目を開けてその光景を見た時に確信した。自分が赤子になってるって。それから月日が流れ、彼が三歳になった時、彼は向けられる情報から、彼が事故にあってから四年が経っている事を知った。一年間、彼が事故にあってから空白の期間がある事を知ったんだ。そして数ヵ月後、彼に妹が出来た。ここまで言ったらもう解ったよね?・・・・・・小比類巻博之が事故に遭ってから次に目を覚ました時、彼は小比類巻博之じゃなかった。彼は新堂良になっていたんだ。」
三人は私の言葉を聞いて声を出せないでいる。当たり前だ。どこにこんな話を初見で聞いて納得する人がいる。内容も現実離れした、フィクションの世界の内容だ。
「僕が喋っている内容は嘘のように聞こえるかもしれない、物語を喋っているのかと思うのかも知れない。でも・・・・・・本当の事なんだ。言いかえれば、僕の体は新堂良で、中身は小比類巻博之なんだ。」
私は下を向いていた。三人が私を頭のおかしい人を見る目、何か得体の知れない人を見る目で見ているかも知れない、と思ったら怖くて見る事が出来なかった。
「僕の言っている事は普通の事じゃない。ただの頭がおかしくなった人の話しか聞こえないと思う。僕だってこんな話をされたらそう思う。だけど・・・・・・」
言葉が出てこない。何を言ったらいいのか解らない。こんな時どうしたらいいのかなんて誰も解るはずが無い。誰も経験をしていないのだろうから。
「だけど・・・・・・これをきっかけに僕と距離を置く結果になっても僕は全然構わない。特に加奈は・・・・・・僕が、小比類巻博之が新堂良の中に入ったせいで本当の新堂良の自我は消滅したのかもし「馬鹿!!!!!!!!!」!」
私が言ってい途中に加奈に馬鹿と言われ、反射的に顔を上げた所、私は加奈にほほをぶたれた。そして、加奈は私を強く抱きしめた。
「心が小比類巻博之でも!体が新堂良でも!私の世界一大好きなお兄ちゃんはお兄ちゃんだけなの!名前なんて関係無い!もしとかだったらとか関係無い!またそんな事いったら今度は殴るからね!思いっきり殴るからね!私は今ここにいるお兄ちゃんが大好きなの!」
加奈の抱きしめる手が強くなっている。喋っている声が大きくなるにつれて涙声になっている。
抱きしめられている手が離れたと思ったら、私は胸元を掴まれ引きよせられると、誰かに殴られた。顔を上げると、そこにいたのは肩を上下させ、息を荒くしている真美がいた。
「良、今度また距離を置いてもらっても構わないって言ったら・・・・・・私は良を一生許さない。何であんた一人の考えで距離を置かなくちゃいけないの?私はあんたと距離を置こうなんて気はさらさらない!あんたが真剣に、苦しそうな顔で言っている事が嘘だと思うほど、私とあんたの関係は浅く無いだろ!」
茫然と真美を見上げていると、真美の後ろから増田さんが近寄り、私は頬を叩かれた。
「良くんが不安になる気持ちも解ります。でも、私はあなたの真剣な話を信じられないほど馬鹿じゃない!私は・・・今のあなたが好きなんです!名前なんて関係無い!だから離れても良いなんて・・・・・・二度と言わないでください!」
増田さんが怒りながら、涙をながしながら言った。そうか・・・・・・私が思う以上に、彼女達と私の間にあるものは深かったんだな・・・・・・
本当に三人とも・・・・・・あれ?、先ほど私は増田さんに好きと言われなかったか?
「あの、増田さん・・・・・・さっき僕の事好きって言わなかった?」
増田さんの顔が何を言っているのだろう、と言う顔から段々狼狽していき、しまいには顔を真っ赤にして、
「ですから・・・その・・・好きなんです!良くんの事が!他の誰よりも!」
増田さんは言い終えた後、真っ赤な顔で私を見た。私は告白されたのだ。この状況に置いて・・・・・・
「ちょっとまっちゃん!」
「真美さんは黙ってて下さい!」
「嫌、黙らないね!抜け駆けなんてずるいよ!」
「なら、告白してください!」
二人が口喧嘩してるのを茫然と見ていると、真美が私の方を向き、近寄ってくると・・・・・・
「!!!!!!!!!!」
「「真美さん!!!!!!!!!!」」
真美は私にキスをした。
「これで私の気持ちが解ったでしょ?解らないなら・・・」
と、言った後に私の顔を掴みもう一度キスをした。口の中に舌を入れて・・・・・・なすがままにしていたら、急に真美が引き離され、引き離された真美を見ると、増田さんにビンタされていた。
「ちょっと何を!」
「酷いです!私は告白して下さいって言ったんです!」
「元はと言えばまっちゃんが先に私達の約束を破ったから!」
「それとこれは関係無いです!」
二人はまた口喧嘩を始めた。私は黙って見ているしかなかった。そこに、先ほどまで空気だった加奈が私の前にゆっくりと近寄ると、
「消毒しなくちゃね。」
加奈も私の顔を掴み、ディープキスを始めた。先ほどの真美よりも大胆に、ねちっこく。
一度行為を中断すると、ほんのりと火照った顔で
「まだまだしなくちゃね・・・・・・」
もう一度顔を近づけようとしたその時、
「あほか~~~~!!!!!!」
真美と増田さんに頭を叩かれた。
「邪魔しないでください!」
「兄妹でそれは駄目だろ!常識的に考えて!」
「兄妹とか関係ありません!私は世界中で誰よりもお兄ちゃんの事が好きなんです!」
今度は真美と加奈が喧嘩を始めた。ちょっと待て、加奈は妹で肉親で・・・・・・と考えていた所に、
「私だけして無いのは仲間外れですよね?」
今度は増田さんがキスをしてきた。それも普段の増田さんからは考えられないディープキスを、
「「ちょっと!!!!!」」
直ぐ様二人に引き離され、今度は三人で喧嘩をする。私の過去の話から一体どうなってこのような状況になったのだろう?
かくして、私はファーストキスを奪われ、合計三人の女性に数分のうちにディープキスをされるというおかしな事を経験した。
三人がまだ言い争ってるので、独り我に返った私はこっそり部屋を抜け出し、屋根の上に昇った。物心付いた時から、何かあると屋根の上で考える癖が私にはあった。今はマンションのために無理なのだが。
屋根の上は浜から来る浜風と、波の音が聴こえる。そして、海が近いため水平線を見渡せる。
「三人にキスされちゃったな・・・・・・」
先ほどの事を思い出し、少し顔が赤くなった。三人とも飛びぬけて美人だ。そんな相手に思いを寄せられ、キスまでされたら、答えを出すしか無い。
「加奈の事は好きだけど・・・・・・妹だしな・・・・・・」
加奈への愛情は妹としてしか見ていなかった。だが、ここ最近の行動と、成長に危うい場面がいくつもあった事は認める。もしも、同じ歳だったなら、それこそ非常に危無かっただろう。
「真美と増田さんか・・・・・・」
中学二年生頃から急に異性として意識し始めた二人。二人とも互いに持っていない良さがある。だからこそ、迷う。ぶっちゃけた話、二人とも異性として好きなのだ。どちらかなんて選べない。それくらい二人とは深く、長く関わってきてしまった。二人とも好きなのだ。
「二兎を追う者は一兎を得ず、多分そうなんだろうけど・・・・・・僕は欲張りなんだろうな。どちらかをなんて選べない。どうしたらいいものか・・・・・・」
日本が一夫多妻制だったなら良かったのに・・・今の私は本気でそう思っている。
「ほんと・・・三人とも僕には釣り合わない、素晴らしい女性だよ・・・・・・」
小さく呟いたと同時に、体を屋根に預け、私は空を見た。雲一つ無い晴天の空だった。
「良。」
体を起こすと、三人が屋根の上にいた。
「何でここにいるって解ったの?」
「お母様に聞いたんですよ。昔から何かあったら屋根の上にいるって。変わらないんですね。」
増田さんが笑いながら答えた。母は私の癖を今でも覚えていたらしい。
「良が言ってた事、聞いちゃった。」
真美が照れながら言った。私も、さっきまでの独り言を全て聞かれたかと思うと顔から火が出そうだった。
「良が、私の事好きなんだって事は言葉の意味から解った。そして、まっちゃんの事も好きだってことも。良なら多分そうなのかなって納得しちゃった。だって良って案外欲張りだもんね。」
「うん・・・・・・僕は真美の事が好きだ。女性として。でも同じくらい増田さんの事も好きだ。今の僕にどちらかを選べるなんて事出来ないんだ・・・・・・ごめんね、凄く優柔不断で。」
普通の人ならこれで愛想が付くだろう。二兎を追うものは一兎を得ず、欲張りすぎる人は全てを無くす、世の中は本当にそうなのだ。
「良、私凄く嬉しいよ。私の初恋って良なんだよ?もしかしたら距離が近すぎて、友人としてしか見られていないって思ってた。でも良は私の事を好きだった。こんなに嬉しい事は無いよ。だから!」
真美は私の側に来ると、私を指さし、
「良が私以外の女なんてあり得ないって思うくらいに、私頑張るから!だから、良が誰か一番好きな人が出来るまで私は良と今までの関係でいる!駄目?」
「私もです!」
増田さんが真美の背から顔を出し、
「私も真美さんと一緒です!私も待ってます!そして、それまで私は良くんと友達です!私は真美さんなら良いって最初から思ってましたので。私だったら嬉しいけど・・・・・・」
「私もまっちゃんならしょうがないって思うよ!こんな良い娘他にいないもん!でもね、私達以外だったら・・・」
解ってるよね?と言う目で二人は私を見た。笑顔なのにいつも以上に怖い。
「ま、二人は私の前に敗れ去るんで。」
加奈の声に、二人は後ろを向き、また三人で言い争いを始めた。本当に、仲が良いほどよく喧嘩をする。喧嘩の理由が私絡みで無ければ言う事ないのだけれど。
三人とも、こんな私を、優柔不断で踏ん切りのつかないへたれな私をここまで一途に思ってくれるなんて、
「ほんと・・・」
下を向き、軽く呟いた後、私は立ちあがり三人に向かって大声で、
「お前ら、最高の女だよ!!!」
と叫んだ。その言葉に三人は言い争いを止め、私を最高の笑顔で見てくれた。
読んで頂きありがとうございました!
取り敢えず、今回の話はこの物語を作る上で最初から決めてました。
転生物を読んだり、考えてしまうとそれまでの両親の事を考えてしまってどうにかして会って元気に過ごしている姿を見せたいって思っちゃいます。形姿は違えど、会って話せば伝わる、解るはずだ!って勝手な思い込みが私の中にあります。
それと、良の判断何ですが、今の所はこれでも大丈夫かなって。女性陣がたくましすぎるので・・・
それでは今回も読んで頂きありがとうございました!出来るならば、今日中か、明日には次の内容を上げたいと思います!