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【急募】お味噌の作り方【教えて】

掲載日:2026/03/31

家を出た後のドアマットヒロインに元母親からお手紙着いた。




 みなさま、ごきげんよう。


私はシルフィーナ。

この中世ヨーロッパ風の、あくまで『風』ですが、そんな世界にある国の1つステラクルスのヘリオスター伯爵という貴族の一応令嬢……だったのですが、家庭内不和(大分ソフトな言い方)で縁を切られ、今はここフォンベリル公爵家(貴族のトップで王族の降嫁もあるすんごい名家)に婚約者としてお世話になっています。


何故こんな事になっているのかは紆余曲折があったのですが、今は関係無いので、ひとまず置いておきましょう。


 私の手元には一通の手紙。

隣には麗しい我が婚約者。そのかんばせには困惑が含まれています。


目の前の手紙は前回、突然公爵邸に花束と共にメッセージカードを送ってきた私の元母親からだからです。


婚約者様は彼女の行動が読めず、私が害されないか気が気でないのでしょう。私もですけれど。


その前回のメッセージカードにはこう書かれていました。



『【急募】お味噌の作り方【教えて】』



本当にそれだけです。

婚約者様は暗号か何かか!?と疑っていましたが、そんな訳ないですよね。何かのスレッドのタイトルのようです。


あ、申し遅れましたが、私、現代日本人の前世の記憶があります。

まさか、バナナでは無く、キウイの皮に滑って転んでテーブルの角に頭を打ち付けて死ぬなんて思いもしなかったですよ。マジで。

ちゃんとゴミはゴミ箱へ、ですね。


そして気が付けば、前世で程々に人気のあった『ステラはあなたに降りそそぐ』の世界に転生していたって訳です。


略して『星ふり』は元々恋愛ゲームで、その王道なストーリーが一定層に刺さったらしく、大人気!とまではいかないまでも根強く支持されており、続編が何作か発売されて、書籍もあったはずです。


その何作目かのヒロインっぽいんですよね、私。


友達がやっていたのチラ見していたくらいで詳しくは知りませんが、パッケージイラストに描かれていたヒロインそっくりですんで、まあ、間違いは無いんじゃないかと思います。


 それで、手紙ですよ、手紙。


カードの1文だけだと普通の意味で取れば、味噌を作りたいんだな、と思いますよね? 

それが、この国に流通していないんです、味噌。


だから、何故そういう文章を送ってくるに至ったのか、そしてやっぱりそのままでは詳しい内容が判らない為、よくヒステリーを起こしていた元母親に恐る恐るカードの意味を尋ねるお返事を書きました。


あ、私所謂ドアマット令嬢というヤツで、父親には自分にも妻にも似ていないと無視され、姉のグロリアにはこき使われ、物を取られたり、暴力を振るわれたり、「いじめられている」等と他人の同情を引く為に嘘の噂を流されたりしました。


流石、悪役令嬢です。

やる事が悪質で探知能力付いているんじゃないかってくらい使い所が的確でした。


そして肝心な母親は、「私の子じゃない」とヒステリーに罵ってきたり、使用人がする様な、いえ使用人ですらしない様な事を強制して来たり、人一人の出来る分量を超えた仕事を回して来たり、やはり暴力もありました。

私の部屋を物置きに変更したのは、勿論この人です。


まあ、前世の記憶があったから耐えられましたけども。本当に知ってて良かった民間療法。風邪なんかこの世界、馬鹿に出来ませんからね。


さて、そんな母親からの返事が今、自分の手の中にある手紙という訳です。

心配そうに私の手を握る婚約者様へ笑いかけ、覚悟を決めて手紙を開きました。




拝啓、シルフィーナ様



 この前は、突然カードでメッセージを送ったにも関わらず、お返事頂き有難うございました。


失礼だとは思ったのですが、そうでもしないかぎり、貴女を愛する公爵様に内容を確認するよりも先に破られそうだと思ったので、そのような手段を取りました。


最初からオープンですので、誰でも見る事が出来ますからね。怪しいものじゃないと判って頂けるのではないかと。

破棄される可能性もありましたが、お手元に届いたようでホッとしております。


花はガーベラとスイートピー。

どちらも花言葉は『希望』で、公爵夫人として新たな人生を歩む貴女にはぴったりだと思います。


公爵様もこの手紙を見ていらっしゃると仮定して、先に記しておきますが、別にこの手紙はシルフィーナ様に帰ってきて欲しいだとか、お金の無心等彼女をおとしめる内容ではありません。


ただ、先のメッセージにも書いた様に味噌の作り方を教えて欲しいだけなのです。今までやってきた事を考えると、何と虫のいい事を、と言われそうですが、どうか、どうかお願いします。


ちなみに味噌とは何か?と思われるかもしれませんが、この国には無い調味料の一種です。これで作るスープは魂の故郷と言っても過言では無いでしょう。


そうです。実はわたくし、貴女が家を出た後、前世の記憶とやらがインしたようなのです。


その手の物語は詳しくはないのですが、一般常識程度にはたしなんでおりましたので、混乱はしましたが何とか状況を受け入れ、今に至ります。


ドアマットヒロインの母親なんて、断罪対象やザマァされるじゃないですかヤダー。


でも、状況が進行しちゃったからには自分でどうにかするしか無いと、奮起する事に致しましたわ。


ちなみに前世ではお一人様上等の社会人(ホワイト企業勤務)だったのです。死因までは覚えていませんが。


で、その頃いろいろ作ったりもしていた記憶もあるのですが、味噌だけは、味噌だけは!作った事がなかったのです!


キムチは漬けた事があったのに!

マイぬか床もお世話していたのに!


 貴女が家を出た後、まずマイダーリンの顔の肌荒れが酷くなりました。吹き出物が出来たり、カサカサしたりして。


どうした事かと聞きましたら、お通じが悪いとの事。そして食事を思い浮かべると、和食が無くなったのだと気付きました。

我が家では普通に出ていた和食に何も感じなかったなんて、痛恨の極みです。


この世界には!

圧倒的に!

発酵食品が足りないっ!


野菜の少ないメニュー、ダーリンの体型から見ても判る運動量の無さ!そしてヤツラの好き嫌いの多さ!!

あら、ヤツラなんて書いてしまったわ。


とにかく、前まで食卓に並んでいた味噌汁を思い出して、ああ、貴女も前世持ちなんだと判りました。


わたくしが前世を思い出したからと言って、今までの所業が消える訳でもなく、使用人以下の扱いしていた事を謝るなんて烏滸(おこ)がましい事だと判っていますので、反省はしておりますが今更謝罪しませんし、許しもいりません。

そんな事言われても貴女も困るでしょうから。


ただ、味噌の作り方だけ教えて欲しいのです。


アイラブ味噌汁。

今なら判る豆腐を作るという偉大さ!ぬか漬けならまかせろー(ポリポリ)←キューカンバー漬け



 ついでに貴女が出て行った後の我が家の事を記しておきますと、貴女が家を出る前やっていたという領地経営は、残してくれた引き継ぎの資料を元にわたくしが何とかやっていますので、心配いりません。


領地経営の事をダーリンに聞いたところ、知らないと言われ、アンタ、ここの領主でしょうが、と思いましたわ。

口には出しませんでしたが、態度には出てしまったかもしれませんわね。


それから任せていたという家令に聞いたら、ほとんどシルフィーナ様がやっていたと言われて、コイツら本当に何やっているんだ!とほとほと呆れましたわ。


領主とは領民に威張り散らす仕事ではなく!領地を平穏に経営する仕事だというのに!


しかもその資料を不要と廃棄しようとしていたのですよ、ただの家令が!


思わず彼にアッパーカットを叩き込み、確保したわたくし、偉い。お陰で今も少し手が痛いです。


暴力女ですって!?

物理よりも精神的な方がお望みだったのかしら。家で雇用している以上、いくらでもやりようがありますのに。

なんちゃって中世とはいえ、雇用主兼貴族にそんな口利くなんて、ねえ?


ダーリンは領地貴族のクセに、使うのは得意でも金勘定や資金運用は苦手な様子。

貴方、今まで何を教わってきたの、わたくしだってわたくしだって疲れますわー。

思わず歌ってしまいますわよ、領主様(笑い)が!

おだてても木に登らないブタは、ただのブタですのよ。


そういう事ですので、そんな人達に任せておけないと、立ち上がる事にしたのですわ。


前世では簿記、ファイナンシャルプランナー、珠算検定その他を有していましたし、そういう事業に携わった事もありますので、これからは領民に不自由をさせる事は無いと伯爵夫人の名において、誓います。


あら、何だか、某アニメの様な言い回しになりましたわね。


とにかく、マイダーリンには日中やる事が無さそうなので(仕事を取り上げた?何の事かしら)、庭を走らせています。

腸内運動が活発になってお通じがよくなるからと理由付けしておきましたから、嫌とは言わせませんわ。メタボでポックリ逝って未亡人なんて嫌ですもの。ほほほ。


財布の紐もしっかり握っておりますので、無駄遣いもさせませんし、させる暇も与えませんよ。


 それと、貴女の元姉のグロリアですが、あんな状態でいい婿を取るなんて無理オブ無理です。(断言)


だって、みえみえの嘘は付くし、ワガママだし、人は見下すし、金遣い荒いし。


そんなのでよく「素敵な高位の方と一緒になるの」なんて言えますよね。賢い殿方なら相手の方が嫌厭(けんえん)しますわー。

頭にお花咲いてますわー。


慰謝料が発生するような事件だけは起こさないで欲しいですわね。マジで。


社交スキルは見た目もあってまあまあですが、頭と性格の悪さが滲み出て、記憶の戻ったわたくしとしては見ていられません。

何で今まで見逃して来たのか、過去の自分。心底後悔しています。


こんなのが伯爵家の跡取りだと思うと、もう親戚から養子を貰って来た方がマシじゃないかと一瞬頭を過ぎりました。

まあ、実の娘ですし、(世間様の為にも)見放す事はしませんが。


もちろん、貴女もわたくしがお腹を痛めて産んだ正真正銘の我が子ですけれども。父親は……、違った方がよかったかしらねぇ。(意味深)


うそうそ、ちゃんとダーリンの子ですよ。

ダーリンのお祖母様に似ているので間違い無いわ。ちょーっと前のわたくしとは仲が悪かったので、貴女への当たりが強くなってしまった訳ですが。


で、そのグロリアですが、淑女とは何かを1から叩き込む為に、幼児用の家庭教師(ガヴァネス)を付けましたの。


グロリアは勿論成人女性なのですけれども、心構えがそんなのじゃ平民だってドン引きです。1から再教育という訳ですね。


勿論、反発されましたわよ。

でもね、あんなはしたない格好のドレスを着て男性に媚を売るなんて、どうかしていると思います。ちゃんと勉強していれば、そんな考えに及ばないはずですのに。


だから、椅子に縛り付けて、喚くので猿轡を噛ませて、判るまでみっちり教えて頂いていますわ。

コミュニケーションは首を振れば何とかなりますでしょう。最近は少しは大人しくなりましたのよ。


やっぱりあの無駄にお金のかかったドレスを領地の資金繰りを理由に全部売っ払ったのが効いたのかしらね。

ドレスを売ると言った時に烈火の如く怒るから、その時言ってやったのよ。


「貴女、今、家に爵位があるから、そんな事言っていられるけど、資金が無くて領地の経営が成り立たなくなったら、爵位剥奪の上、平民になるのよ!そうしたら貴女なんて何も出来ない赤ん坊以下の穀潰しでしか無くなるんだから、黙りなさい!

友達が助けてくれる? そんなもの、平民になった途端、蜘蛛の子散らすようにいなくなるわっ! それが判らないくらいのバカなの? シルフィーナの方がよっぽど現実見ているわよ!」と。


貴女を引き合いに出すのは申し訳無かったけれど、あの子、貴女をやたらライバル視していたでしょう?(度が超えていたけれども)

焚き付けるのには丁度よかったのよ。


アクセサリー類はまだ手を付けてないんだから、序の口なのにね。(予定?あの子の態度によるかしら)


脱走とかボイコットをしなければ、椅子に縛り付けるなんて事しなくてもいいのですが、無駄に悪知恵が働くあの子は事あるごとに授業をブッチするので、仕方なーくやっているのです。

公爵様は誤解しないで下さいまし。


グロリアの逸話は聞いておりますでしょう? 今までシルフィーナの噂として伝わっていたでしょうが、あれは全部グロリアの事ですの。


婚約者がいたのに略奪したとか、男に貢がせているとか、二股かけた挙げ句乱闘騒ぎになったとか。

我が子ながら、どうかしてるぜ。


そういう事ですので、社交界の平和のためにもお見逃し下さいませ。わたくしの目の黒い内はしっかりと調教……ではなく抑えておきますので。

あ、今、わたくし、目は黒く無かったわ。


それと、遅くなりましたけれど、シルフィーナ様、婚約おめでとうございます。


家族ではなくなりましたが、いい人に見つけて貰えて嬉しく思います。

こんないい子がわたくしたちの子供だなんて信じられないくらいです。


記憶が戻る前のわたくしを殴ってやりたいくらいですわ。今殴ると自分が痛いので自重していますが。

やらかしに床で転げ回った事を明記させて下さい。人生オワタってなりましたもの。

マジ絶望するとOLZ態勢になるものなのですね……。

まだ領地も何とかなる状態だったから本当によかったわ。


もし何か困った事があれば連絡を下さい。

元家族証明とか、不正の証拠とか、他の貴族とのツテとか。借金の連帯保証人と共同出資だけは止めて下さいね。


こう見えても、ダーリンに見初められるまでは、社交界でブイブイ(死語)いわせていたのですから、それなりに役立ちますわよ。

もちろん、特製ぬか床のレシピでも構いません事よ、ふふふ。


とにかく、貴女の幸せを祈っているわ。

マイダーリンとグロリアが何か言ったり行動を起こしたりしたら、わたくしに言ってもらえれば処ば……処理しますから、貴女は心安らかに公爵家の一員になればいいのです。


恐らく、結婚の為に他の家の養子縁組をすると思いますが、相手のご夫婦に失礼の無いようにしなさいね。まあ、癇癪持ちのわたくしが言うなってやつでしょうけれども。


貴女ならどこに出しても大丈夫だと思うので心配していません。自信をお持ちなさい。

公爵様も必ず貴女を守ってくれると思います。


しっかり甘えて、しっかり支えられるよう、精進下さいませ。常に与えられるだけでは、立派な淑女とは言えませんからね。


 さて、そろそろパン生地の発酵時間が終わる時間なので、筆を置かせて頂きます。


酵母はしっかりブドウから取った、ふわふわパンですわ。観ててよかった某アイドルの番組。昔もたまに作ったりもしていましたわ。


ダーリンも美味しいって言ってくれて、よく食べてくれます。余りにもがっつくので口元にパン屑付けていたりして。それを取ってあげたり……きゃ、恥ずかしい。


それよりも味噌のレシピの方、本当にお願いします。わたくしも魚の味噌漬けが食べたいのよ。同じ日本人なら判るわよね、ね!?

対価はそちらで考えて下さっても構いません。贖罪も兼ねて、全力で応えさせて頂きますわ。


 最後に、貴女が以前農民に伝えた肥料も含めた二毛作だけど、新たな農法の発案者として貴女の名前で国に登録しておいたわ。

落ち着いたら、商業ギルドに確認しておいて下さい。お小遣い程度にはなっている事でしょう。


それでは、貴女の幸せを願って



ヘリオスター伯爵家 コーデリア




お母様、キター。と思わず昔のノリでガッツポーズしてしまった私を誰も責める事は出来ないだろう。横にいた婚約者であろうとも。



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