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スコアが全ての学園都市。最底辺に堕ち、殺された俺は、タイムリープして復讐と成り上がりを誓う  作者: 甲賀流


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第4話




 4月7日、放課後――


 時刻は17時10分を過ぎた頃。


 俺たちDクラスは全員、教室で大人しく自分の責任座っている。


 今日は今から『ゼロ・トラスト試験』の結果発表が行われようとしているところ。


 昨日賑わっていたDクラスの教室だったが、今日は妙な静けさが漂っている。


 なんとなく、試験が終わるまでは会話を控えようみたいな空気が行き渡っているような感じ。


 結果発表まで残り5分弱。


 緊張というのもあるんだろうけど、これから順位が決まるんだ。

 お互いどう接していいのか分からない、みたいな気持ちもあるのかもしれない。


 少なくとも、十年前の俺はそうだった。


 だけど今回は違う。


 速まる鼓動に震える手足。

 俺の心は、妙に高ぶっている。


 これはきっと武者震い。


 今まで同じ土俵にすら立てなかった相手、


 散々に見下してきた相手、


 そして――俺を殺してきた相手、


 そんな奴をこの手で引きずり下ろせる喜びを感じているからだ。


 ブーッブーッ

 

 秒針が約束の時間を刻んだ瞬間、教室中でほぼ同時に電子音やバイブレーションが鳴り響いた。


 張り詰めた空気の中、全員がスマホに手を伸ばし、画面を操作し始める。


 緊迫。


 まさにその一言に尽きるこの空間。


 俺も机の端に置いていたスマホを取る。


 ロックを外し、マイページへアクセス。

 トップページのお知らせ欄の一番上に、冷たい赤色の帯で強調された文字列があった。


《20XX年度入学生による特別試験 ゼロ・トラスト試験 結果発表》


 来たか。


 息をひとつ整え、指先でタップ。

 画面が切り替わり、白地の表に黒文字が並ぶ。


「さて、俺の名前は……」

 

 と探し始めたが、それはスクロールするまでもなく、視界の最上段に刻まれていた。



1位 綾城理央・七瀬陽菜ペア



 一瞬、視界が静止したような錯覚に陥った。

 

 耳の奥で、自分の鼓動だけが大きく響く。

 

 指先に微かな震えを感じながら、俺は画面越しに文字をなぞる。


 よし、狙い通りだ。


 十年前、踏みにじられたスタートライン。

 あの時の俺は、最下位の欄に名前を刻まれた。


 だが今回は、一番上だ。

 同じ表でも、まるで景色が違う。


「くそっ! 3位までに入れなかったか!」

「9位……まぁポイントがもらえるだけ、良しだな」

「とりあえず特別試験、これで終わりだぁ〜」


 教室全体が一斉にざわめき立つ。

 椅子を引く音、机を叩く音、安堵の息を吐く音。


 何しろ、みんな緊張の糸が解けたようだ。


 ちなみに同列1位の七瀬はというと、


 画面を凝視したまま、全く動かない。

 隣の席から、彼女の長いまつ毛の奥の瞳が大きく開き、わずかに揺れているのが見える。


 驚き……いや、戸惑いか。

 この現実を信じられない、というような感情を抱いているのかもしれない。


「……どうしてだよ」


 そんな騒ぎの中、小さく呟く声が届いた。

 と同時に向けられる一筋の眼光。


「どういうことだよ、綾城!!!!」


 その声は、教室の空気を一瞬で硬直させた。


 低く、怒りを全面に押し出したような響き。


 顔を上げずとも、誰かは分かる。

 十年前、俺から全てを奪った男――朝倉智和。


 足音荒く俺の机際まで迫ってきて、手にしたスマホ画面を突きつけてきた。


 交わる視線。

 その眼には剥き出しの苛立ちが宿っていた。


「お前のポイントはオレが受け取ったはず。それに、七瀬はオレと組んだはずだっ! なんで、お前と七瀬が1位で……オレが、最下位なんだよっ!」


 吐き捨てるような声と同時に、朝倉は乱暴に俺の襟元を掴んでくる。


 そんな勢いに、近くの席の生徒たちがそっと距離をとった。


 今の表情にその口ぶり、どうやら自分が行った愚行を隠す素振りすらないらしい。


 俺は椅子から立ち上がることなく、ゆっくりと顔を上げる。


「何だも何も、はじめに裏切ったのはお前じゃないか」


「……は?」


 間抜けな声が漏れる。


 怒り狂ったような鬼の形相に、俺の背筋は一気に凍りつく。


 ダメだ、めげるな。

 ここで怯んじゃ意味がない。


 復讐するって誓っただろ!


 十年前の日々を思い出して、怖気付きそうな自分を無理やりに奮い立たせる。


「俺は朝倉とペアを組んだつもりだったんだ。だけど結果、ペアも組めずポイントを取られただけ。だから騙されたのはこっちなんだよ」


 俺はあくまで平然だと相手に諭させるように、淡々とした口調でそう言い切った。


 すると、周囲の空気がわずかにどよめく。


 入学早々、この学園都市の高校の過酷さを感じさせられたのだ。

 おそらくその重みによるざわめき。

 

 朝倉はグッと下唇を噛み、眉をひそめる。


「だ、だとして……この、結果はどう説明してくれんだ? こんなのは本当の結果じゃない! 何かしらお前が不正したんだ。そうだろ!?」


 俺の首元を掴む拳にさらなる力が込められる。

 

「不正? 俺は伏見先生に報告して、ポイント譲渡をキャンセルしてもらっただけ。『正当な理由』があれば、ペア成立をキャンセルできるって昨日のメールに書いてあっただろ? ポイント譲渡だって、同じようにキャンセルできるんじゃないかと思ってな」


 俺はそう言って、朝倉の手を振り払った。


「そ、そんなバカな……!」


 朝倉の声が裏返る。

 

「だが、お前のポイントは今の今まで、オレのスマホに入って……」


 言葉が途中で途切れる。

 朝倉の視線がスマホの画面へ落ち、その瞬間、瞳孔がわずかに開いた。


 不規則に呼吸が乱れながらも、朝倉は指で何度も画面をスクロールする。


「ポイントが、引かれてる、だと……?」


 おそらくコイツのスマホに表示された数字は、俺から奪った分をそっくり差し引かれた、一人分のスコア。


 このクラスは元々39人なので、必然的に誰かはペアが組めないことになっている。


 今回はそれが、朝倉だったというだけ。


 当然順位は最下位。


「騙したのは本当っぽいな」

「朝倉ってそういう奴だったんだね」

「マジで怖……関わりたくねぇ」


 周囲の数人が視線を交わし、今の状況をひそひそ声をあげていく。


「く……くそ……っ、こんな、はずじゃ……」


 朝倉は瞳を揺らし、今にも崩壊してしまいそうな面で周囲を見渡している。


 だがその眼光は、次の瞬間、別のところへ。

 

「だったら七瀬! オレとのペアはなんで解消されてんだっ!? 正当な理由なんて、なかっただろ?」


 七瀬はビクッと肩を震わし、俺を見た。


「まさか……これも、お前が噛んでんのか?」


 そして引きつった顔で、朝倉も俺を注視する。


「ふっ」


「なんだよ、何がおかしい!?」


 俺は戸惑う朝倉を見上げながら、薄く笑った。


 教えてやるよ、朝倉。


 お前が気づかないうちに、すべては仕組まれていたんだ。


 そう、あれは今日の朝のこと。

 俺が七瀬を呼び止めた、あの瞬間からすべては始まっていたのだった。

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