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スコアが全ての学園都市。最底辺に堕ち、殺された俺は、タイムリープして復讐と成り上がりを誓う  作者: 甲賀流


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第20話


 ソーシャル・スコアテストが終わった日の週末。


 カラオケルームのドアが閉まると同時に、薄暗い照明とディスプレイの音楽映像が場を満たした。

 ソファに腰を下ろしてすぐ、この場に緊張感のない空気が広がっていく。


「なんかもう、いつもの場所って感じがするね」


 ドリンクバーのカップを両手で抱えながら、七瀬が柔らかく笑った。


 このカラオケは、ちょうど一ヶ月前に行った作戦会議の時に使ったところ。

 今日集まったのは実質二回目になるが、なんとなく七瀬の言いたいことは分かる。


「だな。じゃあさっそく歌うかぁ!」


 翼がリモコンを掲げてテンションを上げる。

 けれど、その手を蓮が軽く押さえた。


「翼、今日は今後の話し合いで集まったんだよ」


 冷静な口調に、翼は「あぁ……そうだった」と頭を掻く。


「いやでもさぁ、今日は特別試験の祝勝会でもあるんじゃない? ねぇ夏帆?」


 新見が軽口を叩きながら、隣の白石に話を振る。

 突然の矛先に、白石は慌てて背筋を伸ばし、頬を赤らめながら小さく頷いた。


「う、うん……! そ、そうだと思う」


 そのぎこちない声に、思わず全員の頬が緩む。

 

 テーブルの上にジュースやポテトが並び、昇格組らしい賑やかさがようやく戻ってきていた。


「そういえば綾城、お前が七瀬さんのこと好きだったなんてなぁ。さすがに驚いたぜ」


 唐突に翼が口火を切った。


「ごふ……っ! ちょ、翼っ!」

 

 ソファに座っていた俺は思わず咳き込み、手にしていたコップを危うく落としかける。


「ち、違うの! あれは、その……綾城くんの作戦ってだけで、他意はないというか……」


 七瀬が慌てて両手を振った。

 真っ赤な顔で必死に否定しようとする。


「そ、そうだ。七瀬さんの言う通り、あれは試験のために、俺が勝手に言ったことで……」


 俺もフォローを入れようとしたが、その言葉を新見が軽やかに遮った。


「でもさ陽菜、あの時すっごく嬉しそうな顔してたような気がするんだけど?」


「ええっ!?」


 七瀬が勢いよく立ち上がる。

 耳まで真っ赤に染めながら、必死に言葉を探す。


「そ、そんなことないってば! 全然っ、全っ然ないから!」


 彼女のあまりの取り乱しぶりに、蓮は小さく吹き出し、翼は腹を抱えて笑い転げる。

 

 新見も「いやー、青春っていいなぁ」とわざとらしくため息をつき、


 白石は「ふ、ふたりともお似合いだと思うけど……」と小声で呟いて顔を隠した。


 照明に照らされたカラオケルームは、からかいと笑い声が飛び交っていた。


 作戦のために勝手にやったことが、まさかこんなに後でイジられることになるとは。


 七瀬さんにも悪いことをしたな。


 次から誰かを巻き込む時は、事前にみんなに伝えることにしよう。


 うん、絶対にそうしよう。


 俺は今回の不言実行に対して、後悔の念を抱きながら、心でそう誓った。


「……ねぇ」


 巻き起こる笑いの渦の中、低い声が響く。


「今日は、僕もいるんだけど!?」


 士門湊人。

 Cクラスのリーダーにして、未来では影鳳會の一人だった男。


 俺の隣で静座していた彼は、声を荒らげ、一気にその場を立ち上がる。


 全員が一瞬だけ気まずそうに黙り、そして新見が軽口で「ごめんごめん」と苦笑する。


「で、なんでいるんだっけ?」


 翼がわざとらしく首をかしげると、ソファに腰を下ろしていた士門がむっと眉をひそめた。

 

 俺の隣に、当然のように座っているのに、まるで空気のように扱われていたのだ。


「僕を呼んだのは、そっちじゃないか」


 士門の声色に、かすかな苛立ちが混じる。


 そう、俺が呼んだ。

 みんなにも事前に伝えてある。


 昇格組のみんなには、屋上であったことを全て伝えた上で今日この会に参加してもらっている。


 今後の話し合いってのも、試験のことではなく、Cクラスのあり方についてだ。


「まぁだけどさ、すぐに『一緒にワイワイ』って雰囲気にはなれねぇって」


 翼のその一言で、場の空気がぴんと張り詰めた。

 

 新見が真っ直ぐに士門を睨みつけ、静かな声で告げる。


「うん。だってコイツのせいで、夏帆はCクラスで苦しい思いをしたんだよ。私は……正直、今も士門を許せない」


 その言葉に、白石がびくりと肩を震わせた。

 七瀬も蓮も、何も言わずに俯き、重苦しい沈黙が流れる。


「……ふっ」


 士門は鼻で笑い、ゆっくりと立ち上がった。


「やっぱりここは、僕のいるべき場所じゃないな」


 その背中に、俺は咄嗟に声をかける。


「待ってくれ」


 振り返った士門に、真っ直ぐ言葉をぶつけた。


「俺たちCクラスがBクラスに上がるには士門、お前の力が必要だ。白石の件については、まぁ……正直士門だけのせいじゃないとは思うが、たしかにこのままじゃ空気が悪い。後でちゃんと謝罪してくれ」


「な、なんで僕が……っ!」


「お前はCクラスのリーダーなんだろ?なら、関係を良好に保つのもリーダーの役割じゃないのか?」


 その瞬間、士門は言い返せず言葉を詰まらせる。

 俺の言い分を否定すれば、自分の立場を否定することになるからな。


「……っ、分かったよ。ただし誤解するな。僕が頭を下げるんじゃない。Cクラスが一枚岩になるために場を設けるだけだ。それ以上の意味はない」


 しぶしぶそう答えた士門は、元いた席に勢いよく腰を下ろす。


 ようやく話し合いができそうな雰囲気になった。


「この先、俺たちCクラスがBクラスに上がるには、全員の協力が必須なんだ」


 全員の視線が俺に集まった。

 士門も口を閉ざし、言葉の続きを待っている。


「昇格組とCクラスがバラバラのままじゃ、Aクラスどころか、Bクラスにだって上がれない。だから俺たちは一丸になる必要があるんだ」


 しばし沈黙。

 七瀬は唇を噛み、白石は不安そうに俯き、新見と蓮は渋い顔でうなずいた。


「……チッ、分かったよ」

 

 翼が不満げに頭をかく。


「そうだ。お前たちは、黙って僕に従えばいい。そうすれば上のクラスに上がれるんだ」


 士門は不敵に笑い、俺たち一人一人を順に見渡していく。


「士門、支配じゃなく仲間としてだ。そうしなきゃ、他のクラスに勝てないぞ」


「そんなのはこの先、僕が決めることだ」


 相変わらずの偉そうな態度。

 母親の前ではあんなに純情そうだったのに、なぜクラスメイトにはこんな傲慢なんだ。

 

「お前、その上から目線、いつかクラスメイトから反感を買うぞ」


 翼はもう我慢ならぬといった様子で、眉間に皺を寄せている。


「偉そう? 僕が?」

 

 士門が眉をひそめると、翼はじっと観察するように目を細め、ぽつりと呟いた。


「あぁ、十分に偉そう……いや、だけどこうやって近くで話すとさ。お前、ちょっと小物感あんのな」


「なっ……!」

 

 士門の顔がみるみる赤くなる。


「なんつーかさ、デッカイ犬に威勢よく吠える子犬、みたいな感じで」


 少し間を空けて、


 七瀬が吹き出した。

 新見も肩を震わせ、白石でさえ小さく笑った。


 重かった空気が、ふっと緩む。


「僕が小物だと!? そんなわけ、あるか!」

 

 士門は翼の言葉にムキになるが、


「ほら、そーゆーとこだって」


 さらに笑いが生まれるだけだった。


「くそ……っ、好きに言ってろ」


 からかい混じりの笑い声の中で、士門はわずかに肩を落とし、そっぽを向く。


 俺は横目で彼を見る。


 なんだかんだ今の士門は、教室で作っていた仮面よりもよっぽど自然体に思えた。


 もちろん、まだ信用できるわけじゃない。

 白石の件も、彼の支配的なやり方も、完全に水に流せるものじゃない。


 だが。


 少なくとも今は、俺と同じ方向を見ている。

「Bクラスを打倒する」という目標に向けて。


 それだけで十分だ。


 互いが利用していく中で、


 その駆け引きの先に、きっと勝利がある。


 俺は静かに息を吐き、胸中で言葉を刻んだ。


 こうして俺たち一年Cクラスは、ひとまず一つの旗の下に集った。


 まだ戦いは始まったばかりだ。

 小さな停戦から始まったこの関係が、やがてどんな結末に繋がるのか――その答えを知るのは、もう少し先のことになるだろう。


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