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スコアが全ての学園都市。最底辺に堕ち、殺された俺は、タイムリープして復讐と成り上がりを誓う  作者: 甲賀流


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第16話


 HRが終わろうとしていた。

「ソーシャルスコアテスト」という言葉を黒板に残したまま、教室はざわめき続けている。


 誰もが顔を見合わせ、不安と戸惑いを押し隠せていなかった。

 さっきまで笑っていた生徒も、沈黙に口を閉ざす。


 そんな空気の中、担任の晴海先生が両手を軽く叩いた。


「はい、みんな。落ち着いて」


 柔らかい声色。

 黒板に視線を戻し、彼女は微笑んだ。


「今回の特別試験では、クラス昇格はありません。ただ、みんなのスコアがちょっと増えるだけ、そんなテストだから、気を張らなくて大丈夫ですよ」


 クラスの何人かが、張り詰めていた肩を下ろす。

 「よかった」「先生がそう言うなら」と安堵の声が漏れる。


 スコアがちょっと増えるだけ、か。


 まぁ結果だけ見ればそうだ。


 今回の中間試験とこのソーシャルスコアテストの合計点がクラス内順位に となり、その序列によって、スコア点数が各自に割り振られる。


 仮にここで一位をとったところで、スコア自体はほんのわずかな微増程度。


 Bクラスに昇格できる決定打になるわけじゃない。


 だが俺たち昇格組にとって、


 ――これは大きな分岐点だ。


 Cクラスに溶け込めるかどうかが決まる。


 今でもかなり肯定的な意見は増えた。


 しかしそれはほんの一部。


 未だに影で白石の悪口を言うやつもいるし、何せ士門湊人がいる限り、表向きには歓迎されてない。


 だからここで上位に食い込めば、士門たちは俺たちを正式に認めなきゃいけないだろう。


 上位を目指す、Cクラスの一員として。


 俺は後方窓側に位置する席を横目で見る。


 そこに腰掛ける士門。

 彼は自席に腰を下ろしたまま、何も言わなかった。

 ただ口元に、意味深な笑みを浮かべている。


 そしてHR中、見慣れたアプリの通知が届く。


 メールが届いたのだ。

 ソーシャルスコアテストの概要が。


 

  ――――――――――


 

嶺翠高校 一年生各位


 

この度、本学では中間試験に併せ、新たな特別試験「ソーシャル・スコアテスト」を実施いたします。


 

本試験の目的は以下の通りです。

• 日常生活における基本的態度・生活習慣の確認

• 協調性・誠実性を基盤とした人間関係能力の測定

• 匿名評価による公平な相互認識の醸成

• 社会性を前提とした自己評価および他者評価の育成


 


 

試験ルール概要(簡易版)

1.試験対象期間:5月20日(月)~5月26日(日)までの7日間

2.校内生活の全行動(教室・廊下・食堂・寮)が採点対象

3.生徒はクラスメイト全員を匿名で5段階評価

4.教師による監視カメラ映像・生活記録をもとに「客観評価ポイント」を加算

5.プラス評価項目だけでなく、マイナス評価項目も同時に集計

6.中間試験(筆記)との合算によりクラス内順位を決定


 


 

試験ルール概要(詳細版)


本試験では、クラス在籍者同士が互いを匿名で評価する形式を採用します。

評価項目は「協調性」「誠実さ」「勤勉さ」「社交性」「信頼性」「生活態度」など複数に分かれており、各自がクラス全員を対象に5段階で採点してください。


また、同時に「軽率さ」「独善的態度」「怠慢」などのマイナス評価も集計されます。

これにより一面的な評価ではなく、日常生活における総合的な人物像が数値化されます。


さらに、教師陣は監視カメラ映像・寮の行動記録を参照し、匿名投票とは別に「客観評価ポイント」を付与します。

このポイントは匿名評価と同等の重みを持ち、順位決定に大きく影響します。


最終的に得られたスコアは、中間試験(筆記)の得点と合算され、クラス内順位として公開されます。

順位に応じたスコアは次回以降の特別試験の基盤となり、学園内における評価に直接影響します。


 


 

順位報酬(総合得点に加算)


1位:+150ポイント

2位:+120ポイント

3位:+100ポイント

4~5位:+80ポイント

6~10位:+50ポイント

11~20位:+30ポイント

21位以下:加算なし



 

注意事項

•評価は完全匿名ですが、試験結果画面には各生徒の「評価内訳」が公開されます。

•公平性を損なう談合・示唆行為が発覚した場合は、全員の得点が無効となる可能性があります。

•評価の提出を怠った場合、ペナルティとして自動的に最低点が付与されます。


 


 

試験期間:5月20日(月)0:00 ~ 5月26日(日)23:59

結果発表:5月30日(木) 嶺翠高校公式アプリにて公開


 

凰嶺学園都市 試験運営委員会


 

 ――――――――――



 やはり前世と同じ内容だ。


 日常生活の過ごし方が点数となり、それが順位として表される。


 各生徒同士が匿名で評価し合い、さらには教師陣からの客観的評価までもがこの順位に加味される。

 だからこそ、このテストは公平性が高いのだ。


 そうして先生の話も終わりを告げ、チャイム後の終礼が告げられる。

 教室がざわめきを取り戻す中、士門は静かに立ち上がった。


 そして一瞬……ほんの一瞬だけど目が合った。


 まるで何か言いたいことがあるかのような瞳で、士門は俺を見てきた。

 

 そのまま鞄も持たず、廊下へ歩き出す。

 迷いのない足取り。


 いつもは真っ直ぐ学校を出る、もしくはAクラスに向かう士門だったが、今回だけは別の選択肢を選んだ。


 これにはきっと意味がある。


 ――俺に、話があるのか?


 俺は心臓を一度強く脈打たせ、立ち上がった。


 なにか俺に用があるなら、出向いてやる。

 

 ざわつく教室を後にし、俺は士門の背を追った。


 屋上へと続く階段は、放課後のざわめきから切り離されたように静まり返っていた。

 最後の踊り場を曲がると、扉の隙間から光が差し込んでいる。

 士門はためらいもなくその扉を押し開けた。


 俺もその後に続き、扉をくぐる。


 風が強い。

 夕陽に染まる校舎の屋上。

 フェンス越しに街並みが広がり、朱に染まった影が伸びていた。


 士門はその中央に立ち、振り返ることなく口を開いた。


「……来てくれると思ってたよ。綾城理央くん」


 俺は扉を閉め、ゆっくり歩み寄る。


「やっぱり僕の予想は当たってた。Dクラスの中に、相当な切れ者がいるってね」


 夕陽に照らされた士門の横顔は、教室で見せる柔和さとは別物だった。

 冷ややかで、自信に満ち、何より――挑発的だ。


「でもまさか、次の試験内容まで予想した上で動いてたなんて。たしか一ヶ月くらい前かな。僕の家まで尾行してきたのも君だろう? 君と七瀬陽菜さん。あの頃にはもう、試験の内容が分かっていたのかな?」


 その言葉に、胸がわずかに強張る。


 コイツ、気づいていた上で尾行させてたのか。


「……答える筋合いはないな」


「はは、ひどいなぁ。僕はわざわざ自宅まで教えてあげたのに」


 士門は小さく肩を竦め、そして振り返る。

 視線がぶつかる。

 真剣勝負の場にいるような圧力を感じた。


「でもね、綾城くん。君は一つ勘違いをしている」


「勘違い?」


「そう。君がどんなに動こうと、Cクラスは崩れない。全員が僕に従うようにできているからだ」


 夕陽を背にした士門の声は、不気味なほど落ち着いていた。

 確信を持つ者の口調。


 俺は視線を逸らさずに立ち向かう。


「Cクラスは大したことない生徒の集まりでね。事前に調べたんだけど、なんの実績のない奴らばかりなんだ。だから僕がまとめることを決めた。現三年Aクラスに兄がいて、一年Aクラスに友人を持つ僕がこのクラスの采配を決める。そして最終的な判断を下す。それがCクラスの当たり前なんだよ」


 なんの疑いもなく、穏やかに言葉を連ねた。


「支配じゃ、人は付いてこないぞ」


「……支配?」

 

 士門の口元がわずかに歪む。

 

「違うよ。みんな、僕に従うのが一番楽だと知っているだけさ。自分で選んでるんだ。だからこの形はそう簡単に崩れない」


 その声には確信があった。

 教室での柔和な笑みの裏に、こんな冷徹な本音を隠していたのか。


「綾城くん、君がいくら仲間に役割を持たせ、演じさせても無駄だよ。匿名だろうと何だろうと、票は僕に集まる。だって――彼らの中で『頼れるのは士門』って印象は、もう根付いているから」


「……なるほどな」


 胸の奥がざらついた。


 確かに士門の言葉は一理ある。

 一ヶ月、昇格組がいくら努力しても、クラス全体の空気は完全には変わっていない。


 その根底にいつも士門湊人、この男がいた。


 だが。


「それでも――俺は諦めない」


 俺は一歩踏み出し、士門の眼を真っ直ぐ射抜いた。


「俺たち昇格組は今回の特別試験、必ず上位に食い込む。これは絶対だ」


 士門の瞳が細められる。


「おもしろい、強気だね。ならさ、こうしようよ。この試験、君たちの誰かが上位に……そうだなぁ、具体的には三位以内、ここに入ることができたら、僕含めCクラス全員は君たち昇格組を完全に一員として認める。だけど入れなかったら……」


「……入れなかったら?」


 俺は息を呑む。


「もう二度と足掻かない。そのままCクラスの底辺にいて、大人しくDクラスへの降格を待つ。そんな悪い条件じゃないだろ?」


 たしかに悪い条件じゃない。


「なんで、そんな約束を?」


 なぜ自分から、俺たちを認める方面に話を進めようとする?

 これは士門にとって、なんの意味もない交渉だ。


「え、そんなの、おもしろいからだよ。最後まで無駄に足掻いてほしい、そのための燃料を少し投下してあげただけさ」


 全てを話し終わったのか士門は軽く背を伸ばし、俺を横切り、校舎へ向かう。


「じゃ、頑張ってね。昇格組のリーダーさん」


 背中越しに俺へ手を振り、扉をくぐった。



 * * *


 

 それから数日。


 試験期間は怒涛のように過ぎていった。

 昇格組はそれぞれの役割を全うし、俺は俺で、ひたすら必要な行動を取り続けた。


 だが同時に、士門の存在感は日に日に大きくなっていくのを肌で感じていた。


 放課後の教室で、廊下で、食堂で。

 誰もが自然に彼の隣に集い、士門の一言で空気が形作られていく。

 先日、屋上で言っていた「Cクラスは崩れない」という言葉が、嘘ではないことを思い知らされる。


 そんな中で迎えた、結果発表の日。


 朝から校内の空気は張り詰めていた。

 廊下を歩けば、誰もが声を潜め、落ち着かない視線を交わしている。

 普段ならざわつく教室でさえ、ひどく静かだった。


「……ついに、今日だね」


 俺の机にやってきた七瀬が小さく呟く。


「あぁ」

 

 俺は頷き返す。


「ま、大丈夫だって。やることはやったしよ」


 翼はそう言う。

 が、心なしか表情は引き攣っている。


 無理もない。

 

 この一ヶ月、俺たちが積み重ねてきたものが本物かどうか――すべては今日、数字となって突きつけられるんだから。


 ガラガラッ。


 担任の晴海先生が、答案の束と分厚いファイルを抱えて入ってきた。


「みなさん、お待たせしました。中間試験と……特別試験ソーシャルスコアテストの総合順位が、これから発表されます」


 その一言で、空気が凍りついた。

 息を飲む音、机を握る手の震え、誰かの小さな息遣い。


 俺は前を見据え、心の中でただただ、勝利だけを強く願うのだった。

 

 

 

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