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スコアが全ての学園都市。最底辺に堕ち、殺された俺は、タイムリープして復讐と成り上がりを誓う  作者: 甲賀流


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第14話


 月曜日の放課後。


 カラオケルームの薄暗い照明の下、俺たち昇格組は小さな丸テーブルを囲んでいた。


 表向きの名目は「白石を励ます会」。


 昨日、みんながショッピングモールで選んでくれたプレゼントを、七瀬が代表でプレゼントを手渡す。


「え、これ……私に?」

 

 目を丸くした白石の表情に、翼が得意げに頷く。


「そそ。日曜にみんなで選んだんだ。受け取ってくれよ」


 白石は戸惑いながらも包装を開き、そっと手に取る。

 彼女の頬がじんわりと赤く染まった。


「……みんな……ありがとう」


 小さな声。

 けれど確かに、胸の奥に届いている。

 

 俺たちがここに集まった意味は、少しはあったらしい。


 ただ――場の空気が和んだのは、ほんの一瞬だけだった。


「しかし、クラスの状況は変わんねぇな」


 翼が口火を切って、


「僕たち、クラスから完全に無視されてるね」


 蓮もそれに同意する。


「でも、大丈夫だよ」

 

 七瀬が白石の肩に寄り添うようにして言った。

 

「私たちが夏帆ちゃんの傍にいればいいんだから」


「……みんながいてくれるから、私……まだ頑張れるよ」

 

 白石はぎゅっとプレゼントを胸に抱きしめた。


 けれど――。


「でもさぁ……このままじゃ、俺たちCクラスに馴染めないよなぁ」


 翼の言葉が、和みかけた空気を一気に現実に引き戻す。


「ちょっと矢野、今掘り返さなくてもいいじゃん」


 すかさず新見が指摘する。


「わ、わりぃって」


 だけど翼の言うことは最もだ。

 孤立しているままでは、試験で勝ち上がることは到底できない。


 それから、沈黙がしばし部屋を支配した。

 カラオケのモニターに流れる映像だけが、虚しく空気を埋めている。


 俺は視線をテーブルに落とし、そしてゆっくり顔を上げた。


「……このままじゃ駄目だ」


 唐突に零した俺の言葉に、全員の視線がこちらに集まる。


 たしかに新見の言う通り。

 傷心中の白石を前に話すことではないだろう。


 だけど、このままで良いわけはない。


「俺たちは入学早々、昇格というチャンスを得た。みんな、もちろん上を目指すためにここへ入ったんだよな?」


 皆、互いの顔を合わせ、首を縦に振る。


 自分でも少し声が強かったと思う。

 だけどそれくらいの熱量があることを、みんなに分かってほしい。


「でも、現状じゃクラスに溶け込めてない。これじゃ、上どころかCクラスを維持することさえ難しいだろう」


 白石が不安げに目を伏せ、七瀬が彼女の手を握った。


「……じゃあ、どうすればいいんだ?」

 

 翼が腕を組み、俺を真っ直ぐ見据える。


「策がある」


 俺は短く言った。

 胸の奥にある確信を、そのまま言葉にする。


「ただし――これは根拠を示して説明できるような話じゃない」


「え?」

 

 七瀬が目を瞬かせる。


「推測にすぎない。けど、きっとその通りになる。信じて欲しい」

 

 自分でも苦しい言い回しだと分かっている。

 無茶苦茶なことを言ってるって自覚もある。

 

 だが「実は十年後の未来からしました」なんて語るわけにもいかない。


「今から俺が言うことを実行すれば、俺たちはCクラスに溶け込めるかもしれないんだ。いや、それどころか、更に上のクラスに上がれる可能性だって秘めているかもしれない」


 息をのむ空気。

 誰もすぐには返事をしなかった。


 視線を落とし、みんなが俺から目を逸らす。


 ……当然か。

 知り合って間もないクラスメイトの一人を、なんの根拠もなく信じろ、という方が無理な話。


「まぁこんな話、信じられなくて当然……」


「……綾城くんが、そう言うなら」


 七瀬が静かに頷いた。

 

「俺も、信じる。綾城が俺たちを騙すなんて、正直考えられねぇし」

 

 翼が続き、笑みを浮かべる。

 

「まぁ……その内容によるけど、Dクラストップで昇格した人だし。信憑性はかなり高いと思ってるよ」

 

「えぇっ、みんながそう言うなら……あたしも、信じよっかなぁ」


 蓮と新見もそれに続き、

  

「……私も、綾城くんを信じる」


 最後は白石が迷いがちに唇を結び――それでも震える声でそう言った。


 小さな輪の中に、確かな決意が宿っていく。


「ありがとう、みんな」


「で、綾城くん。今からその策ってやつ、話してくれるんだよね?」


 全員の視線が俺に集まっていた。


 この先は、はっきりと示さなければならない。

 俺たちがここから成り上がる策を。


 俺の記憶を総動員して、且つすでに知っている知識だと悟られないように。

 

「……次の特別試験は、おそらく五月末の中間試験。きっと筆記や体力系じゃない」

 

 俺は言葉を区切るようにして続けた。

 

「日常生活での評価が点数になる試験だと考えている」


「日常生活での、評価……?」


 白石が不安げに繰り返す。


「分かりやすく言えば人間性の採点だ。誰が真面目で、誰が協調的か。そういう部分を、匿名で評価される仕組みだと思う」


 翼が眉をしかめた。

 

「ってことは……俺みたいなタイプは絶対不利じゃん」


「そうとも限らない。何も評価項目はそれだけじゃないと思う。例えば、誰が一番スポーツマンか、誰がユーモアなのか、とかな」


「綾城くん……どうしてそこまで具体的なことが、分かるんだい?」


 蓮が眉をひそめ、俺の目を見る。


 やっぱりここまで細かく話せば、怪しむ人が出てくるか。


「俺は……訳あって、過去行われた特別試験の内容を一部、知ってるんだ」


「えっ、たしか特別試験の内容って、秘匿事項じゃなかったっけ?」


 新見は目を見開き、声をうわずらせる。


 そうだ。

 それも学園都市のルール。


 特別試験の内容を、同学年以外の他者に公開してはならない。


 これはカンニング防止のためにできた規則で、だからこそ、この学園都市にこれだけの監視カメラが配置されている。

 ということを、清掃員になってから初めて知った。


「うん、だから内緒にしてほしい」

 

 このルール、バレた場合、聞いた側ではなく話した側が主に罰せられるらしい。


 まぁどちらにせよ、俺は裁かれないため、なんの問題もないが。


 俺はゆっくり息を吸い全員を見渡すと、みんな息を呑み頷いてくれた。


「改めて言うけど、あくまでこれは、そこから編み出した俺の憶測。その前提で聞いてくれ。まず仮に人間性が採点されるとして、さすがにその項目までは正確に当てられない。だから俺たち昇格組で、その役割を分けるんだ」


「……役割?」


 七瀬が小さく首を傾げる。


「そうだな。例えば翼、お前はユーモア担当。クラスでみんなをできるだけ笑かせてくれ」


「えぇっ!? おい綾城、無茶言うなって!」


 翼が慌てて声を上げる。


「まぁこんな感じで一人一人が役割を持って、誰かが上位に食い込めれば――」


「私たち昇格組が、Cクラスのみんなから認められる?」


 七瀬が補足するよう、俺の言葉に続いた。


「そう」


「で、でもよ、そう簡単にCクラスの奴らが俺たちに点数を入れてくれるとは思えねぇよ」


「だからこその匿名……ってことだよね、綾城くん?」


 蓮は顎に手を置き、そう言った。


「あぁ」


「……でも、もし誰にも認められなかったら?」


 白石は膝の上で指をぎゅっと絡め、小さくそう漏らす。

 その声はかすれていたが、確かに不安がにじんでいた。


「大丈夫だよ。その時はまた、みんなで考えよ?」


 七瀬は即座にそう返し、白石の背をそっと撫でる。


「……うん、ありがとう」


 白石が落ち着いたところで、俺は話を終える。

 話せることは全て話した。


 後はみんなが、この策に乗るかどうかだが……。


「いいじゃん、綾城くんの作戦。まぁ、試験内容は当たればラッキーってことで! ねっ、みんな?」


 七瀬はできるだけ明るくポジティブに、俺の怪しい策を塗り替えてくれた。


「そう、だな。今はどうせ、部活くらいしかすることねぇし」


「僕も。勉強に支障が出ないなら」


「どーせあたしたち、今どん底だもんね。何をしても怖くない!」


「わ、私も。できることは……全部、したい」


 よかった、上手くまとまって。


 これも節々で、七瀬が問いを投げてくれたり、みんなを後押ししてくれたおかげかもな。

 本当に助かった。

 

「よし」

 

 俺は静かに頷く。


「これが俺たちがCクラスに馴染む第一歩だ。そのための作戦を、これから一緒に詰めていこう。まずは各自の役割決めだ!」


 俺が言うと、翼がソファにもたれかかり、わざとらしく伸びをする。

 

「堅ぇ話ばっかりでちょっと疲れたぁ。せっかく友達同士でカラオケに来てんだ。ここは景気よく、一発歌っちゃおうぜ」


 小さな笑いが起きた。

 緊張がほどけ、誰もが少しだけ肩の力を抜いた。


「翼らしいね」


「いいねぇ。あたしも何か歌おっかなぁ!」

 

 温かな空気が広がっていくのを感じた。

 俺は静かにその光景を眺めながら、胸の奥で別の思いを抱いていた。


 ――友達、か。


 笑い合う彼らを見て、胸の奥が、ほんの一瞬だけ熱を帯びる。

 こんな時間が続けばいいと、ふと錯覚しかけた。


 だがすぐに頭を振り、余計な感傷を押し殺す。


 これは友情じゃない。

 利用するための信頼関係だ。


 俺が未来を変えるために必要な、ただの手段に過ぎない。


 次の特別試験で俺たちは、可能な限り上位に食い込む。


 それが俺たち昇格組が、Cクラスに食い込む突破口。

 そして、Aクラス柊木に取り込まれる前に、士門湊人をこちら側へ引き込む現状唯一の手段。


 笑顔を浮かべている彼らを前に、俺は心の内を決して明かすことはできなかった。


 けれど――。

 この戦いに勝てば、未来は確実に変えられる。


 仲間を利用し、仲間に支えられながら。

 その矛盾を抱えたままでも、俺は進むしかない。


「……じゃあ、俺からいっちゃうか」


 室内に一曲目のBGMが鳴り響く。


 俺はそんな中、心の中で静かに呟いた。


 次の特別試験、勝つのは俺たちだと。 

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