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80話

 扉の向こうにいる人物は、名乗りもしないままに、どうにかして部屋に入ろうとしているようだ。

 部屋の中にいるブリルーノたちは、魔法の施錠で安全だと分かっているため、なにか対処に動くということはしなかった。


「せめて名乗ってくださったのなら、部屋に入れるかどうかを考えることはしますのに」

「魔法で施錠している立場から言うと、身内じゃないのなら扉を開けるべきじゃない」


 ブリルーノとミルキブルーナが言葉を交わしていると、扉を開けようとする動きが止むのと同時に扉の向こうが更に騒がしくなった。

 武器を使った戦闘の音。悲鳴と撤退を叫ぶ声。走って逃げたらしき大きな足音。

 そんないくつもの音が同時に起こり、少ししてその全てが聞こえなくなった。

 すっかり静かになった後で、再び扉がノックされた。

 今回のノックは、部屋の中にいる者を気遣っていることがわかる、規則的かつ軽い音を出す叩き方だった。


「どちら様ですか?」


 扉近くにいた侍女が、恐る恐る声をかけると返事がきた。


「シンザーレだ。ようやく犯人を捕らえることができた。開けてくれ」


 シンザーレの声に侍女は安心し、扉を開こうとする。

 しかし扉はブリルーノの施錠の魔法によって閉ざされているため、侍女が開けようとしても開けられなかった。

 侍女が焦った顔を向けてきたので、ブリルーノは席を立って扉に近づく。


「変声の魔法で声を変えている人物かもしれんだろうが」


 そう苦言を言いながら、ブリルーノは侍女を部屋の反対側へと対比させ、それ以外の者たちも扉とは反対側に集まらせた。

 これで、例え扉の向こうにいる人物が襲撃者だった場合でも、まず戦闘を行う相手はブリルーノになる。

 そしtブリルーノであれば、魔法使いであろうとも接近戦の技術も修めているため、襲撃者に遅れを取ることはない。


「開けるぞ」


 部屋の中にいる一同に注意を呼び掛けてから、ブリルーノは魔法の施錠を解除してから扉を開けた。

 果たして扉の向こうにいた人物は、声の通りにシンザーレだった。

 しかしブリルーノは、目の前にいるシンザーレの格好を目にして、顔を顰めた。

 なにせシンザーレは頭から血を浴びたように、全身が真っ赤だ。しかも髪の先から血が滴っている。

 ブリルーノは、魔力視でシンザーレに怪我がないかを確かめ、肉体疲労以外の問題がないことを確認した。


「おい。そんな格好で、赤子がいる部屋の中に入ろうとしているのか?」


 ブリルーノが苦情を口にすると、シンザーレは自分の姿を見下ろして『うっかりしていた』という顔になる。


「苦情は最もです。いやはや、事態が解決して妻と子に害が及ぶことがなくなったことが嬉し過ぎて、それ以外のことが頭から抜けてました」


 照れ笑いする、シンザーレ。

 ブリルーノは半目を向けつつ、彼の背後にいる彼の配下らしき人物たちに視線を移す。

 配下たちは、鎧と剣という完全武装姿で、シンザーレと同じように血濡れの状態だった。

 次に視線を廊下の上に移動させると、着られて事切れた遺体がいくつも転がっていた。こちらの死体は、剣は装備していても、鎧ではなく普通の服だ。


「大方、犯人を追い詰めた際に、うっかり廊下に逃げられたといったところか」

「逃げられたのではありません。先に逃げ出していた犯人を追いかけたら、ここに集まっていたので対処したのです」

「それで犯人というのは、血濡れの状態で廊下に座り込んでいる、そちらの『生きている婦人』か?」


 ブリルーノが視線で示したのは、日常着用のドレスに身を包んだ、ミルキブルーナよりも幾つか年上の女性。そのドレスは、廊下に転がる死体が生きていた頃に、その体から噴出したものであろう血を大量に吸っている様子だ。

 その女性は、凄惨な光景を目にした衝撃からか、目の焦点が現実に合っていない様子でいる。


「その女性は、誰なんだ?」


 素性の問いかけに、シンザーレは鼻息を吹く勢いで答えを告げてきた。


「この女は、次兄の妻ですよ」

「……犯人の疑いがあるといって、兄の妻をこんな姿にして良かったのか?」

「構わないでしょう。兄がなにか言ってこようと、この女には罪を償ってもわらなないといけないんですから」

「事情は分かった。その女性はすぐに牢屋に入れるのか?」

「自殺防止の処置をして、こちらの手勢を監視につけて、牢に繋ぎます」

「その仕事は部下に任せてもいいというのなら、何日かぶりに妻の顔を見に部屋に入ることは許可できるが?」

「そうしようと思ったのですけど、でも格好が」

「血濡れの姿なら、俺様が魔法で綺麗にしてやろう。浄化」


 ブリルーノが呪文を唱えた次の瞬間、シンザーレの全身を濡らしていた血が赤黒い塵となってから体を離れて床に落ちた。

 すっかりと綺麗になったシンザーレなら、部屋に入っても大丈夫だと、ブリルーノは場所を空けた。

 シンザーレは剣を腰の鞘に納めると、部屋に入っていき、微笑むミルキブルーナとその腕の中で目を開けている赤子の元へと歩み進んでいった。


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― 新着の感想 ―
血生臭いのレベルを超えとる
思った以上に血まみれだったな。
いくら浄化出来たとしても、それでいいのか?(苦笑)
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