66話
助産活動任務は、あと三ヶ月が期限。
そう知って、ブリルーノの気持ちは、幾分か楽になった。
(延々と助産活動を、してはいられないからな)
ブリルーノは宮廷魔法師で、特異なことは外敵を魔法で屠ることだ。
出産で新生児が誕生することは尊いことではあるものの、それを手伝いすることは宮廷魔法師の役割ではないだろうと感じている。
しかしそれと同時に、助産活動で魔法を使うには、宮廷魔法師ほどの手腕が必要不可欠であるとも感じていた。
(狙った通りの場所に、望んだ通りに魔法効果を調整し、不測の事態が起きた際に対応できる程度に魔法の種類を修めている。そんな条件を果たせる魔法使いがいたら、宮廷魔法師として勧誘できる基準は超えている)
仮に攻撃魔法に不得手な魔法使いであったとしても、それほどの魔法技術が達者ならば、後々に化ける可能性が十分にある。
ブリルーノが開発した『天照堕』も、元は攻撃魔法ではない魔法を改造した結果、大群相手に多大な効果を発揮する魔法になったのだから。
(そういう人材がいないか、探してみるのもいいかもしれないな)
将来の成長性もそうだが、三ヶ月後も助産活動の継続を命じられた際には、その勧誘した新たな宮廷魔法師に任務を引き継げばいい。
そうすることができたのならば、ブリルーノは元の宮廷魔法師筆頭としての任務――王城での待機任務に戻ることができる。
「だがそれは、三ヶ月を過ぎた後に考えれば良い」
そう結論を出したところで、ブリルーノはノブローナから渡された、赴く必要のある妊婦のリストに目を落とす。
その紙には、ずらずらと貴族の名前が載っていた。
数えてみると十三。
それだけの貴族家が、ブリルーノの助産活動を要請しているということになる。
それも、王家にとって有用と判断された貴族家に限っているのにだ。
三ヶ月で十三の家で助産活動を果たすというと、かなりの困難さを感じるもの。
しかしブリルーノは、そこまで重責を感じてはいなかった。
(ノブローナ王妃の話によると、このリストにあるのは妊婦がいる貴族家で、出産を控えた妊婦がいるとは確定していない、だったな)
だからブリルーノが先ず行うことは、この十三の貴族家を尋ね、妊婦の出産時期の診断をする。
この診断結果によっては、三ヶ月の間に出産が始まりそうな妊婦は居ないこともありえる。
もしそうなったら、ブリルーノは三ヶ月を待たずに、助産活動のお役御免となる。
(俺様としては、その方が望ましいが、まあ都合よくはいくはずもない)
情報収取に長けたノブローナが出したリストなので、少なくとも一つは確実に出産間近な妊婦がいる貴族家は含まれているはずだと、ブリルーノは考える。
なにはともあれブリルーノは、リストの中で爵位が高い家から巡に回ってみることにした。
最初に訪れた、インポリオ侯爵家の王都屋敷。
ノブローナから話は通っていたようで、すぐに屋敷内に通されたうえ、妊娠しているという息子夫婦と面会することが出来た。
ブリルーノが魔力視で確認したところ、夫人の妊娠が確認できた。
しかし確認した胎児の成長具合は、出産間近ではなく、これから三ヶ月の内に出産できるかも微妙なところだった。
次にやってきたのは、カントゥス侯爵家。
ノブローナから話は通っていたはずなのに、あまり歓迎されない雰囲気で屋敷に通された。
妊娠している当主夫人に会うのも渋られ、妊娠診断も夫人に振れないようにして欲しいという要求まで出てきた。
これらの態度から、どうやらカントゥス侯爵家は、王家から距離を取りたいと考えている家のようだ。
しかしブリルーノも任務であるからにはと、魔力視による診察だけはやっておいた。
夫人は確実に妊娠していて、しかも出産間近だと分かるほど胎児は育っていた。
外見では腹の膨らみは控え目だったのだが、どうやら出産間近だと知られないように、衣服を調整して腹部の大きさを誤魔化しているようだ。
ブリルーノは相手から嫌厭されていると理解しつつも、出産時に問題がおきたら知らせるようにとは伝えておくことにした。
ヴィエトロフカ伯爵家。
当主から揉み手での歓迎を受け、面会した夫人は妊娠してはいたものの、三ヶ月で出産まで至ることが不可能だと判断せざるをえない、胎児は妊娠初期だと分かる大きさだった。
クリンハヴィン伯爵家
四角四面な態度で屋敷に招かれ、当主同席で夫人への魔力視診察を行った。胎児は順調に育っていて、三ヶ月以内に産まれそうな予感はあった。伯爵家付きの医者とも話をすることができ、出産予定日は二か月後となっているとのことだった。
クァンハニ伯爵家。
面会はすぐに叶ったものの、夫人は太って腹が出ただけで妊娠してなかった。
診察後、良い時間だからと夕食を共にすることになったが、振られる話の内容は王城や後宮に関することばかり。
どうやら夫人が妊娠してないと知って、産まれてくる子を通して王家と近づけないと分かり、それならとブリルーノから情報を得ようという気のようだ。
ブリルーノは食事の礼として、知られても構わない程度の情報を渡して去ることにした。
「一日で五件。単純計算で、訪問だけで三日がかりか」
ブリルーノは時間がかかると嘆くと、帰宅することにした。




