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65話

 戦争を一つ終わらせて、ブリルーノは王都に戻ってきた。

 戦況報告を行った後、半日休日を貰い、自室でたっぷりと睡眠をとった。

 その翌日に、再び王城に呼び出された。

 今回向かう先は謁見の間ではなく、後宮の天使菊宮――つまりはノブローナ王妃の呼び出しである。

 女官に先導を受けながら、後宮の道を通って、ブリルーノはノブローナの私室までやってきた。

 その中に入ると、ノブローナの他に、彼女の子であるジャンルマ、その乳母であるフィエーリア・エタナ・アミーコジ永代侯爵夫人が待ち受けていた。


「お呼びにより参上した。それで、またぞろ妊婦の斡旋で?」


 ブリルーノがわざと不遜な物言いで尋ねると、ノブローナは破顔した。


「はっはっは。ブリルーノぐらいだぞ、そんな無礼な口を叩くのは」

「不評を買ったのならば、この役目からの解放してもらいたいもんだが」

「気を悪くするはずもない。貴殿は、その言動を取るに相応しい実力者であり、度重なる功績も打ち立てているのだから」


 ノブローナは嬉しそうに語ってから、急転直下で不機嫌な顔になる。


「プリパル伯爵家での話は耳にした。夫人に残すと約束していた三番目の子を、勝手に養子に出すとはの。あの当主と懇意にしている者には、距離を置くこととしよう」


 王妃だけあって方々に耳を配置しているようだと、ブリルーノはノブローナの情報収集力に関心する。

 その一方で、釘を刺しておくべきだと判断した。


「気持ちは理解するが、あまりやり過ぎないようにと、忠告をしておく」

「なぜだ。慈悲をかけてやる相手ではあるまいに」

「あの伯爵本人はどうでもいい。夫人であるフラシオンとその手に残った子供のことを思ってのことだ。あの二人にまで影響がでては、忍びないだろう?」

「ふむっ。フラシオン夫人の気持ち次第ではあるが、離縁の働きかけでもしよう。伯爵本人は、養子に出す子を産んだ夫人は用済みだと考えている様子であるしの」

「あの二人が不孝にならないのであれば、どうでもいい」

「『不孝にならない』とは妙な言い方よな。望むべくは『幸福になるように』ではないかの?」

「そこまで望むほど関係は深くないからな。路頭に迷うことがないようにと望むぐらいだ」

「情があるのかないのか、分らぬ奴よな」


 ノブローナは笑みを零すと、軽く手振りを行い、これからが本題だと示した。


「貴殿の仕事ぶりが評判になっておる。色々な家から、出動要請を貰っておるぞ。後宮にて第一王妃と第三王妃の子を取り上げ、アミーコジ永代公爵家にて、医師輩出の名門たるクラシスト伯爵家の技術を学び、一人は死産が当たり前である四つ子を全て生存させた。稀代の名助産師であるとな」

「……その評価は、大変に不本意なのだが? 俺様は、宮廷魔法師筆頭であって、助産師ではないんだが?」

「貴殿の気持ちは分かる。だが、宮廷魔法師であるからには、王家のために働くのは義務であろう?」

「俺の評価を聞いて要請を出してきた家の内、王家の利益になる家に向かえと?」

「あと三月みつきの間だけ辛抱しておくれ。そうすれば、任を解いてやろう」


 三ヶ月と期間を区切られたことに、ブリルーノは首を傾げる。


「その期間の根拠は?」

「ジャンルマと同年代となる子に情けをかければ、恩義を感じた家は王家に好意的になるよう子を教育するであろう。それは後に、ジャンルマにとって得難き友となる可能性がある。だが逆を返せば、年代が変わる相手であれば、効果は薄くなるとも言える」

「いまから三ヶ月が経つと、その年代の区切りになると?」


 ブリルーノは、三か月後に何かあったかと、考えを巡らす。

 春の始まりである年の切り替えは更に先にあり、なにかの区切りになりそうな行事にも心当たりはない。

 なにか区切りになるものがあっただろうかと、ブリルーノは首を傾げてしまう。

 そんなブリルーノの疑問が通じたのか、ノブローナはにんまりと笑顔を浮かべてきた。


「流石の宮廷魔法師筆頭といえど、結婚もしていない男性であれば、知らぬも当然か」

「男性に関係のない話ということか?」

「そうではない。古来より、子の同年代となる区切りは、冬が始まる前と決まっておるのよ」

「年の始まりは春の初めだという認識でいるが?」

「年の始まりはその通りよ。だがな、古の時代において、冬は死の季節。その時期に産まれた赤子は、寒い冬に死ぬことが多かった。故に、どうせ死ぬ子なのだからと、同じ年代には数えなくなったのよ」

「今でも平民の間では冬生まれの子は死ぬことが多くはあるとは聞くが――ちなみに、冬を生き延びた赤子の扱いはどうなる?」

「もちろん次の年代に組み込まれる。春始めに産まれた子と扱われるのよ」

「冬に生き延びた子として扱うのではないのか?」

「先ほど言ったであろう、冬は死の時期であると。冬は死を強烈に連想させるため、あえて春という生命が産まれ出る時期に産まれたと産まれの時期を偽ることで、少しでも子から死を遠ざけようとする。それが習慣となったわけよの」

「……もしかして、春産まれと、春始め産まれと、いまでも区別してよんでないか?」

「お主の知人の中もいたようであるな。春始め産まれとした、実は冬生まれの子がの」


 今更ながらに、春産まれと春始め産まれの違いの理由を知り、ブリルーノは気恥ずかしさを感じた。

 しかしその感情を顔に出さないように気をつけつつ、ブリルーノは改めてノブローナに問いかけた。


「つまり、この三ヶ月だけ、俺様は助産活動をする。それ以降は、以前通りの宮廷魔法師筆頭の役割に戻って良い。そういう認識でいいんだな?」

「その通り。まあ、王家や高位貴族家で魔法による処置が必要な妊婦が出てきたときは、その限りではないと申し伝えてはおくがの」

「クラシスト伯爵家の面々でも対処できない相手なら、諦めるのも手だと思うがな」


 気持ちはともかくとして、ノブローナからの要請は理解したことを、ブリルーノは身振りで示してみせた。

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― 新着の感想 ―
おー、任務の終わりが一応は定まったんですねー しかし、本当に終わりになるか怪しいなあこの王妃の言ですし
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