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閑話

 プリパル伯爵家での助産作業を終えた翌日、ブリルーノは王に呼び出された。

 正式な手順を踏んでの召喚のため、宮廷魔法師であるブリルーノに拒否する権限はなかった。

 ブリルーノが謁見の間に入ると、王が玉座に座り、重臣は立ち並んでいた。

 しかし、ノブローナを初めとする、王妃たちの姿はなかった。

 それがどういう意味かを、ブリルーノはすぐさまに察知した。


(宮廷魔法師の本分である、戦闘への出動要請だろうな)


 玉座の前で跪いて命令を待つと、ブリルーノが予想した通りに、戦争への参加命令が発せられた。

 その命令に従い、ブリルーノは直に戦争が起こっている国境へと旅立った。


(ゆっくり戦場へ向かえば、その時間分だけ助産活動をしなくてよくなる。だが、遅参して戦争が終わってしまっていたら、それはそれで問題になる)


 ブリルーノは、自分の望みと国家の利益を秤にかけて、国家の利益を取った。

 飛行魔法を用い、街道や地形を無視して、一直線で素早く戦場へ。

 一昼夜飛び続けて着いた戦場は、国境を守る砦だった。


(俺様ぐらいの魔法使いでなければ、一昼夜を飛び続けるぐらいに、飛行魔法を長時間維持することは出来ない。流石は俺様といったところか)


 ブリルーノは心の中で自画自賛しつつ、上空から砦を眺める。

 すると、多数の兵士が詰め込まれ、今まさに防衛戦を始めようとしているところだった。

 これが何を意味しているかを、ブリルーノは理解した。

 そして、上空から確認できた顔見知りの元へ、上空から降り立った。


「おい、『爆裂槍』。お前が居ながら、どうして砦まで押し込まれているんだ? お前の槍なら、敵軍が砦に至るまでに、軍勢丸ごと吹っ飛ばせるはずだろ」


 不躾なブリルーノの問いかけに、爆裂槍と呼ばれた男性――短く刈り込まれた黒髪で、茶色い瞳を持ち、精悍な顔つきと痩せ型の体躯の、三十歳半ばの軍人――が嬉しそうに顔をほころばせる。


「先生! 来てくれたのですね!」

「先生と呼ぶな。宮廷魔法師筆頭様と呼べ」

「そんなことより、先生! 大変なのです! 先生から教えて頂いた爆裂槍が、敵に通用しなかったのです!」


 話を聞かない軍人男性に、ブリルーノは辟易とした。しかし、手ずから教えた魔法が通用しなかった相手がいると知って、強い興味を引かれた。


「それで、その敵ってのは、どこの誰だ?」

「誰というわけではなく、アレです」


 軍人男性が指した方向に目を向けると、地平線から顔を覗かせている存在が目に入った。

 それは巨大で、そして茶色い体表をしていた。


「あれは、巨大なゴーレムか?」


 ゴーレム。魔法使いが土や石で作った人形を、専用の魔法で操って動かしている存在。

 しかしゴーレムの基本的な大きさは人間の等身大であり、大きくても二人分の背丈ほど。

 そのため、地平の向こうに見えてきた、砦の外壁を乗り越えそうなほどに巨大なゴーレムなど、常識的な大きさとはいえない。


「あの巨体を維持するのに、どれだけの魔法使いが操作に参加しているんだかな」


 ブリルーノは、大人数の魔法使いを用いるのならば、巨大なゴーレムじゃなくて、別の魔法を使った方が効率的ではないかと考える。

 しかし、あの巨大なゴーレムに爆裂槍は通用しなかったという。


「通用しないってことが分かっているってことは、あのゴーレムと戦ったのだろう。その状況を詳しく話せ」

「敵軍が国境を越えたという偵察兵の報せを受け、槍を運ぶ供周り数人と共に国境へ。その後、持っていった槍を全て投げたのですが、見ての通り、ああして健在のままでして」

「ゴーレム相手なら、素材が土であろうと石であろうと、爆裂槍なら破砕できると思うが?」

「それが、あのゴーレムは泥で出来ているのです」


 そこまで説明されて、ブリルーノはようやく爆裂槍が通用しなかった理由に考えが至った。


「爆裂槍は、投擲した槍が敵や地面に刺さった際に、投擲した威力と槍の耐久度を魔法によって周囲に拡散する衝撃に変換する。敵は度重なる戦闘で、その仕組みを理解した。だから、衝撃波を受け止めるための防壁として、あの泥ゴーレムを作ったってわけだな」

「つまり、爆裂槍は通用しないと?」

「変換方法を衝撃の発生と拡散から、風化と乾燥や、凍結に変えれば対応可能だ――がしかし、お前の不器用さでは、一朝一夕で修めるのは難しいか」

「それは、はい。爆裂槍も、先生が付きっ切りで一ヶ月かけてくださって、ようやく覚えたほどですし」

「変換方法の変更だけだから、そんな月日はかからんぞ。お前の能力を考えれば、まあ十日ほどでできるだろうさ」


 そんな話をしていると、砦の兵士の一人が走って近寄ってきた。


「爆裂槍将軍! 敵軍が、最終警戒線を突破しました! 敵魔法使いが飛行魔法で上空へやって来れる距離です!」

「承知した。警戒は厳にし、なにかあればすぐ対応できるよう準備しつつ、待機だ」

「はっ! ご命令、承りました!」


 兵士が走って去っていってから、将軍と呼ばれた軍人男性はブリルーノに情けない顔を向けてきた。


「というわけで、先生。どうにかしていただきたく」

「どうにかしてやってもいいが、どうする?」

「どうする、とは?」

「俺様は、あのゴーレムを排除するだけでいいのか? それとも、俺様の魔法で敵軍の兵士を捕虜にできる方向でいくのか?」

「……どちらの方が大変でしょうか?」

「あまり手間は変わらん。敵軍の兵士を捕まえるのは、この砦の兵士どもにやらせる気だからな」

「つまり、ゴーレムを壊し、敵軍全てを無力化する魔法をお持ちだと?」

「おいおい。俺様の仇名である『天照堕』は、そもそもが非殺傷系の対軍団用の魔法だぞ。まあ今回は、その魔法は使わんでも良さそうだが」

「そういうことでしたら、敵軍を捕虜にする方向で」

「分かった。ではお前は、兵士をまとめて、敵軍を捕虜にしに行く準備をしておけ」


 軍人男性が敬礼の後に、兵士を集めるために走っていった。

 ブリルーノは、遠くにそびえる巨大な泥ゴーレムに目を向け、そして敵に同情した。


「爆裂槍を防げる泥のゴーレムを動く防壁にして、我が国に侵攻する。その発想は良い。しかし、俺様がこの国の宮廷魔法師筆頭だという情報が頭から抜け落ちているのがダメだな。正確な術式でないと、あれほど大きな泥のゴーレムは思い通りに操れない。そして俺様は、その手の術式を攪乱する手法に長けた魔法使いなんだぞ」


 敵に教訓を与えるべく、ブリルーノはとある魔法を使った。

 それは傍目からだと、手から光る球を敵軍の上空へ向けて発射したようにしか見えないものだった。

 その光る球は、巨大なゴーレムの頭の上を高く飛び越え、そしてゴーレムの影に隠れている敵軍が居るであろう場所の上に到達。その瞬間に、眩い光と共に爆散した。

 爆散した場所から遠く離れているブリルーノの位置でも、魔法の球が発した光が目に入り、発せられた音が微かに耳に届いた。

 その瞬間、ブリルーノは自分が放った魔法効果を受け、軽い眩暈が発生した。


「むむっ。敵魔法使いの魔法的防御を突破するためとはいえ、これだけ距離が離れているのに使用者自身にも影響が出てしまうことは困るな」


 魔法の改善点を理解しながら、ブリルーノは自分が受けた魔法効果を対応する魔法で打ち消した。


「さてさて、敵軍はどうなったかな?」


 ブリルーノが改めて泥ゴーレムへ目を向ける。

 これまで順調に近づいてきた泥ゴーレムは、あの光る球が炸裂した直後から、動きを完全に止めていた。

 いや止まってはいない。

 泥ゴーレムの姿形が、時間を経るに従って、歪に変化していっている。

 巨大かつ泥でありながら人型を保っていたのに、変化の果てに頭がつぶれて平たくなったり、腕の生えている位置が肩から腹に移動したりと、異形化してしまっている。

 そんな異形でも姿形を留めておくほど、敵の魔法効果は強くなかったようで、やがて泥ゴーレムは崩壊し始めた。

 そして巨大な泥が崩壊すれば、後に待っているのは、泥の洪水だ。

 さらに言えば、泥ゴーレムの影に隠れていた敵軍は、その泥の洪水の発生が直撃することになる。

 崩壊した泥ゴーレムと、その泥で生き埋めになった敵軍。


「……魔法一発で、この成果をだすなんて。流石は、先生だ」


 戻ってきた軍人男性に褒められたものの、ブリルーノにとってみれば称賛に値しない詰まらない仕事だった。


「敵が間抜けだったんだ。精密な操作を必要とする巨大なゴーレムならば、その精密な動作を刺せなくすれば自ずと戦略は崩壊するのは、自明の理というやつだからな」

「ちなみに、どのような魔法をお使いに?」

「敵の感覚を攪乱する魔法だ。魔法の球が炸裂した際に発生した光と音。それを見て聞いた者は、目の前の景色が回って見えるようになる。深酒をした後のようにな。その効果の度合いは、発生した光と音を多く感じ取った者は、より強くなる。人間の感覚を混乱させるという点で術式構築が難解な割に、感覚を戻す魔法を使えば簡単に回復できてしまう、程度の低い魔法だ」

「その弱い魔法にも関わらず、こんな大戦果を?」

「魔法であれ道具であれ、なんでも使い様だ。殺傷能力の低い魔法であっても、使いどころを考えれば人を殺すことはできる。土を掘る道具の円匙でも、振り回せば立派な鈍器にできるみたいにな」


 ブリルーノは説明を行いながら、敵軍の様子を観察する。

 敵軍は、生き埋めになった泥から這い出てき始めているようだが、未だにブリルーノの魔法効果の影響下にあるようだ。ぐらぐらと体を揺らし、仲間を泥の中から引き揚げようとして、体勢を保てずに頭から泥に突っ込む敵兵の姿が多々ある。


「ほら、敵兵は隙を晒しているぞ。捕虜にしにいってこい。その間、この砦は俺様が守っていてやる。昼寝をしながらな」

「了解いたしました。では、行ってまいります!」


 軍人男性は味方の兵士を連れて砦から出て、泥の中にいる敵兵を捕まえにいった。

 ブリルーノは砦に一時的な結界を張ると、外壁に背を預けて目を瞑り、仮眠を取ることにした。

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― 新着の感想 ―
助産のノウハウを記して、有識者に配布すれば、国力が上がるから。死んで終わりじゃなくて書籍なりにすれば次世代に続くからね!さかも、改良できるし。
これ助産の方はさっさと引き継げる弟子つけた方がよいのでは?
やっぱりこ主人公を王族のため使ってるとか王妃終わってるな 前線の兵も民衆を可哀想
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