51話
フラシオンの胎児は四つ子である。
その事実を、ブリルーノはフラシオンだけでなくパザンプにも伝えなかった。
フラシオンに対しては、三つ子だと思っていたのが四つ子だと教えて変に気負わせると、体調に悪影響がでるのではないかと危惧したから。
パザンプに教えなかったのは、教えたところで養子先が増えたと喜ばせるだけでしかないと判断したから。
(四つ目の胎児の魔力が弱々しかったからな。下手に期待させて死産になったら、ショックが大きくなるからな)
居ると知った後に死んだことが分かるより、居ると知らないまま出産時に死んでいたと知った方が、衝撃は少なくなるはずだ。
ブリルーノは、そうした判断の下で、四つ目の胎児の存在を隠すことにした。
重大な秘密を抱えたまま、ブリルーノとプリパル伯爵家との交流は続いていく。
フラシオンの胎児たちは、順調に育っている。魔力が弱い胎児についても、ひとまず成長はしている――つまり、まだ生きているようではあった。
フラシオンの体調は良い状態のまま推移していて、食事も十分に取れているようで健康面に問題はない。
一方でパザンプについては、あまり良い状態ではないと、ブリルーノは判断していた。
なぜかというと、どうやら胎児の養子先に頻繁に手紙を送っているようなのだ。
ブリルーノは、どんな内容を書いているのかが気になり、面会ついでに紙面をこっそりと盗み見た。
そうして掴んだ手紙の紙面はというと、養子先に胎児の無事の成長を知らせるものに加えて、プリパル伯爵家に宮廷魔法師筆頭であるブリルーノがノブローナ王妃の命令で通っていることを知らせるものだった。
別に秘匿情報ではないため、誰に手紙で伝えようと構わない情報ではある。
しかし、まるでプリパル伯爵家の功績を鑑みて、ノブローナ王妃が宮廷魔法師筆頭を遣わしたと誤読できるような文書に仕立てる必要はないはずだ。
だがブリルーノは、パザンプがどうしてそんな文面を書いたのか、理由を推察することができた。
(あたかもノブローナ王妃ないしは俺様とプリパル伯爵家に繋がりがあると匂わせることで、生まれた赤ん坊を取り決め以上の値で売り渡すための交渉に結びつけるか、赤ん坊を引き渡した後も繋がりを持ち続けようとしているかだな)
プリパル伯爵家の現状は、崖っぷちもいいところ。むしろ自分の子供を他の貴族家に売り渡す契約をしている段階で、片足が崖の外に出ていると言える状況だ。
この現状を抜け出すには、急場しのぎの金策ではなく、力ある貴族家からの永続的な支援が必要になる。
その永続支援を、ノブローナ王妃やブリルーノの名前を使った方法で得ようとしているのだ。
(見下げ果てたヤツめ。家を保つだけの貴族としての才覚がないのであれば、才ある親族に地位を明け渡すなり、王家に爵位を返上するなりすればいいものを)
ブリルーノは、もはやパザンプに関わるのは損だと判断し、業務連絡以外で会わないようにすることにした。
しかし、そうは問屋が卸さない事態が起こった。
ブリルーノがいつものようにフラシオンと問診代わりの雑談をしていると、プリパル伯爵家の執事がやってきた。
珍しい事態にブリルーノが雑談を止めると、執事が焦った様子で言ってきた。
「当家に、ピソンパン侯爵がお見えになられました」
「……その人物と俺様に、何の関係があるんだ? いや、フラシオンにか?」
ブリルーノが言いながらフライパンに顔を向けると、フラシオンの方もピソンパンなんて人物は知らないと首を横に振っている。
二人して疑問顔になっていると、執事が困った口調で追加情報を告げてきた。
「ピソンパン侯爵は、当家の子の養子先として決定している家の一つでして」
「その家の当主の登場を俺様に伝えてくるのは、一体どういう了見なんだ?」
「旦那様に、手紙の真偽について尋ねていらっしゃったのです。そして、宮廷魔法師筆頭殿がいるのなら面会させて欲しいと仰せで」
「俺様に命じられた任務は、フラシオンに対する助産活動だけだ。プリパル伯爵家の立身出世のために、ピソンパン侯爵と面会することは含まれていないんだが?」
「そこを曲げて、お願いできればと」
ブリルーノは、そんな話は受け入れられないと拒否する気でいた。
しかしそのとき、フラシオンがブリルーノの手をとってお願いをしてきた。
「頼むよ、ブリルーノの旦那。その侯爵様と話をつけてきてくれよ」
「……ピソンパン侯爵は、これからお前が産む子の売る先なんだぞ?」
「だからだよ。どうせ子を渡すのなら、大事にしてもらいたいじゃないか」
フラシオンの真摯な瞳に射貫かれて、ブリルーノは降参した。
「分かった。ピソンパン侯爵に合う。だが、俺様は自分の発言を偽ることはしないぞ。たとえそれでプリパル伯爵家が窮地に陥ろうともな」
「それで良いよ。ブリルーノの旦那の嘘偽りない発言で窮地になるってことは、ウチの旦那が変な企みをした結果だろうからね」
フラシオンの苦笑いに見送られて、ブリルーノは部屋を出てピソンパン侯爵に面会するために執事の案内を受け入れた。




