49話
ブリルーノは宮廷魔法師の宿舎にある自室に戻ると、ここまでの状況を整理することにした。
プリパル伯爵家は、貴族社会で落ち目である上に、平民の産婆からも見放された存在である。
ブリルーノは、その事実を知って、ノブローナ王妃の目論見を看破した。
(今回の案件は、完全に俺様の技術水準を高めるための実験の場ってわけだ。仮に失敗したところで、プリパル伯爵家がどう抗議してこようと、どうとでも訴えを封殺できるだろうな)
現在のプリパル伯爵家には、ノブローナ王妃を糾弾するどころか、ブリルーノこと宮廷魔法師筆頭を正当な理由で訴えるだけの権力や経済力がない。
仮に、ブリルーノが意図してフラシオンとその胎児を魔法の失敗で殺し尽くしてしまった場合でも、プリパル伯爵家は黙って受け入れるしか道はない。なにせ宮廷魔法師筆頭と相対してでも、見返りが期待できないプリパル伯爵家を助けようとする貴族など現れるはずがないのだから。
むしろ、この魔法失敗を平民相手にしでかしてしまった場合の方が、平民の人気取りをする目的で貴族が出張ってくるので、面倒な事態になり得る。
(力なき貴族は平民より劣る、とはこの事だな)
ブリルーノは一人納得しつつ、プリパル伯爵家の妊婦ことフラシオンについてに考えを移す。
(フラシオンの見た目は健康そのものだった。顔色が悪い感じもなかったし、三つ子の胎児に栄養を吸われて痩せ細っているということもなかった)
フラシオンの家は、多産の家系だという。
つまりフラシオンの体は、三つ子を腹の中で育てて出産することが用意な造りをしていると考えるべきだろう。
(それにプリパル伯爵家は、落ち目といえど貴族だ。複数の胎児がいる妊婦のために、栄養価のある食事を手配することぐらいはできるはずだ。もしも経済的に困難だとしても、胎児を売る先を既に決めているからには、その売り先からの援助で食事を揃えることはできるはずだ)
多産に耐える肉体と栄養のある食事を与えてもらえる環境があるのだから、胎児が過不足なく育って出産までこぎつけることは難しくないように、ブリルーノには感じられた。
胎児に問題がないとすれば、あとはブリルーノの魔法の腕前と選択によって、出産が無事終わるか否かが決まるだろう。
(しかしながら、三つ子ないしはそれ以上の数の胎児か。どうやって複数人が、腹の中から出てくるのだろうか。それが一番気になる)
出産に立ち会った経験から、ブリルーノは知っている。
産道を通って出てきた赤ん坊は、それからしばらくは母親とへその緒で繋がったままでいることを。
つまり複数の胎児が腹の中にいる場合、一人目が腹の外に出てきた後に二人目が出てくる際に、二人目が辿る産道には一人目と母親が繋がるへその御が横たわっているのが自然な流れということになる。
(二人目の出産の際に、あの太い紐が二人目の手足や首に引っかかったりしないものだろうか?)
二人目が無事に出てきたとしても、三人目はどうだろうか。
二本のへその御が産道に横たわっていれば、それだけで産道は狭くなって移動することが大変になるに違いない。
そして変な形でへその御が体に絡んだら、窒息や血流阻害が出たり、産道の中で身動きが取れなくなったりするのではないだろうか。
(産道で難事が発生する可能性があるのなら、いっそ腹を切って胎児を全員外に出してから魔法で治して閉じてしまった方が楽なんじゃないだろうか)
ブリルーノは色々な問題が思い浮かんできたため、目を閉じてどんな方法や魔法を使えば良いかを考察することに没頭することにした。




