48話
平民の出産現場にてブリルーノは、産婆が求めるものだけではなく、自身で出産に必要だと感じた魔法を行使することにした。
出産には陣痛が必須であるとアミーコジ永代公爵家のときに学んだので、あえて妊婦に陣痛を強く感じさせる魔法を。胎児に魔法の影響を及ぼさなければ良いはずだからと、妊婦の闘争心を強める魔法と、子宮を収縮するのに使う筋肉だけに強化魔法を使ってみたりした。
そんな独自の魔法の行使は産婆に見咎められる可能性が高いので、出産に必須なものを作る魔法に隠して行使することも忘れない。
そうしたブリルーノの試験的な魔法行使が良い方に転がったようで、出産自体は拍子抜けするほどの安産に終わった。もちろん生まれてきた赤ん坊に、魔法による影響は全くみられなかった。
出産の後始末を終えて、産婆とブリルーノは出産現場を後にした。
産婆の家へと戻り、そこで二人はテーブルを挟む形で座り合った。
「助かったよ。赤ん坊も健康体で生まれてきたことだから、アンタが魔法で何かしてたことは知らないことにしておいてやるよ」
「変な言いがかりは止めて欲しいな。それに、俺様に魔法を使わせたんだ。その代金を支払えと求められないだけ、有難いと思っておけ」
「偉そうだねえ――それで、こんな老いぼれに、何の用かい?」
「用件は、プリパル伯爵家の妊婦についてだ。貴女が妊婦の確認したと聞いたが?」
「ああ、あの家の関係者だったのかい。つうことは、アンタも貴族ってわけか。それじゃあ、その偉そうな言葉遣いも納得だ」
「貴族だから偉そうなのではない。俺様だからこそ、偉いのだ」
ブリルーノが偽りない本心を口にすると、産婆は処置無しと言いたげな身振りを返してきた。
「アンタの偉さはどうでもいいさ。それで、あの家の妊婦について、何を聞きたいんだい?」
「あの妊婦の腹の中には三つ子がいる。それは本当のことか?」
「本当だよ。正確にいうのなら、三つ子以上の子がいるって見立てだけどね」
「三つ子以上ということは、四つ子や五つ子もありえると?」
「三つ子より多い子を孕んだ妊婦と立ち会った経験は殆どないんだよ。だから腹の膨らみ方から計算した、いわば推測でしかないよ。まあ、三つ子以上の妊婦には対応しないようにしてきたから、経験を積めなかったって理由もありはするのだけどね」
「三つ子以上を拒否してきたのか。それはなぜだ?」
ここで産婆が、自身の行動を恥じるように、視線を横に向けた。
「貴族様の間で三つ子以上の子を孕んだ場合は、どういう扱いをするのかは知らないけどね。平民の間じゃ、子を多く孕んだ場合、多くは子供の内の一人が、運が悪いときは全員の胎児が死産になるんだよ。そして産む母親もロクなことにならない」
「死ぬと分かっている子を取り上げる気はないから、出産する母親が死ぬ可能性が高いから、三つ子以上を妊娠した者の相手はしてこなかった。そういうことか?」
「赤ん坊にしても妊婦にしても、死ねば遺族の怒りの矛先は産婆に向くもんだからね。こっちに一切の非がなくともさ。全く、割に合わないよ」
老婆の話を聞いていて、ブリルーノが思い出したのは、過去の魔物討伐で出くわした寄生型の魔物が体に入った被害者だった。
その被害者は、体内の寄生型の魔物に栄養を全て取られて、木の枝のようなガリガリ体型になって死んでいた。
被害確認のために被害者の遺体を解剖してみたところ、腹の中に育ちきれずに死んだ多数の寄生型魔物の子供が詰まっていた。
あの死体の状況から推察するに、三つ子以上を妊娠すると、その胎児と妊婦の間で栄養の取り合いが起こるのだろう。そして栄養が不足していた場合、胎児のいくつかが成長しきれなかったり、妊婦の栄養が足りなくなって体力が落ちて出産に耐えきれなくなるのだろう。
「ともあれ、三つ子以上の妊婦の相手をしないと言ったな。つまり貴女はプリパル伯爵家の出産を手伝う気はないわけだ。平民にしては、強気な態度だな?」
ブリルーノが貴族らしい物言いで問い詰めると、産婆は気分を害したように鼻息を吹いた。
「ふんっ。相手が貴族だから、こっちだって最初は下手に出てたんだ。三つ子以上を孕んでいると分かっても、今回ばかりは信条を曲げて産婆をしてやろうって気にもなっていたんだ。けどね、あの当主が馬鹿でダメだ。あの当主のために、無理を押してなんてやるものかい」
思わぬ話の流れに、ブリルーノは目を瞬たかせた。
「当主というと、パザンプ殿のことか?」
「そうだよ、あの盆暗当主のことさ。こっちが、三つ子以上の妊娠は、胎児の一人二人は死ぬものだと考えて欲しい。それでも胎児全員を腹の中で養うには、妊婦に大量の食事を与えないといけない。そう教えてやったってのに。あの盆暗は、全ての子を無事に生ませてくれなければ困るだなんて言ってきてね。話を聞いてなかったのかいと怒ったのさ」
「……パザンプ殿は、貴女の手腕が悪いから胎児が出産時に死ぬんだとでも言ったのか?」
「胎児全員が無事生まれるなんて無理だって言ったら、そう言い返してきたねえ。まったく、失礼にもほどがあるよ。胎児が無事に育つか否かなんて、こっちの仕事じゃないんだ」
産婆が臍を曲げても仕方がないと、ブリルーノは納得した。
「事情は理解した。安心しろ。あの家に貴女が関わる必要はない。あの家の出産については、俺様が担当することになったからな」
「アンタがかい? 大丈夫なのかい?」
「胎児が既に腹の中で死んでいないのなら、何とかするさ。そのための方法は、いくつか作ってあるからな」
「殺気の出産現場で使っていた魔法が、それってわけかい?」
「おや? 認知しないのではなかったのかな?」
「……そうだね。何も知らない方が良いってことはあるだろうからね。おや、今まで何を話していたのか、忘れちまったねえ」
わざとらしい産婆の物言いに、ブリルーノは思わず吹き出してしまう。
その後に二つ三つの雑談を交わしてから、ブリルーノは産婆の家から立ち去った。




