47話
プリパル伯爵夫婦の面会を終えた後、ブリルーノはプリパル伯爵家の家屋から出ていくことにした。
助産活動を辞めるためではない。
プリパル伯爵家の家屋で寝泊りする気になれなかったので、自宅から通うことにしたのだ。
「だが、その前にだ」
ブリルーノは近場で住民に聞き込みをして、この地区にいる産婆の情報を集めることにした。
その情報を元に、プリパル伯爵家でフラシオンの診断をした産婆を見つけるためにだ。
プリパル伯爵家の家屋がある地区は、貴族が住む場所にしては最下級の場所ではあるものの、平民からみれば平均以上の者が住む場所である。
そのためか、聞き込みした結果、医師や産婆の数がそれなりに多いようだった。
数ある医師や産婆の中から、プリパル伯爵家で診断した人物は誰なのか。
次はそれを探ろうとしたブリルーノだったが、その情報は呆気なく手に入ることになった。
「あの貴族様んを診た産婆なら知ってるぜ。有名だかんな」
「有名とは?」
「貴族の診療だってウキウキで向かったら、払われた報酬がクソみたいにしみったれていたって、方々で愚痴ってたからな。ここら辺に住む奴らなら、一度はその愚痴を耳にしたってわけさ」
ブリルーノは、その産婆が居るという場所を教えて貰い、銀貨一枚を情報量として支払うと、早速その場所へと向かった。
目的地につくと、ちょうど四十代に見える産婆が家から出てきたところだった。その手には、パンパンに膨れた大きな革鞄が握られている。
「なあ、お前がプリパル伯爵家で診察した産婆か?」
「なにさ! こちとら急いでいるんだ! 話はあとにしな!」
産婆が走り始めたので、ブリルーノは後を追いかけた。
「どうした。急患か?」
「付いてくるんじゃないよ、あっち行きな!」
「……鞄を貸せ。持ってやる」
「誰が大事な商売道具を、見ず知らずの奴に渡すと思うのかい!」
「チッ。いいから貸せ」
ブリルーノは産婆の手から鞄を奪い取った。
「ほら、さっさと患者のところへ進め」
鞄を奪ってもブリルーノが走り去らないのを見て、産婆は抗議するのを諦めたようだ。
「なんて強引なヤツだ。まあいい、カバン持ちさせてやるともさ」
産婆は荷物がなくなって軽くなった足取りで、目的の場所へと走り始めた。
その後をブリルーノが追う。
ブリルーノは現役の宮廷魔法師であり、筆頭になる前は度々戦場や魔物討伐に赴いていたため、体力はある。
産婆が息絶え絶えで患者の家についても、ブリルーノは汗一つかいていなかった。
「ここに患者がいるのか? ああ、喋りづらそうだな。回復してやろう」
似たような外見の家屋が立ち並ぶ一画にて、ブリルーノが回復魔法をかけてやると、産婆の息が整った。
「魔法使いかい。言っておくが、迂闊な魔法を妊婦にかけるんじゃないよ」
「重々承知しているとも。さ、中に入ったらどうだ?」
「まったく、変な魔法使いだよ」
産婆が家の中に入ると、まってましたとばかりに男性が走り寄ってきた。
「先生! 妻が破水して!」
「おたおたするんじゃないよ! もう三人目なんだから、もうそろそろ落ち着きな!」
「でも今回は、これまでの非じゃないぐらいに痛がっていて」
「うるさいよ。アンタにかかずらっている暇はないんだ。さっさと奥さんのところにあんないおしよ!」
「は、はいい!」
案内する主人の後ろを、産婆とブリルーノが歩いていく。
その途中の廊下にて、扉を薄く開けた隙間から覗く子供の目があることに、ブリルーノは気付いた。
見れば、五歳ほどの少年と三歳ほどの少女だと分かった。
きっと父親から部屋から出るなと言いつけられているのだろう。その二人の子供は、ブリルーノが見ていると知ると、慌てて薄く開けていた扉を締め直した。
子供らしい可愛らしい行動に、ブリルーノは思わず微笑む。
そこに産婆の怒声がやってきた。
「おい、変な魔法使い! あんた、お湯を魔法で出せるかい!?」
「出せるぞ。なにに必要なのか?」
「この馬鹿亭主は、竈の使い方も知らないみたいでね! 消毒用の熱湯が必要なんだよ!」
「そのぐらいはお安い御用だ」
こうしてブリルーノは、平民を請け負う産婆の技術を学べる場に立ち会うことになった。
ちなみにこの家での妊婦の出産は、産婆が怒声を浴びせながら妊婦を励まし続ける中で成功に終わった。




