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38話

 アミーコジ永代公爵家の屋敷。その執務室まで、ブリルーノは家令に案内されてやってきた。

 ノックの後、入室の許しを得て、ブリルーノは扉を開けた。

 入った部屋の中の光景は、永代公爵家という最上級の貴族の執務室にしては、とてもこじんまりとしたものだった。

 執務を行う人物、それを補佐する人物、そして客人。それぞれ一人ずつ存在すれば満員になってしまうほどの小さい部屋。

 執務机の背中側と左側の壁には中身がギッシリ詰まった本棚が並び、右側には大きなガラス窓があって陽光を多く室内へと導いている。

 そんな部屋にブリルーノが入ると、この部屋の主であるアロガンタが書類仕事を中止して顔を上げた。


「呼び付けてすまなかったね。それと、この部屋には、この椅子以外に座れる場所がないんだ。お茶や菓子を出すどころか、立って話してもらうことになる点も、事前に申し訳ないと謝罪を告げておく」


 そうアロガンタが言葉を告げた直後、ブリルーノの背後で扉が閉まった。先ほどまで案内をしてくれた、あの家令が廊下側から扉を閉じたのだ。

 執務室の中で二人きりとなった、ブリルーノとアロガンタ。

 会話の切り出しは、ブリルーノが行った。


「それで、俺様が殺した暗殺者について、分かったことがあるとか?」

「死体から分かったことは少なかった。しかし、屋敷に忍び込む技量は高くとも、暗殺者という職務への志が低い輩だったことで、容易く身元の把握が行えた。あの暗殺者は、王都の貧民街に居を構える悪党組織の子飼いだった。その事実を知った後すぐに、悪党組織に踏み入り背後関係を洗った。それで、いくつかの貴族家と繋がりが浮かんだ」

「つまり暗殺者を送ってきたのは、そのいくつかの貴族家だと?」

「把握した貴族家のうちの一つは、その悪党組織が王都で派手な悪さを行わないよう監視するために繋がりを持っていたのだと判明した。その家とは秘密会談を設け、我が家に敵対する気はないという確約も得た」

「じゃあ、その家以外が犯人だと?」

「今回の件と関係のない貴族家が他にもあったが、それらの家については悪党組織と昵懇だった。まったく貴族の風上にも置けない下種な奴らだ」


 嘆かわしいと身振りをしてから、アロガンタは言葉を続ける。


「真の下手人は、とある貴族家だ。そこが音頭を取り他の家を三つ四つ巻き込んで、今回の企みを行ったようだ。まあ永代公爵家に決闘状を叩きつけるような真似をするのだ。木っ端な貴族家一つが暴走したより、複数の家が共同で企む方が自然な成り行きといえる」


 嫌な自然もあったものだと、ブリルーノは顔を顰める。


「それで、その企んだ、幾つかの家について、何をするんだ?」

「なにをする? 勘違いしないで欲しいね。妻の出産を手伝ってくれた恩人とはいえ、ブリルーノ殿は当家とは関係のない赤の他人だ。その他人に、こうやって事情を話しているからには――もう対処が終わった後だとも」


 アロガンタの目に、冷酷な光が生じていた。

 ブリルーノは、その目を見て、企みに参加した貴族たちがどんな道を辿ったのか容易に想像がついた。


「連座で一家全員皆殺しに?」

「はっはっは。我が妻は、とても人情深い人物だ。そんな妻の心を慮ると、そこまで野蛮な真似はできなかったよ」

「……一定年齢以下の子を教会ないしは王家が運営する孤児院に入れた、といった感じか?」

「男児は御披露目デビュタントを済ませる前、女児は齢十二歳未満で婚約者がいないことを、除名の条件にした」

「お披露目する前は、貴族の子息子女として生まれても、貴族の一員とは認めれられていない。だからその点を、助命する条件にすることは理解できる。だが、女児はなぜ十二歳未満で、しかも婚約者のあるなしが条件に?」

「女児に月のものが現れるのが、遅くとも十二歳であるからだ。婚約者がいるということは、その月のものが既にあるからこそ婚約が決まっているのだ」

「月のものが出ていれば、それは女性として成人しているとみなす――いや逆か。月のものがない間は子供だと認定して助命したってことか」


 心理的には嫌な基準のつけ方だが、色々と上手い基準の作り方ではあると、ブリルーノは評価した。

 アロガンタが潰した家々が持っていた利権は、家が消滅したことで浮いた状態になっている。

 その利権は、通常なら国を治めている王家に返上されてから、相応しい貴族家へと分配されることになる。

 だが、浮いている利権を掠め取る方法が、一つだけ存在する。

 それは、廃絶した家の生き残っている娘が、廃絶された瞬間より前に妊娠していた場合。

 腹の子は、現世に生まれてきていないため、生家が背負った全ての罪が免除される。つまり、こを持つ娘自体に利権を相続する権利はないが、その腹の中にいる子には相続する権利が発生する。ちなみに男児の場合は、たとえ家が断絶される前に女性を妊娠させていたとしても、それが誰の種なのかの証明が難しいので腹の子に相続権は発生しない。

 つまるところ、廃絶された家の娘を妊娠させ、家が廃絶される前に既に妊娠していたと宣言すれば、浮いた利権を得ることが可能ではあるのだ。

 事前に婚約を結んでいた家ならば、婚約者同士で婚前交渉を行っった結果だと言い張れば、一定の説明力をつけることができる。

 そうした制度の仕組みの悪用を許さないために、アロガンタは『婚約者という性交相手が存在せず』『妊娠能力が生じていない女児』だけを助命したわけだ。

 もしも後に女児の妊娠が発覚した場合でも、妊娠能力が断絶前に存在していたことを理由にすれば、助命は間違いだったという判断の下で女児を処刑できてしまう。

 つまり、これからはどうやっても、浮いた利権を横から掠め取る方法はないわけだ。

 そこまで考えが至ったところで、ブリルーノはある懸念が浮かんだ。


「その下手人の家は、フィエーリア様ないしは腹の子を排除することで、ノブローナ王妃の乳母に入ろうとした。ならば、その家の奥方は妊娠していたはず。腹の子に罪が及ばないのならば、その奥方は殺せないのでは?」

「理屈の上ではそうなる。だが、やりようはいくらでもある。どうせ死罪になる罪人だからと腹を裂いて子を取り出したり、刑が執行される前に不孝にも腹の子が流れたりな」

「どちらの場合でも、腹の外に出た瞬間に赤ん坊は罪人の子となり、利権の相続権は消滅するわけだな」


 手落ちはないようだなと、ブリルーノは肩をすくめた。

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― 新着の感想 ―
奥さんの尻に敷かれていようともこういう所はしっかりと大貴族ですねえ
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