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36話

 フィエーリアの産後の様子は健全であることが、アイスペクタの見立てで判明した。

 その結果を受けて、ブリルーノはアイスペクタと部屋で面会することにした。


「問題がなさそうで良かったと思う一方で、俺様が居る意味はあったのかという疑問もあるな」


 今回のフィエーリアの出産で、ブリルーノが使用した魔法は浄化と痛みを闘志に変換するものだけ。

 浄化は掃除で部屋を綺麗にすれば足りることだし、他の妊婦が陣痛を経て出産を済ませていることを考えると必ずしも必要な措置だったとはいえない。

 つまるところ今回の出産において、ブリルーノは役に立ってないと言える。

 そんなブリルーノの自己判断に対して、アイスペクタは首を横に振った。


「出産中の妊婦の中には、痛みに錯乱して妄言を叫んだり、人に当たって大暴れする人もいるんだ。痛みをある程度コントロールできるだけでも、ブリルーノ殿がいた意味はあったよ。それに魔法使い一人いるだけで、出産の安心感が違うよ。もしも奥様の出産が順調にいかなかった場合でも、魔法使い一人いれば様々な手法がとれただろうからね」

「例えば?」

「何らかの原因で子宮口が何時までも開かなかったら、腹を裂いて胎児を取り出す必要がある。その場合、医学的なやり方だと、どうしても産後に体調が悪くなりがちなんだ。大きくお腹と支給という内臓を傷つけることになるからね」

「俺様の魔法なら、傷口を清潔にしたり、切創を魔法で楽に治せたりできるな」

「出産を早く終わらせることができるけど、その際に産道で大量出血が見込まれるような危険な施術は、普通ならできない。けど、魔法使いがいればどうだろう?」

「魔法使いの腕次第だが、出血を止めることはできるかもしれんな」

「あとは、胎児が無事に生まれなかった場合も、魔法使いがいれば安心だ」


 変な方向に話が振れた事に対して、ブリルーノは驚きと共に苦情を口にした。


「おいおい。流石の俺様でも、死者蘇生はできないぞ」

「そういうことじゃないよ。医者と魔法使いが手を尽くして蘇生を試みてもダメだった。その事実が、妊婦やその家族の心を、ほんの少しばかりだけど救うんだ」

「やれることは全てやったけどダメだったと、そう納得できるということだな」

「もしくは逆に、生まれてきた子供を速やかに死なせてやることも、魔法使いなら証拠も残さずに簡単でしょ?」

「赤子の体調を悪化させる魔法には枚挙にいとまがないからな――って、どうして生まれたばかりの子供を殺す必要がある?」


 更に物騒な内容にブリルーノが驚いていると、アイスペクタは医療現場では当たり前という口調で話を続ける。


「貴族家の中には、障害を生まれた子供は素早く殺すべきと考える家もある。貴族以外でも、貧民の中には障害の子供を養う余裕はないからと、その手にかける人が多いと聞くね」

「それは、まあ、わからなくもない」


 ブリルーノも、貴族の家庭に生まれた人物だ。

 そして、この国の貴族には、人々の上に立って様々な差配を行う人物であることが求められている。

 障害を持った子供は、その求められる役目を熟すことが出来ないと見込まれる。つまり貴族として生きている価値がないと判断されてしまう。

 だから障害を持った子が生まれたら速やかに殺してしまう、その気持ちは理解できなくはない。

 貧民の場合だと、もっと切実だろう。

 健全な体を持っている者でさえ、一日一日を必死に生き繋ぐことしかできない環境だ。

 体に障害を持った人物は、そんな環境で生き続けられる可能性は、とても低くなる。

 将来必ず死んでしまうのならと、親が慈悲の心を持って殺すことがあっても変とは言えない。


「だが、そんな真似をする者ばかりではないはずだ。障害があろうと、生かして育てる判断をした人たちだっている。そしてそうして育てられた子の中には、特異な才能を開花させて、立派に貴族家を手伝っている者もいると聞くぞ」

「そうした人物は稀だよ。それに貴族には、命を賭して家名を守り、そして家を後世に繋ぐのが役目の一つにある。なら、死ぬことが家のためになるのなら、その命は散らせてやるべきだと考えることだってできる」

「人の命を助ける医者のクセに、人命の扱いが軽くないか?」

「そっちは魔法で敵対者の命を狩る宮廷魔法師なのに、命を重く思いすぎていないかな?」


 意見が真っ向から対立して険悪な空気が流れかけるが、ブリルーノは議論を打ち切るために手を振る動作をした。


「話が変な方向に流れたから戻すぞ。つまり、俺様が助産活動を続ければ、障害のある赤子を殺せと求められる事態も有り得るというわけか」

「血が濃くなると、そういう子供が生まれやすいという統計がある。特に、血脈に魔法の才能があると考える、魔法使いを多く輩出する家は、その傾向が強い」

「そうなのか? 俺様の両親は、血縁をさかのぼっても繋がりが見つからなかったはずだが?」

「よく結婚できたね。血が離れ過ぎると、魔法の才能が消えてしまうと考える貴族家が多いのに」

「実際のところ、その考えは本当なのか?」

「医者の立場で言わせてもらうと、合っているとも言えるし、間違っているとも言える。才能豊かな子が血の濃い家に生まれ易い傾向はあるけど、必ず生まれるという保証はないよ。それに血が遠い親でも才能のある子は生まれる。要は、親にちゃんと才能が備わっているのなら、あとは確立とか運に子供の才能は左右されるんじゃないかな」

「血を重視することは間違っていると?」

「無事な子供を生まれやすくすることも条件に入れるのなら、子に受け継ぐ目的とする才能が豊かで血の遠い相手と結婚するのが理想かな」


 このアイスペクタの考察に、ブリルーノの家庭環境が当てはまっているので、ブリルーノは異論を唱えることができなくなった。


「ともあれだ。助産活動を俺様にやらせるべきじゃない。なにが悲しくて、生まれた子の命を奪う真似をしなきゃならないんだ」

「そうだね。そういう役目は、魔法使いではなく、医者や本業の助産師の領分だからね、いざとなったら任せてしまえばいいんだよ」

「……おい、俺様が助産活動を続ける前提で話をするんじゃない」


 そう抗議はしたものの、これからもアイスペクタが出産について助言をしてくれば、今後のためになるかもしれないからと聞いて覚えずにはいられない、ブリルーノだった。

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― 新着の感想 ―
マニュアル化していけば、お役御免になりそうな感じが出てきたと前向きに考えるしかないね〜。
血の濃さによる遺伝子異状なんかは経験則として知ってはいるんだなあ
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