21話
初対面での面会を終えた、ブリルーノ。
公爵邸の客間に通された後でブリルーノは、フィエーリア公爵妃の出産には王家の意向が多分に含まれていることを知ったこともあり、助産活動を辞めようとする企みを停止させることにした。
(フィエーリア様は、俺様が出産を助けたノブローナ王妃の子の乳母になる予定だ。その役目が果たせるように助けるのは、あの赤子を助けた責任を果たすことに通じる)
持ち前の律儀な性格が発揮され、ブリルーノはフィエーリアの安全な出産に心を配ることに決めた。
そう決めたのならと、ブリルーノの次の行動は素早く実行された。
「すまない。少し質問してもよいだろうか?」
声をかけたのは、この客間に案内してくれた女性の使用人。
使用人のお仕着せを着た十代半ばの見た目の女性は、退室しようとしていた足を止めて一礼してきた。
「なにか用を、お申し付けでございましょうか?」
「用ではなく、聞きたいことがあるのだ」
「知っていることであれば、全てお答えいたします」
「それでは、この家には侍医がいるのか? それも、フィエーリア様の体の様子を詳しく見ている、そんな医師がだ」
ブリルーノの質問に、女性使用人は大きく頷きを返す。
「いらっしゃいます。ご面会をお望みでございましょうか?」
「ああ、頼む。今日会ったフィエーリア様の様子を見れば、現在は問題なさそうに見える。だが出産の手伝いを任されたからには、彼女の体のことを知っておきたい」
「では、お医者様のご予定をお聞きしてまいります。少々お待ちください」
使用人は、一礼して部屋を出ていった。
ブリルーノは部屋の椅子に腰をかけ、使用人が戻ってくるまで待機することにした。
椅子と併設されている机の上には、ワインと陶器杯と肴が置かれていた。
「ラベルを見るに――流石は永代公爵家。客の寝酒に出すワインも一級品のようだな」
ブリルーノはワインの口にある封を手で破ってから、露わになったコルク栓に向って指を一振りして魔法を発動。コルク栓がワインの口から徐々に浮き上がり、あと少しで抜けそうなところで止まった。
ブリルーノは、コルク栓を指で摘まむと、ワインの口から引き抜いた。抜いたコルク栓はテーブルの上に起き、口が開いたボトルから陶器杯へと少量注ぐ。
露わになったワインは、深い赤色。杯に鼻を近づけて嗅ぐと、強い甘い匂いの中に、少しだけインクのような香りが特徴的だ。
「ラベルにある通りに貴腐ワインか。宮廷魔法師筆頭を迎えるのだからと張り込んだようだ」
特殊な葡萄を用いなければ作れない貴腐ワインは、並みの貴族では手が出せないほどの高級品。それこそブリルーノの生家のような木っ端貴族では、一瓶買うだけで身代が傾きかねないぐらいの品である。
そんな高級品を出されたからには味わうべきだと、ブリルーノは杯に口づけ、芳醇な香りと甘さを持つ貴腐ワインを堪能することにした。
もちろん、安酒のようにパカパカ飲むような真似はしない。
先ほど杯に注いだ分のワインを更に少量ずつ口に含み、時間をかけてゆっくりと味わい尽くしていく。
そうやって堪能しながら時間を潰していると、扉をノックする音が聞こえた。先ほど部屋から出ていった使用人が戻ってきたようだ。
「入ってくれ」
「失礼いたします」
声かけと共に使用人が部屋に入ってきて、一礼した。
「ただいま、お医者様に時間がおありで、面会が可能です。お会いになられますか?」
「会おう。情報共有は早い方が良いからな」
ブリルーノは杯の中に薄く残るだけになっていたワインを飲み干すと、テーブルに置いていたコルク栓をワイン瓶の口に戻す。それから椅子から腰を上げると同時に、指を一振り。
ブリルーノが使用人に案内されて部屋から出ていく最中に、魔法をかけられたコルク栓が動き始めて瓶の口の中へと入っていく。やがてコルク栓は口の面とピッタリ合う具合になったところで侵入を止めた。




