20話
ブリルーノが魔法による助産活動を、フィエーリアに行うことが決定してしまった。そしてフィエーリアからの計らいもあり、アミーコジ公爵の王都屋敷で寝泊りすることが決定した。
そう決定になったからにはと、ブリルーノは気持ちを入れ替えて、フィエーリアが無事に出産できるよう仕事をすることに決めた。
まず最初に行うのは、フィエーリアと会談を重ねて、医療行為の相手として体を任せても良いと思ってもらえる関係を構築すること。
「それで、フィエーリア様。出産予定日は、何時頃になる予定なので?」
予定日まで期間があるようなら、アミーコジ公爵家屋敷は王都内にあるため、自室に引き上げてもいいかもしれない。
そんなブリルーノの思惑を打ち砕くように、フィエーリアは侍医に告げられていた予定日を口にした。
「この一月の間ですの。もしかしたら、明日出産してもおかしくないと、そう言われてもいますわ」
「……意外と早いな」
これから始まると目されている、貴族たちの出産ラッシュ。
その契機となったのは、ノブローナ王妃がの妊娠だ。
ノブローナ王妃が産んだ子と自分が産んだ子を縁続きにしようと企んで、貴族家の殆どが妻に子種を植え付けたという。
フィエーリアも、この例と同じで妊娠した――と考えるには、いささか出産時期が早すぎる。
人の妊娠が分かるのは、腹の子がある程度成長してからだ。ノブローナ王妃の妊娠が分かったのも、妊娠が始まって二か月三ヶ月してからのはず。
だから道理を考えるのなら、ノブローナ王妃が出産を終えて、二か月後や三か月後に貴族家の者たちの出産が始まるはず。
それなのに、もういつ産んでもおかしくない時期だとすると、フィエーリアはノブローナ王妃が妊娠したのとほぼ同時に子を孕んだということになる。
その道理の合わなさ具合に、ブリルーノは素直にフィエーリアに理由を聞いてみることにした。
「フィエーリア様も、ノブローナ王妃の妊娠を知ってから子を設けたので?」
「そうですの。でも妊娠を知ったのではなく、ノブローナ王妃様の月経周期とラゴレフケトラス国王様の御渡りになられた日から、妊娠日を素早く特定いたしましたの」
「……そういう情報は、誰もが手に入れられるものではないと思うのだが?」
「そうでもありませんわよ。家格が高い貴族家には、情報が伝わる仕組みになってますの。ほら、ノブローナ王妃様が出産なされたら、子の乳母が必要になりますでしょう。その乳母を素早く用意するために、ちゃんとした家の者が出産を終える必要がありますのよ」
「つまりフィエーリア様は、その乳母に内定しておられると?」
「家格が高い貴族家の中で一番最初に子供を産んで、母体が健康を保っていられれば、ですわね。乳母になれば、王城でわたくしの子と共に、ノブローナ王妃様の子を育てることになりますわね」
そういう仕組みなんだと、ブリルーノは新たな知見を感慨深く受け取った。
「ドメジーナ王妃も、子を出産されたが。そちらの乳母はどうなるので?」
「あの方の場合、お乳が出ないようでしたら、乳母が用意される形になるかと思いますの」
「ノブローナ王妃とは違い、乳母が内定していないと?」
「ノブローナ王妃様は、ラゴレフケトラス国王と並んで、国家運営の柱ですの。そのお役目があるからこそ、子を手ずから育てるのが難しいため、乳母を必要としているんですのよ」
「ドメジーナ王妃には役目がないので、自分の手で育てるのが道理だと?」
「心配いりませんわ。国王様はあの方をいたく愛しておりますし、いまのところあの方の子が唯一の男児ですもの。大事に育てられるはずですわ」
フィエーリアの口調がドメジーナの話題だけトゲトゲしいことから、フィエーリアはノブローナ王妃派な人物なのだろうと予想がついた。
そしてブリルーノは、ノブローナ王妃の子が女児であることを今更知った。
「ノブローナ王妃の子は、女児だったのか。改めて思い出してみれば、股に一物があった覚えはないな」
「あら? 子を取り上げたのではなかったんですの?」
「子を取り上げたのは医師だ。逆子であったうえに出産後に泣き声を上げなかったり、ノブローナ王妃の股から大量出血が起こったりと、大変な事態が連続したからな。生まれた子の性別を確かめるのを忘れていた」
「ノブローナ王妃様に、そんな大変なことが起こってましたの!?」
フィエーリアが驚きの声を上げたのを聞いて、ブリルーノは失言したことを理解した。
「もしかして、フィエーリア様が知らないことを言ってしまったか?」
「魔法によって助かったとは聞いていましたけれど、どれほどの事態かは伏せられてましたのよ。ですが、そうですわね。そこまでの大変な事態だったからこそ、ノブローナ王妃様も魔法に頼ろうと決意したのね」
フィエーリアは納得の頷きを行ってから、ブリルーノに改めて顔を向けてきた。
「生きるか死ぬかの事態でも、宮廷魔法師筆頭殿がいらっしゃれば、恐れることはないみたいですの」
「言っておくが、魔法は万能じゃないし、出産の際に魔法を使うことは控えるべきという常識は変わりない。だから魔法の出番がないに越したことはないんだぞ」
「わかってますわ。ですが、物事はなんであっても、何が起こるかわからないもの。最悪の出目を引いても、親子共に無事でいられる保証があるということは、心強いものですのよ」
ノブローナの出産の顛末を教えてしまった失態はあったものの、あの出来事の顛末が分かったことでフィエーリアは安心できたようだ。
(とりあえず、ある程度の信頼を得ることはできたと考えていいな)
ブリルーノは目標が達成できたことを内心で喜びながら、フィエーリアとの会話を続けることにした。




