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15話

 謁見の間において、ブリルーノに対する褒美の授与が行われる。

 参列するのは、褒美を与える国王ラゴレフケトラスと、褒美を受け取るブリルーノ。その他に、すっかりと体調を回復させた様子のノブローナ第一王妃、国王と王妃の護衛が数名、重臣が十人が集まっていた。

 重臣の一人が、玉座に座るラゴレフケトラスの前へと移動し、手に持っていた書状を広げる。


「これより、宮廷魔法師筆頭ブリルーノ・アファーブロ殿への褒賞を授与する儀を執り行う」


 ブリルーノは王の前へと進み出ると、膝を着いて頭を下げる。

 書状を広げていた重臣が横へと下がり、王が玉座に座ったまま声を出し始める。


「宮廷魔法師筆頭ブリルーノ・アファーブロよ。先日、我が妃を二名、そして生まれた我が子二名を、その魔法の手腕でもって救命したこと、大儀であった」

「はっ。王の杖である宮廷魔法師として、役割を真っ当しただけでございます」


 当然のことをしたのだから褒美は必要ないと、ブリルーノは言葉を口に出したかった。

 しかしそんなことを言えるはずもないため、王からの褒美の言葉は続いてしまう。


「妊婦および出産中に魔法は使ってはならぬという慣習を打ち破ってまで、其の方が手腕を尽くしたことは褒めねばならぬ。もしも魔法の行使に失敗し、妃や子に障害が発生しておれば、其の方の首を斬り落とさねばならぬ事態になっていたはずなのだから」


 王の口から、妊婦や赤子に魔法をかけて障害を負わせたものは死罪にするとく表明がされて、重臣たちの間に小声で話し合う騒めきが生まれる。

 真っ正直に王の言葉を受け止めると、前例のない事をしでかしたブリルーノを咎めているように聞こえる。例え国王の杖である宮廷魔法師でも、失敗すれば死罪は免れないと表明したのだと。

 しかしその言葉の裏には、生半な魔法使いが妊婦や赤子に魔法を使うことを抑止する目的があると、聡い者には察することができる。

 重臣たちが上げた騒めきの理由は、ブリルーノの功績に続くことはおいそれとは出来ないとわかったからか、それとも失敗したら死罪という部分が気になったからか。

 どちらにせよ、重臣たちの囁き声を無視するように、王が言葉を続けていく。


「死を賭してことをなしたからには、褒美をとらさねばならぬ。信賞必罰は世の習いであるからな」


 ブリルーノにどんな褒美が渡されるのか。

 重臣たちはそれが気になったようで、騒めきが収まった。


「ブリルーノ・アファーブロは宮廷魔法師である。そして宮廷魔法師は王の杖である。その特性上、貴族や平民に与える際の褒美と同じにはできぬ」


 与える褒美は、貴族ならば領地や役職、平民ならば大量の金貨が相場といえる。

 しかし宮廷魔法師は、国王と近しい存在である。

 そのため宮廷魔法師に褒美を与えると、それは国王の権威を増す働きに繋がる。

 例えば宮廷魔法師に領地を与えた場合。当の宮廷魔法師が「領地を運営する能力がないので」と上司である国王に泣きつけば、国王は代官を派遣してその領地を運営させることができる。

 この仕組みを悪用すると、国王が国にとって重要な土地を宮廷魔法師に一度与えることで、国王は代官を通じて間接的にその土地を支配下に置くことが可能になる。

 大量の金貨を与えた場合でも、宮廷魔法師が運用を王家に任せると口にすれば、王家は予定外の予算を獲得することが可能になる。

 そうした悪用を国王ができないように、宮廷魔法師に与える褒美はかなり限定される仕組みが行われている。


「規定通り、ブリルーノ・アファーブロの宮廷魔法師の給与の内、その基礎給与の部分を増額させる。そのうえで、今月の給与に限り、緊急出張手当と危険手当も、規定に沿って支給することとする」


 永続的な給金アップと、一回だけの褒賞金。

 国家を運営する予算全体から考えたら、一滴の水ほどの些細な支払いだ。

 このラゴレフケトラスの判断には、居並ぶ重臣たちも「そのぐらいの褒美なら」と納得し、褒美を受け取る側のブリルーノも「変に目を付けられなくていい」と文句はなかった。

 しかし続いたラゴレフケトラスの言葉に、双方が驚かされることになる。


「続けて、ブリルーノには新たな仕事を担うよう命じる。それは、妊娠中の貴族婦人を、その魔法の腕でもって手助けする仕事である」


 第一王妃と第三王妃に続いて、他の貴族の婦人たちの出産手伝い――助産師をやれという命令。

 これに待ったをかけたのは、ブリルーノのではなく、重臣の一人だった。


「我が王、お待ちを! 我が妻の一人も妊娠中なのですが、この男に妻の出産を任せろと、そう仰せなのですか!?」

「なにか不都合があろうか? 其方の妻の出産が安全に終わるのだぞ。諸手を上げて喜ぶべきであろうが」

「出産の際、女性は子を産みやすくするために薄衣に着替えるものと聞いています。それどころか、男の目には耐えられないほどの痴態を晒す女性もいるとか。それはつまり、我が妻の肌ないしは痴態を、その宮廷魔法師に見せることになるのです!」


 愛する女性のあられもない姿を、他の男性には見せたくないという主張。

 しかしこれは、建前に違いない。

 貴族というものは、大なり小なり、痛む腹を抱えているもの。

 婦人の出産の手伝いで宮廷魔法師筆頭を屋敷の中に入れれば、その貴族家が抱える不埒な秘密を暴かれる危険が起こりかねない。

 痛む腹を持たない貴族家であっても、宮廷魔法師が出産を手助けしたということは、すなわち王家に借りを作ることに繋がる。これは生まれた子供を通じて王家の子と繋がりを持とうとする際に、その借りが足かせになりかねない。

 どちらが理由になるにせよ、貴族たちが受け入れがたいものである。

 そのことはラゴレフケトラスも分かっていたのだろう、大きく頷きを返す。


「主張は最もである。それゆえ、全ての妊婦を助けよとは命じぬ。当の妊婦が、ブリルーノ宮廷魔法師筆頭に助けて欲しいと望んだ場合に限って派遣するとしよう」


 妻を理由に拒否しようとした意見を、その妻が許すのならば問題ないなと打ち砕いた。

 先ほど声を上げた重臣は、否定する根拠を失って、口を閉ざさざるを得なくなった。

 他の重臣たちについても、妻に宮廷魔法師に出産の助けを求めないよう言い含めればよいと考えたのか、反対意見が出てこない。

 それらの重臣たちの様子を、ブリルーノは跪きながら見ていて、内心で憤っていた。

 ブリルーノにとって、第一王妃と第三王妃の出産を手伝ってしまったのは、宮廷魔法師として仕える国王の妃が相手であったからだ。

 もっと言えば、第三王妃のときは痛みを誤認させるぐらいの簡単な魔法を使うだけで住むと判断したからだし、第一王妃の場合はブリルーノが魔法を使うことを拒否すれば死んでいた可能性が高かったから仕方がなく救命したに過ぎない。

 つまるところ、貴族の婦人を助けるためだとしても、宮廷魔法師の職務――国王のために魔法を使うという役目とは関係ない仕事に、ブリルーノは骨折りをする気が全く起こらない。

 そういう事情があるからこそ、重臣の一人が国王に反発する様子を大人しく観察していたのだ。

 それなのにだ、重臣たちはあっさりと反論から手を引こうとしている。


(もっと言い粘れよ、無能どもが! 愛する女性の股を他の男に除かれたくないですうう、と駄々でもこねろ!)


 ブリルーノは歯ぎしりしたい気持ちで跪きながら、ラゴレフケトラスの傍らに立つ、ノブローナに視線を向ける。

 ノブローナはブリルーノの視線に気付いたようだ。

 先日ノブローナは、ブリルーノと会談した際に、ブリルーノに助産師の真似をさせることを思いとどまった様子だった。

 それが今日になると、ラゴレフケトラスがブリルーノに魔法で助産師をやれと命じている。

 話が違うと、ブリルーノが感じてしまうことも無理はない。

 一方でノブローナは、前言を翻す形になっている現状が後ろめたのだろうか、扇子を広げて顔を隠してしまう。

 そんな二人のやりとりが行われている間に、ラゴレフケトラスは話を前に進めてしまっていた。


「改めて、ブリルーノに命じる。宮廷魔法師筆頭の魔法でもって、貴族婦人の出産を手助けせよ。返事はどうした。この役目をお主に担わせること、これは王命である」


 口惜しい気分のまま、ブリルーノは了承する言葉を口にするしかなかった。

 その後、ノブローナがラゴレフケトラスと共に謁見の間を立ち去る際、扇子越しにブリルーノに視線を送ってきた。

 ノブローナの目は、前言を翻すことになった申し訳なさと、当初自分が語っていた通りの状況になったことへの満足感があるものだった。

 ブリルーノは、その目を見て、ノブローナがラゴレフケトラスに助産師を命じるよう促したのだと確信した。

 そのブリルーノの確信が正しいかのように、ブリルーノが謁見の間を退室した直後に、使用人らしき服を着た女性が呼び止めてきた。


「ノブローナ王妃様がお待ちです」


 ブリルーノは、ドンナ弁明を聞かせてくれるのかと期待しながら、ノブローナの招待に応じることにした。

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― 新着の感想 ―
誤字脱字が多すぎる
おもろいな
無理を言い過ぎると殲滅魔法落とされる恐怖はないのだろうか。
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