10話
業務時間外に呼び出されることもなく、ブリルーノは翌日を迎えた。
宮廷魔法師専用の食堂で朝食を取り、宮廷魔法師のローブを羽織り、いつものように宮廷魔法師の詰め所へ出勤する。
詰め所の中には、昨今では珍しいことに、短期出張組の五人の宮廷魔術師たちがいた。
ケレーゴとは昨日会っていたが、他四人の宮廷魔術師たちはいつ帰ってきたのだろうか。
ブリルーノはそんなことを考えながら、各宮廷魔術師の予定が書きこまれている黒板に目を向ける。
長期出張組の部分に書かれている文字は昨日までと変わらない。
短期出張組の方を確認すれば、これまた珍しいことに、予定が空白になっていた。
そして筆頭であるブリルーノ自身の欄を見てみると、待機任務以外の文字が書き込まれていた。
「なに?」
ケレーゴは訝しんで、書かれている文字を確認する。
そこにあった文字は、第一王妃ノブローナとの面会とあった。
「……おい、誰がこれを書いたんだ?」
他の面々に向けて声を放つと、ケレーゴが挙手した。
「今日の朝早くに、第一王妃の使者が捻じ込んできたんだよ。国王も承認しているから拒否はできないよ」
「もしかして、お前たち五人の今日の予定が空白なのは」
「予定が入った君の穴埋めの代わりだろうね。正直、君一人分を五人でやれと言われている――実力不足だと言われているようで、腹立たしいけどね」
「文句を言うのなら、俺にではなく、そう評価している連中か、魔法の腕前が上がっていない己に向けろ」
「たはー。相変わらず、指摘が厳しいや」
こういったブリルーノの悪言に、ケレーゴだけでなく他四人の宮廷魔術師たちも慣れた調子でまともに相手していない。
悪く言われて反発しない理由は、宮廷魔術師筆頭に任じられるほどの魔法の腕前に加えて、常日頃からケレーゴたちよりも貪欲に新たな魔法の習得練習を欠かしていないことから、全員がブリルーノに一目置いているから。
もっと言えば、ブリルーノからはそう言われても仕方がないと、ブリルーノの普段の頑張りを知っているからだった。
一方でブリルーノは、言い返してこないことに不満げな表情を浮かべてから、黒板の文字を睨みつける。
「第一王妃に会いに行けってことだが、いつ行けばいいのか知っているか?」
「時間指定がないんだから、何時でもいいんじゃないかな。あの方、昨日出産を終えたばかりで、その疲労が癒えるまで国の業務には関われないだろうから、暇しているだろうし」
「そうか。なら今すぐに行くことにする」
面倒事は早く片付けたいと、ブリルーノは入ってきたばかりの詰め所から外に出て、後宮を目指した。
今日は、昨日通った使用人用の通路ではなく、表の通路を使って移動していく。
やがて後宮のエリアに入るための場所に差し掛かると、槍を持つ衛兵二人が立ちはだかった。
「これより先は後宮である。用向きを尋ねよう」
問答無用で追い返してくれれば、第一王妃に会いに行かない理由にできた。
しかし理由を聞かれてしまえば、その手を使うことはできない。
「俺様は宮廷魔術師筆頭のブリルーノ・アファーブロ。第一王妃に呼ばれてきた」
「貴殿が宮廷魔術師筆頭殿か。話は伝え聞いている。通るが良い。しかし、第一王妃様の御宮――天使菊宮とそこへ向かう道以外には立ち入らぬように」
「承知している。もとより他の場所に用はない」
兵士二人が道を空けてくれたので、ブリルーノは後宮のエリアの中に入った。
これから先は、一日一話更新になります。
よろしくお願いいたします。




