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9話

 ノブローナの体を癒した後、ブリルーノは宮廷魔法師の詰め所に戻った。

 自身の机につくと、アージェリナに依頼を受けて第三王妃を助け、その流れで第一王妃も助けたと活動報告を書きながら、勤務時間の終わりが来るまで待機した。

 そうして勤務時間が終了となり、活動報告の執筆も書き終わったことで、ブリルーノの二人の出産を助けるという前代未聞の一大事が起こった日の業務は終了となった。

 ブリルーノは報告書を手順通りに使者を使って国王へ送ると、タイミングよく王都の近場で起こった問題を解決して戻ってきた宮廷魔法師の同僚を捕まえた。

 二人は宮廷魔法師用の食堂へ移動して、そこでブリルーノは飯と酒を同僚に奢りながら、今日一日の愚痴を語って聞かせた。


「――という感じで、大変だったんだ。まったく。他の宮廷魔法師がいないときに限って、こんな役目がくるのだ。たまったものではない!」


 酒を飲んで管を巻くブリルーノに、同僚かつ同年代の宮廷魔法師こと平民出のケレーゴは、値段の高い肉料理を食べながら苦笑いする。


「こうして高い物を奢ってくれるから、喜んで愚痴は聞くけどさ。でも仮に同じことを僕に任されても、僕に君と同じことができはしなかったよ」

「そんなことはないだろう。俺様が使った魔法は、どれも貴様が使えるものだ」

「確かにそれはそうだけど、使い方についてだよ。痛みを誤魔化す魔法は、まあ思いつくよ。でも、物体保護の魔法や転倒の魔法を出産に使おうだなんて、考えつきもしないよ。それよりなにより、魔力視で体内の怪我をしている場所を見極めるなんて、こうして話を聞いて初めて知ったし」

「むふふっ。俺様は魔法については、他の者たちより詳しい自負がある。光と熱に関する魔法を研究して天照堕を開発するまで、様々な魔法を習得したものだ」

「独自魔法なんて、僕にはまだまだ手が届かない領域だよ。流石は、筆頭様だ」

「もっと褒めるがいい。気分が良い!」


 がははと笑いながら、ブリルーノは酒とつまみを口にする。

 ケレーゴは、エール入りのジョッキで口元を隠しながら、「ブリルーノは口と態度は悪いけど、付き合ってみると悪い人物じゃないんだよな」と小声で感想を零した。

 二人が食事と酒を楽しんでいると、食堂の出入口に新たな人影が立った。

 この食堂は宮廷魔法師専用だというのに、その人物は兵士の格好をしていた。

 その兵士は、ブリルーノとケレーゴを見つけると、食堂の中に入らないまま声をかけてきた。


「失礼だが、宮廷魔法師筆頭のブリルーノ殿はいらしゃられるか?」

「……呼ばれているよ、ブリルーノ」

「チッ。業務時間は終わったんだがな」


 ブリルーノは杯の中の酒を飲み干すと、席を立って兵士の前へと進み出た。


「業務時間外だぞ。俺様に誰が何の用だ?」

「国王様が、第一王妃様と第三王妃様についての話が知りたいと」

「今日請け負った仕事について、報告書は既に上げてあるはずだが?」

「それでも、国王様がお求めですので」

「……おい、ラゴレフケトラス国王様に伝えろ。今日は俺様の報告を聞きたがる前に、行くべきこととやるべきことがあるだろうとな」

「それは一体?」

「身を削るほど大変な思いをしながら子を産んだ王妃様に、労いの言葉をかけにいくべきだ。それと、生まれた赤子の顔を見に行け、ともな。俺様の話は、緊急性は失われたものだ。明日以降に聞いたところで、何かしら事態が変わるものでもないのだから」


 ブリルーノの物言いは、兵士も最もだと思ったようだ。


「王に返答をお伝えしますが、それでもと要望された場合は?」

「その場合は、手数だが、宮廷魔法師の寮まで呼びに来てくれ。そのときは、大人しく国王に出頭するとも」

「了解いたしました。では、お伝えしてまいります」


 兵士は敬礼の後、駆け足で食堂の前から去っていった。

 ブリルーノは溜息を吐きながら、元居た場所の椅子に座り直した。

 するとケレーゴが同情的な目を返してきた。


「ブリルーノは、国王様に怒られるかもしれないね」

「俺様は二人の王妃と二人の赤子の命を助けたんだぞ。どうして怒られるんだ?」

「でもほら、出産を手伝ったってことは、その二人の王妃の股間を見たんでしょ。それと父親より先に、赤ん坊の顔まで確認したんだからさ」


 ケレーゴの指摘を受けて、ブリルーノは苦虫を噛み潰したような顔になる。


「あの二人の股間をまじまじと見たという事実はない。そも、好きでもない女の股間を見て、何が面白んだ」

「いやでも、あの二人ってとても美人じゃないか。その股間を目にして、いやらしい気持ちがなかったと、そう否定できるのかい?」

「ああ、否定するとも。好きでもない、伴侶が既にいる女性の股を見たところで、全く嬉しくないな」

「その目は、本気の本気のようだね。なんというか、ブリルーノは変なところで潔癖だね」

「変とはなんだ。紳士的と言え。しかし逆に聞くが、貴様はそう考えると受け取っていいか?」

「……さあ、なんのことだかなー」


 その後もブリルーノは問いただし続けたが、ケレーゴは上手くはぐらかしきって追及を逃れてみせた。

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― 新着の感想 ―
再度、第3王妃を訪ねて出産を手助けしたアリバイを作っていないと、愚痴ったことで第3王妃の出産が先であったと伝えていることになりませんか?
口調とか態度こそ尊大ではありますけど人付き合いが悪いとか性格が終わってるってこともなくめっちゃいい人ですね筆頭
主人公が口こそ悪いけど滅茶苦茶良い人で草
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