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インタープリターはネゴシエーター  作者: 双鶴


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7/12

6話

控室の空気は、会議室よりも重かった。

ひかりと佐野は、同じ案件の通訳を担当することになっていた。

ゲストは、ヨーロッパの環境活動家。

言葉は鋭く、思想は強く、そして感情は激しい。


佐野は、資料を読みながらつぶやいた。


「今回は、ちゃんと訳します。全部。ごまかさずに」


ひかりは、コーヒーを口に運びながら答えた。


「訳すことと、伝えることは違うわよ」


佐野は眉をひそめる。


「でも、意訳って…誤解を生みませんか?」


ひかりは笑わない。ただ、静かに言った。


「直訳は、誤解を確定させるのよ」


会見が始まる。

活動家は、開口一番こう言った。


「Japan is killing the planet. You smile, you bow, and you burn forests. Hypocrisy wrapped in politeness.」


佐野がマイクを取る。


「日本は地球を殺しています。笑って、頭を下げて、森を燃やす。礼儀に包まれた偽善です」


会場が凍る。

報道陣がざわつく。

ひかりは、マイクを取り直す。


「日本の環境政策に対して、厳しい批判が寄せられています。礼儀正しさの裏にある行動を問う声もあります」


心の声:


(“殺してる”は訳さない。“偽善”は“問い”に変える。通訳は、言葉の防火壁)


会見後、佐野がひかりに詰め寄る。


「どうして訳さなかったんですか?彼の言葉、強かったのに」


ひかりは、静かに答える。


「強い言葉は、強く訳せばいいってものじゃない。言葉は、場を壊すためにあるんじゃない。整えるためにあるの」


佐野は黙る。

ひかりは続ける。


「訳すか、残すか。それを選ぶのが、通訳の責任よ」


その夜、佐野は自分の訳を何度も聞き返していた。

そして、ひかりの訳を聞いたとき、初めて“空気の厚み”を感じた。


(言葉は、意味だけじゃない。重さと温度がある)


翌朝、佐野はひかりに言った。


「昨日の訳、勉強になりました。僕、まだ“訳す”しか見えてなかったです」


ひかりは、コーヒーを差し出しながら答えた。


「大丈夫。通訳は、言葉を訳す仕事じゃない。空気を守る仕事よ」


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