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インタープリターはネゴシエーター  作者: 双鶴


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6/12

5話

会見場は、報道陣の熱気で満ちていた。

今日のゲストは、某国の大物政治家。

外交手腕と毒舌で知られる、いわば“笑顔の裏に刃を持つ男”。

ひかりは、通訳ブースに入る前に、資料を閉じた。


(今日は、言葉より“間”を訳す日)


司会者が紹介する。


「それでは、閣下にご登壇いただきます!」


政治家は登壇し、にこやかに手を振った。

そして、開口一番こう言った。


「Japanese journalists are very… enthusiastic. Sometimes too much. Sometimes not enough. Depends on the mood, I guess.」


ひかりは、マイクをオンにして、落ち着いた声で訳す。


「日本の報道関係者の皆様は非常に熱心です。時にその熱量が変化するのも、文化的な特徴かもしれません」


心の声:


(“気分次第”を“文化的特徴”に。外交って、言葉の着せ替え)


記者が質問する。


「日本の政治について、どうお考えですか?」


政治家は笑いながら答える。


「Too many meetings. Too few decisions. But very polite. Everyone bows. Even the chairs feel respectful.」


ひかりの訳:


「会議が多く、決定が少ない印象を受けました。ただ、礼儀正しさには感銘を受けています。椅子まで礼儀正しく感じるほどです」


心の声:


(“椅子まで礼儀正しい”は残す。皮肉とユーモアの境界線)


そして、会見は終盤へ。

司会者が定番の一言を投げかける。


「それでは最後に、テレビをご覧の皆様にひとことお願いします!」


政治家は、少し考えてから言った。


「One word? For millions of viewers? That’s a strange tradition. But okay… Peace. And sushi. Always sushi.」


会場が爆発した。

拍手、歓声、カメラのフラッシュ。

「寿司って言った!」「平和を願ってる!」と記者たちが騒ぐ。


ひかりは訳さない。

ただ、マイクを切って、目を伏せる。


心の声:


(“寿司”で平和を感じるって、もう宗教の域)


若手通訳が隣でつぶやいた。


「朝倉さん、訳さないんですか?」


ひかりは微笑んで答えた。


「訳すより、残す方が伝わる時もあるのよ。特に、政治家の“ひとこと”はね」


会見が終わると、報道陣がひかりに声をかける。


「今日も場が荒れずに済みました。さすがです」


ひかりは、笑顔の政治家を見送りながらつぶやいた。


「言葉の裏にある沈黙。それを訳すのが、通訳の仕事よ」


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