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インタープリターはネゴシエーター  作者: 双鶴


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2/12

1話

記者会見場は、照明が強すぎるほど明るかった。

ひかりは、通訳ブースの中で静かにマイクを調整していた。

今日のゲストは、世界的に人気のアメリカ人歌手、ジャスティン・ロメロ。

金髪にサングラス、そして破裂寸前のテンション。


司会者が紹介する。


「それでは、世界のトップスター、ジャスティン・ロメロさんです!」


ジャスティンはステージに飛び出し、叫んだ。


「コンニチハ!」


会場が爆発した。拍手、歓声、カメラのフラッシュ。

司会者は「おお〜!」と叫び、記者たちは「日本語が出ました!」とメモを走らせる。


ひかりは訳さない。マイクに触れず、ただ目を伏せる。

心の声:


(それだけで沸くの、ほんとに?)


ジャスティンは続けた。


「YEAH JAPAN! You guys are freaking insane! I love this crazy energy!」


ひかりは、マイクをオンにして、微笑みながら訳す。


「日本の皆さんの熱気に圧倒されています。最高のエネルギーを感じています」


心の声:


(“狂ってる”って褒め言葉なのよね。たぶん。いや、たぶんじゃない。確信)


ジャスティンはさらに畳みかける。


「I mean, I saw a guy in Pikachu pajamas at the airport. That’s wild, man!」


ひかりの訳:


「空港でピカチュウのパジャマ姿の方を見かけました。日本の自由な表現に驚きました」


心の声:


(“野生だぜ”を“自由な表現”に変換するのは、もはや芸術)


会見が終盤に差し掛かる。司会者が定番の一言を投げかける。


「それでは最後に、日本のファンの皆さんにひとことお願いします!」


ジャスティンは一瞬黙り、困った顔をする。


「Uh… Hi? I guess? Love ya? Sushi forever?」


ひかりは訳さない。マイクに触れず、ただ目を伏せる。

心の声:


(“ひとこと”って言われても、何を?ってなるよね)


司会者が焦って促す。


「えーと…“日本の皆さんにメッセージ”を…」


ジャスティンは再び叫ぶ。


「ニホンダイスキ! サヨナラ!」


会場は総立ち。

「サヨナラ!」「サヨナラ!」「サヨナラ!」と合唱が始まる。


ひかりは訳さない。

心の声:


(別れの言葉で盛り上がるって、どういう感性?)


若手通訳が隣でつぶやいた。


「なんか…日本語って、魔法みたいですね」


ひかりは肩をすくめて笑った。


「魔法じゃないわ。呪文よ。意味より、響きが大事なの」


会見が終わると、スタッフがひかりに言った。


「やっぱり、朝倉さんがいると場がまとまりますね。勝利の女神ですよ」


ひかりは、マイクを外しながら答えた。


「私はただ、空気を訳してるだけです」


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